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NG2-32

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NG.口付けの行方


 満面の笑みで肩をバンバン叩く♂プリーストと視線をあわせるにあわせられず♂シーフはぽつりと言う。周囲のみなもきっと安堵の吐息を漏らしていることだろう。だけど、言わないわけにはいかない。

「…………ないんです…」
「なんだって?まさか一つしかないってことはないだろうな!」
「大丈夫ですっ!大丈夫ですっ!だからそんなに肩をゆすぶらないでください!傷が開きます」
「おっと、すまねぇ。だったら何が問題あるッてんだ?」

 ♂シーフは道具袋からイグドラシルの実を二つ取り出すと♂プリの目の前に突きつける。

「この大きさの固形物、意識のない人間にどうやって飲ませるつもりですか?」

 沈黙が周囲を包む。答えはわかっているのだが、男どもはなぜか気後れしてしまって口に出せない。その沈黙の中、♀商人が口を開いた。

「噛んで含んで、口移しじゃない…かな」

 しゃべっている間に妄想が膨らんでしまったのだろう、どんどん声のトーンが落ちて行き最後には蚊の泣くような声になっていた。

「嬢ちゃん、頼むからあんまり恥ずかしがらないでくれないか?こっちまで恥ずかしくなっちまう」

 おそらくこの面子の中で一番恥ずかしい格好をしている男がその強面をわずかに赤らめて言う。あんたに羞恥心なんてものあったのか?という視線を♂アルケミストが投げかけているのは黙殺する。

「兎に角!ことは一刻を争います!誰がこれを噛んで含んで、く、く、く、くく口移しで与えるかです」
「俺は、ダメだぞ!応急手当の方法なんて習っちゃいないからな!
 それに、んなことやっちまったら今後まともに顔を会わせられねぇ!」

 大柄な身体を大いに動揺させて♂プリーストは拒否する。意外に初心なのかもしれない。
 ならばと、♂シーフの視線は♂アルケミストを通り過ぎて♂セージへと向かう。スルーかよ!という抗議はやはり無視される。

「私ですか?問題ありませ…」
「だめーーーーー!!!」

 問題ありませんよ、と言う言葉の途中までを聞いて安堵した一同の耳を高音域の悲鳴が打ちのめした。今回はつくづく言葉の途中でさえぎられる役回りらしい。さえぎった主は言うまでもない♀商人である。

「だめったらだめ!キ、キ、キスなんて絶対だめなんだからっ!」

 小さな肩を怒らせて主張する彼女はいっそ愛らしくもあるのだが、口移しという方法を彼女自身が提案したということは黙っておいたほうがいいだろう。
 この分ではきっと♀商人に振っても拒否されるに違いない。ならばと、♂セージが口を開く。

「わかりました。では♂シーフ君、君がしなさい。
 もともとそれは君の持ち物ですから、それで丸く収まります。」

 一同頷く。しかし、♂シーフだけは首を縦に振らなかった。

「僕、♀ウィザードさんにする分にはいいんですが…♂騎士相手にも冷静に出来る自信ありませんよ」

 ぐっ、と詰まる♂プリーストと♂セージ。美女の♀ウィザードのことばかりに気を取られていたが、野郎の看護となると話は別だ。そう、男は悲しい生き物なのである。
 その一瞬の間隙をついて♂アルケミストは♂シーフの手からイグドラシルの実を奪い取ると高らかに宣言した。

「♂騎士は俺が助ける!」

 手にした黄色い果実を一息に噛み砕くと随分とやつれてしまったの♂騎士の顔に顔を近づけていき…

◇◇◇ じしゅきせい ◇◇◇

 その後、意識を取り戻した♂騎士は四者四様の冷たい視線に晒されることになるが、それはまた別のお話。




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