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147

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147.惨劇


♀ハンターは、手元の金属を器用に一つづつ細かい破片に変えていく。
そうして出来た細かい破片を予め用意しておいた棒の先につけ鏃とし、それを♂ケミに渡す。
彼は、言われた通りに矢羽根を一つ一つ付けていく。
そして最後に逆毛アコがそれらを矢筒に収めて完了だ。
矢作成、アーチャーは原材料さえあれば自らの手で矢を作り出せるのだ。
「ふ~。終わりました」
端の方で馬の手綱を取られたペコペコ管理兵(クルセ)がぶちぶち言っているが一切気にせずそれは完成した。
ちなみに深淵の騎士子は昼寝中で黙って外して使っているのだ。
「ありがとう、これで少しはまともに戦えるようになりました……まあ後は弓ですが、そこまでは高望み出来ませんし」
♀ハンタの言葉に、♂ケミがふと思い出したように言う。
「そういえば、アコはまだ青箱残ってなかったっけ?」
「うはwwwww開けるのwww恐いwwwwうぇ」
確かに、もう一つ逆毛が出たら事態の収集を計るのは不可能となるであろう。
すると、♀ハンターがにこやかに言う。
「そうなんですか? でしたら私も一つ未開封のがありますから……一緒に開けませんか? 二人で開ければきっと恐くないですよ」
「wwwwwww」
逆毛はこれで返事のつもりらしいが、何を言っているのかまったくわからない。
♀ハンターも反応に困っていたが、とりあえず同意と受け取って自分の青箱を開けてみる。

『古い紫色の箱一個獲得』

♀ハンターはとても微妙な顔をした。
逆毛もバッグから青箱を取り出し、それを開けてみた。やはりさっきのは同意の意らしい。

『角弓一個獲得』

逆毛はすんごい微妙な顔をした。
釣られて♂ケミも微妙な顔をしているが、そこにおずおずと♀ハンターが声をかける。
「あ、あの~。もしよろしければ……これと交換しません?」
逆毛はやっぱり微妙な顔をしていたが、♂ケミが両手を叩く。
「ああそうだよ! ♀ハンターさん弓使えるじゃん! ないすアコ!」
♂ケミはひょいっと角弓を♀ハンターに渡すと今度は紫箱を逆毛に渡す。
「挑めアコ! 乾坤一擲、お前の魂見せてみろ!」
「おkwwwww絶対wwww勝利wwww」

『初心者用胸当て一個獲得』

 サ カ ゲ 敗 北


一通りの作業が終わると、昼寝をしていた深淵の騎士子を起こす。
ペコについている手綱の金属部分が根こそぎ無くなっているのには気付いてないらしい。案外大雑把な所もあるようだ。
深淵の騎士子昼寝中、ここぞとばかりにペコの世話を焼きまくっていたペコペコ管理兵sはとても無念そうであったが、やはり無視された。
そんな一行の前に、DOPと♀騎士は現われたのだった。
二人を見るなり、深淵の騎士子は驚いた顔をする。
「DOP殿か? いやはや貴殿までこんな所に……」
しかし、その言葉は♀騎士の地の底から聞こえてくるような、怒りの声にかき消された。
「見つけた……あなた……そこを動くなーーーーーーーーーーー!!」
♀ハンターも即座に気付いて、逃走にかかる。
追う♀騎士、そしてその♀騎士の前に♂ケミが立ちはだかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。一体何が……」
「どけーーーー!!」
無形剣を振りかぶる♀騎士。♂ケミは何やら恐くて乳鉢を頭上に上げる。
無形剣の刀身は肉眼にて見る事は出来ない。しかし何の偶然か、はたまた♀騎士がそうしむけたのか、剣は乳鉢に当り、乳鉢ごと♂ケミをはじき飛ばす。
♀騎士はそのまま♀ハンタに向かおうとするが、♂ケミはすぐさま立ち上がり♀騎士にタックルをしかける。
それ自体はあっさりとかわされるが、♂ケミは諦める気は無いのか、再度立ち上がる。
そしてそれと同時に深淵の騎士子が動いた。
ペコに乗ったまま♂ケミの前に立ち、折れかけた剣を振るうと、巨大な槍がその剣ではじき飛ばされた。
「いきなり何をするか!?」
その槍は深淵の騎士の乗馬に乗ったまま、DOPが♂ケミめがけて投げつけた物であった。
「その騎士の復讐は正当な行為だ。邪魔をするのなら私が容赦しない」
そう言うDOPに深淵の騎士子は一歩も引かない。
「まだ何が真実かは見えぬ! それをあの者は確かめようとしておるのだ! それがわからぬか!?」
「真実も見抜けぬか。主も魔の一族であろうに、それとも人と交わり不抜けたか?」
DOPの揶揄の言葉に深淵の騎士子も表情を変える。
「ゲフェンごときで鳥無き里の蝙蝠を気取る貴様風情が……言ってくれるな」
一触即発、その間にペコペコ管理兵sは♂ケミと一緒になって♀騎士を取り押さえようと周りを囲んでいた。
「へい兄弟。♂ケミばっかに良い格好させられないぜ」
「おうよ兄弟。とにかく騎士様には落ち着いてもらわん事には話にもならねぇ」
そんな中、逆毛アコだけは一人♀ハンターの動向に注意していた。
「犯多さんwwwww何してるwwwww」
逆毛アコの言葉を無視しながら、必要な作業を終えた♀ハンターはウィンク一つ。
「こっちは準備OKです! 援護しますからっ!」
「援護wwwwってwwww何するwwww気!」
♀ハンターは懐から複数の罠を取り出すとひとまとめにして地面に放り投げる。
そして自分は距離を取りながら、空へと向かって弓を構える。

