- 1名前:○投稿日:2004/12/07(火)22:51
- 『浦板』
この街で彼らは生まれた。
あふれかえる池沼。
絶え間なく続く派閥争い。
白い雪が降り積もる、この季節に・・・
ふたりは出会った━━━━。
浦板ラブストーリー - 4名前:○投稿日:
2004/12/07(火)23:20
-
浦板の真ん中、最も危険とされるその地に彼は住んでいた。
そこは、東西南北に生息する派閥が戦うのにもってこいの場所であった。
冷たい風に空き缶がカランコロン、と音をたてて流される。
所々抉られているアスファルト。
割られたガラスの窓。
━━まさしく戦場であった。
しかし、今はとてつもなく静かだ。
降り注ぐ雪の中、ザクッザクッと足音をたてながら一人の男が歩いてくる。
浦板がこうなってしまったのは、いつからだろう?
郊外に逃げてゆく住民の中、彼だけは、この地に残っていた。
「寒いぜ...。」
白い息で空に色をつけながら、荒れ果てた街を歩いてゆく。
誰もいなくなった今となってはどこに住もうと彼の勝手だろうが、
彼はいつものように自分の住むおんぼろアパートの扉を潜った。
部屋自体はそれほど狭くないことから、このアパートがボロいのではなく、
戦いによってボロボロにされた事が見受けられる。
男は、部屋の隅にあるストーブに灯油を入れるとスイッチを捻った。
接触が悪いらしく、三度ほど捻ったのち、火が灯る。
手荷物を置くと、少し大きめのシングルソファーに腰を降ろしテレビを付けた。
『え~
本日の午後、浦板北部で抗争が勃発しました。
小規模の物だったので死者はいない模様
続けます、本日の午後・・・・』
「・・・・・・。」
「いつまで続ける気なんだ・・・。」
男は、重い体をソファーに預けると、そのまま眠りにおちた━━。
- 5名前:○投稿日:
2004/12/07(火)23:57
-
窓の隙間から吹き抜ける風に当てられて、男が目を覚ました。
「いつのまに・・眠ってたんだろう・・」
窓を閉めに行くと、外に人影が見える。
「!?」
男は慌てて家を飛び出した。
「油断した!今日は雪が降ってるし戦いは無いと思ってたぜ・・・!!」
「やめろぉッ!!!!」
男の叫び声が街にこだまする。
しかし、そこに人はいなかった。
「・・・・?」
男が不思議そうにあたりを見渡す。
丁度右下辺りに目をやった時に何かが倒れている事に気づいた。
「何だ?こんな所に1人で来たのか?」
近づかないで喋りかけるが返答はない。
「どの派閥のモンだ?」
まったく返答がない、気絶しているようだ。
男は警戒しつつも近づき、体にかかった雪を払う。
女だ。
持ち上げようとすると、その眼をゆっくりと開けた。
紅い瞳。
蒼い髪。
「・・・ここ・・・は?」
小さな唇を寒さに震えながらもあける。
「浦板の中央部だ。
今は、猫さえもいない。
体が冷えているようだ...
話は俺の部屋で聞くぜ?」
男が手を出す。
「やっ!ダメですっ!
私といたら・・・危険なんです・・・!!」
男の差し出した手を払うと、倒れそうになりながら歩きだした。
が、二・三歩もしないうちに膝を落とす。
「いいから来な・・
危険には慣れてるぜ・・・」
男は背中を女の前に向ける。
白い雪がハラハラと舞う。
女は低く泣きながら、男の背中にしがみついた。
初めて知った、人間の暖かみ。
「あの・・・名前・・教えてもらっていいですか・・?」
「・・・・サイコだ。」
この出会いが彼の運命を大きく変えたのだった。 - 8名前:水投稿日:
2004/12/08(水)16:18
- 意外な登場人物ですね
絶対俺か健ちゃんだと思った
- 9名前:○投稿日:
2004/12/08(水)21:57
- 一人では少し大きめのソファーに女が腰をおろす。
「で、こんな所で何をしてたんだ?」
サイコが台所でコーヒーを入れながら言う。
しばらく、ポットからお湯が出る音が部屋中に響く。
「逃げて・・・来たんです・・・」
差し出されたコーヒーに目もやらずに俯いて呟く。
「とりあえず、コーヒーを飲むといいぜ?
体が冷えている・・・。」
女の体が震えてるのは、寒さだけが原因では無いようだ。
サイコがそっと毛布をかけた。
「私は・・・誰も傷つけたくない・・・」
低い声で泣きながら女が小さくこぼす。
この奇怪な尾にも羽にも、この人は何の不思議も持たずに何の恐怖も持たずに、
人と同じように接してくれた・・・・。
「詳しいこと分からねぇが・・・
自分のしたくねぇ事は、しなくていいんだぜ?
お前も同じイキモンなんだ?な?
とりあえずコーヒー、飲みな。」
ストーブーの火の音が静かに流れる。
細い指で掴んだコップを唇に当てる。
熱さに慣れないせいか、ゆっくりと角度をあげていく。
「・・・あったかい・・・。」
女が言う。
「名前、聞いていいか?」
サイコがそう言った瞬間、外から爆音が聞こえてきた。 - 11名前:○投稿日:2004/12/09(木)04:32
- 「いよう。」
扉が勢いよく開く。
サイコは扉に目を向けた。
「てめぇは・・・北のしーど!!??」
浦板の東西南北に分かれる派閥のひとつ、北のしーど。
『しーど』と言う女リーダーが統率する派閥である。
「サイコさん。
何であなたの所にソレがいるか知りませんが・・・
返してくれます?」
部下を連れたしーどが上目遣いで女を見て言う。
女は目をあわせられずに震えている。
「ソレだと・・・?返すだと・・・?
全てはコイツの意志・・・だろッ!!??」
サイコの声を聞き、女の震えが止まる。
「・・・・あっ、おっ、怒らないで!
