バトルROワイアル@Wiki 2-011


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011.森中模索



 さて。困ったものであるなぁ。
 森の中で一人で座り込み、暗殺者と見間違うほどぼさぼさの長い髪を掻きながら♂モンクはぼけ、っと考えていた。
 前々から、この狂気の沙汰の噂程度は聞いていたけれど、実際に巻き込まれれば案外落ち着いたものである。
 何故なら彼は、世間の状況から取り残された様に、タートルアイランドで半分野生化しかけていたから。
 …いや、訂正しよう。そんな事しか思い浮かばないのだ。
 これほど頭の回転が鈍っているのは、矢張り動揺している証拠だろう。
 この様な事は、例え魔物共の首魁を目の前にしてもそうそうあるまい。

「一体俺はどうやって生き残ろうかしら」
 現状確認に呟いてみて、こういう状況に叩き込まれたのだなぁ、と思う。
 ともあれ、彼は勿論この島の藻屑として消え去る様な意思は無かったし、とりあえずのところは、口にした言葉が事実だった。
 しかし、事実は事実なだけで、他の何が変わる訳でもない。
 事態の進展を図り、肩に掛かっていたバックを地面に置き、ぱかっ、と中身を開いてみる。

 そこに入っていたのは──1冊の黒い本。黙示録、と呼ばれる伝説の武具が一つであった。
 が──残念ながら、伝説、などと大層な題目が付いている割には…だが、ともかく、それはアタリ、と言えるやもしれなかった。

「何せ、厚さが広辞苑程もある」
 …理由は以上である。が、なにせ脳味噌はお世辞にも灰色とは言えないこの♂モンクである。
 セージやウィザードなら兎も角も、彼にそれでは意味が無い。
 例えどれ程、強力な武器であろうと使いこなせなければ、漬物石ほどの価値しかないのだ。
 漬物石にしかならぬ伝説の書に一体何の意味があろうというのか。
 第一、これは教会の信徒たる彼からすれば、これは猥本と同位で、焚書指定である。
 焚き付けにしかなるまい。

「…というか、本当、一体どうしたものだろうなぁ」
 順当にこの幸せゲームが進んだならば、まぁ中々終わりはしないだろうと彼は思う。
 何せ五十人からの人間がこの島の中にいるのだ。
 最も、それは吐き気がする想像だったが。暗闇が自分を手招いているような錯覚を覚えてしまう。

 それで♂モンクは、と言うと未だその場に座り込んだまま、自分の振るべき進路を考えていたのだった。
 とりあえずは、移された場所の出入り口を見て取れ、わりと離れた、比較的安全と思われる藪の中である。
 自分達は、無作為に島のあちこちにある出発地点へ、最初にいたホールから移されていた。
 泣きそうな顔で、自分の前に出ていった♀シーフたんの事が偲ばれる。
 あれは、友人の妹に似ていた気がする。覚えていたのは、そんな偶然からだ。

 さて。しばし、冷静に考えてみての結論は。
 この吐き気のする島を生き残る為には、単独では難しかろう、と思う。
 だが、かといって大人数で行動しても──その中の誰か一人がおかしくなるかもしれない。
 ふとした事で、そうなった末の仲間割れのデメリットが非常に大きい。
 昔、空が青かったからという理由で人を殺した殺人鬼がいたらしいが、ここでは冗談にもならない。

 殺人鬼、と言う言葉を反芻してみて、身震いした。目の前に真っ赤なビジョンが移る。

 ううむ。そうして考えてみると、自分が仲間を作る目的で話しかけたとしても、果たして信用されるのかが疑問に思えてきた。
 何せ、周りにいるのは見知らぬ人間ばかりだ。目の前にして、そいつが持っているのが花束なのか剣なのか見分ける自身なぞ無い。
 考えを変える。さっきのシーフたんを追う事にしよう。
 実際、彼女が足手まといになる可能性は高かったが、こんな状況では、こと戦闘以外では自分も似たようなものである。
 と、言うよりも。幾ら国の体制が変わったからといっても、普通の冒険者は魔物相手の斬った張ったしかしない。

 それに。異常状況下での恋、なんて未来だって無きにしも有らず、だと付け加えて気持ちを高めた。
 最も、本音を言えば、知り合いの妹に良く似たその娘に対する義務感みたいな物もあったのだろうが。
 黙示録と名づけられた書物型鈍器を携えながら、彼は立ち上がった。

 ♂モンクを始めとして、支給された武器が当り、と言える者は多かれ少なかれ、その事に高揚感を覚えていた。
 最も、それで生き残る事が誰かを殺す事だと明確に理解している者は僅かだろうけれど。

 がさがさ、と木立を掻き分けながら進む。
 暫く分け入った所で意外とあっさりと、目的の少女を彼は見つけていた。
 と、言うのも、彼女は呆然とした顔で地面を見下ろしながら、まるで亡霊の様な顔で地面にへたり込んでいたからだ。
 ♂モンクの存在に気づいたらしい、商人みたいに短い髪の♀シーフが、びくんと一度身を震わせてから男の方を向いた。
 彼女が抱き寄せた血塗れの剣に、男は眉を潜める。

 沈黙が、わだかまる。
 着衣の乱れた娘のその手がぶるぶると悪い病気に掛かったみたいに震えている。
 つぅ、と彼のコメカミの辺りに、汗が伝っていた。
 勿論、♂モンクの脳味噌が、勢いを失ったコマみたいだとは言え、目の前の状況は一目で理解する事が出来た。

 要するにこう言う事だ。彼はとんでもなく、馬鹿だった。
 さて、目の前に横たわっているのは♂アーチャーですが、この私はどうすべきでしょうか。
 幾ら友人の妹似とは言え、殺される訳には行きませんよ。と言うか、服がはだけてるじゃないですか。Oh,GOD!!
 とりとめもなく考えたが、♀シーフが手にした剣を震える手で突き出してくるに至って彼は混乱の極みに達していた。


