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戯守奇譚 ◆TPKO6O3QOM




 地の底から響いてくるような音が断続して、オレの耳朶を震わせやがる。
 音源はオレの腹なわけだが。さっきから腹減った腹減ったと主張し続けやがって。オレだってなあ、分かってんだよ。空腹で、苛々してんだよぉ!
 ぶん殴ってやりたいんだが、さっきやって息が詰まったことを思い出してやめる。胃とオレを切り離せたらいいのにな。

 ずぅっと鳴り続ける腹を両の手で抱えながら、オレはフラフラとユウエンチを彷徨っている。鼻を動かすが、食い物の匂いなんざ一つも漂ってきやがらねえ。大地はやけに硬く、しかもざらついていて、足の裏が痛い。このまま歩き続けたら、べろんと皮が剥がれそうだ。

 尻尾も、慣れはしたが鈍痛はまだ続いている。以前、うちのガキが、尻尾は邪魔だと切ろうとしたことがあったが、ありゃ得策だ。今日ほど、尻尾が邪魔だと思ったことはない。

 ああ、ちくしょう。どこかに蹴飛ばすのに丁度いいリスとかいねえもんか。まあ、その前に食っちまうな。
 空を見ても、羽ばたく鳥どころか、虫一匹見当たらない。

 どうにも居心地が悪いと思っていたら、ここには生き物の証が何もねえ。草木がざわめくだけで、それ以外の音はない。
 湖の方から吹き込んでくる湿気た風にも、オレが求めている情報は何ぁんにも混ざっちゃいねえ。それどころか、馴染みの臭いっていやあ、オレの血の臭いだけだ。
 それ以外に無為なものが含まれていない。ここに充満しているのは作為的に選ばれた、あまりにも整った臭いだ。

 なんつーかよ、もっと汚いもんだろ。風ってのは。臭いってのは。
 オレは戦争も嫌いなら平和も嫌いだ。憎しみなんてもんはうざってえだけだが、かといって、愛なんざもっと大嫌いだ。正義を振りかざす奴はぶん殴りたくなるし、悪党と嘯く奴はその帰りに蹴り飛ばしたくなるってもんだ。
 竹を割ったような性格と称されるやつがいるが、オレに言わせりゃ、そいつは稀代の大嘘吐きか、突き抜けた馬鹿だ。
 スパッと簡単に割り切れるもんかよ。この世のものは全部混ざり合って、どどめ色をしている。比率が変わることはあっても、完全な単色になることなんてない。

 だから厭き厭きしてるんだが、こいつがどっちかに染まりきってみろ。今でさえくだらねえ世界なのに、そいつがさらに糞くだらなくなっちまうんだぞ。
 想像するだけで怖気が立つってもんだ。
 そいつが具現化されたのが、今オレがいる此処だ。ここに“山”はない。あるのは作られた調和だけだ。

 ボニーから聞いた話じゃ、こういうもんをニンゲンってのは作りまくっているんだったな。……オレんとこにいなくて本当に良かったぜ。そんな連中がいたら、森なんざ瞬く間にこんな薄気味悪い場所に変わっちまわあ。

 それはともかくとして、だ。
 オレの足はユウエンチの一番奥に腰を据えた、一等高くてデカい家に向かっている。家というか、小さな山だ。
 食い物の補充が一先ずの必要事項ではあるが、夜叉猿達が言っていた「戦闘を助長するもの」がまだ気になっている。
 確かに、ここに来ただけで暗闇を起こす力が身に着いた。それに、見るからに硬そうなドデカい輪っかも見つけた。あれで殴りゃ、どんな化け物でも一たまりもねえだろう。

 だが、暗闇はあれ以降出せないし、輪っかも勝手に一処で回っているだけだ。これらを使いこなすには、おそらく何かが足りねえんだ。
 暗闇に関しちゃその何かが皆目見当がつかないが、輪っかは別だ。あれは中心を二本の硬い柱で固定されているようだ。つまり、それを外さなきゃ使えない。無論、オレには無理だ。
 縦しんば外せたとしても、あれを振り回すなんて芸当は出来っこねえ。あのワニが振り回していた丸太だって無理なんだしよ。蟻が大石を持ち上げようとするようなもんだ。

 ようするにだ、あれを自由に振り回せるような代物がまだ隠されているのさ。
 何かしら大切なものを隠すとしたら、それは一番奥まった場所だ。これだけ広いんだ。裏をかく理由もない。もっとも、そいつがオレたちに使わせたいものであるなら隠す理由もないんだがな。……やっぱり、あの雌キツネは気に入らねえ。