あなたとやり合うつもりはないわ!」
しーどは慌てた表情でそう言う。
明らかに圧倒的なサイコのオーラに気圧されたようだ。
しーどの部下も冷や汗をかいて動くことさえままならない。
「とりあえず、話を聞いて。
ニュース見た?北で小規模の抗争があったの。
その時にこの子を逃がしてしまったの。
この子は、大切な友達なの!ネ?」
しーどがそう言い相づちをうつと、周りの部下も「そうそう俺たちマブだかんね~」とか言う。
「さぁ、行きましょう?ネ?」
しーどが、女に手を差し出す。
が、女はそれを見てサイコの背中に隠れた。
「話にならねぇな。
帰りな。コイツは、てめぇらといたくねぇんだよ。
それとも、力づくでやるか?」
サイコが鋭い眼光しーどを睨みつけて、そう言う。
しーどは一歩ひきさがってしまう。
「う・・・、わ、わかったわ。
今日は一旦帰ります。」
「行くお。」「はい!しーどたん!」
しーどの声に反応し、部下がしーどをかつぎ上げる。
扉を出たあたりでしーどが振り向いた。
「今日は帰るけど・・・
また、迎えに来るからね?」
意味深な笑みを浮かべてしーどが言う。
「じゃあ、さようならぁ~
サイコさん、ディズィーちゃん♪」
しーどはそう言い残すと部下が歩きだした。
外から爆音が響き、しーどの戦車が走り出す。
それは、そのまま浦板北部へ走り去った・・・・。 - 18名前:○投稿日:2004/12/09(木)23:34
- かつて浦板は平和な国だった。
多少の争いはあったが、夜空の神様と呼ばれていた国王が全てを丸くおさめていた。
夜空の神様は、圧倒的な力を持っていたが、それを乱用する事は無かった。
浦板は平和な国だった。
しかし、国王が急死し状況は一変する。
彼は、親族をひとりも残さずに若くして死を迎えた。
それが問題だった。
跡継ぎとなる者が正式にいなかったのだ。
王座を巡って・・・
この国は内乱をむかえた・・・・。
「ディズィー・・っていうのか。」
サイコが扉を閉めながら言う。
「・・・え?」
「いや、名前。」
「ぁ、・・はい。」
しばらく何とも言えない沈黙が起きる。
切り出すタイミングを伺いながら、サイコが口をあけた。
「何か、喰うか・・?」
ディズィーの方を笑顔で見て言う。
ディズィーは俯き黙り込む。
「ん~、寒いしラーメンでも作るかぁ。
俺のラーメンは特別美味いぜ?」
サイコが冷蔵庫を探りながら言う。
ネギを掴むとそれをまな板の上に置いた。
トンットンッと包丁の音がする。
「・・どうしてですか・・・?」
ディズィーの声に、サイコは包丁を叩く手を止める。
「どうして・・・
どうして、私に優しくしてくれるんですか・・・?」
ディズィーが立ち上がると、大きめのソファーがガタンと音をたてて揺れる。
「私は・・・ッ
こんなにも醜いっ!
羽だって生えてるし、しっぽもある!
今だって私のせいで、戦いになる所だったッ!!」
興奮しているせいか、ディズィーの羽が淡く光ってのびる。
潤んだ紅い目を大きく見開けて、サイコの方を見た。
「いいんだ・・。」
蒼い羽がふわりと舞う。
「何があっても俺だけは・・・
お前といっしょだ・・・」
「だから、・・いいんだぜ・・・」
サイコの優しく放った言葉に、ディズィーは泣き崩れた。
お湯が沸騰する音がする。
ディズィーの肩にサイコが手をおいて言う。
「どっちがいい?」
「ッ・・・ぇ?」
「いや、塩か醤油か。」
「・・・ぁ・・・」
俯いたまま涙をふき、少し赤くなった鼻をサイコのほうに向けてディズィーが笑った。
「・・・・・?」
不思議そうな顔でサイコがそれを見る。
「じゃあ・・・醤油でお願いします。」
ディズィーがそう言った。 - 22名前:○投稿日:2004/12/10(金)01:08
- 夜が明けた。
降り積もった雪に太陽の朝日が反射してあたりを照らす。
「まず、その服だ!
何だソレは、ちょっとエロすぎるぜ?」
サイコの声が部屋から聞こえてくる。
「なっ、エ・・・・えぇ!?」
ディズィーが顔を真っ赤にして俯く。
「いや、あの、これを着ろって・・
言われて・・。」
「あぁ、しーどにか。
あいつはアレだからなぁ。」
サイコがクローゼットを探りながら言う。
「ほらよ
とりあえず着な。」
サイコが、男物のシャツとセーター、ジーパンなどを投げる。
「それ着たら、買いもんに行くぜ。」
「ぇ?あ、はい。」
ディズィーは服を掴むとあたりをキョロキョロと見渡す。
その後に目線をまたサイコに戻す。
「・・・・?
あ、悪ぃわりぃ。」
サイコはそう言うと、ソファーにかけたコートを手に取り、扉の方へ歩く。
「じゃ、10分くらいで戻って来るから着替えときな?」
扉がキイッと音をたてて開く。
そのままサイコが歩き出す。
「あ、あの・・。」
ディズィーが言う。
それに反応しサイコが振り向いた。
「ん?」
「あ、え、っと・・・
いってらっ・・しゃい・・・?」
恥ずかしさを隠すためか少し首をかしげてディズィーが言う。
サイコは、背中を向けるとコートを持ってないほうの手をあげた。
「おう、いってくるぜ。」 - 25名前:○投稿日:2004/12/10(金)01:43
- 「あ~、もぉ!どーしよ~!」
コンクリートの家から叫び声がする。
ここは、裏板北部。
郊外では、そんなに抗争がないので人もそれなりにいる。
今の現状、実質裏板は5つの国に別れていると言っても過言ではない。
荒れ果てた中央部以外は、それなりに街として機能しているのだ。
「ディズィーがあああああああ。」
しーどが、とてつもなく叫んでいる。
「あー、もうっ!だいたい、あの子を使うなんてのが無茶だったんだ!
サイコは戦う気も無いからイイけど、他に渡ったらホントやばい・・・」
苦悩しまくってる様子だ。
「しーどたん!しーどたん!」
部屋の扉がノックされる。
「何?入ってよいぞ」
しーどがそう言うと扉が開き、部下が入ってくる。
「西の情報が少し入ってきました。」
「そうか、で、どう?」
しーどが言う。
「統治してる者や戦力については詳しく分かりませんが、どうやら昔からこの国にいた奴みたいです」
部下がそう言うと、しーどは手を頭にあてて何か考えている。
「昔から・・・か・・・
誰だ?ワカンネ。」
しーどは髪をかきあげると、天井を仰いだ。
「裏板は・・・
絶対に取り返してみせる・・・」 - 27名前:○投稿日:2004/12/10(金)02:13
- 「ちょっと・・大きい・・かな」
ディズィーが手を広げて部屋の鏡をみている。
外からドドドドドッと音がしたのでディズィーは窓に目を向けた。
そこには、サイコがいた。
宙を浮いている。
「・・・・!?」
ディズィーは、目の前の光景に漫画のように口をぽかんと開けてしまう。
「ぉ?やっぱダボダボだな。
さっ、乗りな。」
サイコが言う。
サイコは小型の飛行機に乗っていた。
「わっ!凄いですね。
これ・・・落ちたりしないんですか?」
地面に足がついてないのが不安らしく、ディズィーは落ち着かずに足をぶらぶらさせている。
「ん?大丈夫だぜ?
