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157

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157.犯罪者達の感性


バドスケと並んで歩いていた♀ローグが不意にしゃがみこんで地面に頬をこすり付ける。
「ん?」
「静かにっ!」
♀ローグの叱責に、慌てて口を紡ぐバドスケ。
「……どうやら人が歩いてるみたいだね。それも複数……二、三人って所か?」
そう言われてバドスケは表情を堅くするが、♀ローグはにまーっと笑う。
「ちょうどいい機会じゃないか。あんたここでそいつらと合流しなよ」
言葉は理解出来るが、内容が全く理解できない。
「なに? 何がどーなっていきなりそうなるんだ?」
♀ローグはばんばんとバドスケの背中を叩く。
「あんた、ここの世界で人探すんなら一人より二人でしょ? もしかしたらそのアラームって子かもしれないし、その子の事知ってるかもしれない。情報交換の機会は逃すべきじゃないと思わないかい?」
バドスケがぽかーんとしてる中、♀ローグは言う。
「幸い、ああ本当に運が良い事に私はまだそのアラームってのに会った事無いしね。ならこれ以上私と一緒に居る理由無いでしょうに」
「そ、そっか……まあ確かに。だけど俺はやっぱり……」
♀ローグがじろっと睨む。
「ま・ず・は・その子を見つけるのが最優先。違うかい? その後で皆殺しでもなんでも好きにすればいいさね。てかそうしなさい。あんた、自分の目の届かない所でその子が死んだら悔やんでも悔やみきれないだろ?」
躊躇するバドスケを♀ローグが後押ししてやる。
「だーい丈夫だって。んなあんたが誰殺したなんて誰も知りやしないんだから。それこそ話聞くまで私だって知らなかったんだし……そうだろ?」
バドスケは♀ローグの方を向いて頭を下げる。
「すまねぇ。本当に世話になった……でも最後に一つ、これだけ聞いていいか?」
「なんだい?」
「なんだってあんた俺を助けてくれたんだ? あんた……このゲームに乗ってるんだろ?」
真顔で聞くバドスケに♀ローグはからから笑う。
「だってあんた骨ばっかじゃん。血も吹き出さない相手なんて殺したっておもしろくもなんともないさね」
無言になるバドスケ。この人の言う事は何処まで本気で何処からが冗談なのか全くわからない。
相変わらず笑っている♀ローグを後に、バドスケは♀ローグの示した方角へと歩き出したのだった。

バドスケが行ってしまうと、♀ローグはその場に座って懐をあさる。
そこから取り出したのはパイプタバコと火打ち石。
器用に火打ち石を片手で鳴らしてパイプタバコに火を付ける。
「あ~、生き返るね~。なんかもー至福の時だね~。もーずーっとこうしてるのも悪く無いね~」
そして何をするでもなく、ぷかぷか浮かぶタバコの煙をいつまでも見続けていたのだった。

バドスケが歩き続けると、すぐにその人影は見つかった。
♀ローグと話していたおかげで、何故か心は安定を取り戻していた。
とにかくアラームを見つけよう、全てはそれからだ。
「おーい、そこの人達。攻撃の意志は無いから話を聞いてくれ~」
バドスケが声をかけても、二人は既にバドスケに気付いていたのか驚いた様子は無かった。
「……そー思うんなら、まずその無駄に物騒な仮面なんとかしろ」
男がそう声をかけてくる。
「別にそれがお望みならかまわんが……あんまり変わらんぞ?」
そう言いながらアラーム仮面を外すバドスケ。素顔のがいこつが久しぶりに外気にさらされる。
「って中も仮面かよ!」
「ばっかやろう! これが素顔だ文句あるか!」
怒鳴り返しながら仮面を付け直す。
「アーチャースケルトン・バドスケだ。あんた達に聞きたい事があるんだが……」
隣に居た女が聞き返す。
「ああ、あんたあの時の……聞きたい事って何?」
少しづつ近づきながら話していたので、ここまで来るとその人間が確実に二人である事や彼らの衣服やらがはっきりとわかる。
♂プリーストと♀アサシンの二人だ。
♂プリーストは、見知ったような口振りのアサシンに訊ねる。
「ん? 知り合いか?」
♀アサシンは至極あっさりと言い放った。
「ほら、さっきノービス君殺した奴よ」

