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187

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187.暗い森の終わり



森の中を進む二つの大きな影。

ペコペコに跨った深淵の騎士子と、漆黒の巨馬に跨る♂アルケミである。

「…お前に乗ってやれ無い事はすまないが、あんまり拗ねるな。

その御者もそう悪い奴ではないぞ?」

先頭を進む深淵の騎士は、おっかなびっくりといった様子で跨る♂ケミを背に乗せた自らの愛馬に、苦笑しつつ、言った。

「深淵さん深淵さん。

そうは言うものの…こいつ、メッチャ目付き怖いんですが。うわっ、また俺のこと睨んだぁっ!!」

「へそを曲げておるのだよ。

…とは言っても、このペコは私しか乗せぬしな。

気位の高い奴だが…まぁ、よろしくやってくれ」

その言葉に答える様に、ぶるる、と人間ならば憤慨に当るだろう嘶きを黒馬が発する。

びくん、と臆病そうに震えた♂ケミに、深淵はさも愉快そうに笑った。

「……」

「不満か?」

ジト目を向ける♂ケミに、深淵は言う。

殊、物騒な表情の馬面を覗けば不満などある筈も無い。

「へっ、ねーですよ。こぉのワタクシ、♂ケミめは、深淵閣下にご自身の馬を下付されましたからね。

ったく…って、っどわぁっ!?」

が、突如、それまでは大人しく背を預けていた黒馬が弾かれたか様に。

「うぎゃーっ!止まれ!!止まれ!!」前に。

「のわーっ!!お願いですから止まってぇぇぇぇっ!!

お馬様、止まって下さいぃぃぃぃっ!!つーか止めてお願いぃぃぃぃぃぃっ!!」

後ろに。暴れ馬そのままの様子で跳ね回る。

彼は馬の背中で翻弄され…しかし、絶妙の調子で馬の背中をシェーカー代わりに激しくシェイクされつつも、一行に振り落とされない。

振り回されてはいるが、むしろ、その体は馬上の一転で安定している様にも見える。

「くくくっ…っ。あはははっ。あはははははっ。

もう、それくらいにしておいてやれ、クロ」

その様子に我慢し切れなくなったのか、笑いながら深淵が言う。

彼女の言葉を聞き取ったかのように、暴れていた馬はぴたりと動きを止める。

そして、細波ほど馬体を揺らしながら、前進を再開した。

「ああ、言い忘れてたが…そ奴は、人の言葉も理解する。

余り、その様な事を言ってやるなよ?」

「そ、そういう事は早くいってほしかったでゲスよ…っ。うげぇ、気持ち悪ぃ…」

 その言葉に、馬の背にぐったりと倒れ込みながら、呻くような調子で♂ケミが言った。

 青い顔には、死人の様に生気が見受けられない。

「……大丈夫か?」

「少し目が回っただけ。大丈夫…と思いたい」

ぶひぃん、と馬が彼の言葉に答えた。何を言いたいのかは判らない。

…さくさくと、木々の下草を蹄とペコの足が踏む音だけが響いている。

「…なぁ」

「何だ?」

声を掛けられて、深淵の騎士が振り向く。

「いや…本当に、♀セージさんと出会えるのかな、とか考えてると不安になってきたというかなんというか」

♂ケミは、何処か複雑な笑みを浮かべながら、言った。

「何を言ってる、馬鹿」

「いや、そりゃ確かなんだけどというか…いや、俺ホム待ちだからintだけは高いんだけどっつーか」

要領を得ない言葉を二言、三言続けると複雑な溜息を付く。

「何か、不安でなぁ。

…正直言うと、人が集まりそうなプロの方行って見ようってだけで、他に何も手掛かり無いし」

確かに、博打の感は否めない。

しかし、その言葉に、振り返っていた深淵は睨み付ける様な目。

♂ケミは、気圧されて思わず上体を逸らした。

一方の深淵の騎士はペコの速度を緩めると、彼女は黒馬の隣に並ぶ。

「…私はお前の選択を信頼しているぞ?」

明瞭な声。じっ、と黒い甲冑の騎士は♂ケミを見つめる。

整った鼻筋。薄い色の小さな唇。紛れも無く可愛らしい要素が揃っている癖に、そこだけはとても気の強そうな瞳。

けれど、僅かばかりの弱さを残している様に、その目じりは赤く今だ腫れぼったい。

「だから、お前もおまえ自身の事を信じろ」

幽かに、表情が緩む。彼女はたおやかに微笑んでいた。

まるでそれは魔法のようだった。

湧き上がっていた不安が、泡の様に溶けては次々消えていく。

もし…一つ不満を上げるとするなら。

…どくん、と何故だか心臓が大きく鼓動するのを彼は聞いた。

「……」

「……どうした。 私の顔に何か汚れでも?」

その言葉にはっと、♂ケミは一気に現世に帰還する。

「あ、いや…うん。ありがとな。迷いなんて吹っ飛んじまったよ。

んー、もうバンジーOK。バンジー牧場って感じだな」

「バンジー牧場とやらが何かは判らないが…ならばいい。これからは気をつけろよ?」

得意そうな表情をすると、彼女は再びペコの速度を引き上げた。

彼がふと、視線をずらすと…馬が。

「いや、そこそこ。今にも俺を食い殺さんとするGDのお馬さんが如き形相は止めて。お願い。すげー怖いから」

ぶひぃん。一際強く、主を守護する従者の表情で黒馬が嘶く。

正確に言うと馬に表情は無いが、オーラを発する背中と、暴れだそうとする両足がそう雄弁に語っている。

「はぁ…」

彼自身の中の悪い空気を皆吐き出すように、大きく、息を一度吐く。

そして、次に吸い込むのは明瞭に頭脳を働かせる為の新鮮な空気だ。

「ま、俺達が出来るのは…今はプロに向う事だけだって。そう、心配するなよ」

馬に呟きながら、彼は視線を前に向けた。

一番出会う確立が高そうだ、という可能性だけで決めた進路だが、案外悪くない選択なのかも知れない。

もし間違っていたら、もし♀セージがマーダーだったりしたら。

…でも、まぁその時はその時だ。俺は、俺に出来る事をやろう。

その事が、あいつの望みにも、深淵さんの誓いにも繋がる。

そんな事を考えている。

ふと、森の木立の終わりが見えた。

その先には大きな砂漠が広がっていた。

プロンテラまでは、まだもう少し掛かりそうだった。



<深淵&♂ケミ 現在位置 モロクフィールド13 装備 深淵の愛馬と再会 他は変わらず プロ方面に向けて移動中>


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