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アライグマくんの受難 ◆TPKO6O3QOM



 ぱらぱらという乾いた音を立てて、足元の砂利が暗緑の森へと消えていく。
「……………………」
 アライグマは眼下に広がる絶壁を前に、一人へたり込んでいた。崖を吹き上がる風が彼の体毛を下から撫でていく。しかし、彼の全身が逆立っているのはそのせいだけではないようだ。地平へと向かって傾いた満月が嘲笑を投げかけるかのように、
白々と彼を照らしている。

 彼の立つ場所はアルフの言っていたロープウェイ乗り場からそう離れてはいない。
 先刻、彼はそこへ息も絶え絶えになりながらもたどり着き、彼女のものであろうデイバッグも回収している。そこまでは、この地に降り立ってからの彼にしては上々の結果だと言えた。
 一つの目的を果たしたことで少し落ち着いた彼は、目の前に建っていた、からからと金属音を立て続ける小さく貧相な小屋に――彼は何かの巣穴だと思っているが――入ったのだが、そこからがいけなかった。

 闇の中から突如現れた、にび色に光る筐体に彼は腰を抜かした。その箱からは僅かではあるが今の彼と似通った臭いが発せられていた。未塗装の搬器が放つ鉄の香は、彼の鼻で血臭へと変換される。それは彼が浴びたシマリスであったものと赤カブトの一撃を受けたアルフから大量に毀れたものを、そして戸口を開けた搬器は赤カブトの口腔を彼に連想させた。その場で一度盛大に胃の内容物を吐くと、搬器には目もくれずに彼は逃げるようにしてロープウェイ乗り場を去った。それが彼を安全に他の参加者のもとへと運んでくれるかもしれない利器とは露とも知らずに。

 かくして彼はロープウェイ乗り場から更に南下した場所で情けない顔を崖下に向けているのである。周囲を見て回ったのだが、この崖に回り道はないようであった。
 崖は優に数十メートルはある。西の方からは轟々という水音が響いており、足もとまでその振動が伝わってきていた。
 瀑布の立てる轟音は、かつてぼのぼのたちと遊んだ思い出へと彼を逃避させようとする。実のところ、彼はすでに挫け掛けていた。
 元々、彼は気の大きい方ではない。気心の知れたものや目下のものには強く出るが、それ以外には小動物特融の臆病さが露わとなる。強制された殺し合いという場、シマリスの死と赤カブトとの遭遇は、彼の心には荷が重すぎた。
 それでも彼が夢想の中へと埋没せずに、辛うじて踏み止まっていられるのはアルフとの約束があったからだ。約束に縋っていると言い換えた方がいいかもしれない。

 最初こそ、助けに戻るという使命感が彼の足を動かしていたのだが、今ではそれは萎み、陋劣とも言える考えが少しずつ大きくなっていた。アルフを助けてくれる参加者とは彼自身を守ってくれる存在でもあるのだ。アルフとの約束は、自身の庇護者を探す建前となりつつある。もっとも、彼はそのことに無自覚であるのだが。

 強張った顔で崖下を覗き込んでいた彼は、やがて体を反転させると、恐る恐る崖を降り始めた。後ろ脚で足がかりを探し、一歩一歩慎重に下りていく。体を浮かす下からの強風が彼を襲う。
 このような崖を下るのは初めてではない。しかし、夜という不慣れな時間帯と精神的な疲労が彼の体力を著しく奪っていく。

 何度も休憩を挟みながらも、どうにか崖を半ば近くまで下った頃、彼の耳が風を切り裂きながら接近する鋭い音に気付いた。首を回して音の方向を見やると、月輪の中に染みのように浮かんだ影がある。それは段々と大きくなっていた。
 すぐに、それが鳥のそれと気づくが、問題はそのスピードだった。見る見る内に距離を縮め、次第に形を明らかにしていく鳥影――。
 鳥影はアライグマから十メートルほど手前で急停止すると、品定めをするようにアライグマを見つめていた。
 鳥影の正体は、鳥類最速の飛行速度を誇るハヤブサであった。ならば、先ほどの超スピードも頷けよう。だが、果たしてハヤブサは夜行性であっただろうか。ハヤブサの羽毛は後光を受け、背筋が凍るような神々しさを放っていた。

