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184

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184.二律背反



♀騎士とドッペルゲンガーの二人は一路プロンテラを目指す。

そこにGMが居るという根拠は何一つ無い。

だが、他に何も手がかりが無い以上、人の集まりやすい目立つ場所を目指す以外のやり方を二人は思いつけなかったのだ。

二人ともそもそもおしゃべりなタチではない。ましてやあのような事があったばかりだ。

砂漠を歩きながら話す話題は、自然と実用一辺倒な内容となる。

「ドッペルゲンガー、今残っている人間の中でこのゲームに乗っている人間はどれほどいると思う?」

「そうだな、あのハンターをしとめた者。これで確実に一人。残りは予想に過ぎないが……」

指折り数えるドッペルゲンガー。

「直前の放送で殺された9人の内、三人はハンターが、そしてハンターを殺した者が一人。

残る五人が前々回の放送からの間で殺害されたという事であるから……」

♀騎士が考え深げに口を開く。

「ハンターともう一人が残り五人を全て殺したと考えるのは不自然か……少なくとももう一人二人ぐらいはいそうだな」

そこまで言って微笑を浮かべる♀騎士。

「もちろんハンターが戦いを挑んで破れた可能性もある。

その者がゲームに乗っているか否かはまだわからない。楽観する気は無いがな」

ドッペルゲンガーは深く肯く。

こんな話をしながらの旅であるが、実は快適とは程遠い旅であった。

容赦なく照りつける日差しに、熱せられた砂を踏みしめながらの移動。

特に砂漠の砂の異常な高温には、二人とも口には出さないが随分と消耗させられていた。

だが、だからといって油断していた訳では決してない。

単に、予想すら出来なかっただけである。

突然砂漠の砂の中から手が伸び、♀騎士の足を掴んだ。

「何っ!?」

その手の主は♀騎士の足を掴んだまま砂中から立ち上がり、逆さ吊りになっている♀騎士を力任せに振り回した。

よもや、熱せられた鉄板もかくやという熱砂の中に人が潜んでいるなぞ想像の外だ。

ドッペルゲンガーが何をする間も無く、♀騎士は砂丘の下へと放り投げられる。

ツヴァイハンターを構えてドッペルゲンガーはそいつを睨む。

「……ブラックスミスか。ハンターを殺したのも貴様か?」

全身に熱傷を負っている♂BSは置いてあったブラッドアックスを拾うと、咆吼を上げてドッペルゲンガーに襲いかかった。

♀騎士は勢いよく砂丘を転がり落ちる。

「くっ! ……おのれっ!」

全身砂まみれになりながらも両手を伸ばして回転を止め、すぐに立ち上がると砂丘を駆け上がる。

砂に触れた素肌が焼けるように熱い。

「あやつ正気か!? あの状態でいつから私達を待ち伏せていたというのか!」

無形剣を抜き、砂丘を登りきるとそこでドッペルゲンガーは♂BSと対峙していた。

既に♂BSの斬撃を受けているドッペルゲンガーは息も荒く、その体から流れる血が足下の砂を黒く染めていた。

♀騎士は♂BSに駆け寄り、背後から無形剣を振るう。

♂BSはまるで背後に目でもあるかのごとく、その攻撃を体捌きだけでかわすと振り向きざまに♀騎士にブラッドアックスを振るう。

それを無形剣で受け止める♀騎士。

『なんだこの力はっ! 本当にこれが人間の力か!?』

体勢を崩されないでいるので精一杯の♀騎士。

そんな♀騎士にドッペルゲンガーが苦痛に耐えながら言う。

「……気を付けろ、そやつに剣は効かぬ」

♀騎士は♂BSと鍔迫り合いをしながら、♂BSを観察する。

『ドッペルゲンガーの剣がきかない? ……ロングコートに何かカードでも?』

しかし考えている余裕は無かった。

かみ合った無形剣とブラッドアックスを♂BSは手首の回転だけで簡単に外し、♀騎士の肩口目がけてブラッドアックスを振り下ろす。

♀騎士はそれを一歩下がってかわそうとするが、かわしきれずにブラッドアックスの先端が♀騎士をかすめる。

しかし、♀騎士もやられっぱなしではない。

振り下ろされたブラッドアックスを上から足で踏みつけてそこに体重をかけて地面に埋め、自身はその状態から♂BSの頭頂目がけて剣を振り下ろす。

♂BSは♀騎士の足の下にあるブラッドアックスを半回転させながら真横に抜き、♀騎士の体勢を崩しながら左によける。

かわしざまに♂BSは♀騎士の足めがけて低くブラッドアックスを斜め上に振り上げる。