はい、これつけな。」
サイコが、顔まで覆うタイプの黒いヘルメットを渡す。
ディズィーは、髪の毛を後ろに軽く束ね、ヘルメットに頭を入れた。
「さっ、行くぜ!ちゃんと掴まりな!」
サイコがそう言うと、エンジンが一度吸うような音を鳴らし、いっきに吹き出す。
あまりの速度に、白い雪が地面と水平に吹きつけてくる。
ヘルメットがなかったら無事ではいられないだろう。
「家があんなにちっちゃい・・・。」
ディズィーが下を見て呟く。
「これは俺の秘密の宝物だからな。
上空を飛ばなきゃ見つかっちまうんだ。」
サイコが言う、腰にまわされたディズィーの腕が気になるらしくチラチラと下を見ている。
「ディズィー。・・・・・、、」
「はい?」
「・・・ん~、な~んか呼びにくいな。」
「え?」
「ディー。」
「ぁ、え、えぇ!!??」
「うん。いい感じだ。
さっ、飛ばすぜ!ディー!」
サイコが叫ぶと、再び飛行機のスピードがあがった。 - 30名前:湯田(iNpnVhZQ)投稿日:
2004/12/10(金)02:58
- ひっそり読んでました。
職人さん、頑張って下さい b
つーかサイコさんのキャラをよく書き出せていますね。 - 33名前:○投稿日:2004/12/10(金)03:20
- 大きな森に飛行機が着陸する。
風が周りの草を散らしている。
「ふぅ~、着いたぜ。」
サイコはヘルメットを外し飛行機を降りるとディズィーに手をさしのべた。
「ぁ、ありがとうございます。」
それを掴むとディズィーも飛行機から飛び降りる。
ここは浦板南部。
南の『ルゥ』が統治している派閥がある。
北部より一番離れているのでディズィーの情報もそんなには流れていないだろう。
「飛行機見つかりたくねぇから、ちょっと遠いところに着陸した。
結構歩くぜ?」
サイコが言う。
街に向けてディズィーとサイコが歩きだした。
途中ディズィーが花を見たり鳥を追いかけたりして道草をくい、一時間ほどかかって街が見えてきた。
ちょうど太陽が真上に見える。
浦板南部、
透き通った川や、生い茂る木々
ここは自然が一番豊かな場所である。
その自然を損なわないように、美しい街がそこにはあった。
「わ~、凄い。水が下から吹き出してる!」
ディズィーが噴水を見てはしゃいでいる。
「わっ、何ですかアレは?・・卑猥ですね。」
ディズィーが小便小僧を見てはしゃいでいる。
「あっ、すごい!なんかすごい!」
ディズィーが大きな花時計を見てはしゃいでいる。
「・・・とりあえず服だな。
窮屈だろ?しっぽ。」
サイコが、あからさまに膨らんだジーパンを見て言う。
「試着はさすがに出来ねぇし・・・
しょうがねぇ、俺のフィーリングにまかせるしかねぇな。」
サイコはディズィーがまったく話を聞いてない事に気づきながらも、一人で話を進めていく。
「よしっ!じゃあ、買ってくるからこの辺にいるんだぜ?」
「わ~、すごい!綺麗!」
「・・・・・・・・・・。
ま、大丈夫だろ。
すぐ戻ってくるか・・・。」 - 41名前:○投稿日:2004/12/10(金)22:45
-
「女モンの店に男一人で入るのは何か恥ずかしいな・・・」
サイコは手頃な服屋を見つけたが入りづらいらしく辺りをうろうろしている。
「あれ?サイコ?」
男の声がする。
「・・・・?
おぉ、ルゥか。久しぶりだな」
振り向いた先にいた男に向かってサイコが言った。
「そうだね~、久しぶり。
こんな所で何してんの?」
ルゥは顎を女物の服屋の方にクイッとやり訪ねる。
「いや、相変わらず平和な街だな。
この街だけは今も昔もほとんど変わってない・・・。」
サイコが話をはぐらかすように言う。
「あれ?マジでこの店に来たんだ。
そんな趣味だったっけ?」
「なっ、何言ってんだコイツ。
んなんじゃねぇよ。」
サイコがあわてて弁解する。
「じゃあプレゼント?
へ~、やっとアイツの事は忘れられたんだ?
それともアイツの代わり?」
ルゥが冗談っぽくそう言う。
「アイツの事は忘れねぇ。
けどアイツの代わりなんかじゃないぜ。」
サイコが真剣にそう答えるのを聞いてルゥは驚いた表情を見せる。
「マジで女なんだ!?
ふ~ん、・・じゃあ入る?
いっしょに選んだげるよ。」
「え、ちょっ・・・」
ルゥはサイコの腕をひっぱると堂々と店のドアをくぐった。
男二人で女物の服屋か・・・。
・・さっきより状況が悪化ような気がする。
- 42名前:○投稿日:2004/12/10(金)23:07
-
飛び交う突き刺さるような視線の中、サイコが服を選んでいる。
しっぽを隠すために少しゆたりとしたスカートを手にとる。
あまりまじまじ見るのも恥ずかしい。
カゴに入れると他の服といっしょにレジへ持っていく。
いっしょに選ぶと言っていたルゥは何の目的か分からないが、ひとりで服を探していた。
会計をすますと足早にその場を去った。
「ルゥ、そろそろ俺は行くぜ?」
サイコが買い物袋を肩に担いで言う。
「おぅ、そうか・・。」
ルゥが少し悲しそうに呟く。
「・・・サイコ・・。
僕は守るための戦いしかしない。
今までは、そうだった・・・。
けど・・奴らにだけは浦板を渡したくないんだ・・。」
「・・いつまで言ってる。
お前らが戦いを止めるまで俺は浦板から離れるつもりは無いぜ?」
サイコが深く強く言う。
太陽は少し西に傾いてきている。
「サイコは人を信じすぎだよ。
現実!奴らがこの国をこうした・・ッ!
