034.現在と過去と
「異常無し、と…」
オレは木に上り、木の葉に身を隠しつつ周囲を見渡していた。
ここはミョルニール山脈に模されたような場所の近くの花畑…
どうやらここらの花の蜜は栄養豊富らしく、植物も動物も全てが大きい。
どうやら何か準備をするようで、オレは見張り役を言い渡された。
どんなことでも、今は自分の修練が役に立つことが嬉しい。
セージの女は相当場慣れしているようではあったものの、
得物――例えば魔詞の連ねられた本のような物がなければ、100%の力は出せないという。
アルケミストに至っては魔物との戦闘すらろくに経験がないらしい。
ここはミョルニール山脈に模されたような場所の近くの花畑…
どうやらここらの花の蜜は栄養豊富らしく、植物も動物も全てが大きい。
どうやら何か準備をするようで、オレは見張り役を言い渡された。
どんなことでも、今は自分の修練が役に立つことが嬉しい。
セージの女は相当場慣れしているようではあったものの、
得物――例えば魔詞の連ねられた本のような物がなければ、100%の力は出せないという。
アルケミストに至っては魔物との戦闘すらろくに経験がないらしい。
「ま…そういうわけで戦力になれるのはオレだけ…か」
これから何を行うのかは一言も告げられなかった。
もちろん、GMに盗聴されてでもいたら全てがパーになってしまうことぐらい低Intのオレにもわかる。
周囲に罠――狩人の設置するような精巧なものではなく、
その練習に行うような植物を使った一般的なものではあるが――を張り巡らせ、
鍛えたその視力で捉えられる範囲に、動く物がいないかを確かめる。
ふと視界の隅に止まったセージを見ると、なにやら動く植物を刈り取っている。
もちろん、GMに盗聴されてでもいたら全てがパーになってしまうことぐらい低Intのオレにもわかる。
周囲に罠――狩人の設置するような精巧なものではなく、
その練習に行うような植物を使った一般的なものではあるが――を張り巡らせ、
鍛えたその視力で捉えられる範囲に、動く物がいないかを確かめる。
ふと視界の隅に止まったセージを見ると、なにやら動く植物を刈り取っている。
「なぁ、何してるんだ?」
見張り役を一時休憩として、セージに問いかける。
「ああ…こいつの花びらを集めとけば、後々役に立つだろうからね…」
それだけ言うと、またセージは作業へと戻る。
これ以上何も話す気はなさそうだ、とオレは背を向けて歩き出そうとした。
「ああ…こいつの花びらを集めとけば、後々役に立つだろうからね…」
それだけ言うと、またセージは作業へと戻る。
これ以上何も話す気はなさそうだ、とオレは背を向けて歩き出そうとした。
「あんたって…あいつに似てるんだよな…」
ポツリと漏らされる声には、何故か少し哀しい雰囲気がこめられていた。
「あいつって誰だよ?」
「や、大したコトでもないんだけどね…そうだな、少し昔話でもするか…」
取り掛かっていた花びら集めを一時中断させ、セージが腰を下ろすと、
「わ、なんやおもろいコトでも話すんか?うちにも聞かせてぇな」
どこから湧いたのかアルケミスト。
オレは見張りの仕事を再開しつつ、話を聞くことにした。
オレは見張りの仕事を再開しつつ、話を聞くことにした。
「昔な…私がまだノービスだった頃の話だ…」
――気がつけば何故かあいつは傍にいた。
どっちから声をかけた?どんな理由で声をかけた?
そんな細かいことは当の昔に忘れた。
あいつは、私と似ていたけれど、決して相容れない存在だった。
火の魔法を覚えるのは私のほうが早かったな…
だけど、それからすぐにあいつは、火も水も風も使えるようになった。
あいつと同じになるのは気に入らなかった。
だから私は、あいつの使えない「念」を極めようとした。
だがあいつは、私が「念」を見せた次の日にはもう使いこなせるようになっていた。
今思えば、私はあいつの才能に嫉妬していたんだろう…。
絶対的な才能の前に、私はウィザードになるのは諦めた。
なったところで、魔術ではあいつには絶対に敵わないと思ったから。
それから私は魔術師ギルドを抜け、勉学に励んだ。
年に数回しかなかったシュバルツバルドへの輸送車に隠れ乗り、
ジュノーで書物を読み漁っていて…気がついたら、この職についていた。――
どっちから声をかけた?どんな理由で声をかけた?
そんな細かいことは当の昔に忘れた。
あいつは、私と似ていたけれど、決して相容れない存在だった。
火の魔法を覚えるのは私のほうが早かったな…
だけど、それからすぐにあいつは、火も水も風も使えるようになった。
あいつと同じになるのは気に入らなかった。
だから私は、あいつの使えない「念」を極めようとした。
だがあいつは、私が「念」を見せた次の日にはもう使いこなせるようになっていた。
今思えば、私はあいつの才能に嫉妬していたんだろう…。
絶対的な才能の前に、私はウィザードになるのは諦めた。
なったところで、魔術ではあいつには絶対に敵わないと思ったから。
それから私は魔術師ギルドを抜け、勉学に励んだ。
年に数回しかなかったシュバルツバルドへの輸送車に隠れ乗り、
ジュノーで書物を読み漁っていて…気がついたら、この職についていた。――
ギルドを抜けた日以来、あいつとはあっていなかったんだがな…、とそこで一旦言葉を区切る。
「あっていなかった、ってことは…もしかして、そうなんや?」
恐らく、その「あいつ」と呼ばれる人もこのバカなゲームの被害者になってしまったという事か…。
「だけど、その人とオレのどこが似てるって言うんだ?オレは別に頭いいわけじゃないぞ」
「…一度決めたら止まらない素直さとか、悪いものに立ち向かえる強さとか、ね」
「…一度決めたら止まらない素直さとか、悪いものに立ち向かえる強さとか、ね」
それきりセージはまた、黙って立ち上がり、また花びら集めを再開した。
それを見てまた、皆が散らばってゆく。
何故鬱蒼とした森に隠れなかったのか、とも思ったが、
これだけ深い花畑ならば、森にも劣らぬ隠れ蓑になるだろう。
それを見てまた、皆が散らばってゆく。
何故鬱蒼とした森に隠れなかったのか、とも思ったが、
これだけ深い花畑ならば、森にも劣らぬ隠れ蓑になるだろう。
と。
耳に届く、ガサっという微かな物音。
耳に届く、ガサっという微かな物音。
「誰か近づいてくるぞ」
小声でそういうと、いつでも矢を射れるように体勢を整え、木から下りる。
アルケミストは、セージから借りたダマスカスを――使い慣れていない感が否めないが――を構え、
セージはその口の中で呪文のようなものを反芻している。
音の主の姿は、まだ見えない――。
アルケミストは、セージから借りたダマスカスを――使い慣れていない感が否めないが――を構え、
セージはその口の中で呪文のようなものを反芻している。
音の主の姿は、まだ見えない――。
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