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224

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224.旅の果て


秋菜が余裕をかなぐり捨てた雄叫びを上げる。
「ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! …………」
口が動く間に、まだ術を唱えられる間に、彼女はこの世界に来て、初めて必死になった。
そのすぐ下では息絶えた♂ローグが倒れ、その後ろに居る♀クルセは、這いずって♂ローグの元に向かう。
無駄に鍛えなければ良かった。そうすれば、♂ローグと一緒に死ねたのに。
でも、ほんの少しだけ良かったと思う事もある。
見事成功した二人の企みを、見届ける事が出来そうだから。

♂アーチャーは遂に、その時を得た。
秋菜が動きを止めるその時を、息を殺し、仲間が傷ついていくのに耐えながらじっと待っていたのだ。
「秋菜ーーーーーーーーー!!」
必殺の意志を込め、♂アーチャーはバリスタの矢を放った。

ヒールは効果を発揮し、徐々に焼けただれた皮膚を癒していく。
それと共に余裕も戻ってきた。眼前に倒れるにっくき男と、その男に這い寄る薄汚い女。
癇に障ってしかたがなかった。
「消えちゃいなさい。この世か……」
秋菜の人並み外れた反射神経をもってしてもこれをかわす事は出来なかった。
長大な矢が秋菜の胴体に突き刺さる。
そしてその勢いは衰える事を知らず、その先にあった砦の壁に秋菜ごと深々と突き刺さった。
「……え?」
信じられない物でも見るように、自らを貫いた矢を見下ろす秋菜。
そんな秋菜に、深淵の騎士子が飛びかかる。
「今こそ皆の仇を!」
ツヴァイハンターを両手に持ち、腰の真横までそれを引きながら駆け寄る。
「この程度で勝ち誇るんじゃないわよっ!」
秋菜は矢に貫かれた状態のまま、両足を大地につけ、バルムンを大きく引く。
「ブランディッシュ……」
深淵の騎士子の両腕に筋肉が漲る。
「ブランディッシュ……」
秋菜の二の腕が、隆起する。
『スピアッ!!』

激突した二本の剣。
地力は上だが体勢の悪い秋菜と、駆け寄り、勢いを付けた万全の体勢で望む深淵の騎士子。
二人の力は僅かの間拮抗していたが、この二人の全力を受け止めきれない物が一つだけあった。
亀裂音が剣を走る。深淵のツヴァイハンターは、わずかに神の剣の硬度に届いて無かったのだ。
秋菜はそれを見て勝利を確信したが、深淵はまだ諦めてはいなかった。
即座に片手を離し、懐から小さい柄を取り出す。
♀騎士の、そして♂ケミの形見となっていた無形剣であった。
『私は絶対に負けぬっ!』
BDSの威力は相殺されたが、既に秋菜の間合いに入っている深淵は突き出されたバルムンを受け止めなければならなかったのだ。
騎士の名に恥じぬ剣捌きで、バルムンを上にはじき飛ばす深淵。
だが、秋菜も超が付く一流の剣士であった。
跳ね上げられた剣が、その絶妙な力加減により、深淵が想像していたよりも遙かに早く振り下ろされてきたのだ。
その剣を真正面から受け止める深淵の騎士子。
「くっ!」
重い、とてもその身を巨大な矢に貫かれているとは思えない動きと力であった。
そのまま鍔迫り合いになるが、その圧倒的な力は深淵を凌駕していた。
「ハンデとしちゃ充分よね……死になさいっ!」
徐々にバルムンを押しつけられる深淵。それは最後のチャンスであった。
『皆……私に勇気をっ!』
突如バルムンを支えていた力が失われる。
秋菜にも何が起こったのか理解出来なかったが、バルムンはあっさりと深淵の左肩口に叩きつけられたのだ。
「私は負けぬと言った!!」
深淵が霊力を送り込むのを止めた為、一度完全に失われた念の刃が深淵の気合いの声と共に蘇る。
そしてその剣と秋菜の間に、最早防ぐ物も、距離も、時間も残ってはいなかった。
『狂ったのこいつ!?』
頭頂目がけて振り下ろされるであろう剣を、秋菜は全力で左に頭をかたむけてかわす。
しかし、深淵が狙うはただ一点。
それは想像以上に手強い手応えであったが、それでも深淵は最後まで剣を振り抜くことが出来た。
多分、みんなが支えてくれたのだろう。そう、深淵は思い、それを最後にその意識は途絶えた。
バルムンを握っていた秋菜の右腕が、剣ごと大地に墜ちる。
秋菜は墜ちた自らの右腕を見ると、絶叫を上げる。
久しく忘れていた感覚、恐怖は今の怠惰であった秋菜にとって、とてもではないが抗し得ない感情となっていた。
必死に残った左腕で、腹を貫く矢を抜こうと試みる。
秋菜の力を持ってすれば、壁を貫く程に深く突き刺さった矢すらも抜き去る事は出来るだろう。
現に秋菜が矢を手に持った時、それは、秋菜にとって不可能な重さではないと感覚的に知ったのだ。
安堵感と、焦燥感がない交ぜになりながらも、矢を引き抜こうと力を込める秋菜。
その腕を上から押さえる人物が居た。
「フロストダイバー!」
手を当てたままフロストダイバーを唱える♀セージ。
彼女は待っていたのだ。
深淵が秋菜からバルムンを奪う瞬間を。
それが為らなければ、♀セージは秋菜の剣技の前に立つ事が出来ないのだから。
♀クルセ、♂ローグ、そして深淵は命を賭して使命を果たしてくれた。
そうやって仲間が戦い倒れる様を、ただひたすらに我慢し、仲間の勝利を信じて待ち続けるのは、♀セージにとって恐ろしいまでの苦痛を伴う行為であった。
だが、最早耐える必要も無い。
己が使命を果たし、次に繋ぐ。必要なのはそれだけだ。
途切れる事なく続く詠唱、必死に振りほどこうとする秋菜であったが、既に♀セージの腕と秋菜の腕は氷を介して繋がり、それは二人の二の腕を登り、肩口まで辿り着く。
秋菜は両腕を奪われたのだった。