僕は・・・・」
「俺は信じてるぜ。
この戦いが終わることを・・・」
ルゥの言葉にサイコが割り込む。
そのまま「じゃあな」と言い残して、サイコは歩いていった。
冷たい風がルゥの髪を揺らしていた・・。
- 43名前:○投稿日:2004/12/10(金)23:29
- 広場にディズィーはいた。
始めてみる全ての物は新鮮でディズィーの目には輝いて見えた。
「わ~、こんな綺麗な所に来たのは初めてです!!
ねぇ、サイコさん。
また、来ましょ・・・」
「・・あれ?」
周りを見て、やっとサイコがいない事に気づく。
目をこらして遠くまで見るが、どこにもいそうにない。
「すいません、お嬢さん。」
ディズィーの肩に手を置かれ、振り向こうとした瞬間、
ディズィーの口に布のような物が当てられた。
「・・・ぁ。」
遠のく意識の中、うっすらと揺らぐ景色にディズィーは眠りにおちた。
「任務完了。」
ディズィーに布を当てた男が無線にそう呟くと、入り口に戦車が乗り付ける。
「君いっ、何をして・・・」
ひとりの街人が不信な男に気づき、話しかけようとした。
が、それは銃声によって遮られる。
その恐怖の音に街人は逃げ出した。
「て、敵だあああぁーー!!
ルゥちゃまを呼べっーー!!」
街人が叫んでいる。
「よし、じゃあ作戦通り証拠を残せ。」
完全に眠っているディズィーを戦車に引きずり込みながら男が言う。
街の人は、あからさまに武装された男達に恐怖し近づこうともしない。
爆音を鳴らしてディズィーを乗せた戦車は走り去った。 - 48名前:○投稿日:2004/12/11(土)01:19
- 「じゃあな」
サイコはそう言い残し歩きだした。
広場に向かって足を進める。
ルゥとの会話で久しく昔を思い出す。
「アイツ・・・か・・・」
サイコが白いため息をつく。
バーンッ!!
「!!」
寒空の下、銃声が響いた。
広場の方から騒ぎ声が聞こえてくる。
━━嫌な予感がする。
サイコは息を大きく吸い全速力で走り出した。
「ルゥちゃまあああーー!!」
広場から声がする。
広場の入り口が人混みに遮られ中に入れない。
「どいてくれ!!」
サイコが叫ぶが、街人はそれどころでは無い様子だ。
「皆、道を開けて!!」
後ろから響く声に、街人が反応する。
「ルゥちゃま!」
ルゥが走ってきたようだ。
入り口付近の人が散る。
広場の中には誰もいない。
「ディズィー!!どこだ!?
ディズィー!?」
サイコの呼ぶ声に返答は無かった。
「おい、おまいら。
何があった!?」
ルゥが街人にきく。
「それが・・・、何者かが急に現れて・・
女を連れ去っていきました・・」
「女!?どんな姿だった!?」
サイコが言う。かなり興奮しているようだ。
「あ、蒼くて長い髪で・・細くて綺麗な・・」
そこまで言うと、サイコが街人の肩を強くつかむ。
「どこにいった!?」
「いや、そこまでは・・・分かりません・・」
興奮したサイコの背中をルゥが軽く叩く。
「で、街人は無事なの?」
ルゥが言う。
「それが・・、ひとりだけ撃たれて・・。
ただ太股なので軽い怪我ですむと思います。
今、病院に運ばれていきました。」
街人がそう言うと、ルゥが拳を握りしめた。
「どこのッ・・奴らだ・・ッ?」
心を沈めようとするが、溢れてくる怒りにルゥの声が震えている。
「『東のコイチ』と言ってました・・
奴らの胸に付いていた紋章も、東の物でした・・・。
奴ら・・ついに攻めてくるんですか!?
ルゥちゃま!?」
「安心しろ・・・ッ。
この街は・・僕がッ守るよ・・」
ルゥが、フーフーと息を荒立てながら言う。
「おい、ルゥ!!落ち着けよ!
コイチがそんな事するわけないぜ!
それにわざわざ証拠を残す必要もない!
あからさまにお前らを戦わすタメの罠じゃねぇか!!」
サイコが言う。
「じゃあ、しーどの罠?
どちらにせよ同じだよ。
サイコ、人は変わってしまうんだ。
街人を傷つけられてッ!!
僕が黙っていられるわけがないッ。
それは君だって知ってるだろ?」
サイコは黙り込んでしまう。
「・・・戦争だ・・」 - 53名前:○投稿日:2004/12/11(土)10:52
- 平和な街の空気が変わる。
もうサイコひとりでは止めきれないほどに、ルゥ達は怒っていた。
それに、ディズィーがさらわれた。
たくさんの事が重なってサイコは混乱していた。
「コイチが・・・?
まさか・・。そんなわけないぜ。
ほんとにあいつらは変わっちまったのか?」
飛行機の止めてある森に走りながらサイコが呟く。
「まだ詳しく掴めてねぇ、西のやつら・・?
だが、もし違ったらどうする・・
俺は・・またッ・・好きな女ひとり守れねぇのか・・・ッッ!?
・・・クソォッ!!!」
サイコが、アイツと出会ったのも、白い雪の降る季節だった━━━。
浦板は平和な国だ。
そしてその中央にある浦板の街には、人々が溢れかえっていた。
夜空の神様が統治する浦板城を中心に、城下町が広がる。
そして、東西南北に四つの街があった。
誰かが言っていた「よい国では国王と民がいっしょに笑う」。
ここはまさにその通りの国だ。
浦板城の王座に腰をかけている男、優しそうではあるが威厳があり目に力があるこの男、
彼が国王『夜空の神様』である。
たくさんの兵士が謁見の間に集まる、
その中夜空の神様が口を開けた。
「先の戦いは、皆大変ご苦労だった。
民を守るのが我々の仕事。
傷つけるために戦うのではない!
守るために我々は戦うのだっ!!」
夜空の神様がそう言うと、兵士達が盛大に拍手をする。
「これからも私と共にこの浦板の平和を
この浦板の民を守ってくれ!
いつもながら大変貢献してくれた、我らが4部隊の隊長達をたたえたい!」
「北のしーど」
夜空の神様の声に、しーどが王座の前まで歩き出す。
そして夜空の神様の前に着くと、片膝をついてスッと腰をおろした。
「東のコイチ」
同じくコイチが出てくる。
しーどの横に着くと、同じように腰をおろす。
「南のルゥ」
ルゥも同じように歩いてゆく。
チラリと夜空の神様の方を向くと頭をさげ、腰をおろした。
「西の・・」
「サイコ」 - 55名前:○投稿日:2004/12/11(土)12:07
- 謁見を終え、大食堂で晩餐が開かれていた。
「かんぱーいッ!!」
兵士達の声がする。
「サイコさん!いっき!」
「いっき!いっき!いっき!いっき!」
兵士達に音頭をとられ、サイコが片手に取ったビールをいっきに流し込む。
全てを流し込み喉がゴクリと鳴ると兵士達が拍手した。
サイコは、ジョッキをテーブルに勢いよく置く。
「皆、今日はお疲れ様だ!