♂プリーストが凄まじい形相で襲いかかる。
バドスケは驚きのあまり、一目散にその場を逃げ去る。
逃がす気なぞ無いのか、とことんまで追いかけようとする♂プリーストだったが、突然その場にひっくり返る。
隣を走っていた♀アサシンが足をかけたらしい。
「いきなり何しやがる!」
♀アサシンはさっきと同じように平然とした顔で言う。
「あんた動かない方がいい。ヤバイ敵がその先に居たらあんたが一緒に居ると私も逃げられなくなる。偵察なら私が行くわよ」
♂プリーストが激昂して♀アサシンに言い放つ。
「ふざけんな! あいつだけは絶対逃がしゃしねえ!」
そう言って起きあがる所を、再度アサシンに突き飛ばされひっくり返る。
「そう? ノービス君は腹に致命的な一撃喰らっても、あいつを殺そうとはしなかったわよ」
♀アサシンの言葉に、♂プリーストは口を開けたまま何も言えなくなってしまった。
「大丈夫、私アサシンだけど殺さないようにするから。ほら、さっきの♀ローグだって殺さなかったんだし」
♂プリーストはその言葉に驚く。
「何!? なんだってまた……」
「ノービス君あんまり人殺し好きそうじゃなかったから、出来るだけ避けよっかなって思って……ダメかな?」
目を丸くする♂プリースト。
「ダメっていうか……それでお前大丈夫か? それでも勝てるのか?」
「とりあえず♀ローグには勝った。う~ん、でもこの後もずーっとこれでやってて勝てるかどうかはわかんないかな。勝てなそうだったら逃げるけど、逃げ切れなかったら死んじゃうから、その時はごめん」
そう言うと♀アサシンは、突き飛ばされて座り込んでいる♂プリーストの眼前に自分の顔を近づける。
「私はさ、ノービス君の事良く知らないし、彼の遺志も全部わかるわけじゃない。だからさ、指示はあんたが出してよ。殺す相手も殺さない相手もあんたが決めて」
そして♂プリーストに手を差し伸べる。
「それが冷静な判断の元、出された指示かどうかぐらいは私が自分で判断するからさ。行動指針はお願いするわね」
♀アサシンにとって人の生き死にとは、朝の挨拶か何かと同じ程度の事でしか無いのであろう。
漠然とそんな事を考えながら♂プリーストは♀アサシンの手を取ったのだった。

相変わらずパイプタバコをぷかぷかやってた♀ローグの元に、バドスケが猛ダッシュで戻ってきた。
「おやまあお帰り。出戻りかい?」
よっぽど疲れたのか、跪いて肩で息をするバドスケ。
そんなバドスケを見て、やっぱり笑い出す♀ローグ。
「あはははは、骨でもやっぱり疲れたりするもんなんだね~」
そんな♀ローグをバドスケは睨み付ける。
「ばっかやろう何がバレないだ! いきなりしょっぱなからバレたじゃねーか!」
それを聞いた♀ローグは更に大笑いする。
「あーっはっはっは! そいつは運が無かったね~。しかし、いきなり当り引くたーかなり笑えるよあんた」
全然悪いと思ってない模様。♀ローグをバドスケはジト目で見る。が、これ以上何を言っても無駄であろうとも思っていたので黙っている事にした。
♀ローグは立ち上がりながら、パイプタバコの灰を捨てて懐に収める。
「んで……付けられたねあんた。出てきなっ!」
♀ローグがバドスケの後方数メートルの位置に石を投げつける。
すると、その場所から♀アサシンが現われたのだ。

「あらら、バレちゃったか……あなた案外鋭い?」
♀アサシンは暢気にそんな事を言う。
そして対する♀ローグは、バドスケを横にどけながら、前に出る。
「あんただったのかい。こいつは……いいね、早速再戦といこうかい!」
一足飛びに♀アサシンの眼前に飛び込み、いつのまにか抜いていたダマスカスを振るう♀ローグ。
♀アサシンはそれをTCJで受け止める。
「……死にたいの?」
「やれるもんならやってみな!」
そして、左足で♀アサシンを蹴り上げる♀ローグ。
後ろに飛んで逃げようとする♀アサシンだったが、それをダマスカスでTCJを引っかけるようにしてうまく押さえ込み、ケリを当てる。
右足に蹴りを食らった♀アサシンは、予想以上の打撃の重さによろめく。
その隙を見逃さずに今度は右の拳を♀アサシンの顔面に叩き込む。
直後に踏み込んだ♀ローグの顔の真下からTCJを振り上げる♀アサシンだったが、これは♀ローグが♀アサシンから離れる事であっさりとかわされる。
『……こいつ冷静になってると凄い強い。やっぱさっき殺しとけばよかったかな~』
♀アサシンはカタールを構えたまま動かない。
♀ローグも同じくダマスカスを眼前に構えた姿勢で動きを止める。
『さて、どうやって責めましょうかねぇ……当り一辺倒なやり方じゃ通用しなさそうだし』
二人共完全に動きを止めるが、すぐに同時に動き出す。
同時に右足、同時に左足、三歩目が双方の必殺圏内だ。

しゅっ

三歩目を踏み出すと同時に両者共更に間合いを詰めてからその武器を振るい、そしてその武器はどちらも何にも当りはしなかった。
間合いを詰めた勢いそのままに二人はすれ違い、すぐさま後ろを向く。

