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2-208

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208.重なる友の記憶 [2日目深夜]


急激にその場に満ちる混乱の気配に、眠っていた♀商人も目を覚ます。
視界に♂騎士と、彼の剣に胸を貫かれた♂アルケミストを認めると、彼女はどうして、と喉の奥で声を漏らした。
♂アルケミストと♂騎士の信頼関係からして、一番ありえないことのように思えたからだ。
しかし、異なるGMの異なる思惑が絡み合った罠は、♂騎士がそれまで築いてきたもの全てを打ち砕いてしまった。

(……え?)
ずるり、と胸に刺さったツルギが引き抜かれるまで、♂アルケミストは自分の身に何が起こったのか理解できなかった。
目の前には、今まさに彼の胸を貫いた♂騎士の顔がある。
(ああ、怖いんだな――)
その表情を見て、彼は思う。
♀クルセイダーが死んだときの自分も、このような顔をしていたのだろうと。
(俺があんな演技をしたから、誤解したんだろうか)
それだけではないような気もする。♂アルケミストの知る♂騎士は、そんなに浅慮な人間ではなかったからだ。
しかし現に、♂騎士は♂アルケミストを攻撃した。
何とか誤解を解きたい。♂アルケミストは自分の体の状態に構わず、そのことばかりを考えていた。

♂アルケミストの胸から血が溢れだす。
自分にはもう傷を癒す余力は残っていない。いや、残っていたとしても心臓をまともに貫かれては、手の打ちようがない。
♂プリーストは、♂アルケミストがもう助からないことを悟ってしまった。
「♂騎士! てめえ何を――」
信じられない行動を起こした♂騎士に、♂プリーストは怒鳴りかけ――恐怖に引きつった彼の顔を見て息を飲んだ。
(……まともじゃねえ)
すっかり血の気の引いた顔の中で、彼の赤い瞳だけが鮮やかに光っている。
悪魔を連想させるようなその赤い光の不気味さに、♂プリーストは寒気すら覚えた。

半分身を起こした♂騎士に、覆い被さろうとした体勢のまま、♂アルケミストが寄りかかるように倒れこむ。
♂騎士は思わずその体を支えた。♂アルケミストと名乗る目の前の『人間』が怖くてたまらないはずなのに、何故か手が出ていた。

「あんた……俺が怖いんだろ……?」
(……この、言葉は)
罵倒されることを覚悟していた♂騎士は、その言葉に目を見開いた。
♂アルケミストの言葉。それは、♀クルセイダーの死に衝撃を受け、恐怖に震える彼に♂騎士がかけたのと同じものだった。
♂騎士の瞳に映る、誰かもわからないぼやけた顔が、ピントが合うように少しだけ定まる。
「怖いさ……だってお前は、俺を殺そうと――」
♂騎士の言葉に、♂アルケミストは苦笑いを浮かべた。
「ごめんな……あんなの聞いたら、信じられないかもしれない。でも……あれは」
演技なんだ。♂アルケミストは唇だけを動かしてそう言った。それを見て、♂騎士は顔を強張らせた。

演技、だって?
何のために、そんなバカなことを?
――でも、それが本当だったら? 俺が勝手に誤解して、勝手に混乱していただけだったとしたら?

――違う! こいつは♂ケミなんかじゃない。違うんだ!
だって、そうじゃなかったら。俺の、したことは――

「そんな……そんなことが信じられるかよ! 俺には、わからない……そうだ、わからないんだよっ!
 お前たちが何者なのか、お前たちが本当に味方なのか。――お前が本当に♂ケミなのか!」
「馬鹿だなあ、あんた……。俺だったら、あんたの顔がわからなくなっても、怖がったりしないってのに……」
体が冷たくなっていく感覚を覚えながらも、♂アルケミストは無理に笑顔を作ってみせた。
「信じて……くれないか、俺のこと」
「……」
♂騎士は答えない。彼の瞳はまだ、♂アルケミストを『人間』としか映すことができなかったからだ。
しかし、彼の心臓はバクバクと早鐘を打っていた。

――まさか、こいつは、本当に……
なんとか否定したかった。そうしなければ、自分のしたことに押し潰されて壊れてしまいそうだった。

は、と苦しげに息を吐き、♂アルケミストは♂騎士の顔に手を伸ばした。
「ほんと……なんて、顔してんだよ、あんた……」
「俺の顔……そんなにひどいか?」
声を震えさせながら、それでも♂騎士は答えた。
俺の次に男前だけどな、などと軽口を叩き、♂アルケミストは言葉を続けた。
「♀クルセが死んで、呆けてた俺に……人を信じることを思い出させたのは、あんたじゃないか……
 だからそんな、人が怖くてたまらないなんて顔、やめてくれ。あんたに諭された俺が、馬鹿みたいだろ……」
「あ……」
♂騎士は小さく声を漏らした。血に濡れたツルギを握る手が、ぶるぶると震えだす。

