196.タイトロープ [定時放送③前後]
「あー、もうっ。ダメっ。ぜんぜんダメっ」
星明りの下で悪ケミとグラサンモンクが、なにやら相談をしていた。
地面にがりがりと文字を彫りつつ、カモフラージュのために会話も同時に行うという、難業だった。
夜のためか、二人ともサングラスを外しており、あらわになった悪ケミの赤い瞳が、苦悩をたたえていた。
地面に書かれた文字を通してグラサンモンクに伝えられた内容は、以下のものだった。
星明りの下で悪ケミとグラサンモンクが、なにやら相談をしていた。
地面にがりがりと文字を彫りつつ、カモフラージュのために会話も同時に行うという、難業だった。
夜のためか、二人ともサングラスを外しており、あらわになった悪ケミの赤い瞳が、苦悩をたたえていた。
地面に書かれた文字を通してグラサンモンクに伝えられた内容は、以下のものだった。
1.振動リンクというシステムを使って首輪に内蔵されたジェムストーンと管理側のジェムストーンが同期していること
2.その同期によって会話内容、首輪の持ち主の生死が管理側に送られていること
3.それぞれのジェムストーンには、わずかの力を与えても砕けてしまうほど、エネルギーが蓄積されていること
4.首輪の持ち主の生死判定は首輪が行っていること
5.首輪が持ち主の死を認識することで、振動リンクの機能が停止すること
6.5以外の条件で首輪を外す、または島の外に出るなどの行為を行えば、振動リンク切れによってジェムストーンが砕けること
7.振動リンクが機能している限りは、首輪側と、管理者側、どちらのジェムストーンが砕けても首輪が爆発すること
8.ジェムストーンに蓄積されたエネルギーは、気奪でなくしてしまえること
2.その同期によって会話内容、首輪の持ち主の生死が管理側に送られていること
3.それぞれのジェムストーンには、わずかの力を与えても砕けてしまうほど、エネルギーが蓄積されていること
4.首輪の持ち主の生死判定は首輪が行っていること
5.首輪が持ち主の死を認識することで、振動リンクの機能が停止すること
6.5以外の条件で首輪を外す、または島の外に出るなどの行為を行えば、振動リンク切れによってジェムストーンが砕けること
7.振動リンクが機能している限りは、首輪側と、管理者側、どちらのジェムストーンが砕けても首輪が爆発すること
8.ジェムストーンに蓄積されたエネルギーは、気奪でなくしてしまえること
そして9番目の内容としてグラサンモンクに知らされたのは、1~8がすべて仮説に過ぎないということだった。
悪ケミの苦悩はそれだけではない。忍者が教えてくれたこの島に複数存在している訓練砦の制御装置、それがいくつあるのか。どこにあるのか。首輪を管理側に気づかれないように無力化するためには、どうすればよいのか。この島からどうやって脱出するのか。脱出したところでそのあとどうやって生きていくのか。
それらすべての問題が、未解決のまま山積みになっていた。
悪ケミの苦悩はそれだけではない。忍者が教えてくれたこの島に複数存在している訓練砦の制御装置、それがいくつあるのか。どこにあるのか。首輪を管理側に気づかれないように無力化するためには、どうすればよいのか。この島からどうやって脱出するのか。脱出したところでそのあとどうやって生きていくのか。
それらすべての問題が、未解決のまま山積みになっていた。
問題に優先順位をつけるとするならば、なにより優先されることは首輪を無力化することだ。しかし単純に首輪のジェムストーンのエネルギーを気奪を使って吸い取っただけでは、管理者側のジェムストーンのエネルギーも同期してしまい、首輪が爆発しないようにしたことが、GMジョーカーにすぐにばれてしまう。
それなら先に首輪を無理矢理に外して振動リンクを切ってから気奪を行えば良いのだが、リンク切れによってジェムストーンが砕ける前にエネルギーを吸い取れるという保障は、どこにもない。
つまり首輪が爆発しないようにすると同時に、異変を知って駆けつけてくるだろうGMと戦って勝てない限りは、どうにもならないということだった。
もちろん制御装置によって力を大幅に抑えこまれている冒険者たちには、GMに対抗する手段などあるはずもない。
