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051

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051.粋狂


海と森との境、プロンテラとゲフェンに程近いマップを
♂クルセは周りの気配を油断なく伺いながら進んでいた。
背後に妙な気配を感じる。しかしそれは、今に始まったことではない。


ゲーム開始の合図とともに彼が送られたのは、通常ゴブリン森と呼ばれる場所だった。
身は隠せそうなものの、いつ大量のゴブリンに取り囲まれるか分からないので
彼は安全な場所へと移動しようと、とりあえず北へ向かうことにした。
そう。彼の持ち物の中に武器は一切含まれて居なかった。
大箱からはプレート、小箱からはロザリオを手に入れたものの
ロザリオにいたっては、転職から間もない彼に装備できるはずもなく。
途中で♂セージに呼び止められたが、何かの罠かと勘ぐり近づくことは出来なかった。



気配を感じるようになったのは、ゴブリン森を抜け、狸の丘から次のマップへと差し掛かったところ。
気のせいかと思い、最初は特になんとも思っていなかったのだが
放送を聞き、人殺しゲームの最中なのだと実感した途端、急に気配が恐ろしくなった。
彼は木の陰に身を隠したり走ったりしながら、気配の主を振り切ろうと必死で進んだ。
しかし、そんな彼の思惑とは裏腹に、その気配は今現在でも消えることなくついてきている。
恐怖で頭がおかしくなり、居るはずもないものに怯えているだけなのか。
それとも、本当に誰かが自分を狙っているのか――。



息を切らして木にもたれ掛かり、♂クルセは自分を落ち着かせようと汗を拭った。
不思議なことに、気配の相手は今まで一度も彼を襲おうとはしていない。
隙ならいくらでもあったはずだ。それなのに。

「・・・やっぱり、気のせいか」

ぽつりと呟いて、♂クルセは息をつく。 

「残念、気のせいじゃないよ」

その声は唐突に、♂クルセのすぐ隣から聞こえた。
反射的に彼は隣の空間を腕で薙ぐ。
なにもいない。

「誰だ!?」

心臓が高鳴るのを抑えつけ、♂クルセは声のしたほうに向かって構えた。
嫌な汗が額をつたって落ちる。

「そんなに怖い顔しないでよ。なにもとって食おうなんて思ってないから」

答えたのは、呆気にとられるぐらい朗らかな女の声。

「で、出て来い!」

うっかり拍子抜けしつつも、♂クルセは気丈に叫んだ。

「おや、怖い怖い」

からかっているのか何なのか、笑い声と共に聞こえたその台詞は
♂クルセが構えを取っているのを、全く意識していない様子だった。

「仕方ない、そろそろバラしちゃうかね」

そしてそんな言葉と共に現れたのは、赤い服を纏った♀ローグ。
しかもそれが、今まで居ると思っていた場所ではなく
♂クルセの真後ろから現れたものだから、彼としては気が気ではない。

「・・・襲う気はないって言ってるでしょ」

尚も構えを続ける♂クルセを見て、♀ローグは呆れたように肩をすくめた。

「さっきからずっとつけてきてたんだろう?信じられるか」

きっぱりと言い放つ。

「なるほどね・・・」

♀ローグはそう呟くと、突然♂クルセの腕をつかみ、後ろ手にねじ上げた。

「さすがに失敗したってわけか」

言って、軽く笑う。
首筋に冷たい刃をあてがわれ、♂クルセは身動きが取れない。

「あれ?あんた煙草吸わないんだ?」

♂クルセの背後をとった形で顔を近づけ、♀ローグは意外そうに言った。

「ならあの吸殻は別だったわけね・・・」

独り言のように呟いて、ダマスカスをより強く首筋にあてる。 

「さて、どうしたい?」
「・・・・・・?」

後ろで手をねじ上げられたまま、唐突に♀ローグから投げかけられる質問。
♂クルセは、思わず息を呑んだ。

「ここで殺されたい?逃げて生き延びたい?」

ゆっくりと囁くような声は、ひどく耳に甘い。

「それとも――」

挑発するように、♀ローグは少し間を置いて、言う。

「――私を殺したい?」 

瞬間、♂クルセは♀ローグの手から逃れようともがいた。
♀ローグがわざと力を緩めたのか、それはあっさりと達成された。
振り向きざま、素手で♀ローグの頭を狙った一撃を繰り出す。
しかし♂クルセの攻撃は、難なく避けられ――

「そういうことね」

この行動を宣戦布告と読んだ♀ローグが、嬉しそうに言う。
完全に弱者だと見極められたのだろう。
無理もない。元々転職間もないLvの上、武器すら持っていないのだ。
頼るべきは、このプレート。これさえあれば、いくらかは耐えられるはず。
そう思って、♂クルセは全速力で駆け出した。 


<♂クルセ プレート1個、ロザリオ1個、赤ポ、食料>

<♀ローグ ダマスカス1個、小箱(未開封)1個、赤ポ、食料>

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