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109

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109.いただきます


♀シーフがじとーっとときらぐ主人公を見ている。
「……」
しつこく延々と見ている。
「…………」
♂ノビと♀プリはにこにこしながら談笑しているが、♀シーフはときらぐ主人公を見つめ続けている。
「………………わかったって! 悪かった、謝るよ! だからその目はやめてくれー!」
遂に根を上げるときらぐ主人公。
「えっち」
「ちっがーう! だから胸の件は不可抗力だって言ってるじゃないか!」
「どうだか、どーせ他職にたくさんいる友達ってのもみーーーんな女の子ばっかなんでしょ」
言いがかり甚だしいが、実は事実である。
「…………」
「ええーーー! 本当にそうなの!? 最低ー!」
「いいじゃないか! みんな友達だよ! そんな君が思うような……」
「アタシがどう思ってるってのよ!」
いい加減放っておくといつまでも言い合いしてそうなので、♀プリがやんわりと窘める。
「ほらほら二人ともそのぐらいにして。ご飯もう出来てくるわよ」
♀プリの言葉尻に重なるように、ちょうどタイミング良く♀モンク、♀商人の二人が厨房から出てくる。
「おっまったせー! んじゃー早速いただきましょー♪」
全員が席に着くと手を合わせる。
『いただきます』
まだじと目している♀シーフから目線を外して、バターを塗ったジャガイモを手に取り頬張る。
「うん、おいひーーーーふぇろわなら……」
訳のわからない賛辞を述べるときらぐ主人公に♀シーフがつっこむ。
「ふぇろわなら? 何処の方言よそれ。あ、それね、アタシが作ったんだから褒めるんなら力一杯褒めなさい……」
机に突っ伏すときらぐ主人公、そのまま脱力したかのようにイスからずるずると滑り墜ちる。
「え?」
頭部が床に激突する音が一際大きく聞こえた。
突然血相を変えて♀プリがときらぐ主人公のそばに駆け寄る。
「……息が無い……そんな……なんでこんな……」
♀シーフは呆然と倒れるときらぐ主人公と♀プリを見下ろす。
「え? え? ……な、何が起った……」
♀商人は席を立って立ち上がって♀シーフを指さす。
「ひ、ひどいですぅ! あ、あなた毒をっ! その人はあなたのお友達じゃなかったんですか!?」
♀商人の指摘に♀シーフは慌てて首を横に振る。
「ち、違っ……わ、私毒なんて……」
♀モンクは目の前のテーブルを♀シーフに向けてひっくり返す。
不意をつかれた♀シーフはテーブルごと部屋の隅に転がる。
「みんな下がって! ♀プリさんは早くあたしの後ろに!」
「だからアタシ知らないってば! ねえ、嘘でしょ? ♀プリさん! ねえ彼が死んだなんて嘘でしょ!」
♀プリは黙って首を横に振る。
「そんな誤魔化し言ったってダメですぅ! そのじゃがいも作ってたのあなたなんですからぁ~!」
♀商人の言葉に♀シーフは立ち上がって即座に反論する。
「何言ってるのよ! そもそもそのじゃがいも持ってきたの♀モンクさんじゃない! アタシそんなの知らないっ!」
「そういえば……ひっ! 私♀モンクさんの持ってきたにんじん食べちゃいましたっ!」
喉に手を入れて吐き出そうとする♀商人。
だが、今度は♀モンクが反論する。
「あたしじゃないっ! 大体ときらぐ主人公君が倒れたの食べてすぐじゃないっ! 大体すぐ効く毒だったら♀商人ちゃんも♀プリさんもとっくに倒れてるはずじゃないの!」
♀プリが口論に割って入る。
「いい加減にしてください! そんな事より今は彼を……」
♀商人がすぐに言い返す。
「そんな事ってなんですかぁ~。この中に人殺しが居るんですよー! わ、私こ、殺されちゃいますっ!?」
「そ、そんな事無いからとにかく落ち着いて……」
♀プリが皆を諭しにかかるが、♀シーフは倒れたテーブルの下に転がっている果物ナイフを拾う。
既に♀シーフの目は据わっている。
「……アタシわかった。貴方達みんなグルなんでしょう? それで私達を殺そうとして騙したのね!」
♀モンクはその言葉にぎょっとして♀商人を、♀プリを、そして事態についていけてない♂ノビを見る。
「許せない……よくも彼を殺したわね。あんなに良い人を……よくもっ!」
そういって果物ナイフを持って♀商人に飛びかかる。慌てて♀商人はテントの入り口の方に逃げ込むが、♀シーフの俊敏さには敵わず、入り口を出てすぐの所で捕捉される。
「た、助けてーーーーーー!!」
「殺してやる!」
だが、テントを出た所で♀商人は突然反転、♀シーフに向かって体当たりを喰らわせる。
よろめく♀シーフ、♀商人はその隙にテントの外に出て、大きく間合いを取る事に成功した。
だが、♀シーフもこの程度で引っ込むつもりは無いらしく、すぐさま追いかけようとした所で突如後ろから誰かに両手を取られる。
「落ち着いて下さい! 私達は……一緒に戦う仲間なんですよ!」
そう言って♀シーフの手を取ったのは♀プリだ。
♀シーフは全力で抗うと、考えていたより簡単に♀プリの手が離れた。
そのまま、♀プリは♀シーフに寄りかかってくる。
「な、何っ!?」
驚いた♀シーフが♀プリを突き倒すと、その後ろでメイスを持ち鬼の形相で立つ♀モンクの姿が見えた。
「嘘つき……みんなで協力しようって言ったのに……嘘つきっ! 嘘つきっ! 嘘つきーー!!」
頭部を強打されたせいで全身が痺れて動けない♀プリを、メイスでめった打ちにする♀モンク。
「何が一緒にここを出ようよ! 人は殺さないよ! 人死んじゃったじゃない! この大嘘つきーーーーーっ!!」
既に♀プリは頭を庇う事すら出来ない、それでも、♀モンクはメイスを振り下ろす事をやめなかった。
♀シーフは、♀モンクの言葉に矛盾を感じそれを追求しようとしたが、常軌を逸した♀モンクの様に、恐ろしさのあまり数歩後ずさる事しかできなかった。