 オレは足を止めた。着いたのだ。家を見上げるが、てっぺんは陽光に隠れてよく見えない。
 遠目じゃ分らなかったが、この家は大きな石を幾つも積み上げて作られていた。……普通に岩穴とか洞を利用すりゃいいのに。ニンゲンというのは無駄というか、頭が悪いというか。それとも、キツネが阿呆なのか。
 大口を開けた入口の横には、「キュービー城・ミステリーツアー開催中」って書かれた板きれが立っている。なんだ、これ……。
 入口に向けて鼻を蠢かすが、やはり誰ぞ獣の臭いは漂ってこない。先客はいないらしい。
 耳をそばだたせながら、オレは暗がりの中に足を踏み入れた。
 一瞬目の前が暗くなるが、すぐに慣れて中の様子が分かってくる。外からじゃ暗がりに見えたが、篝火が焚かれた室内は意外と明るい。柱が何本と奥まで続いていて、これが上の階を支えているらしい。
 通路を進んでいった先は行き止まりだ。正確には、通路はまだ先まで続いている。だが、その間に格子が降りて、その先に進めなくなっていた。
 道、間違えたのか。いやいや、ここまで一本道だったんだ。てことは、隠し通路でもあんのかよ。冗談じゃねえぞ、おい。そもそも使わせたいなら、どうぞ使ってくださいましとイモ付けて粛々と並べておくのが礼儀だろうが。
 オレは怒りにまかせて床を踏み鳴らした。
 ……当たり散らす相手もいねえ。ボニーもコロマルも……あの猿も大将も、死んじまったんだよな――。

「チョット、チョット。其処ノ旦那ァ。ソンナ乱暴ニサレチャ 抜ケチマイマスヨォ」
「――――っ!?」

 オレは全身を総毛立たせて声のした方へ振り向いた。だが、誰もいやしねえ。一応、首を巡らせてみるが、影どころか何かがいた痕跡もない。
 げ、幻聴ってやつか。だが、はっきり聞こえたぞ……。

「何処ヲ 見テラッシャルンデ? 旦那ノ頭ノ上デスヨォ」

 また聞こえた。声の従って見上げたが、模様が描かれた紙っぺらがふわふわと浮いているだけだ。似たような紙束が入っていたな、そういえば。
 もしかして、これが喋ってんのか……。

「ヨウヤット 目ガ合イヤシタネ。アッシハ 疾飛丸ッテェモンデス。コノ度、キュウビ様カラ、ココノ案内役ヲ 仰セツカリヤシテネ。ダガ、今マデ誰モ 来ヤシナイ。退屈シテタンデサ。旦那ガ 来テクレテ良カッタ良カッタ――」

 陽気な声が紙っぺらから発せられている。こいつ、喋りやがった。
 驚いたもんで紙がくだらねえこと捲し立てるのを黙って聞いていたが、そんな悠長にしている時間はねえんだ。腹が膨れるわけじゃねえし。

「おい、紙っぺら!」
「紙ッペラ ナンテ 無粋ナ呼ビ方ハ 止シテクダサイヨォ。サッキ、名乗リヤシタ デショ? アッシニハ疾飛丸ッテ 立派ナ名前ガ――」
「知るかよ。おい、案内役っつってたな? じゃあ、聞くぞ。答えなかったら破くからな。ここには、なんかオレの役に立つものが隠されてんだろ? そうだよな?」

 目の前の格子の奥を横目で見やる。篝火に照らされた床が血で染まったように赤く揺らめいている。
 オレの言葉に、紙っぺらがにやりと嗤ったような気がした。

「流石、ゴ明察デ。キュウビ様 ノ 取リ計ライデ、コノ先ノ天守閣ニ 旦那方ニトッテ 良イ物ガ用意シテ アリマスゼ」
「……やっぱりそうか」

 オレは小さく笑みを浮かべた。ボニーたちの推察は当たっていたようだ。あいつがここに来れたなら、他にも何か気付いたのかね。

「それじゃ、もう一つだ。オレたちは、その……違う時間ってのから呼び集められたのか? あのキツネの子分なんだ。知ってるだろ」

 生前、ボニーが立てた考えを口にする。オレにゃ少しも理解できんわけだが。これまで当たれば大したもんだ。
 仮に外れたとしても、こいつを詰問すればキツネの目論見が分かるはずだ。爪でぐりぐり穴開ければ吐くだろ。紙だし。
 しかし、返ってきたのは紙っぺらの困ったような声だった。