剣をかわされた♀騎士は、そのまま流れるようなスムーズさで無形剣を自身の足下に持っていき、ブラッドアックスの斬撃を受け止める。

瞬時にブラッドアックスの持ち方を変える♂BS。

柄の真ん中を持ち、斧ではなく柄の先端の方を♀騎士の胴に叩き込む。

『ぐっ!?』

一瞬息が止まる♀騎士。

♂BSは短くもったおかげで振り上げの速くなったブラッドアックスを肩の高さまで円を描くように振り上げ、♀騎士の肩口に撃ち込む。

今度こそその斬撃は♀騎士を捉え、♀騎士の肩から血が噴き出す。

しかし、♂BSはすぐに♀騎士との距離を取る。

♀騎士も同時に♂BSから距離を取り、両者の間で数メートルの間合いが開く。

♂BSは自分の体を見下ろすと、腹部側面から出血している事に気付いた。

♂BSの斬撃と同時に♀騎士の剣も♂BSの体を捉えていたのだ。

突然、♂BSは喜びの表情を見せる。

「……俺を……殺してくれる……お前なら……」

念属性の無形剣はゴーストリングカードの効果を受ける♂BSにも効果的な攻撃が可能なのだ。

しかし♀騎士は戦慄を禁じ得なかった。

『なんたる膂力、そしてなんという技量とスピードか……まともに打ち合っては勝負にならぬ!』

たったの数合打ち合っただけだが、彼我に工夫のみでは越えられぬ技量差がある事に気付く♀騎士。

♀騎士は戦い方を変える。

無形剣を中段に構え、♂BSの一挙手一投足に全身の神経を集中させる。

そんな♀騎士の様子にも♂BSは構わず、全力の打ち込みを挑む。

上段から振り下ろされるブラッドアックス。

♀騎士はそれをフットワークで横にかわしざまに、上から振り下ろされるブラッドアックスに向かって無形剣を振り下ろす。

驚異のスピードを誇る♂BSの打ち込みではあるが、得物の重量差のせいかその振り下ろしの速度は無形剣の方が速い。

甲高い音を立ててブラッドアックスに当たる無形剣、そのせいで目標を失っているはずのブラッドアックスは♂BSの意志とは裏腹にそのまま振り下ろされてしまう。

そしてその跳ねた反動を利用して♂BSの首を横凪ぎに狙う♀騎士。

首をよじって、かわそうとする♂BSだったが、その切っ先は頬を深く切り裂く。

顔面の右側、そして歯の数本ごとえぐり取られる♂BSだったが、痛みを感じていないのか、そのまま攻撃を続ける。

今度は真横からブラッドアックスを振り抜こうとするが、

♀騎士は無形剣をブラッドアックスの刃にひっかけて、その力の向きを器用に斜め上に向けると自身は軽くしゃがむだけでそれをかわす。

そしてブラッドアックスを跳ね上げたその状態の無形剣を♂BSの首に向かって突き刺す。

攻撃を避けるのと攻撃とがほぼ同時に行われているのだが、♂BSはそれを身体能力の高さを駆使してなんとか急所直撃だけは避ける。

代りに深く肩を突き刺され、流石に怯む♂BS。

オートカウンター。

これは騎士に伝わる技術で、極限まで集中力を高め、訓練に訓練を重ねた型を無意識になぞる事で本来の技量では受け切れぬ攻撃を捌き、同時に攻撃をしかける技だ。

しかしこれには莫大な集中力を要する為に、この状態をいつまでも続ける事は出来ない。

そして♀騎士は既にその限界が近くまで来ている事を自覚していた。

『これ以上は保たぬっ!……ええい、ドッペルゲンガーは何を……』

ちょうど♀騎士の視線の先、♂BSの背後にドッペルゲンガーは居た。

地に倒れ伏し、夥しい出血で意識も失っているように見えた。

♂BSと対峙してるせいで動けない♀騎士は念話にて確認を試みる。

『どうしたドッペルゲンガー! 傷が深いのか!?』

僅かな間の後、ドッペルゲンガーから返答が来る。

『……私は最早これまでだ。逃げろ娘よ……そして同胞を集め、復讐を…………』

そこまででドッペルゲンガーからの念話は途切れた。

♀騎士は考える。この強敵相手では逃げ出す事すら難しい。

そしてすぐに♀騎士の思考はいかにして逃げるかの策を考え、そして結論を出す。

ドッペルゲンガーに最後の力を振り絞らせ、♂BSがそのトドメを刺している間にこの場を去る。

瞬時にそこまで考えて♀騎士は愕然とする。

『ばかなっ!? 何故私がこのような事を……魔の血の影響か!?』

残った人としての感情と魔物としての理性が争う。

その頃、♂BSもまた自らと戦っていたのだ。

『俺は死にたいんだ! なのに何故刃をよける!? 何故有利に戦おうとするんだ!?』

だが、♂BSの心の底からわき上がってくる声。

『コロスコロスコロスコロスシニタクナイコロスコロスコロスシニタクナイシニタクナイ……』

それはいつからか見知らぬ誰かの声ではなくなっていた。