どすっ

♀シーフは背中に焼け火鉢を押しつけられたような衝撃に、驚いて後ろを振り向くとそこには♀商人が居た。
「残念でした~。あなたはここでゲームオーバーですぅ~」
そう言って邪に笑う♀商人。
「あなたが……彼を?」
「知っりませ~ん♪ 私はま・だ・毒なんて入れてませんでしたからぁ~」
♀シーフは理屈を考えられる程、冷静な状態ではなかった。
だから、感情に従ってこいつが全ての元凶だと決めつける事にした。
「ふっざけんじゃないわよーーーーーー!!」
♀商人の眼前に手をやり、インベナムを撃つ♀シーフ。
真正面から、まともにもらった♀商人は顔を押さえてのけぞる。
「っっきゃーーーー!!」
「あんた……あんただけは許さないっ!」
傷の痛みを怒りが忘れさせてくれた。♀シーフは狙いを定めて♀商人を思いっきり突き飛ばす。
♀商人は、突き飛ばされながらもなんとか体勢を立て直そうと軸足を後ろに付きだしてこらえようとするが、その足が何かにぶつかる。
「きゃっ」
♀シーフの狙い過たずに、♀商人は外にあった井戸の中へと墜ちていった。
憎々しげにそれを見ていた♀シーフ。
すぐに、後ろから声が聞こえる。
「インベナム……そう、あなたが毒を入れた犯人だったのね……」
その声が聞こえた瞬間襲い来る三連撃。♀シーフはその二発目で既に息絶えていた。
♀シーフにとどめを刺した♀モンクは慌てて♀プリの元へ戻る。
♀プリの側でその手を取っていた♂ノビを突き飛ばして、半泣きになりながら言う。
「ごめんなさい! 毒盛ったのあなたじゃなかった! あたしてっきり……ごめんなさいごめんなさい!」
虫の息の♀プリは、しかしそんな♀モンクに笑みを返した。
「…………ご、誤解……わかってくれれば……よか……」
「それ以上しゃべらないで! 今私がヒールするから!」
神の奇跡、癒しの術を♀プリにかける。
この人は嘘は言っていなかった。そして今回の事も怒ってない、なんて素晴らしい人なのだろう。
この人と共に、この人を守って、初めて自分はモンク、聖職者としての勤めを全う出来る。
そう♀モンクは思っていた。
「ヒール!」
その呪文で、♀プリは痙攣を起こすと完全に絶命した。
「……え?」
驚いた♀モンクは再度ヒールをかける。
「ヒール! ヒール! ヒール!」
既に遺体となっているが、それでも術をかけるたび、♀プリの皮膚は裂け、更なる傷を増やす。
♀モンクは呆然となって自らの手を見た。
「……あたし……呪われちゃった……神様に……あたしが人殺しだから……」
そして、救いの主である♀プリを自らの手で殺したのだ。
「もう……ダメ。もう何も……知らないっ……っわーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
絶叫を上げる♀モンク。そのままテントを飛び出し、メイスを投げ捨てると川に身を投げ底へと沈んでいった。


井戸の下に突き落とされた♀商人。
必死にもがいて、なんとか沈まずに居るが、それも時間の問題だ。
「助けて! ♀プリさん! ♀モンクさん! ♂ノビ君! わたしはここにいるよー!」
落下の時に壁にしこたま叩きつけた左腕は言うことを聞いてくれない。
「手が、手が動かないの! お願い助けて! わたし死んじゃうっ!」
暗闇の中、微かな光のみを頼りに、底も知れぬ水に浮かんでいる恐怖。
「たすけてー! しんじゃうよ! 私が、私が死んじゃうっ!ヤだ!こんなのヤだー!」
そして救いの主は現われる。
ちょうど、♀モンクが絶叫を上げてテントから出てきたタイミング。
そのメイスは、井戸の中に放り込まれ、そして♀商人の残った自由な右腕に直撃した。
「んーーー! ぐ、ぐごがぼっ…………」
♀商人はすぐに恐怖なぞ感じない体になれたのだった。

♂ノビは、一部始終を見ていた。
黙って、静かに、見ている事以外に何も出来なかった。
そして、♂ノビだけがその場に残った。
いただきますから、ほんの10分の出来事だった。


<ときらぐ主人公、♀シーフ、♀プリ、♀モンク、♀商人死亡>
<♂ノビ生存ゴブリン村現状維持>
<残り28名>

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