ようするに、ここにきて悪ケミの頭脳は、難問にぶち当たっていたのだ。
モンクを見つけさえすれば首輪をどうにかできる。
その考えは、溺れているものがわらにだってしがみついてしまうのと一緒で、見通しの甘いものだったのだ。
それなら先に首輪を無理矢理に外して振動リンクを切ってから気奪を行えば良いのだが、リンク切れによってジェムストーンが砕ける前にエネルギーを吸い取れるという保障は、どこにもない。
つまり首輪が爆発しないようにすると同時に、異変を知って駆けつけてくるだろうGMと戦って勝てない限りは、どうにもならないということだった。
もちろん制御装置によって力を大幅に抑えこまれている冒険者たちには、GMに対抗する手段などあるはずもない。
ようするに、ここにきて悪ケミの頭脳は、難問にぶち当たっていたのだ。
モンクを見つけさえすれば首輪をどうにかできる。
その考えは、溺れているものがわらにだってしがみついてしまうのと一緒で、見通しの甘いものだったのだ。
そんなさなかに聞こえてきたGMジョーカーの定時放送は、苦悶していた悪ケミにとどめを刺すのにじゅうぶんだった。
死亡者の発表で聞かされた忍者の名前に、悪ケミの両目は涙でにじんでいた。
グラサンモンクも忍者とは一度戦っており、うすうすは感じていた子分1号の死に、表情を暗くした。圧倒的な技量でグラサンモンクを一蹴した忍者でさえ、殺されてしまったのだ。
死亡者の発表で聞かされた忍者の名前に、悪ケミの両目は涙でにじんでいた。
グラサンモンクも忍者とは一度戦っており、うすうすは感じていた子分1号の死に、表情を暗くした。圧倒的な技量でグラサンモンクを一蹴した忍者でさえ、殺されてしまったのだ。
自分は子分として、目の前の少女をまもりきれるだろうか。裏の世界の住人でしかない自分に、誰かをたすけるなんてことができるだろうか。あの人とあの子によって生かされた自分は、いったいなにができるというのだろう。
(復讐しか考えていなかったオレに……できることなんてあるんだろうか……)
力ない瞳でグラサンモンクは、同じようにしょぼくれている悪ケミを見た。悪ケミはいまにも泣き出しそうな顔だった。グラサンモンクが声をかけただけで、涙をこぼしてしまいそうな顔だった。
だけど彼女は泣かなかった。きゅっときつく口もとを引き締めて、哀しみをぐっとこらえ続けていた。
力ない瞳でグラサンモンクは、同じようにしょぼくれている悪ケミを見た。悪ケミはいまにも泣き出しそうな顔だった。グラサンモンクが声をかけただけで、涙をこぼしてしまいそうな顔だった。
だけど彼女は泣かなかった。きゅっときつく口もとを引き締めて、哀しみをぐっとこらえ続けていた。
年ごろの少女が見せる表情ではなかった。
例えば戦場で、死を乗り越えてでも民のために勝利を目指そうとする、気高い王のようだった。
そのときグラサンモンクは、少女の中にあの人がいるような、そんな気がした。最期の瞬間まで誰かのために生きて、誰かをまもろうとしたあの人の面影を、少女に見た気がした。
例えば戦場で、死を乗り越えてでも民のために勝利を目指そうとする、気高い王のようだった。
そのときグラサンモンクは、少女の中にあの人がいるような、そんな気がした。最期の瞬間まで誰かのために生きて、誰かをまもろうとしたあの人の面影を、少女に見た気がした。
「オレが絶対にまもってやる。だからあきらめるな。大丈夫。大丈夫だ」
気がつけば、グラサンモンクは悪ケミの小さな体を抱きしめていた。
突然のことでどうすれば良いのかわからず、さらにグラサンモンクのぶあつい胸で呼吸困難におちいった悪ケミが、両手をばたつかせてあばれていた。
あまりにも悪ケミがあばれたことで、ようやく彼女が苦しがっていることを知って、グラサンモンクは彼女を開放した。
気がつけば、グラサンモンクは悪ケミの小さな体を抱きしめていた。
突然のことでどうすれば良いのかわからず、さらにグラサンモンクのぶあつい胸で呼吸困難におちいった悪ケミが、両手をばたつかせてあばれていた。
あまりにも悪ケミがあばれたことで、ようやく彼女が苦しがっていることを知って、グラサンモンクは彼女を開放した。