「良~い感じでまとまってくれちゃって……派手にいくわよっ!」

天に向かって無数の矢を放つ♀ハンター。
そしてそれはすぐに♀騎士を中心とした周辺に次々と降り注いできた。
♀騎士、深淵の騎士子は自らの剣でそれを払いのけられるが、♂ケミ、ペコペコ管理兵sの三人は無防備なままで矢にさらされる。
同時に、♀ハンターは罠をばらまいた地面に向かって矢を放つ。
チャージアロー、♀ハンターがそう叫んだ時には既に事態は手遅れとなっていた。
チャージアローによって、地面ごと吹き飛ばされる罠。そしてその罠は矢が雨あられと降り注ぐ付近へと落ちていく。
「いかんっ!」
深淵の騎士子がそう思った瞬間には、その乗ペコはその場からとびすさっている。
♀騎士はこの♀ハンターの動きを読んでいたのか、降りしきる矢から体を庇う事すらせずに、その場から飛び退く。

♂ケミはこの時の事を生涯忘れられないと思う。
無数の矢が♂ケミに付き立つ直前、何かがのしかかってきて、地面に押し倒された。
そして降りしきる矢が複数の罠を同時に起爆させる。
爆音、悲鳴、そして……
「いてっwwwっwいていていてwwwwwwいぃっ!!wwwwww…………」


全てが止むと、逆毛アコは♂ケミの上からずるりと落っこちた。
そう、逆毛アコは♂ケミの盾になるべく上に覆い被さっていたのだ。
事態の把握には少しかかった。でもすぐに♂ケミにも理解出来た。
最初に出会った♀騎士の仲間を殺した犯人、この殺し合いに乗っていた人物は♀ハンターだったのだ。
そして逆毛アコはそれに気付いてたのか? そうでなければ、こんなに的確に動ける訳がない。
「おい! おいアコ! しっかりしろよおい!」
逆毛アコの手を取る♂ケミ。
「うはwwwwwやっと気付いたって顔wwwwwにぶすぎwwwwうぇ、えぇ、げほっ! げほっ!」
「バカ! お前気付いてたのかよ! だったらなんで……」
「確証wwww無かったwwっwwwそれでwwwww疑ったらwwww君怒るwwwそれwwwwヤだった」
「なんだよ! それじゃあ僕バカみたいじゃん! お前あってるじゃん! それなのになんでお前がそんな目に遭ってるんだよ!」
逆毛アコは♂ケミの手を握り返す。
「おwれwたwちwトwモwダwチw…………」
アコの頭から逆毛が落ちる。
「だからさ……一緒に……帰ろうよ…………みんなで………」
そしてアコの手から力が抜けていき、それっきりアコは何も言わなくなった。


