妄想

「博也と由希」 ID:2CKYVUH90

由希(……博也)
単調な秒針が動く音を聴き続けていると、どうしても晋平のことを思い出してしまう。
看護師に時間を聴くと、7時30分を回ったところだった。まだ博也は病院にいるだろう。
物思いにふけりながら病院食を食べているところは、自分でも滑稽に感じる。
ほとんど味気がないことを思い出して、塩と醤油をかけてもらった。
ついでに味噌汁のおかわりを頼む。
そろそろすることがないことをもてあまし始めた。
何度も時間を聴いて、博也がどうしているだろう、などと考え込んでしまう。
(行かないって……そう言ったのに……)
自分は、何て馬鹿なことをしているのだろうかと、酷く卑屈に感じた。
溜息をついたところでタイマーが鳴り、思わず驚いた。
冷めた味噌汁を飲み込み、そして食事を済ませる。
ちょうどよく看護師がきて、それを取り下げた。
目には見えなくとも、音で判断できる。
由希は機械的に看護師と会話を交わし、その間も博也のことが浮かんでくる。
看護師はすぐに食器を片付けて、ホールへと戻ってしまった。
約束の時間を、5分ほど過ぎただろうか?
由希はベッドの中に入ると、脇にある目覚まし時計を止めた。
さっきからずっと鳴っていたのだ。
時間が気になって仕方がなかった。
博也はあの場所で待っているのだろう。
来ないと解っていてもずっと待ち続けるのだろう。
由希は大きく良きを漏らした。
時計の音が、異様に大きく響く。
かちっ、かちっ、かちっ
由希は自分の耳を押さえた。
しかしそれは逆効果だった。意識すると余計に張りの動く音が頭にまで響いてくる。
由希はいらいらしながらただベッドにこもっている羽目になった。
ぽつっ
ガラスに水滴のあたる音がした。
ついさっきまではそうではなかったのに、突然空から降って来たようだ。
そしてあっという間に雨粒がぽつぽつ当たる音は、激しい雨の音に変わった。
由希(そんな……)
あの場所にはどこにも雨宿りする場所はなかった。
博也が待っているのなら、ひたすら濡れるばかりだ。
由希は、反射的にナースコールを押していた。

………………

…………

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最終更新:2008年06月21日 22:16