当然といえば当然だが、グラサンモンクの横っ面に悪ケミの平手がとんだ。人を叩きなれていないのか、ぺちりと弱い音を立てて、悪ケミの右手がグラサンモンクをはたいたのだ。
「な、なんてことするのよ、したぼくのぶんざいで! 酸素が足りなくなったら脳は死んじゃうのよ。わかる!? 世界せーふくのために大事な大事な私の脳がおばかになっちゃったら、どうしてくれるのよっ!!」
怒っているのか、なんなのか、顔どころか耳の先までも赤く染めて、悪ケミがまくし立てた。ものすごい剣幕だった。
怒っているのか、なんなのか、顔どころか耳の先までも赤く染めて、悪ケミがまくし立てた。ものすごい剣幕だった。
「ゴメン。あ、いや……ゴメンなさい。悪かった。なんていうかあまりにも知り合いに似ていたんで、つい」
「そんなことで許されるわけないでしょ。だいたいね、知り合いに似てたなんていう先時代的ないいわけが通用すると思ってるの? いままで出会ってきた脳のゆる~い女の子には通用したかもしれないけど、私は天才なんだから、そんなの通用しないんだからねっ」
「う、嘘ついてるわけじゃなくて、口からでまかせを言ってるわけでもないんだ。本当に似てたんだからしかたがないだろ」
「だったらなんで、そこでどもるのよっ!!」
「そんなことで許されるわけないでしょ。だいたいね、知り合いに似てたなんていう先時代的ないいわけが通用すると思ってるの? いままで出会ってきた脳のゆる~い女の子には通用したかもしれないけど、私は天才なんだから、そんなの通用しないんだからねっ」
「う、嘘ついてるわけじゃなくて、口からでまかせを言ってるわけでもないんだ。本当に似てたんだからしかたがないだろ」
「だったらなんで、そこでどもるのよっ!!」
押し問答は、らちが明かなかった。グラサンモンクは困り果てて、話をもとにもどした。これからどうするのかをあらためて悪ケミに確認することで、事態の収拾をはかったのだ。
とりあえず悪ケミが沈んだ様子から立ち直ってくれたことは、素直にうれしいと思った。
とりあえず悪ケミが沈んだ様子から立ち直ってくれたことは、素直にうれしいと思った。
「ごまかそうとしないでよ。それにこれからどうしたらいいかなんて……言われ……ても……」
思案するような声を出しながら、悪ケミは地面に文字を書きつづった。書かれた文章はこうだった。
思案するような声を出しながら、悪ケミは地面に文字を書きつづった。書かれた文章はこうだった。
『したぼくはGMに勝てる?』
悪ケミからペンを受け取って、固いキャップを外さずに、グラサンモンクが返事を書き込む。
悪ケミからペンを受け取って、固いキャップを外さずに、グラサンモンクが返事を書き込む。
『最初に集められた場所での♀モンクのやられ方を見る限り、無理だ。悪ケミの言うように訓練砦の制御装置が───』
そこまでを書いて、グラサンモンクは合図するように悪ケミを見た。なにか気になることができたらしい。土を耕すようにさっきまで書いていた文字を消して、新たに文字を書きはじめた。
そこまでを書いて、グラサンモンクは合図するように悪ケミを見た。なにか気になることができたらしい。土を耕すようにさっきまで書いていた文字を消して、新たに文字を書きはじめた。
『どうしてGMには制御装置が働いていないんだ?』
読んだ瞬間に悪ケミの目がかっと見開かれた。ひったくるようにグラサンモンクからペンを奪い取った彼女は、しきりにうなずきながら地面に文字を彫った。
読んだ瞬間に悪ケミの目がかっと見開かれた。ひったくるようにグラサンモンクからペンを奪い取った彼女は、しきりにうなずきながら地面に文字を彫った。
「とりあえず夜はあぶないから、動くにしても明日の朝よね。ダンボールハウスの出番だわ」
『自分たちにだけ制御装置を聞かなくさせるなにかがあるのよ! それさえこっちのものにできれば』
『自分たちにだけ制御装置を聞かなくさせるなにかがあるのよ! それさえこっちのものにできれば』
「オレが見張ってる。だからゆっくり休むといい」
『首輪を気奪で無効にして、不審に思って駆けつけてきたGMからそのなにかを奪い取るということか?
そんなことできると思うか?』
『首輪を気奪で無効にして、不審に思って駆けつけてきたGMからそのなにかを奪い取るということか?