ゆっくりと、そして確実に、♂アルケミストの意識が遠くなっていく。
――もう、喋らせてくれないのか。神様も意地悪なもんだ。
彼は自らの死を悟ったように、もう一度微笑んだ。
「♂騎士……俺、は……」
最期に、♂騎士にだけ聞こえるように何かを囁き、彼の震える手に自分の手を重ね――♂アルケミストは、静かに息絶えた。

今、目の前で天へと旅立った青年の顔が。
♂騎士の記憶の中の♂アルケミストと、重なる。

「あ、ああ……」
♂騎士は識別能力を失っているはずだった。だが、確かに今♂アルケミストを、彼だと認識できる。
(どうして、なんでこんなことになった? 俺は、何を……)
彼の視界に、血に染まったツルギと自分の手が映る。
(真っ赤だ……あのときと同じように、俺の手が、俺の仲間が、大切な人が……赤く、染まって――)
――俺はまた、同じことを。♂騎士の視界が、眩暈でも起こしたかのように揺らぐ。
互いの背中を預け、信頼しあった仲間の命を再び自らの手で奪ったのだ。あんなに後悔していたはずなのに。
(♂ケミ……ごめん……ごめんよ……)
♂騎士の視線が宙を彷徨う。その様子はさながら廃人であった。

しばらくして、♂騎士は♂アルケミストをそっとその場に横たえ、ふらりと立ちあがった。
「おい、どこ行くつもりだよ」
そのままどこかに去ろうとした彼に、♂プリーストが慌てて声をかける。
彼は振り向くと、♂プリーストの顔を見つめた。しかしやはり、『人間』にしか見えなかった。
「お前たちは本当に……俺の知る♂プリーストたち、なのか?」
「だからそう言ってんだろうが。……お前の懺悔を聞いてやった、ありがたい俺様の顔を見忘れたとは言わせねーぞ」
♂騎士の問いに、苛立った口調で♂プリーストが返す。だが♂騎士は苦い顔をして俯いた。
「だめだ……やっぱり、見分けがつかない」
(……見分けがつかない、だって?)
♂騎士の症状を記憶喪失だと思っていた♂プリーストは、今の♂騎士の言葉に違和感を覚えた。
「お前の言ってることが本当なら……頼む、ひとりにさせてくれ。
 また人が怖くなって――おかしくなって、なくすくらいなら……ひとりがいい」
「馬鹿、お前……何言って――」
♂プリーストが♂騎士の肩を掴むと、彼は俯いた顔をあげた。
間近で見た彼の瞳に、♂プリーストは言葉を失った。
「これ以上仲間を殺すのは……いやだ……」
震える声で呟くと、♂騎士は♂プリーストに背を向け、先ほどまで寝込んでいたとは思えない様子で走り去った。
その瞳は、先ほどのような不気味な光こそ消えていたが――ただ、虚ろだった。

+++++


「なんで……こんなことしたんでしょうね、♂騎士さん……」
息絶えた♂アルケミストの傍に座り込み、♂シーフが呟く。
(なんか、気になるな……。見分けがつかないって、どういうことなんだろう)
やりきれない思いに胸を支配されながらも、彼は静かに♂騎士の言葉の意味を思案していた。
♂セージに感化されたのか、などと♂プリーストならば言うかもしれない。
「……怖い目、してたね」
♀商人が、♂シーフに続けて呟く。その声は微かに震えている。
これまで明確な殺意を持つ人間からしか襲われたことのない彼女にとって、味方が味方を殺すという事態は衝撃的だったのだろう。
(……あの人、無事かな。はやく……帰ってきてほしいな)
この場にいない♂セージのことを、♀商人はただ思う。
その胸の中にある、小さな想いに彼女は気づいているのだろうか。

♂プリーストは、それに返すことなく黙っている。
♂アルケミスト亡き今――仲間と呼べる存在の中で、最も♂騎士との繋がりが深い人間は彼だ。
かつて恐怖に負けて♀プリーストを殺したことを、♂騎士が深く後悔していたことを彼は知っている。
だからこそ同じことを繰り返して、壊れていく♂騎士のことが気になっていた。

――く、来るな! 俺の傍に寄るなぁ!
――これ以上仲間を殺すのは……いやだ……

かつて♀プリーストを自らの手で殺し、錯乱していた♂騎士。
そして今、♂アルケミストまでも殺し、去っていった♂騎士。
二つの♂騎士の姿が、♂プリーストの頭の中で重なる。