恐怖が秋菜を震わせる。絶対の力、無二の力。それが未完成で不完全な者達によって蹂躙されていく。
以前、秋菜が戦った時は、逃げ道などない。自分は最後の最後まで前に走り続けるしか出来る事は無かった。
どんな恐怖に襲われても、どんな力が立ち塞がっていようともだ。
しかし、今の秋菜には、まだ最後の手段が残されていた。
それが秋菜を更に弱くした。
恐怖に抗しよういう意志を奪い去った。
「テ、テレポー……」
信じられない物が見えた。
両腕を失い、全身に大やけどを負い、最早戦力として考えられないであろう♀クルセ。
彼女が、♂ローグのスチレの柄を口にくわえて秋菜の眼前に迫っていたのだ。
『なんでそこまでするのよ! なんなのよあなた達は!?』
スチレは秋菜の口に突き刺さり、♀クルセは駆け寄った勢いそのままに秋菜にぶつかってその場に倒れた。
♀セージは体勢を低くして言った。
「チェックメイトだ秋菜……遺言を聞いてやれないのが残念だが、これも運命だ。受け入れろ」

♂アーチャーが放った第二矢。
これは正確に秋菜の首を捉え、秋菜の頭部が宙に舞う。
すぐさま矢が壁に突き刺さり、その轟音で、首が大地に落ちる音は良く聞こえなかった。


♀GMが装置を叩く。
「なんで崩壊が止まらないんですか!?」
ヒャックは眉間にしわを寄せる。
「内部で崩壊の手助けをしている者が居る……そして、それを止める力を持った者がその力を行使しようとしていない」
「そんな!? 秋菜は何故そのままにしているのですか! このままじゃ自分まで巻き沿いで消え去ってしまいますよ!」
「彼女の考えは私にもわからない。他のGMが早く気付いてくれればいいのだが……」
「そんなの悠長に待ってる時間無いじゃないですか! 私は捕らえられた方々の所在を探します!」
また装置に向かって忙しく動き始めた♀GM。
ヒャックも同じ操作を始めるが、僅かに位置特定の可能性があった時計塔が消えた今、彼らの所在を知らせるべき何者もあの世界には残って居ない事も知っていたのだ。

矢の衝撃は凄まじく、至近距離で喰らった♀セージはフロストダイバーで氷らせていた右腕を完全に砕かれた。
おかげですぐに動けるようになったのだが。
「♀クルセ……終わったぞ」
そう声をかけて、しゃがみ込む♀セージ。
しかし、♀クルセは譫言のように♂ローグの名を呼ぶだけであった。
残った左腕で♀クルセを抱えて、なんとか♂ローグの元へと引きずっていく♀セージ。
出来るだけ近くに二人を並べると、♀クルセは♂ローグにその腕を伸ばす。
既に息のない♂ローグを、♀クルセは横になったまま抱きしめ、また譫言のように呟いた。
「ああ……聞こえているぞ♂ローグ……お前は勇敢だった……でも……私も捨てたものではなかっただろう?」
何やら肯く♀クルセ。
「ははっ……悪いがもう無理だ。お前が……嫌だと言っても私もそちらに行くぞ……私達は、いつだっていっしょ……だ」
物言わぬ♂ローグと会話していた♀クルセの腕が落ちた。
♀セージは、最早涙も出なかった。
静かに♀クルセの最後を看取ると♂ローグに語りかける。
「男冥利に尽きるな♂ローグ。向こうで幸せにしてやれ」
そう言って♂ローグの肩を叩く♀セージ。