 こわいこわいこわいよぅ。
 どうして、私がこんな目に。ごめんなさい、神様ごめんなさい。いつも悪いことしてばかりだったから。
 ♀シーフは、自分の不信心を謝りながら(きっとここに居るのはそのせいだ)、どうにか剣を握っていた。
 この剣は、さっき自分に圧し掛かってきた男を突き殺したものだった。
 ぬめっ、とした血が。血が。血が。それは彼女から流れたのか。それとも男のか。

 今だって、こうして剣を持って居なければ恐怖でどうにかなってしまいそうな気が、♀シーフはした。
 だって、怖かったから。剣は彼女の身を守ってくれて、敵をやっつける為の道具だ。
 彼女の脳裏には、びっしりと写真みたいに今さっきの男の顔が焼きついていた。
 そう…涎を垂らしながら、犬みたいな息をしているあの顔だ。
 彼女の服に手をやり、はあ、はあ、はあ、はあ、と呼吸する。醜い醜いオークみたいだ。

 こわいこわいこわいこわいこわい…こわい。

 彼女には、具体的にその男が一体何を求めていたのかは判らなかったが、それが自分にとって破滅的である事だけは理解できた。
 目の前に居る男も、信用なんて出来なかった。怖いけど、何もしない方がもっと怖い、と少女は思う。
 かみさま。これはお祈りを忘れた罰ですか?でも、私はそんな事には屈しません。大丈夫。きっときっときっときっと。

 ぶん、ぶん、と矢鱈滅多らに剣を振り回すが、当らない。
 だが、娘にはその事実を客観的に考えられる程の冷静さは残念ながら残っていなかった。
 男が、鬼気迫る表情に気圧されて、背を向けて逃げ出したせいもあるかもしれない。
 血走った目で。しかも時折ぴくっぴくっ、と口の端が動いているシーフの顔さえなければ、ほほえましい追いかけっこが始まっていた。
 狂人以外の何者でもない表情は、歴戦の二次職をして恐怖せしめる程歪んでいたので。
 暫く続いた後でがさ、と音がする。

「誰っ!!」
 足を止め、音がした方向目掛けて、少女は思い切り剣を振り切った。
 ばさ、ばさっと藪を切り払う音が何度もして、それに気づいた♂モンクも足を止めていた。
 恐慌状態で剣を振り回し──、がちん、と硬い何かに刃が食い込んだ所で、漸く安息を得る。

「死んだよねぇ…」
 そろり、と彼女が覗き込むと、意外な事に、頭を抱えて震えているだけの♀ノービスがそこに居た。
 けれども、別に口から血を吹いているのでもなければ、首が落ちているのでもない。彼女が期待した通りには死んでいない。
 たが、彼女は期待が裏切られた事に憤慨しながら、安心を覚えていた。
 目の前にいたのは、さっきの男とは似てもにつかぬ♀ノービスだったからだ。
 彼女にも及ばない可愛い生贄。

 帰るんだ。帰るんだ。こんな怖い場所から。その為には──殺さないと。
 怯える彼の表情に比べれば、彼女の顔はどこぞの画家の書いた、叫びの抽象画みたいだった。

 だから安心して、彼女は両手でメイスをそうするみたいに、剣を振り上げる。

「おいっ、止め…」
 向こうから、♂モンクの叫び声がした。
 そして、彼女は自分の胸に、壮絶な違和感を感じていた。
 熱いような。痛い様な。見れは。だらだらと赤い血が。ダガーが。♀シーフの胸元には刺さっていて。

「うあ…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 絶叫。何度も何度も何度も何度も、胸に鋭い痛みが走る。
 ♂モンクは、泣きながら♀シーフの胸に何度も何度も隠し持っていたダガーを突き立てる♀ノービスの姿を呆然と見ていた。

 痛い。痛い痛い痛い痛い。痛いよぅ。
 そして、剣が痙攣を始めた手から零れて落ちた。
 少女は手を伸ばす。届かない。それが無いと帰れない、とでも言うかの様だった。
 ぱしゃっ、と飛沫を上げた血が、ノービスの顔を斑に染める。
 彼女の瞳孔が細まる。頬を僅かに涙が流れ、彼女は抱きしめる様に♀ノービスに倒れこんだ。
 その娘は刺殺されたろう。実に呆気なかった。

「あ…あ…」
 男は、うわごとの様な声を上げるノービスを遠目に眺めていた。
 目の前の光景。友人の妹に似ていたシーフを刺し殺した、見も知らぬノービスの少女。
 正当防衛には違いなかった。ここで躍り出て、彼の娘を叩き殺す事は容易いだろう。
 けれども、どうしようもなく苦いものが喉の奥から競り上がって来る。
 まるで、目の前の♀ノービスと同じようにノービスにでもなった気分だった。
 懐かしくも糞も無い。只不愉快でしかない。

 ──これが、この幸せゲームの現実か、と思う。

 彼は、♀ノービスに背を向けた。もう行こう。
 何故なら。その少女にかける言葉が見つからなかったし、助ける理由も利益も見当たらなかったので。
 ぺっ、と彼は落ち葉の積もった地面に胃液交じりの唾を吐き出していた。


<♂モンク 髪型:アサデフォ 持ち物:黙示録>
<♀ノービス 髪型ノビデフォ 持ち物:ダガー 恐慌状態>
<♀シーフ 髪型:商人デフォ 持ち物:剣、支給品不明 死亡>
<♂アーチャー 髪型不明 持ち物:不明 死亡>

<残り47名>


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