何かが落ちた音。
♀ローグはにまーっと笑った。
「これで貸し借り無しだね。まだやるかい?」
♀アサシンは後ろに束ねていた髪を肩口の所からばっさりと切り取られ、一緒に口元を覆っていたマスクも切り落とされていた。
そのまま無言で姿を消す♀アサシン。
♀ローグは油断無く武器を構えたままだったが、♀アサシンが完全にその姿を消すと、高笑いを始めた。
「はーっはっはー! ざまー無いねクソアサシンが! 見たかいバドスケ!? この私の強い所!」
バドスケは呆然としたまま答えた。
「すまねぇ。普通に全然見えなかった」
♀ローグは更に大笑い。
「そうかいそうかい、私が速すぎたかね~。次からはあんたにも見えるようにびしーっと決めてやるから楽しみにしてなよ♪」
上機嫌のままでバドスケの側に行き、近くの腰掛けやすい石の上に座る。
「ん~。なんか酒の一杯でも欲しい気分だよ。あんた持ってないかい?」
「あるわけねーだろ……くそっ、しかしこれじゃ俺も動き取れねぇな~。あんなヤバイ奴居る事だし……」
バドスケの言葉にも♀ローグは機嫌を損ねる事無く、陽気に言った。
「ならいっそ将軍様の鎧でも着て、わしはすけるとんじぇねらるじゃー強いのじゃー、とでも言ってみるかい? どーせ骨の区別なんざ誰もつきゃしないからね~あっはっはっは」
「てめー真面目に考えてねーだろ! 大体そんな将軍の鎧なんてもんGHにでも行かなきゃ手に入らねーだろうし……」
グラストヘイム、バドスケが度々旅の途中で立ち寄った場所である。
ふと懐かしさに立ち寄ってみたい気分にもなったが、このお気楽ローグの言葉を真に受けたと取られるのも癪だ。
「……って待てよ。そうだよ! この世界で行き先なんてあいつにも決められる訳ねーんだよ!」
「ん? どうしたい? 何か思いついたのかい?」
バドスケは♀ローグに向かって嬉々として話す。
「ほら! アラームがこの世界で、行き場所に困ったら何処行くかって考えたら、生まれ故郷の時計塔以外無ぇじゃん! そうだろ!」
バドスケの思いつきに、♀ローグは少し考えた後、大きく頷く。
「うん、そうだね。そういう考え方は良いよ。……いいじゃんいいじゃん、あんたもかなり冷静に物考えられるようになってきたね~」
そうと決まればとばかりに、バドスケは北に向けて歩き出す。
「ありがとなローグ姐さん! 俺行くわ!」
一刻も早くそこに向かいたいらしいバドスケを、♀ローグは手を振って見送ったのだった。

ローグはバドスケを見送った後、バドスケとは逆の方角へ進路を決める。
「……ま、バドスケとやりあうのは最後でもいいさね」
バドスケとのやりとりは、♀ローグにとっても気分転換になったようだ。
♀アサシンにヤられた時は完全に喪失していた戦意も戻ってきた。
「うーっし、またバリバリ殺すとしますか♪」
そう言いながら、パイプタバコを吹かそうと懐に手を入れる♀ローグであった。

♂プリーストは既に戻った♀アサシンと共に北へと向かっていた。
戦闘内容の一部始終は聞いている。
別にフォローのつもりは無いが、マスクと長い後ろ髪の無くなった♀アサシンは以前にくらべてとっつき易く見えた。
そんな事を♂プリーストが考えていると、♀アサシンは懐からパイプタバコと火打ち石を取り出して片手で器用に火を付ける。
「ん? お前そんなもん持ってたのか?」
大きく息を吸い、煙を吸い込む♀アサシン。
「げほっ! ぶへっ! ……何よこれー! 全然おいしくないどころか煙いだけじゃなーい!」
「だったら吸うなよ。んなもん何処で見つけてきたんだ……」
パイプタバコを後ろ手に放り投げると、♀アサシンは言う。
「ローグからスった」
いきなりの言葉に吹き出す♂プリースト。
「良くもまあ戦闘中にそんな余裕あったもんだな……」
「別に、あいつ本気で殺り合う気無かったみたいだし……それにさ」
「ん?」
いたずらっ子のような顔になる♀アサシン。
「いっぱしのローグ様がスリの被害に遭うなんて最低じゃない?」
「お前……頭だけじゃなくて性格まで悪かったんだな」
「どーいう意味よそれっ!」


「あんのクソアサシン! ぜーーーーったいぶっ殺すっ!」

バドスケの事なぞあっという間に忘れ去った♀ローグは、♀アサシンが向かったと思われる北に進路を取り直すのだった。


<バドスケ、♀ローグと別れ時計塔へ>
<♀ローグ、♀アサシンを追って北へ>
<♂プリースト、♀アサシン、時計塔へ>

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