「頑張ってくださいっ! 諦めちゃ……」

不意にそんな声が聞こえた。
聞いたことの無い女の声に、♀セージは周囲を見渡す。
麻痺していた♀セージの脳が突然動き出す。
周囲に違和感を感じる物は無い。
『今のは聞き違いではない。確かに聞いた……何処だ?』
♀セージの脳細胞が再び活性化する。
『会話をしていた? そうだ……♀クルセは新たに♂ローグの思考を紡ぎ出す余裕は無かったはずだ。ならば♀クルセが考えるあの時の♂ローグの返事は肯定か否定かだ。にもかかわらず、会話は別の話題へと移っている』
少しづつ仮定が繋がる。
『私が声を聞いたのは……♂ローグに触れた時!』
♂ローグを凝視する♀セージ。
その懐から微かに漏れる輝きに気づけたのは、この推理あればこそであったろう。
♂ローグに心の中で詫びながら懐の中に手を入れると、脳内に声が響き渡る。
「お願いしますっ……返事を……返事をしてください……」
その輝きの元を抜き取る。
それはアラームの絵が描かれた一枚のカードであった。
「こんなのって無いですよ。やっと救えると思ったのに……二人目だったのに……」
カードを握りしめて♀セージは言う。
「おい、お前は誰だ? 一体どういう事だ?」
「生存者!? 他にもいらっしゃるのですか!」
「ああ、私は生きている。お前は誰だ?」
声の主は嬉々として大声を張り上げる。
「良かった! まだ間に合います! 良く聞いてください!」
「だから私の話を聞け。お前は誰だと……」
「後十数秒でその世界は消え去ります! その前にあなたをこちらの世界に呼び戻しますのでそのカードをしっかり握っていてください!」
「何っ!?」
「絶対に離してはダメですよ! 十秒後に転送します!」
言葉の真偽を確認している暇は無い。♀セージはカードを持って駆けだした。
「10!」
砦の庭を駆ける♀セージは、そこで初めて砦の外が全て光に包まれている事に気付いた。
「9!」
それは少しづつこちらに近づいており、その光の先がどうなっているのか、こちらから窺い知る事は出来なかった。
「8!」
♀セージは声を限りに叫んだ。
「何処だ♂アーチャー!」
「7!」
見つからない。決着が着いたのは知っているだろうが、もしかしたらその場で座り込んでいるのかもしれない。
「6!」
だとしたらもう間に合わない。城壁の上に登るだけで20秒はかかる。
「5!」
「♀セージ! 他のみんなは大丈夫か!」
「4!」
そう叫びながら♂アーチャーが城壁下端の扉から出てきた。
「3!」
左利きでは無いが、魔法を嗜む者の常として、両手を扱う訓練もしてきたつもりだ。
「2!」
「受け取れ♂アーチャー!」
「1!」
♀セージが放り投げたアラームカード。それは♂アーチャーの右側数十センチの所にそれていったが、
「転送!」
うまく手を伸ばして器用にそれを受け取った♂アーチャーは、女の声と共にこの世界から消えて行った。


それを確認した♀セージは一息つく。
光は砦全体を包んでいるらしく、どうやら逃げ場は無いようだ。
失われた右腕の切断部分は、氷漬けであった事もあってほとんど痛みを感じない。
何故か恐怖は無い。
「結局、最後まで戦い、勝利しても私には何も残らなかったな」
仲間も未来もそして命さえも、♀セージには残りそうになかった。
「それでも、私は満足している」
光は、城壁を覆い尽くし、♀セージのすぐ側まで辿り着いていた。
「私は、きっといくつかの物を残せたから……」
♀セージを光が包み込み、そして♀セージ達が生きたこの世界は、この世から消滅した。

『こんな私を……褒めてくれるか♀ウィズ?』


<深遠の騎士子 死亡 現在位置/ヴァルキリーレルム 所持品/折れた大剣(大鉈として使用可能)、ツヴァイハンター、遺された最高のペコペコ 備考:首輪無し>
<♀クルセ 死亡 現在位置/プロンテラ 所持品/青ジェム1個、海東剣 備考:首輪無し>
<GM秋菜 死亡 現在位置/ヴァルキリーレルム 所持品/バルムン>
<♀セージ 死亡 現在位置/ヴァルキリーレルム 所持品/垂れ猫 プラントボトル4個、心臓入手(首輪外し率アップアイテム)、筆談用ノート 備考:首輪無し>
<♂アーチャー 現在位置/不明 所持品/アーバレスト、銀の矢47本、白ハーブ1個 備考:首輪無し>
<残り1名>

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