俺はこの部隊の隊長になれた事を誇りに思うぜ!!」
サイコが叫ぶ。
「いえ、俺たちもサイコさんがいなきゃ今頃どっかでのたれ死んでました!
一生付いていきますよぉぉぉーー!!」
サイコは、男臭い涙と酒においに包まれる。
「しーどたん!しーどたん!!」
「今日の戦闘服は良かったよしーどたん!」
「テスタメントさいこぉだよ!」
「いつか、しーどたんに絶対バースト使わせてやる!」
こっちもこっちであれだ。
しーどがいっきにビールを流し込む。
くはぁーっと、大きく息を吐きジョッキにまたビールをついでゆく。
「コイチさん。コイチさん。」
「今日もすごいテクニックでしたよ!」
「今日はオナニーざんまいですね!」
コイチに群がる兵士達は、その後もさんざんと下ネタをまき散らしながら酒を飲みまくっている。
「ルゥちゃまぁ~」
「戦闘中に猫を追いかけるのはイクナイよ!ルゥちゃま!」
「飲んで飲んで飲んで・飲んで飲んで飲んで・飲んで飲んで飲んで・飲んでぇ~!」
ルゥもルゥで、ジュースのようにビールを流し込んでいく。
数時間、宴は続いた。
バンッ!!
ビールジョッキがテーブルに叩き付けられる音が、食堂中に響く。
「もう、おしまいか?
生きてるものはいないかーー!」
横でダウンした兵士を見て夜空の神様が、叫ぶ。
「俺はまだいけますぜ・・?」
サイコがふらふらになりながら眠る兵士をかきわけて夜空の神様の横に行く。
「あら、強がって。
私もまだまだいけますよぉ!!」
顔を真っ赤にしたしーどが来る。
「俺、まだ、余裕。」
コイチも立ち上がり王のテーブルにつく。
「僕も大丈夫ですか?」
ルゥがはいずるように近寄る。
「ハハハハハ!
かかってこい!若造!」
夜空の神様の声が開始の合図となり、五人はいっきにビールを流し込んだ。
- 61名前:○投稿日:2004/12/11(土)20:43
- チュンチュン・・・
雀の鳴き声とカーテンの間から抜けてきた光がサイコの目を覚まさす。
「ん~・・・
つッ。
飲み過ぎたぜ・・・・」
サイコが起きあがろうとすると、頭痛が走ったらしく片手で頭を押さえる。
フラフラとキッチンまで歩くと水道の蛇口をひねった。
ジャーッと音がなり、水が勢いよく流れる。
大ざっぱに手に持ったコップに水を注ぐ。
どれくらい入ったか確認もせずに、サイコはそれを流し込んだ。
「ふぅ~・・・
きっついな・・・」
少しはましになったのか真っ直ぐ歩くが、頭の痛みはそんなに引いてないようだ。
一人では大きめのソファーに腰をかける。
しばらく天井を向いて、目を閉じていた。
が、思い出すように目をパッと開け、立ち上がる。
「さっ、行くぜ!
切り替えが大切だぜ!・・・つッ・・」
精神力で頭の痛みをおしきる。
西の紋章が入った上着を手に取ると、バサッと音をたててそれを広げる。
その上着の襟をつかみ、肩にかけた。
まだ低い位置にある太陽を横目にサイコが街を歩いてゆく。
店のシャッターもすべて閉まったままだ。
しばらくすると、浦板城が見えてきた。
門番の兵士がサイコに敬礼する。
「おつかれさん」
とサイコが言い、歩いてゆく。
「あ、サイコさん!
おはようございます!」
通りすがる兵士は誰もがサイコを見て挨拶をかわしている。
サイコが会議室として使われている部屋に着くと、その重そうな扉を叩いた。
「失礼します。」
サイコはそう言うと扉を開ける。
中には、夜空の神様としーど、ルゥ、コイチがいた。
「やっときたか。」
コイチが言う。
「サイコも城に住めばいいのに、いくら近いって言っても毎日くるの大変じゃない?」
ルゥが言う。少し眠たそうだ。
「いや、まあ俺はあそこが気に入ってるしな。」
サイコがルゥの隣、コイチの正面に位置する椅子に座った。
「じゃあ、会議を始めよう。」
夜空の神様がそう言った。
- 62名前:○投稿日:2004/12/11(土)21:47
- 貿易の事や、隣国の状況
各自の街の状態などを話し合っている。
「さて、そろそろ修練の時間だな。
皆、今日もがんばってくれ。」
夜空の神様がそう言うと四人は立ち上がった。
ちょうど朝の7時くらいか、サイコは自分の担当する修練場へ向かう。
そこに着くとすでに兵士達がひたすら修練に励んでいた。
「おはよう」
サイコがそう言うと、兵士達が一斉に入り口の方をみる。
「ちゃーすッ!!」
声をそろえて挨拶をした。
サイコは全ての人に慕われていた。
まず、ずばぬけて強かった。
素手でも剣技でもサイコに並ぶものは、ほとんどいなかった。
4部隊のほかの隊長達でも、かなわないほどに強かった。
そして、その人柄。
誰にでも同じように接し、弱いものを守る姿勢は兵士達の憧れであった。
事実、サイコに救われ兵士になった奴らはたくさんいた。
青い空のしたそびえ建つ浦板城。
永遠に続くであろう平和な時。
この街で彼らは生まれ、育った。
季節は巡り、━━冬。
まれに起こる敵国の侵略戦争を除いて、浦板はいたって平和であった。
白い雪が積もる大地をサイコが歩いている。
その日、サイコは西の街へ来ていた。
街の外れを気の向くままに歩いている。
戦士の休息というやつか。
この付近で死んだ兵士への弔いか。
サイコは複数の足音が聞こえてくる事に気づいた。
森の奥、国境を越えた先から何者かが走ってきた。
「!!!」
サイコがそれを見て身構える。
「貴様!待てえッ!!」
「ちょっ、ヤァッ!!」
後ろから走ってきた男が、前を走っていた女の首を掴み地面に倒した。
「手間ぁとらせやがって!」
男は女の腕をロープで縛ろうとする。
「待ちな。」
サイコが言うと、男達は人がいる事に驚いたのか何かばれてはいけない事があったのか、即座にその場から逃げ出した。
「何なんだ・・・?」
サイコが不思議そうに逃げていく奴らを見ていると、女が声をかけた。
「あの・・・
ありがとう・・・」
黒い髪をした女が頭をさげる。
貧乏くさい格好をしている事から恐らく脱穀者か何かだろう。
隣国ではひどい税金がとられるらしい。
「大丈夫か?ひどい怪我だぜ?」
こかされた時にきれたのか、女の膝からおびただしい血が流れていた。
「ぁ、ありがとう・・
でも・・私はこの国の人間じゃないから・・」
女の言葉を耳にも入れず、サイコは背中に女を背負った。
「いいから来な。
そこはお前のいる場所じゃないぜ。」 - 66名前:○投稿日:2004/12/11(土)23:37
- 白い雪がポツリポツリと赤く色ぬられている。
その先に、サイコと女がいた。
「俺はサイコって名だ。
お前の名も聞いていいか?」
サイコが言う。
「降ろして!