(お前は……俺に懺悔して、お前なりに答えを見つけたんじゃなかったのか。
 守りたい奴――♂ケミのために、命まで懸けて戦ったんじゃなかったのかよ!)
俺があいつにできることは何だ。♂プリーストは考える。
できるなら♂騎士を追って、一発思いきり殴るでもして目を覚まさせてやりたい。
♂アルケミストを殺したことを責めるわけではない。生きる気力を失ったように見える♂騎士がただ苛つくからだ。
一人でいたいという♂騎士の言葉は、♂プリーストからしてみたら馬鹿なことだとしか思えなかった。
(人は元々、一人じゃ生きていけない。しかも人が殺しあう状況で、あんな不安定な精神状態じゃぶっ壊れちまうっての)
しかしここには、意識を失ったままの♀Wizがいる。容態は安定しているとはいえ、心配であることには変わりなかった。
(置いてくわけには……なあ)
♀Wizのほうへと視線を向ける。その時♂プリーストは、彼女の声を聞いた気がした。

――私は大丈夫。だからあなたは、自分のやるべきことをしてください。

自分の都合のいい幻聴かもしれない。しかし♂プリーストはそれを彼女の意思だと信じたかった。
♀Wizが意思を伝えることができたなら――彼女のことだ、そう言うに違いなかったからだ。
(すまねえ……すぐ戻るから)
心の中で♀Wizに詫びると、彼はその場から立ちあがった。

♂プリーストは、♂アルケミストが所持していたマイトスタッフを拾いあげ、静かに歩き出した。
それを見て、慌てて♂シーフが声をかける。
「ちょっと、♂プリーストさん! どこへ行くんですか!」
「あのバカを追いかける」
「な、なに馬鹿なこと言ってるんですかっ!?」
「♀Wizさんなら心配ない。容態は安定してきてるから、このまま安静にして、体さえ冷やさないようにしておけば大丈夫だ」
「そうじゃなくて! 一人で行くってのが馬鹿だって言ってるんです! 行くんなら僕も行きますよ!」
♂シーフの言葉に、馬鹿はお前だとばかりに♂プリーストは彼の頭を小突いた。
「お前がついてきたら、♀Wizさんを守れるのがあの嬢ちゃんだけになっちまうだろうが」
あ、と♂シーフが声をあげる。♂プリーストは呆れたようにため息をついた。
「♂セージと俺が戻ってくるまで、二人を守ってやれ。女を守るのが男の仕事だ」
「……考え方が古いですよ」
「うるせ、生意気なこと言ってんな。……いいから返事は?」
「……はい」
その返事に満足そうに頷き、♂プリーストは再び歩き出した。
「絶対戻ってきてくださいよ! いいですねっ!」
♂シーフが、遠ざかっていく背中に叫ぶ。♂プリーストはその言葉に返すように、背を向けたまま手をあげた。



<♂騎士>
現在地:D-6(丘の木立)から移動
所持品:ツルギ、S1少女の日記、青箱1個
外 見:虚ろな赤い瞳
状 態:痛覚を完全に失う、体力は赤ゲージ、個体認識異常(♂ケミ以外)、精神不安定
備 考:GMの暗示に抵抗しようとするも影響中、混乱して♂ケミを殺害

<♂アルケミスト>
現在地:D-6(丘の木立)
所持品:割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10本
状 態:死亡
備 考:BRに反抗するためゲームからの脱出を図る ファザコン気味? 半製造型 メマーナイトなし?

<♂プリースト>
現在地:D-6(丘の木立)→♂騎士を追う
所持品:修道女のヴェール(マヤパープルc挿し) でっかいゼロピ 多めの食料 マイトスタッフ
外 見:逆毛(修道女のヴェール装備のため見えない) 怖い顔
備 考:殴りプリ ♂騎士を追いかけ単独行動
状 態:心身ともに極度の疲労。根性で体を動かしている

<♀WIZ>
現在地:D-6(丘の木立)
所持品:ロザリオ(カードは刺さっていない)  案内要員の鞄(DCカタール入) 島の秘密を書いた聖書 口紅
外 見:WIZデフォの銀色
備 考:LV99のAGIWIZ GMに復讐 ♂シーフ・♀商人と同行
状 態:瀕死から脱しやや容態安定、意識不明、個体認識異常?

<♂シーフ>
現在地:D-6(丘の木立)
所持品:多めの食料
外 見:栗毛
備 考:ハイディング所持 ♀WIZ・♀商人と同行 盗作ローグ志望でちょっと頭が良い

<♀商人>
現在地:D-6(丘の木立)
所 持:乳鉢いっぱい、店売りサーベル、カート、100万はくだらないゼニー
容 姿:金髪ツインテール(カプラWと同じ)
備 考:割と戦闘型 メマーナイトあり? ♀WIZ・♂シーフと同行
    ♂セージに少し特別な感情が……? 少し不安に苛まれている


<残り24名>



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