229-B.その詩の名前は
さて、最後に少しだけあの日の続きを語るとしよう。
眩い光に包まれたオレの目に次に飛び込んできたのは全ての元凶であった白い服。
だけど、彼女ではない。
オレを、いや、オレたちを狂気のゲームに巻き込んだ彼女は、あの世界で死んだのだから。
だけど、彼女ではない。
オレを、いや、オレたちを狂気のゲームに巻き込んだ彼女は、あの世界で死んだのだから。
───残忍さを、狂気を
「語り継ぎなさい、か」
思わず零れ出た言葉、けれど言葉は耳を撫でることなく消える。
自分が声を発しているのかどうかすら分からない。
あらためて気付かされた現実にオレは視線を僅かに落とす。
自分が声を発しているのかどうかすら分からない。
あらためて気付かされた現実にオレは視線を僅かに落とす。
「──────」
突如オレを抱きしめる誰か。
目の前に居た白い服の男ではない誰か。
目の前に居た白い服の男ではない誰か。
知らない顔の誰かが泣きながらオレを抱きしめて、何かを伝えようとしている。
けれどオレの世界には音が、無い。
けれどオレの世界には音が、無い。
全くの無音、まるでまだ夢の中にいるような。
それでもアーチャーとしての眼力が口の動きを言葉に変える。
『良かった、本当に良かった』
頬を伝う涙を拭きもせず、彼女はオレを抱きしめながら言った。
『アナタが生を選んでくれて本当に良かった』
そうか、彼女があのときの・・・
そしてオレはもう一人の男を見る。
煌然なる瞳、誠実そうな眉、力強さを湛えた口、
まさに豪胆という言葉をそのまま具現化させたような♂GM。
煌然なる瞳、誠実そうな眉、力強さを湛えた口、
まさに豪胆という言葉をそのまま具現化させたような♂GM。
彼の目が優しく色付く。
『君に伝えたいことが一つあります』
オレは♀GMに抱きしめられたまま♂GMの言葉に静かに頷く。
『あのとき、君を救えたのは、
君の居場所を私たちに伝えたのは───
君の居場所を私たちに伝えたのは───
───秋菜です』
♂GMの口の動きから伝わる事実にオレは思わず目を剥く。
そんなオレの様子に♂GMは少しだけ微笑みを返しながらさらに言葉を続けた。
そんなオレの様子に♂GMは少しだけ微笑みを返しながらさらに言葉を続けた。
『彼女の声が聞こえたのです。
君をあの世界から元に戻してやって欲しいと』
君をあの世界から元に戻してやって欲しいと』
「どう、して」
♂GMはゆっくりと頭を横に振る。
『彼女の真意は私にはわかりません。
ただ、彼女が最期に残した言葉は、ありがとう、でした』
ただ、彼女が最期に残した言葉は、ありがとう、でした』
♂GMの話にオレはただただその場に呆然と立ち尽くす。
『彼女は探していたのかもしれません、自分を止めてくれる誰かを───』
♂GMはそこで話を区切った。
オレを見る彼の瞳はどこまでも優しく、どこまでも哀しげだった。
オレを見る彼の瞳はどこまでも優しく、どこまでも哀しげだった。
「なぁ、GMだったらあの世界で死んだ人間を生き返らせられるんじゃないのか?
秋菜も、秋菜のために散っていった人たちも全て生き返らせるんじゃないのか?」
秋菜も、秋菜のために散っていった人たちも全て生き返らせるんじゃないのか?」
オレはその願いが叶うことはないと知っている。
異なる世界での死は彼らにだってどうにもできない。
それでも聞かずにはいられなかった。
異なる世界での死は彼らにだってどうにもできない。
それでも聞かずにはいられなかった。
『──────』
♂GMは何も答えない、♀GMも何も答えてはくれない。
おそらく沈黙が答えなのだろう。
おそらく沈黙が答えなのだろう。
「それなら、それが無理なら二つだけお願いがあるんだ。
一つは───」
一つは───」
もう二度とこんなゲームが開かれることのないように約束してくれること、
それがオレの一番の願い。
それがオレの一番の願い。
あんな哀しい世界などあってはならない。
あんな苦しい世界などあってはならない。
あんな苦しい世界などあってはならない。
オレの言葉に2人は力強く頷き、そして約束する。
どんなことがあろうとも二度と悲劇は繰り返さない、と。
どんなことがあろうとも二度と悲劇は繰り返さない、と。
そしてオレは二つ目の願いを口にする。
「オレの耳を治らないようにしてくれないか」
オレの発言に手を口にあて、驚く♀GM。
すっと目蓋を閉じ、僅かに俯く♂GM。
すっと目蓋を閉じ、僅かに俯く♂GM。
『どうして、アナタがこれ以上苦しむ必要なんて───』
そこまでで♀GMの言葉は♂GMの右手によって遮られた。
♂GMはオレの真意を分かってくれたらしい。
♂GMはオレの真意を分かってくれたらしい。
そう、オレは───
「忘れたくないんだ、あの狂った世界で共に手を携え励み合った友のことを。
忘れたくないんだ、オレを救うために命を落とした友のことを。
忘れたくないんだ、オレを救うために命を落とした友のことを。
忘れたくないんだ、あの世界で出会った全ての人を、あの世界で起こった全てのコトを」
♀GMは再び大粒の涙を流し、♂GMは優しく微笑む。
♂GMの両手がオレの耳に伸び、何かを呟く。
♂GMの両手がオレの耳に伸び、何かを呟く。
瞬間、オレの耳からは痛みが消えた。
けれど、音は何も聞こえないままだった。
けれど、音は何も聞こえないままだった。
♂GMはオレの願いを叶えてくれたのだ。
『今すぐ君をバードにすることもできるけれど、いや、そんなことは聞く必要は無さそうだね』
オレを真直ぐに見つめながら♂GMがそんなことを口にする。
まったくその通りだ、聞く必要なんて無い。
オレはこの世界に生きて、この世界で詩を詠う、それはもう決めている。
だけどそれを誰かに助けてもらおうなんてつもりは無い。
まったくその通りだ、聞く必要なんて無い。
オレはこの世界に生きて、この世界で詩を詠う、それはもう決めている。
だけどそれを誰かに助けてもらおうなんてつもりは無い。
オレはオレの意思で、オレの力で生きていこうって決めたのだから。
だからオレは生きる。生きて詩を詠い続ける。
もう二度とあんな悲劇が起こらないように。
そして、そんな世界でも最後まで希望を捨てずに立ち向かった人々が居たことを忘れることのないように。
もう二度とあんな悲劇が起こらないように。
そして、そんな世界でも最後まで希望を捨てずに立ち向かった人々が居たことを忘れることのないように。
何百年、何千年の時が流れても詠われ続けるであろう詩、その詩の名前は
───バトルROワイアル───
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