あなたに迷惑がかかってしまう!」
女が後ろで必死にもがくがサイコの力で離れる事は出来ない。
「逃げてきたんだろ?
よほどつらかったんだろ?
安心しな、この国は安全だ・・。」
「でも・・・ッ」
近くにあったサイコの戦車に着くと、女を座席に乗せる。
「・・・女なんだ男に甘えろよ。
強い奴は大好きだ。
けど、お前は恐れてるだけだろ?」
サイコが、そこにあった包帯で簡単に応急処置をする。
「・・・ありがとう・・・」
震える声で涙を流してることは分かったが、何も言わずにサイコは運転席に着いた。
アクセルを踏むと、戦車が揺れるエンジンが暖まるのにしばらく時間がかかるようだ。
「私は・・由利・・」
女がそう言うと、エンジンがかかり、戦車が雪の降る道をゆっくりと走り出した。
「という事で、国籍手続きを」
サイコが言う。
謁見の間に来ていた。
あの服のままだと流石にあれなんで、近くに住む女性に借りた服を由利は着ていた。
「ちょっ、私は反対です!」
しーどの声に反応しサイコが目を向ける。
「他の正式な入国者と違い、隣の国から来た事が真実かも疑わしいッッ!!!
それに、今城内に空き部屋なんで無いわ。
男共と雑魚寝さすわけには、いかないでしょ!?」
いつになく興奮して、しーどが言う。
それを聞き由利が俯く。
「ん?何だ、しーど。
嫉妬してるのか?」
隣からコイチが言うと、しーどが睨みつける。
「部屋は俺のアパートの一部屋を貸すぜ?
俺が連れてきたんだ。責任はとる。」
サイコの言葉にしばらく沈黙が起こり、由利は緊張した顔をしている。
「・・うん、まぁ問題はないんじゃないの?
サイコなら安心だしね。」
ルゥが沈黙の中、きりだした。
夜空の神様のほうを見る。
他の3人も夜空の神様を見た。
「サイコがここまで言うんだ。
断れる理由なんてない。」
夜空の神様が、そう言い放つと由利の顔がいっきに明るくなった。
サイコと目をあわせて、笑う。
しーどが、不服そうな顔をして国民認定書にハンを押した。
「これで由利、お前は浦板の住民だぜ?」
さっきまで笑っていた由利の目にいっきに涙がたまる。
「ありがとう・・・
私・・こんなに笑える事なんて・・
二度とないと思ってた・・・」 - 68名前:社灼(sime.FJA)投稿日:
2004/12/12(日)00:53
- (゚д゚)オウエンシテルシメ
- 69名前:○投稿日:2004/12/12(日)01:45
- 「ふぁ~・・・」
サイコが目を覚ます、部屋を開けると味噌汁のにおいがしてきた。
「あ、サイコ。おはよ~」
エプロンを付けている由利が、台所に立ちながら言う。
「おう、おはよう。
なんかいつも作ってくれて悪いな・・」
サイコと由利が出会ってから約一月が過ぎていた。
サイコがソファーにドサッと腰をおろす。
「住ましてもらってるんだし、このくらい当然よ!
はい、朝ご飯。」
由利は二つ皿を並べると、次はお箸と味噌汁を持ってきた。
「さっ、食べよ?」
由利がサイコの横に腰をかける。
一人では大きく感じていたソファーも、二人だと小さく見えた。
由利は、その料理の腕から浦板城の兵使用食堂で働くことになった。
二人はいつもいっしょにいた。
それを周りも当然のように思うようになっていた。
お互い言葉にしたわけではないが、もうカップルといっても過言ではなかった。
「敵軍だあああーーー!!
剣を持て!戦争だーーー!!!」
伝達係りの兵士が街中をそう叫びながら走ると、街人達は家に隠れてゆく。
「サイコ・・・・
気を付けてね・・・?」
由利がサイコの鎧の背中にあるとめ金を締めながら言う。
「大丈夫だ・・・。
待ってくれる奴がいる。
これ以上負ける気がしない戦いはないぜ?」
サイコが心配そうに見る由利をみて、そう言う。
「さてと・・
行ってくるぜ?」
「・・・行ってらっしゃい・・・・」
由利が見守る中サイコ軍が西に向けて出発した。
ダッダッダッ!
兵士達の足音で地面が揺れている。
「うおぉぉぉッッ!!」
「どぉああぁー!」
「おぅあぁーーッッ」
剣のぶつかり合う音と兵士達の叫び声、悲鳴。
血や硝煙の匂いがたちこめる。
「そこだッ!」
サイコの剣が敵を斬る。
集まる兵士の間を斬り開きながら突き進んでゆく。
サイコの剣に太陽が反射し、キラリと光ったかと思うと次の瞬間にはもう振り切っていた。
敵隊の大将の首がおちる。
「我が軍の勝利だあぁッ!!」
サイコがそう叫ぶと、兵士達が剣を高くかかげて雄叫びをあげた。
- 72名前:○投稿日:2004/12/12(日)15:02
-
サイコが由利と出会ってから、もう一年が過ぎようとしていた。
月明かりの下、サイコがひたすら剣をふっている。
体から湯気が出るくらいに体温があがっているようだ。
「いつも遅くまでご苦労だな」
夜空の神様が歩いてきた。
「いや、当然のことです。
俺はリーダーです。
俺が負けるわけにはいかない・・・」
サイコが少し剣を振る腕を止め、夜空の神様の方を向く。
「寒いな・・・。
サイコ、久しぶりに。
・・・やらないか?」
なぜか夜空の神様が上着のボタンをはずす。
「・・・いいですよ?」
サイコも剣を置いて袖をまくりあげた。
目を見つめあったまま二人が近づく。
一歩一歩、顔が近づいてゆく。
ダンッ!
