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194.定時放送③ [2日目夜]


初夏の太陽が人々にひとときの別れを告げ、役目を受け継いだ月と星が、夜の地上をうっすらと照らした。
喧騒も、焦燥も、殺意も、狂気も、すべてを飲み込むように空は青みを帯びて黒い。
殺戮ゲームがはじまって、二度目の夜が来たのであった。

どこからか人の声が聞こえた。
それは否応なく癇にさわる声であり、参加者の全員が聞きたくもない声であった。
男の声は笛の調べのようにきれいで、それでいてどこまでもつめたい。
GMジョーカーの3回目の放送がはじまったのである。

「島での2日目をいかがお過ごしでしょうか。ジョーカーです。
 もし寝ている人がいたら起きてくださいね。これから大事な大事な死亡者の発表と、禁止区域の地図への反映を行いますよ。
 万が一、寝過ごしてしまうと大変です。そこが禁止区域だったら猶予は30分ほどしかありませんからね」

GMジョーカーはいつも通りの口調である。
楽しそうなのに、すこしも楽しそうではない。聞く人によってどちらともとれる、ひどく矛盾した声音であった。

「それにしても前回の放送からの皆様には、いまひとつやる気が感じられませんね。これではいけません。
 この島から無事に帰ることのできる人間は、たったひとりだということをちゃんと理解しておられますでしょうか?
 私の説明が足りなかったのですかね。もしそうだとしたら、私、女王陛下にしかられちゃいます」

こまったこまった、などと言いながらも、GMジョーカーのひとり芝居はつづいた。
参加者は皆、憮然としつつも閉口するしかなかった。
なにを言ったところで聞き入れられるはずもないことが、すでにわかっているからである。

「さて、不満は残りますが、仕事は仕事。死亡者の名前を読み上げるとしましょう。
 まずは───」

そしてGMジョーカーが読み上げた死亡者は、5人であった。
ホルグレン。♀アーチャー。ジルタス。♂アサシン。忍者。
ホルグレンの名前が読み上げられたことに、彼の参加を知らなかったものはずいぶんとおどろいたかもしれなかった。
また、モンスターであるジルタスが参加していたことは、彼らにそれ以上のおどろきを与えたのかもしれない。

ただ忍者という名前にだけは、反応できるものがわずかにしかいなかった。
それもそのはずで、彼の存在を知っているものは、この島において、数人しかいなかったのである。
さらに言えば、本当の意味で彼を知っている人間は、悪ケミひとりだけであった。

GMジョーカーの放送は、さらにつづいていた。

「それでは続きまして禁止区域を地図に反映させます。地図をよくご覧ください。
 ダーツはあいかわらずへたなんですけどね。今回は皆様のためにがんばりましたので。
 なにせ禁止区域が広がらないことには、皆様が積極的に殺し合えませんからね」

地図をにらみつけるように広げているもの。傷ついて見ることができないもの。地図をどこかへなくしてしまったもの。
彼らはそれぞれに禁止区域がどうなるかを待っていた。
もちろんけっして歓迎していたわけではないが、生き抜くためには見逃すことなど許されなかった。

やがて地図は5箇所の禁止区域を、あらたに表示させた。

D-3
D-8
G-8
H-4
J-5

「さてさて、かなり禁止区域も増えたことで、皆様方にもいろいろと思うことが増えたはずです。
 あとおよそ2日で27名、もしくは28名全員が帰らぬ人となるわけですが、そろそろ人を殺す覚悟は定まりましたでしょうか?
 もし、まだ皆が助かる道があるのかもしれない、なんてことを考えている人がいるとしても、
 そんな人も含めて、私はすべてのかたを応援しておりますよ。どうぞがんばって、最後まで生き残ってください」

それでは、と締めの言葉を告げてGMジョーカーの放送は終わった。
島はかりそめの静寂につつまれて、まるで眠っているようであった。
次なる惨劇を予感させる、嵐の前の静けさであった。

こうして2日目の夜がはじまったのである。

<残り28名>



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