「な、何か用かよ、鳥野郎!」

 アライグマは震える声でハヤブサに毒づいた。
 アライグマは、そのハヤブサがペット・ショップという名であることを知らない。ましてや、彼の持つスタンドという特殊能力の存在など想像すらできないだろう。
 ペット・ショップはアライグマの毒づきに答えるかのように、嘴を歪めて笑みのようなものを浮かべた。

 その間もペット・ショップの長い襟巻は風に吹き上げられ、大蛇のような動きを見せている。しかし、ふと、その動きが風に逆らって蠢いたように見えた。

 ぞわりとアライグマの体毛が膨らむ。彼の目は驚愕に見開かれていた。
 いつの間にか、ペット・ショップの背後に控えるようにして、鳥類とも爬虫類とも見える生物の骨格が現れていたのだ。いや、アライグマが気付かなかっただけで、それは常にペット・ショップの傍に居た。これこそ、 “ホルス神”と名付けられた、ペット・ショップの持つスタンド能力が具現化した姿だ。翼竜の虚ろな眼窩はアライグマをぴたりと見据えている。

 だが、アライグマが総毛立ったのは、それの禍々しさに当てられただけではない。周囲の気温が下がっているのだ。いつの間にか、アライグマの体表には薄らと霜が降りている。アライグマから漏れる吐息も白に変わっていた。

 これだけでも驚嘆に値する事態であるが、変化はこれで終わらなかった。
 アライグマの目の前で、ペット・ショップの周囲に燐光とともに数本の巨大な氷柱が構築されていく。秋水を思わせる切っ先の輝きは、ペット・ショップの双眸と瓜二つだ。
 アライグマは目の前の状況に付いていけず、動くことができないようだ。
 そして氷柱は何の前触れもなく、動作を忘れた獣へと撃ち出された。唸りを上げて進む、氷の刃。砕けた表層の氷の尾が背後に伸びて煌めく様は一筋の箒星のようだ。
 とはいえ、それが見えたのもほんの一呼吸の間だ。鈍い音が断崖に響いた。

 哀れな獣は氷の杭に串刺しにされてしまったかに思えた。しかし、アライグマは生きていた。いや、それだけではない。どこにも怪我をした様子もない。そもそも、氷柱は彼に触れてすらいなかったのだ。氷柱は幸運にもアライグマの顔を逸れ、そのすぐ脇に深々と突き刺さっていた。
 アライグマは弾かれたように身を揺すると、今までとは比べ物にならないペースで崖を下り始めた。見方によっては、転げ落ちているようにも見える。
 ペット・ショップは甲高く鳴いた。今度は数本の氷柱が同時に撃ち出される。だが、アライグマは既の処で串刺しを免れていた。アライグマは悲鳴を上げているようだが、氷の砕け散る音にかき消されてしまっていた。
 氷柱の砲撃は止むことなく、アライグマへと降り注ぐも、そのどれもがアライグマを掠ることすらない。

 ペット・ショップの射撃センスが絶望的にないのか、それともアライグマに運が巡ってきたのか。

 外れた氷杭のどれもがアライグマと紙一枚ほどにしか離れていない。顔や身体だけではなく、目まぐるしく動く手や足、腋や股の間に突き刺さったものもある。この精密さは偶然で片付けられるものだろうか。
 攻撃を外し続けるペット・ショップはというと、苛ついた素振りはなく、アライグマとの距離を保ったまま悠々と旋回している。その双眸はアライグマと、次々と岩肌に突き刺さる氷柱をじっと見つめている。その眼差しは実験の結果をつぶさに分析する研究者のそれだ。

 もし、この場にペット・ショップと一戦を交えたボステン・テリアがいれば疑問の声を上げたことだろう。あの野郎、随分緩ぃことをしてやがる、と。
 それもそうだ。ペット・ショップはそのボストン・テリアとの戦いでは、まず相手の手足を凍らせて動きを封じてから攻撃に移っていた。いや、そもそも殺すだけならば巨大な氷塊を出現させて、押し潰してしまえばいい。

 おそらく、ペット・ショップはアライグマを取るに足らぬ相手と判断し、彼を使ってのスタンド能力の点検を思い付いたのだろう。先の会場で集められた獣たち――その中で只ならぬ威圧感を放っていた赤い鰐や隻眼の熊といったものたちとの戦いを想定していると見える。
 その結果は上々か。精確無比な射撃を可能とする制御能力と、獲物の動きを読む経験則は冴え渡っていると言ってよいだろう。点検は終了した。