サイコが地面を蹴りいっきに距離をつめた。
流れるように拳を振り抜く。
が、それは空をきる。
「ハハハハ!
甘いな。」
後ろから聞こえる声にサイコが振り向いた瞬間、みぞおちに拳が食い込んだ。
そのまま、膝を地面におとす。
「気が早いぞ。
たしかに並の奴なら、あの距離でとれるかもしれん。
が、私はお前よりまだ強い。
頭を使え。」
夜空の神様がそう言うと、倒れるサイコに手を差し伸べた。
「いつッ。
手加減してくださいよ・・・。」
「あの力、は使わないだろ?
十分手を抜いているわ」
夜空の神様の肩にサイコが手をかける。
「いや、夜空の神様にはかないませんよ」
サイコがそう言う。
「そうだ。お前に見せたいものがある。
今日、やっと出来たんだ。」
「・・・・何ですか?」
「まあ、着いたら分かる。
地下に行くぞ」
そのまま二人は地下に歩いていった。
夜空の神様がドアノブに手をかざす。
すると、扉がゆっくりと開いた。
そこにあるものを見てサイコが目を見開ける。
「これは・・・・ッ!!」
「ハハハハ
どうだ?凄いだろ?
作るのに5年はかかったな。」
そこには、小型の飛行機があった。
「本当に作れたんですか!?
これが・・空を飛ぶんですか!?」
持ち上げようとしても、まったく動かない程の重量に、サイコはそれが空を飛ぶとは到底思えなかった。
夜空の神様が、機体をパシッと叩く。
「飛ぶ。自分でも驚く程の出来だ。
これからは、人間が空を飛ぶ時代が来るかもしれないな!!」
夜空の神様が誇らしげに言う。
サイコはその銀色の機体に見入っている。
「これ・・お前にやるよ」
「え!?そんなっ!!」
「なぁに、次はすぐに出来る。
これはサイコのだ。」 - 75名前:○投稿日:2004/12/12(日)21:11
- 「ただいま~。帰ったぜ~。」
サイコが玄関で靴を脱ぎながら言う。
「おかえり、サイコ。
遅かったね。」
テレビを見ていた由利が振り向いて言う。
「由利、明日城に行かないか?」
サイコが由利の隣に座り、そう言う。
由利がそれを聞いて驚いた顔をした。
「えっ!?何で?
折角の休みなのに・・・」
「いや、見せたいものがあるんだ」
サイコが言う、おそらく飛行機だろう。
由利は少し俯いている。
「明日は・・・
西の街に行きたかったなぁ・・・」
「西の街?」
「ほら、明日はさ・・・
私たちが会ってから、ちょうど一年なんだよね・・・。だから、・・・」
由利の言葉にサイコは思い出す。
そして覚えてなかった自分に嫌気がした。
「そういや・・そうだったぜ・・」
女心など到底理解しうる物では無いが、由利があの森に行きたがっている事は安易に分かった。
それに理由など無いのだろう。
「じゃあ、明日は西の森に行くか!」
サイコがそう言うと、由利は笑顔で首を縦にふった。
「でも・・サイコ。
見せたい物・・って?」
「いや、それは明後日でいいぜ。
どうせ二人とも城に行くんだしな。」
サイコはどうしても驚かせたいらしい、由利は不思議そうな顔をして首を傾げる。
「じゃあ、楽しみにしとくね。
おやすみ。」
「あぁ、おやすみ。」
立ち上がり自分の部屋に入る由利を最後まで見届けると、サイコはテレビのスイッチを消した。
「もう一年か・・
早いもんだぜ・・・」
白い雪の降る中そびえ建つ浦板城。
永遠に続くであろう二人の時間。
しかし。
━━それは唐突に奪われた。 - 77名前:○投稿日:2004/12/12(日)21:39
- 「何も変わってないね~」
由利が雪の道を小走りしながら言う。
サイコは後ろから歩きながらついていく。
「お前は見違えるほど変わったぜ?」
サイコが言う。
しばらく間があいて、由利が振り向く。
「何それ~、嫌味?」
由利が笑いながらそう言う。
たしかに由利は一年前の貧乏臭い格好やボサボサの髪とは変わっていた。
「違うぜ・・・。
格好なんかじゃないんだ。
お前の笑顔が見れるようになった。」
サイコが真剣にそう言うと、さっきまで笑っていた由利は照れくさそうに俯く。
「キャッ」
雪に隠れた木の根っこに足をとられ、由利がその場に尻餅をついた。
その衝撃で木の葉にたまった雪がドサッと落ちてくる。
「ヤァッー」
由利の黒い髪が雪で白く塗られた。
「大丈夫か?」
走ってきたサイコがうつ伏せになって転んでいる由利にのった雪を払う。
「・・・・」
由利は無言で俯いている。
「おい、どうした!?」
どこか打ったのか、由利が動かない。
「サイコが、いてくれたから・・・」
「えっ?」
屈んでいた由利が顔をあげた。
雪で濡れたのかどうかは定かではないが、頬が水滴で輝いている。
二人の目があう。
「サイコが、いてくれるから・・
私は笑っていられるんだよ?」
由利がそう言い、一度目線を外し下を見る。
が、しばらくしてまたサイコに目線を戻した。
遠くから雪が地面にドサッと落ちる音がする。
サイコの手が由利の黒い髪に優しく触れる。
二人の間に落ちた一粒の雪をお互いが追うように
二人の唇が重なった━━。 - 80名前:○投稿日:2004/12/12(日)22:06
- どれくらい経っただろうか?
いや、一瞬だったのかもしれない。
誰かの走ってくる足音に、二人の顔が離れた。
「サイコさん!こんな所にいたんですか!
大変です!」
兵士が吐いている白い息を見て、外が寒いことを思い出す。
「ど、どうしたんだ?」
サイコの舌まわっていない、がまだ余韻が残っているようだ。
兵士はサイコの近くまで来ると、あわてて何かを言おうとしたが、
息がきれて言葉にならない。
「大丈夫か?落ち着いて話すといいぜ?」
サイコがそう言うと、兵士は大きく息を吹い叫んだ。
「夜空の神様が・・・ッ!!