『なんでまだ死にたくないんだ! もう俺は生きていたくないんだ!』

『シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ……』

それは動物としての本能。理性が歪められ、感情はその発露を妨げられ、その下に残ったそれが♂BSの行動を支配する。

♀騎士からの念話が飛ぶ。

『ドッペルゲンガー。それで最後ならば、その場に立ち、私が逃げるまでの時間稼ぎをしろ。出来るか?』

ドッペルゲンガーは即答する。

『了解した。娘よ、幸運を祈るぞ』

ドッペルゲンガーが王の誇りを支えにその場に立ち上がる。

凛とした顔でツヴァイハンターを構え、息を大きく吸い込む。

「下郎! このドッペルゲンガーが貴様の相手だ! 命を賭けて向かって来るが良い!」

王の気概、瀕死の淵にあってなお衰えないその気迫を、♂BSは無視する事が出来なかった。

ドッペルゲンガーの方を振り向く♂BS、それを見た♀騎士は膝が震えるのが自分でもわかった。

そして♀騎士の理性は、最後の最後で感情に負けた。

「嫌ーーーっ!!」

♂BSに後ろから斬りかかる♀騎士。

それは♂BSを斬り捨てる事が目的の斬撃ではなかったので、簡単に避けられる。

そのまま♂BSの横を駆け抜け、ドッペルゲンガーに抱きつく♀騎士。

それを受け止める力はドッペルゲンガーには残っておらず、二人は重なり合ってその場に倒れた。

「何をっ!?」

「もう嫌だっ! 絶対に嫌だっ! あなたが死ぬのなんて私は嫌だっ!」

「馬鹿な! 私はもう死ぬのはお前にもわかろう!」

「私が守る! こうして抱きしめて、もう誰も殺させたり……」

♂BSのブラッドアックスが♀騎士の背中に突き立つ。

「あうっ! ……ほら、死なない……私は案外にタフ……」

二度目の攻撃。

「はあっ! …………やっぱり、死なない……だから、大丈夫。……今度……アイツを連れてくるよ」

三度目。

「っ!! …………馬鹿だし、ロクな事言わないが、根はすごい良い人……」

次の一撃で♀騎士の命は尽きる、そうドッペルゲンガーは判断した。

そしてドッペルゲンガーは最後まで王たらんとする。

王は決して勝利を諦めない。

「……ごめんなさい…………おとうさ」

♂BSの四撃目、それをドッペルゲンガーは覆い被さった♀騎士の体を持ち上げながら受け止める。

ブラッドアックスが♀騎士の肩胛骨を砕き、胸骨で止まるのを確認すると、♀騎士の腕から無形剣を奪い♂BSの腹部に突き立てた。

まともに急所に入った♂BSは、よろめき、後ろに倒れ込む。

「命を賭けろ……そう私は言ったぞ」

『シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ……』

♂BSは懐から最後のイグドラシルの実を取り出し、口にする。

『頼むっ! もう俺を死なせてくれーーーー!!』

♀騎士、そしてドッペルゲンガーが死力を尽くして与えた傷が癒えて行く。

『みんな殺されるような事何もしてないじゃないか!

何よりあの人をこの手で殺した俺が、なんでこうまでして生きていられるんだよ!』

それでも体は起きあがって武器を持つ。

『頼む……もう止めてくれ……頼むよ』

ドッペルゲンガーはそんな♂BSを前にしても怯むそぶりすら見せない。

王の矜持を胸に、剣を手に、♂BSを睨み付ける。

そして異変に気付いた。

「……何故、泣くか人間?」

ブラッドアックスを降ろし、涙を流しながら♂BSはかすれる声で言った。

「俺を、殺して、くれ」

全身を震わせ、何かを堪えるようにそう言う♂BSを見て、ドッペルゲンガーは静かに言う。

「すまんが、ちと遅かったな……」

その言葉を最後に、ゲフェンの魔王は誇り高く剣を構えたその姿勢のまま、長い生涯を終えた。



<DOP 死亡 現在地/砂漠の分岐 ( moc_fild01 )所持品/ツヴァイハンター・小青箱 備考:♀騎士と魔族での血縁関係となる。打倒♀GM秋菜>

<♀騎士 死亡 現在地/砂漠の分岐 ( moc_fild01 ) 所持品/無形剣(念属性、敵の精神を崩壊させると言われている)・コットンシャツ・ブリーフ 備考:DOPと魔族での血縁関係となる。♂騎士の仇、♀GM秋菜を討つ目的を持つ 精神的に♂騎士に依存>

<♂BS 現在地/砂漠の分岐 ( moc_fild01 )所持品:ブラッドアックス、ゴスリン挿しロンコ、♀BSの生首、スマイルマスク→破損>


<残り12名>



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