「ぐあーーーー! 目が! 目をやられた! ちくしょう! ペコ! 相棒何処だ!?」
悲鳴を上げるペコペコ管理兵(騎士)に深淵の騎士子が駆け寄る。
「私だ! 深淵だ! 傷は浅いぞしっかりしろ!」
「あ、ああ深淵の騎士子さん、無事だったか……ペコは!? 相棒は無事か!?」
「無論ペコは無事だぞ! 流石お前達が鍛えているだけあって、素晴らしい反射能力だ! 私も舌を巻いたぞ!」
そして相棒のペコペコ管理兵(クルセ)を探す深淵の騎士子。
それはすぐに見つかったが、頭部が粉砕されており、既に絶命した後であった。
「そうだろうとも! あのペコは最高さ……で、おい! 相棒はどうしたんだよ! 無事なんだろ!?」
深淵の騎士子は震えながら目を閉じる。
「ああ、ああ、もちろん無事だとも。気を失っているだけだ、心配するでない」
ペコペコ管理兵(騎士)は安堵の表情を見せる。
「そうか、良かった……うっ! ごふっ! ごほっ! ごふぉっ!」
咳き込み、血を吐くペコペコ管理兵(騎士)。深淵の騎士子は半泣きでその体を抱える。
「おい! しっかりしろ! 今逆毛と薬師を呼んでやる!」
立ち上がろうとする深淵の騎士子。だが、ペコペコ管理兵(騎士)はその腕を握って放さない。
「なあ、深淵の騎士子さん……聞いてくれ。ああ、今言わなきゃなんねえ気がするんだ、だから頼む。聞いてくれ」
「どうした!? なんでも言うが良いぞ!」
「俺さあ、散々文句ばっか言ってたけどさ、実はあんたとペコとの相性、すんげー良いって思ってたんだ」
深淵の騎士子は泣きながら頷く。
「ああ、ああ、そうか」
「だからさ、相棒に言ってやってくれねぇか? このペコあんたに譲ろうぜって俺が言ってたって」
「何を言う! 自分で言えるぞ! 逆毛のヒールと薬師の薬があればこの程度の怪我……」
「すっげ、なんか目に映るみてぇだ……夕日を背に駆け抜ける俺達のペコ、その上にあんたがめっちゃかっこ良くまたがっててさ。最高じゃん……」
陶酔した顔になるペコペコ管理兵(騎士)、その直後全身痙攣を起こし、そして動かなくなった。


♀騎士は呆然とみんなを見つめていた。
倒れるアコライト、吹き飛ばされる二人の兵士。
そして友との別れに涙を流すアルケミストと深淵の騎士子。
「あ……ああ……」

『き、騎士子たんのふとももで死ねる……本望!Σd(´▽`*)』

「ああああああああーーーーーーーっっ!!!!!」
♀騎士は♀ハンターが去っていった方向に向かって猛烈な勢いで駆け出した。
かつての彼女を知る者であったなら、別人と間違えたであろう。
それほど、♀騎士の形相は恐ろしい物であった。


深淵の騎士子は♂ケミに駆け寄ると、その襟首を掴む。
「急げ! まだ間に合うはずだ! 早く貴様と逆毛であやつらを治療……」
♂ケミは何の反応もしない。
「ええい、逆毛! 貴様も何をしてお……る……逆毛? おい、こら逆毛?」
静かに呟く♂ケミ。
「死んだよ……僕を庇って」
♂ケミの言葉に愕然となりその場に膝をつく深淵の騎士子。
「私がついていながら……一瞬で……私は何も出来なかった……」
深淵の騎士子の言葉に、♂ケミが言う。
「違う……アコは気付いてたんだ……なのに僕が……♀ハンターの罠に気付かなかった……なのに死んだのはアコで僕は生きてる……」
♂ケミの言葉に、深淵の騎士子は切れる程唇を強く噛むと、剣を片手にペコに飛び乗る。
♂ケミはまだ呆然自失であったが、ついさきほどみた♀騎士の形相を思い出した。
「待てよっ!」
自分でも理由はわからない。だが、深淵の騎士子を行かせる訳にはいかない。そう思ったのだ。
「何を待つか!? あの人間めを……八つ裂きにしてくれるっ!」
「ダメだ! そんな事しちゃダメなんだよ!」
何故ダメなのかも自分では良くわからないが、今は衝動に任せてそう叫んでいた。
「ダメだと! ふざけるな! あの者を切り刻まなければ皆の無念は晴れぬわっ!」
「ふざけてんのはどっちだよ! そんな事であいつらの無念が晴れてたまるかっ!」
「なんだと!」
深淵の騎士子は♂ケミの襟首を掴む。だが、♂ケミも一歩も引かない。
「アコはな! みんなで一緒に帰ろうって言ったんだよ! あいつ殺したってみんな一緒に帰れねーじゃんか!」
「だったらあいつを野放しにしておくのか!? 許せぬ! あの者だけは断じて許せぬっ!」
「それであいつを殺すのかよ! さっきの♀騎士みたいに邪魔する奴も全部蹴散らして! それじゃあお前あのハンターと何もかわんねーじゃんかよ!」
♂ケミの言葉に深淵の騎士子は激怒する。
「私があいつと一緒だと!? きっさまーーーーーー!!」
剣を♂ケミに向け、今にも振り下ろさんとするが♂ケミは深淵の騎士子から目を逸らさない。
「一緒に帰るんだ! 一緒に帰るんだよ俺達は! だからこんなバカな殺し合いなんて絶対に乗ってなんかやんねーんだ!」
♂ケミの気迫、そして言葉の正しさは深淵の騎士子にその剣を降ろさせた。
「……お前の言う事はわかる……だがっ! それでもなお私はっ!」
♀ハンターの消えた方に向かいペコを進める深淵の騎士子。
それを♂ケミはペコを引っ張り無理矢理止める。
「ふざけんな! お前行っちまったら俺どーするんだよ! 俺一人になっちゃうじゃん! 俺一人じゃこんな所絶対抜け出せねーよ!」
その言葉で深淵の騎士子は止まる。♂ケミはなおも続けた。
「仲間作るったってもう誰も信用なんて出来やしねーよ! 今の俺が信用出来るのお前しかいねーんだよ! 俺はお前と一緒にやってくしかねーんだ! お前は違うのかよ!」
深淵の騎士子はペコの上で肩を振るわせる。
♂ケミの叫びは全て、容赦なく深淵の騎士子に突き刺さっていたのだった。
「悔しいぞ……悔しくてたまらぬ……う、うぅぅ……」
そして深淵の騎士子は身も世もなく泣き叫ぶ。
そして♂ケミも、もう自分でも何が何やらわからなくなって、吠え叫ぶ。僕から俺に変わってる事すら気付かない程に。
「ちくしょう! 俺だって悔しいんだよ! ばかやろう! ばっかやろーーーーーーー!!」
二人が泣き叫ぶ中、所在無げに深淵の黒馬が二人の周りをうろうろしているのだった。