殺されました・・・ッッッ!!!!」
風が森の木々を揺らしていた。
「おい!どういう事だ!?
夜空の神様はどうした!?」
寝室の前でコイチが医者に聞く。
「すいません・・・。
着いたときには・・・、もう・・・ッ」
夜空の神様の物であろう血のついた白衣を着ている医者が泣き崩れる。
「毒殺だ、そうよ。
コイチ、あなたよね?
今日の昼ご飯を運んだのは。」
部屋から出てきたしーどが殺意のこもった目でコイチを見た。
「なっ、毒殺ッ!?
たしかに俺が運んだ!!
だが、俺が殺すわけがない!!
それにこれを作ったのはルゥだろう!!」
コイチが興奮して、そう言う。
「僕が・・・?
もう、茶番はいい。
君たちが、夜空の神様の部屋に入ったのを僕は見たんだ。」
階段から上がってきたルゥが言う。
「言葉には何の説得力もないみたいね」
しーどが、腰にかけた鞘に指をかける。
「俺もお前らと話会う気にはなれない」
コイチも、勢いよく剣を抜く。
「こうなるのが狙いだろうが、しょうがないね。
僕は死なない、罪をかぶせようとしているんだろうが無謀だよ」
ルゥは、そう言いYOYOを構えた。
あまりものオーラに周りの兵士や医者達は、止める事も出来ない。
3人の殺気が頂点に達した。
- 81名前:○投稿日:2004/12/12(日)23:17
- 「やめろぉ!てめぇら!」
サイコの声が聞こえてき、3人は手を止める。
「何してんだ?おい。
いつもの喧嘩とは様子が違うぜ?」
兵士が見守る中、カツカツと音をたてながらサイコが階段をあがってくる。
「仲間同士でッ、
殺しあうつもりかぁッ!!!」
城全体がビリビリと震えているように感じるほどのオーラに3人は動く事も出来ない。
サイコが全員を殴り飛ばした。
「こんな時こそ、
こんな時に信じれないで何が仲間だッ!」
夜空の神様が殺されて一番悲しいのは、一番復讐に燃えるのは、サイコだろう。
「サイコさん・・・
あんたには感謝してる。
それに尊敬している。
だがッ!俺にはもうコイツらを信じる事は出来ないッ!!」
コイチが立ち上がる。
「俺がゆるさねぇ!
もう一度ここで剣を握ってみろ。
その時はッ、容赦しねぇッッ!!!」
鋭い眼光がコイチの足をすくませる。
「てっ、敵軍だあーーーッッ!!!」
伝達係の兵士の叫び声がする。
3人が無言のまま立ち上がる。
しーどが、震えながら背中を向けて歩いていく。
「おい、どこに行く?」
サイコが言う。
「北の街よ。
私はコイツらはもう信じれない。
けど、自分の街は守るわ・・」
「いくお」
しーどの兵達と共に歩き去った。
「俺も東に戻る。
次にここに戻るときは、もう止められない。
絶対にここは渡さない。」
コイチが歩いてゆく。
「サイコ・・・・。
君は人を信じすぎだよ。
奴らが、夜空の神様を殺した。
浦板を自分の物にするためだ。
夜空の神様への恩をこんな形で返すとはね・・・・。最低だよ。」
ルゥも歩いてゆく。
「ここで奴らを殺さなかったことを、
いつか君は絶対に後悔するよ・・」
そして城から三つの戦車が走り去った。
サイコが城の壁を力一杯たたく。
「あいつらが、そんな事するわけねぇ!
クソォッ!!
何でこんな事に・・・・!?」
サイコの拳から血がにじみ出ている。
「サイコさんッ!!
西の街が・・・ッ!!
占領されましたッ!!」
走ってきた兵士が言う。
「なんだと!?西の兵達はッ!?」
サイコは自分の耳を疑いたくなる。
「・・・全滅です・・・。
敵軍は、もうそこまで来ています!」
窓から下を見ると、見慣れない兵士が城門を破ろうとしていた。
「クソオォォッ!!
夜空の神様亡き今、ここを守るのは俺の役目だ!!!
ついてこいッ!戦うぞッ!!!」
中央の紋章をつけた兵士達が剣をかかげた。
- 82名前:名無しさん投稿日:2004/12/12(日)23:29
- 蝶GJ!!!
- 83名前:○投稿日:2004/12/13(月)00:04
- 「サイコ・・・」
後ろから見ていた由利が心配そうに声をかけてくる。
「由利、お前はここに隠れてな。
すぐに帰ってくる・・・」
サイコが言う。
ダァーンッ!!
城門が破られた。
「行くぞォッ!
全兵!テツぅゥッ!!!」
サイコの声と共に弓が飛び交う。
防城戦の場合、広い場所でかつ高い所にいるので最初のうちは矢を打ちおろす。
しかし、何か違和感があった。
誰より先にサイコがそれに気づく。
「矢が・・・当たってねぇ!?」
敵の兵士達に当たった矢は、そのまま地面に突き刺さっていた。
そしてその兵は煙のように消える。
「何ですか!?あいつらは!?」
兵士が動揺している。
「わからねぇ!
だが!死なないわけじゃないみたいだぜ!
もう敵は目の前だ!剣を持てッ!!」
サイコが合図を出すと、一斉に兵士が走り出した。
ウオォォォォーーーッッ!!!
サイコも剣を握ると敵兵を斬る。
見た目は人間そのものだが、実体がないようだ。
サイコの剣は素振りをしているような感覚ですり抜けていく。
が、そいつらは人間と同じ急所で人間よりもろい。
斬る度に、バスッと音をたてて煙のように消えてゆく。
「こいつはまさか・・・
夜空の神様と同じような・・力・・?」
敵軍の個体個体は、大した強さではなかった。
味方の損害はほとんどないまま、敵は全て消え去っていた。
勝ち名乗りをあげようとサイコが剣を空に掲げようとした瞬間、
再び、城門の前に兵士が現れた。
明らかに、歩いてきたんじゃない。
生成された、という言葉が適切だろう。
サイコは状況を瞬時に飲み込んだ。
「敵は、城門の奥だッ!!
城門を突破しろォッ!!!」
サイコが叫ぶ。
これはもう確実に夜空の神様と同じ系統の不思議な力だ。
夜空の神様はそれを法力と呼んでいた。
夜空の神様は、兵士を生成したりしたことは無かったが、
動物などを出して驚かされたことをサイコは思い出した。
勝利の手段は
atwikiでよく見られているWikiのランキングです。新しい情報を発見してみよう!