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143.花婿と花嫁~次


 ──さて、その花嫁の話をしよう。

 まだ、正気だった頃、彼女は、その男に憬れていた。
 まるで魔法の様に鋭い剣を鍛え上げていく、彼の姿が好きだった。
 彼女自身が、鍛冶師とは名ばかりで、怪物との争いに明け暮れる冒険者だったからかもしれない。

 握りなれたチェインを片手に、並み居る化物を撲殺している間も。
 手に入れた商品を並べた露天を、彼の露天の傍にこっそり出している間も。
 何気ない会話が、並べているどんなカードよりも、高価に感じられて。
 彼女と、彼は青い空の下で、お互い笑い合っていられた。

 ともかく、知らない間に、彼女は彼が好きになっていった。
 恋、というのはえてしてそういうもの。
 この鍛冶師のそれは、少し初心に過ぎるかもしれないけれど。

 彼女は彼に恋していた。
 それは今も同じ。

 狂った彼女の世界で。
 歪んでしまった彼女の視界の中で。
 それだけが真っ直ぐに。

 拾った包丁を片手に、歪んだ世界を歩んで、彼女は思い人に出会った。

「やっと会えたよ。やっと会えた。でも残念ね。ここが大聖堂だったらよかったのにね。
プロンテラの近くにまでこれたのにね。うふふ。貴方が花婿で私は花嫁。楽しみだなぁ」

 緑色の絨毯の上。草の臭いがする草原。
 恋人達が愛を誓う大聖堂のステンドグラスの光は無く。
 それは、砦の向こうに見える鏡写しの首都にある。

「貴方が欲しいのぉぉぉぉぉぉぉぉ…いっしょになりましょぉぉぉぉぉぉっ!!」
 女の鍛冶師は、包丁を逆手に、不明瞭な絶叫を上げて走りだした。

 ざくっ。
 包丁が突き刺さる、音がした。


 ──さて、その花婿の話をしよう。

 まだ、正気だった頃、彼は、毎日の様に首都の一角で武器を鍛えていた。
 何時だって成功していた訳では無い。むしろ、失敗した数の方が思い起せば多かったのだろう。

 何時からだろうか。彼が、そうして武具を鍛えているのを、きらきらした目で見ている女の子が傍らに居るようになったのは。
 彼は鍛冶仕事しか出来ない男だったから、何を話していいか判らなくて、彼女には何も気の利いた事が言えなかった。
 鍛冶仕事なんていうのは、きっと、つまらない光景だったんだろう。
 その証拠に、彼には依頼人と、数少ない同業者以外には友人、と呼べる人間が殆ど居なかったから。

 それで構わなかった。特に気にしたことも無かった。
 彼は、それが仕事だったし、周囲の人間達の事を彼はそんな相手として見ていた。

 けれど、きらきらした目で、自分の仕事を見ているその女の子が彼は好きになっていった。
 ガチン、ガチンと彼が剣を打つ度、その女の子の目は、散る火花を写しこんで、まるで宝石みたいだった。
 …或いは、本当に彼にとってその女の子は宝石だったのかも知れない。

 暫く時間がたって、少しの間顔を見せなかった女の子が、自分と同じ職業についていて。
 はにかんだ様な笑顔で、私に手伝える事があったら言ってよ、そんな事を言われて、やっぱり返す言葉が見つからなくて。
 ああ、判ったよ。期待せずに待ってる、そんな変な台詞しか出てこなかった。

 何時も彼女は彼の近くに露天を出すようになっていて。
 その頃には、幾ら彼でも、少し彼女の事を意識し始めていて。
 不器用ながらも、短い言葉を何時も交し合っていた。
 それだけが、すごく幸せだった事を覚えていた。

 ともかく、気づけないでいたけれども、彼は彼女を愛していた。
 何処にでも転がっている出会いでも、それは彼とって、どんな名刀よりも輝いてみえた。
 幾度と無く、製作品をへし折ってしまうぐらい不器用なやりかたでも、構わなかった。

 彼は、彼女を愛していた。
 それは、今も何処かで悲鳴を上げている。

 彼は心を壊され。
 衝動に支配された、その世界の中で。
 只、その執着だけが今も幽かに残っていた。

 ざくっ。
 包丁が突き刺さる、音が。

 視線を下げると、そこで縋りつくように彼女が、彼の肩に包丁を突き刺して、笑っている。
 真っ黒い衝動が、突き上げるように叫び声を上げていた。

「殺す。殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺すころころころころころrtdafz▲×↓~~~!!!」

 斧を握る片腕に力が篭った。



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