バトルROワイアル@Wiki

2-185

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185.Rainbow


「忍者の馬鹿馬鹿馬鹿ぁあああっ!!」

 ♂ローグの魔の手から逃れた彼女が最初に叫んだのはそんな言葉だった。命がけで守ってくれた恩人を口汚く罵るというのはどうかと思うのだが、今の彼女には関係ないらしい。

「私のしたぼくならあんな変態の一人や二人けっちょんけちょんにやっつけちゃいなさいよっ!
 私知ってたのよ!忍者、強かったじゃない!いつだか襲われた時だって一発で撃退したじゃない…」

 忍者が強いのは知っていた。何で私のしたぼくになったんだろうって疑問に思ったこともあった。けれど、一人でいるより二人でいた方が安心できた。絶対口には出せないけれど、一人でいるのはさびしかったし、人のぬくもりを感じていたかった。だっていうのに…。

「どうして、どうしてみんないなくなっちゃうのよぅ…」

 糸の切れた人形の様にへたりこんで呟いた。そして、実際呟いてみてその現実と言葉の重さに立ち上がる気力を失ってしまった。虚勢を張る気力ももはやない。
 したぼくのバフォJrも忍者も、いつも彼女に構ってくれた騎士子もみんなみんないなくなってしまった。みんなみんないなくなってしまったのだ。

 雨は降り続く。
 どうやってここまでやってきたのだろうか。無我夢中で忘れてしまった。
 周囲はいつか見た岩と砂ばかりの不毛の大地だ。幸いにして見晴らしは悪いがこのまま日が暮れれば寒さのために体調を崩しかねない。

「それもいいかな…」

 いつも元気溌剌の悪ケミがポツリと呟く。近くにあった岩に背中を預けて黒く曇った空を見上げて呟いた。サングラス越しに見る空を綺麗だと思ったことなんてなかったけれど、この空模様はあまりに酷い。
 ぐったりと両手両足を投げ出してぼんやりと忍者のことを考える。

(そういえばアイツ、何かいってた…。いしづえとかなんとか)

 頭の中で"いしづえ"という言葉を何とはなしに変換していく。いつもしている世界せーふくのための頭脳トレーニングのように次々と変換していく。

 石杖、意思杖、医師杖、遺志杖…

(縁起でもない、あんなことを言っているから本当に遺志になっちゃうのよ)

 縊死杖、遺子杖…

(ダメ、忍者が何を言いたかったのかわからない。
 世界せーふくするための脳みそだっていうのにどうしてしたぼくのいったことすらわからないかな…。
 そういえば、漢字の勉強をしろっていっていたっけ。
 まったくもう、どうしてしたぼくの癖に世話を焼くのよっ)

 まだ、他にある、きっと意味は他にあると、悪ケミはその頭脳をフルに回転させる。
 礎…。

(これなの?)

いしずえ ―ずゑ 【礎】
(1)建物の土台となる石。柱石。土台石。礎石。
(2)(比喩的に)物事の基礎となる大事なもの、あるいは人。

 その意味を噛み締める。
 不意に、忍者の声がよみがえった。

『私はまだ私じゃない。なぜなら託し託され繋げていく者だからね、忍者は。
 そして、私は託して初めて私になる』

 いつかの夜に聞いた遠くを見つめるような声。

『生き延びて、世界せーふくを成すんだろう!!』

 最期の時に聞いた切羽詰った声。

(そーか、私に託したのね)

 これから、これからじゃないの。モンクを見つけて何とか首輪を外す、それでこの悪夢のような島から逃げ延びる。その後、その後…、そう、その後世界をせーふくするんだ。だったら、したぼくを失ったくらいでうじうじしている暇はない。

『行くんだ』

 本当に本当の忍者、最後の言葉。その言葉に背中を押されるように悪ケミは立ち上がる。
 まるで悪ケミを敵視しているかのような岩と砂ばかりの不毛の大地を睨みつけて、そこに亡霊の様に突っ立っている男がいることに気がついた。

「ちょっと!そこのあんた誰よ!」

 声を掛けてからしまったと後悔するのも遅い。腰元にあるグラディウスと忍者に渡された馬牌ををしっかり握り締める。襲われたら逃げる。貰った命をなんとしても守りきる。しかし、悪ケミの予想を裏切ってその男は茫洋とした目で彼女を見つめると、とんでもないことを言い出した。