♀騎士は走り続けていた。
ただ闇雲に、その走る先に居るハンターめがけて。
ここまでの怒りは生涯初めてであろう。それは♀騎士から全ての判断能力を奪い取ってしまっていた。
苔むす大地を走り抜け、沼沢地を突き進み、林の中をひた走る。
そして不意に視界が開ける。そこは砂漠の荒野となっており、その先にもハンターは見えない。
委細構わず走り続ける♀騎士。だが、すぐに砂に足を取られて転んでしまった。
すぐに立ち上がろうとするが、足が全く動かない。
ならばと、両腕を動かし這いずりながら砂漠を進む。
頬、腹、腕と足を容赦なく砂漠の熱砂が焼くが、♀騎士は止まろうとはしなかった。
それを林の中から見つめる視線。
「や……やっと限界来たわね……まったく、追いかけるこっちの身にもなって欲しいわ」
ただがむしゃらに走る者と、考えて走る者。どちらがより効率的に体力を費やせるかは考えるまでもない。
♀ハンターはしかし、そんな苦労も報われたと思う。
「あははははは! 何よあのヒキガエルみたいな格好! もう騎士様の威厳もくそもありゃしないわね!」
そして弓を構え狙いを定める。
「この距離であんたがそのザマなら……外しようも無いわ。死ねクソ騎士」
ダブルストレーピングの狙いは♀騎士の心臓。
♀騎士の背中に吸い込まれるように二本の矢が突き刺さる。
「あーーーーーっはっはっは! 吹き出してる吹き出してる! すんごい量の血よあれ! ヒキガエルが串刺しになったあげく砂漠で蒸し焼き? バカ騎士の最後にしちゃ上出来よ!」
高笑いを上げる♀ハンター。だが、それでも周囲への警戒は怠ってはいなかった。
「あら? お連れさん? ……そう、DOP君ね。まあいいわ。せいぜいバカ騎士の最後でも看取ってやりなさい」
♀ハンターは最早ここには用は無いとばかりにその場から姿を消した。

DOPは♀騎士の側に立ち、彼女を見下ろす。
「愚かな……相手は手練れぞ? そのような蛮勇を振るった所で……む?」
まだ、♀騎士は動いていた。
計らずして♀ハンターと同じくひきがえるを思い出したDOPであったが、そんな感想はさておき、すぐに♀騎士の容態を確認する。
「これはしたり。僅かにではあるが矢が急所を外れておるぞ……あれほどの手練れが……何故?」
DOPは知らない、♂アコが♀ハンターの矢の鏃全部に僅かな傷を付けておいた事を。
そしてそれはもちろん、♀ハンターも知り得ない事であったのだった。


<♂アコ、ペコペコ管理兵(騎士)、ペコペコ管理兵(クルセ)死亡>
<♀騎士、重傷を負って意識不明>
<DOP、♀騎士を保護>
<♀ハンター、鋼鉄の矢(傷がついているせいで狙いがずれる)と角弓入手>
<残り17名>

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