 周囲の気温が一気に下がり、アライグマの周囲の岩肌が凍りついていく。氷のさざ波がアライグマを取り囲み、彼へと迫る。だが、そのことに彼は気付いてすらいない。ただひたすら下へ下へと一心不乱に下りようとしていた。完全に自制を失っている。

 と、アライグマの前足が岩壁を掴み損ねた。風に煽られて一瞬だけ浮遊したあと、その小さな体は重力に導かれるがまま暗い森へと吸い込まれていく。
 いや、氷の杭に貫かれるが先か。ペット・ショップにとっては、自由落下する的を射抜くことなど造作もないことだろう。

 ペット・ショップが死刑執行の声を上げようと嘴を開く――が、それは途中で掠れた声へと変わる。空の王者のごとく旋回していた身体は傾き、風に流された。
 はばたき、体勢を戻そうとするもそこに力は感じられない。岩壁に叩きつけられる寸前、ペット・ショップは這這とした様子で岩から突き出た枝に停まった。
 その目に浮かぶのは――とはいえ、鳥類の表情を読むというのは酷く難しいが、おそらく――驚愕の色だ。信じられないといった様子で翼を開いたりしては、そこを覗き込んで首をかしげている。その動作もどこか緩慢で、酷く疲れているように見える。
 いつの間にか、翼竜の姿をしたスタンドは消えていた。
 アライグマの姿は森へ墜ち、もうどこにも見えない。ペット・ショップは暗い森を一瞥すると、特に拘る様子もなく、膨らませた羽毛に顔を埋めて静かに目を閉じた。


【B-7/崖上/一日目/黎明】
【ペット・ショップ@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】:休憩中、精神的疲労(大)
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品1~3個
【思考】
基本:優勝してDIOの館に帰る
0:夜が明けるまで一先ず休憩する
1:空から様子を窺う。目に付いた奴は殺す
【備考】
※ホルス神発現中はスタンド視覚により夜でも目が見えます。ただし見えているのは本体の視界ではなくスタンドの視界内です。
※スタンドの制限に気付きました。

※攻撃を加えられたB-7付近の崖の一部が酷く脆くなっています。場合によっては崩れる恐れがあります。

 ペット・ショップが身を休める崖。その下の森の中でアライグマは息を潜めていた。全身擦り傷だらけだが、行動に差し障りがあるような大きな怪我はどこにもない。崖を半ば過ぎまで下りていたこと、アライグマの体重が軽かったこと、下が鬱蒼とした森であったこと、背負っていたデイバッグが緩衝材となってくれたことなどが幸いしたのだ。
 しかし、だ。彼の身体は熱病に浮かされたように、小刻みに震えていた。噛み合わぬ歯の根は、ふとすると弾け出ようとする悲鳴を必死に押さえつけているようだ。
 確かに、今回も彼は五体満足で危難を切り抜けることができた。だが、果たしてそれを幸運と呼んでいいものか。
 見たものを不憫と思わせるまでに見開かれた彼の瞳が、刻まれた恐怖の大きさを語っている。
 冥い森の中を抜けていく生臭い風が起こす微かな音。その一つ一つに、彼の小さな身体は弾けた。世界を構成するすべてに恐れを抱いているかのように。
 だが、そういった警戒心は体力を酷く消耗する。しばらくして、重くなった瞼を彼は支えられなくなってきたようだ。程なくして、彼は浅い眠りへと入った。時折、友人や父親の名を呟きながら――。


【B-7/森/一日目/黎明】
【アライグマ@ぼのぼの】
【状態】:睡眠中、全身に擦り傷、疲労(中)、強い恐怖
【装備】:なし
【所持品】:アルフの支給品一式、不明支給品1~3個
【思考】
基本:元の世界へ戻る。
0:睡眠中
1:赤カブトを倒せそうな参加者を探してアルフの元へ戻る。
2:ぼのぼのたちに会いたい。

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009:禍福は糾える縄の如し アライグマ 042:参上!太陽の使者!その名は…
008:フロッグ・スタイル ペット・ショップ 042:参上!太陽の使者!その名は…




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