「…俺を殺してくれ」
「はぁっ!?」

 一足飛びには近づけない距離を保って悪ケミと男は言葉を交わす。

「俺は生きていても仕方がない…。護るつもりが殺してしまった…。
 出来ることなら俺を殺して少年に亡骸を…」
「黙りなさい!」

 それが偽装かもしれないということも考えず悪ケミはキレた。目の前のうじうじと言葉を紡ぐ男に対して、なんだか良くわからない怒りがふつふつとこみ上げる。

「殺してくれってなんなのよ!
 みんな必死で生き残ろうって言うのに一人さっさと死んで楽になろうって言うの!?
 殺してくれ?笑わせないで!
 本当に死にたいなら人の手を借りようなんてせずに海に入っちゃいなさい!」

 端から聞いていればまるで私と戦えと言わんがばかりの剣幕である。

「一回や二回失敗したくらいでへこたれてんじゃないわよ!
 生きたくても死んだ人だっているのに何で死のうなんてするのよ!」

 そのあまりの剣幕に男の目が初めて悪ケミを"見"る。それは紛れもなく彼自身がこの場所で殺そうとしたアルケミストの姿であった。そして、彼女を護っていた凄腕の忍者の姿がないことに気がつく。

「どうせ死ぬなら私の子分になりなさい!そんな命、私が有効に使ってあげるわよっ!」

 神様、これはあんまりだ。俺にこの娘を護れって言うのか。
 男は思う。そして、腰が砕けたようにその場に座り込んだ。
 そんなことはお構い無しに悪ケミはまくし立てる。

「どうなの!?子分になるのならないの!?」

 男が視線を上げると、間近に悪ケミの姿があった。敵か味方かもわからない相手に不用意に近づくその度胸に感心するやらあきれるやらしながらも何とか肯定の言葉を口にする。

「…わかった」
「そう?ならあんたは子分2号よ、したぼくともいうけど」
「1号はどうしたんだ?」

 不用意に聞いてしまったこの問いにも悪ケミは不敵に笑って答える。

「1号は名誉の欠番!だからあんたは2号なの」

 暗に答えられた忍者の不在の理由を承知しながらも、男は喉の奥に引っかかっていたことを口にする。許されるはずはない、殺してもらえるかもしれないと、一抹の暗い希望を抱いて。

「一つだけ、言わせてくれ。俺は、あんたを殺そうとしたことがある」
「そう?だったら特別に許してあげるわ」

 あっさりと許された。

「まてまてまてまて!殺そうとしたんだぞ!また殺そうとするかもしれないんだぞ!」
「へぇ、したぼくの癖にご主人様にはむかうわけ?」
「うっ」

 なんだか、信用されている。
 その事実がかたくなな男の心を打ち砕いた。
 お手上げとも降参とも取れるようなポーズのまま彼は仰向けにひっくり返り声を上げて笑い出した。

「ちょっとあんた、頭打ってない?大丈夫?
 身体の傷は治せるけど脳みそが馬鹿になっちゃったら無理だからね」

 傷だらけの手を振って悪ケミに大丈夫だと伝える。そして、目を開くとサングラス越しに空が見えた。
 黒い雲は去り、穏やかな太陽が顔を覗かせている。サングラス越しに見た空なんて綺麗なはずはないと彼は思っていた。しかし、そんなことはなかった。
 問題は山積み。だというのに晴れ晴れとした彼の心を象徴するに様な空。目を凝らせば虹もかかっているではないか。
 いつまでもひっくり返ったままの男の隣に座って悪ケミは手持ちのポーションを使って傷を手当てしていく。

「したぼくの世話もご主人様の使命だからね。そういえば、あんた何なの?」
「俺か、俺はモンクだよ。グラサンモンクだ」

<悪ケミ>
現在位置:G-7
所持品:グラディウス、バフォ帽、サングラス、黄ハーブティ、支給品一式、馬牌×1
外見特徴:ケミデフォ、目の色は赤
思考:脱出する。
備考:首輪に関する推測によりモンクを探す サバイバル、爆弾に特化した頭脳
したぼく:グラサンモンク
参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目

<グラサンモンク>
現在地:G-7
所持品:緑ポーション5個 インソムニアックサングラス[1] 種別不明鞭
外見的特徴:csm:4r0l6010i2
所持スキル:ヒール 気功 白刃取り 指弾 金剛 阿修羅覇王拳
備考:特別枠 右心臓
状態:負傷は治療、悪ケミを護る
参考スレ:【18歳未満進入禁止】リアル・グRO妄想スレッド【閲覧注意】
作品「雨の日」「青空に響く鎮魂歌」よりモンク(♂モンクと区別するため便宜的にグラサンモンクと表記)

補記。文中の騎士子はこの島にいる♀騎士とは別人であります。悪ケミスレからの出張ご苦労様なのであります。



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