そんなことできると思うか?』
「当然でしょ。あなたは私のしたぼくなんだから」
『できる、できないじゃなくて、やるしかないの』
『できる、できないじゃなくて、やるしかないの』
二人は会話で今夜のことを、文字でこれからのことをそれぞれに話し合った。
希望がどれほどわずかにしかないか、二人にはわかっていたが、迷う気持ちはなかった。
希望がどれほどわずかにしかないか、二人にはわかっていたが、迷う気持ちはなかった。
「それじゃ、寝るといい。大丈夫だ。こういうのは慣れてる」
『GMから戦闘中に物を奪おうと思ったら、オレたちじゃ無理だ。シーフのたぐいが仲間になってくれれば良いが』
『GMから戦闘中に物を奪おうと思ったら、オレたちじゃ無理だ。シーフのたぐいが仲間になってくれれば良いが』
「私のために、しっかりと働きなさいよ」
『これまでの放送で、残っているのは♂シーフと♂ローグ。♂ローグに協力は期待できない』
ペンを握る悪ケミの手がふるえた。その様子にグラサンモンクは、あえて何も聞かなかった。忍者を殺した相手は♂ローグなのだろうと、グラサンモンクは察した。
『これまでの放送で、残っているのは♂シーフと♂ローグ。♂ローグに協力は期待できない』
ペンを握る悪ケミの手がふるえた。その様子にグラサンモンクは、あえて何も聞かなかった。忍者を殺した相手は♂ローグなのだろうと、グラサンモンクは察した。
『だから♂シーフを探すわ。これはもう博打だと思うけど、それしかないのよ』
そう書いてから悪ケミは素早くダンボールハウスを組み立て、中にひきこもっていった。
そう書いてから悪ケミは素早くダンボールハウスを組み立て、中にひきこもっていった。
「大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように、グラサンモンクはつぶやいた。悪ケミとなら希望を見失わないですむ。グラサンモンクはなぜだかそう思った。
自分に言い聞かせるように、グラサンモンクはつぶやいた。悪ケミとなら希望を見失わないですむ。グラサンモンクはなぜだかそう思った。
「忍者も同じことを思ったのだろうか……」
顔を伏せ、ささやくように小さな声を出してグラサンモンクは、後ろ髪をかいた。
ダンボールの向こうで悪ケミがあっというまに眠りについたのを感じとって、グラサンモンクは少しだけ口もとをほころばせた。
自分が悪ケミのことを殺そうとした相手であるにもかかわらず、彼女がそんなことを気にも留めず、無償の信頼をよせてくれたことが、グラサンモンクには泣きたいほど嬉しかった。
顔を伏せ、ささやくように小さな声を出してグラサンモンクは、後ろ髪をかいた。
ダンボールの向こうで悪ケミがあっというまに眠りについたのを感じとって、グラサンモンクは少しだけ口もとをほころばせた。
自分が悪ケミのことを殺そうとした相手であるにもかかわらず、彼女がそんなことを気にも留めず、無償の信頼をよせてくれたことが、グラサンモンクには泣きたいほど嬉しかった。
<悪ケミ>
現在位置:G-7
所持品:グラディウス、バフォ帽、サングラス、黄ハーブティ、支給品一式、馬牌×1
外見特徴:ケミデフォ、目の色は赤
思考:脱出する。
備考:サバイバル、爆弾に特化した頭脳、スティールを使えるシーフを探す
したぼく:グラサンモンク
参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目
現在位置:G-7
所持品:グラディウス、バフォ帽、サングラス、黄ハーブティ、支給品一式、馬牌×1
外見特徴:ケミデフォ、目の色は赤
思考:脱出する。
備考:サバイバル、爆弾に特化した頭脳、スティールを使えるシーフを探す
したぼく:グラサンモンク
参考スレッド:悪ケミハウスで4箱目
<グラサンモンク>
現在地:G-7
所持品:緑ポーション5個 インソムニアックサングラス[1] 種別不明鞭
外見的特徴:csm:4r0l6010i2
所持スキル:ヒール 気功 白刃取り 指弾 金剛 阿修羅覇王拳
備考:特別枠 右心臓
状態:負傷は治療、悪ケミを護る
参考スレ:【18歳未満進入禁止】リアル・グRO妄想スレッド【閲覧注意】
作品「雨の日」「青空に響く鎮魂歌」よりモンク(♂モンクと区別するため便宜的にグラサンモンクと表記)
現在地:G-7
所持品:緑ポーション5個 インソムニアックサングラス[1] 種別不明鞭
外見的特徴:csm:4r0l6010i2
所持スキル:ヒール 気功 白刃取り 指弾 金剛 阿修羅覇王拳
備考:特別枠 右心臓
状態:負傷は治療、悪ケミを護る
参考スレ:【18歳未満進入禁止】リアル・グRO妄想スレッド【閲覧注意】
作品「雨の日」「青空に響く鎮魂歌」よりモンク(♂モンクと区別するため便宜的にグラサンモンクと表記)
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