「申シ訳ネエガ、ソイツハ、知ッテイタトシテモ アッシニハ 答エラレ ネェンデスヨ。アッシガ答エラレルノハ、此処ノ城ニ関係スルコト ダケ デシテ……」
「親分を気にしてんのか。どうせ聞こえやしねえさ。裂くぞ」

 紙に口ごたえされて、自分のこめかみに青筋が立ったのが分かる。紙っぺらが少し身を傾けて小刻みに揺れた。苦笑でも表現してんのか。

「アッシハネ、妖魔ナンデスヨ。 掟カラ 外レタコトヲ スリャア、ソコデ オ役御免。ソノ場デ消サレチマウンデス。ダカラ、勘弁シテ下セエ」
「……融通が利かねえ奴だな」
「目的モ必要トセズニ 生マレテ来レル旦那方ト違ッテ、作ラレタ アッシニハ自由意思ナンテェモンハ 許サレネエンデスヨ」

 口調は変わらないが、紙っぺらは少し寂しそうだ。
 ったく、興を殺がれちまった。もう、取るもんとって終わりにしてえ気分だ。
 オレは一つ嘆息した。

「そうかよ。まあ、いいや。とっとと、この邪魔なもんをどけて先に進ませろ。その“良いもん”を頂戴してやるからよ」

 格子を指差して、紙っぺらを仰ぎ見た。紙っぺらはくるくると回ると、オレの顔の前まで降りてきやがった。ガンつけてんのか、こいつ。目らしきもんは見えないが。

「ソレ、ナンデスガネ。只デ渡スッテンジャア、芸ガ ネエ。ソコデ、ドウデス? コノアッシト 一ツ 勝負ヲ シテ ミマセンカイ? トイッテモ、素手ゴロ ニシロ ヤットウ ニシロ、アッシニャ手ガネエ。コレジャ勝負ニ ナリャシマセン」
「回りくどくしねえで、さっさと言え!」

 オレの口から盛大に唾が飛んだ。
 ああ、額全体に青筋立ってるわ、これ。大体、こっちは勝負なんてしたくねえんだよ。ここの連中はどんなインチキ使ってくるか、分かりゃしねえ。こいつもスタンドとか出してくるんだろ、どうせ。
 無芸でいいんだよ。欲張んな。オレが迷惑だから。

「スイマセンネエ。ソンナ訳デ、旦那、アッシト 早駆ケデ 勝負シチャ クレマセンカイ? ダケド、一本勝負ジャ 不慣レナ旦那ニ 不公平。カトイッテ、二本勝負ジャ 引キ分ケタ時ニ 困ル。ココハ、三本勝負デ 如何デショ? 先ニ 二本取ッタ方ガ 勝チデサ」
「……断ったら?」
「コノ格子ハ開ケマセン。旦那ハ オ帰リッテコトデサァネ」

 しれっと紙っぺらは答えやがった。てめえ、充分自由に生きてるじゃねえかよ。
 さて、どうするか。用意したってことは、それを取って欲しいわけだ。となれば、夜叉猿たちの言葉通り、この家自体に危険なものはないと見ていいだろう。少なくとも、死ぬようなことはない……と思う。
 ただ、問題はこの紙っぺらだ。用心深く、オレは紙っぺらを睨み返しながら確認する。

「ただ走るだけだな? いきなり変な生き物を宙空から出したり、丸太が飛び出てきたり、ヤマアラシが降ってきたりしないな?」
「ヨク分カリヤセン ガ、走ルダケデサ。アッシハ 足ガ無イカラ、浮キナガラ ト イウコトニ ナリマスガ、チャント道筋辿ッテ行キマスゼ?」

 浮きながらって、相当有利な気がするんだがな。ただでさえ、歳食ってるっつーのに。それに血を大分失ってるし、病み上がりに駆けっこは辛い。体力使うだけ無断なんじゃねえかと――。

「旦那ガ負ケテモ、参加賞トシテ 菓子グライハ出シマスゼ――」
「何をもたもたしてやがる! さっさと位置に着け、紙っぺらぁ!」

 格子の前で足踏みしながらオレは怒鳴った。まったくとろとろしやがって。名前負けじゃねえか。
 紙っぺらはスーッと飛んでくると、格子の前にある出っ張りの丁度真上で止まった。

「旦那、其処ノ仕掛ケ ヲ 踏ンデクダセエ。旦那ノ呼吸デ イイデスカラネ。ソウシタラ格子ガ上ガッテ、勝負開始デサ。向コウニ 門ガ見エヤスネ? アレヲ先ニ旦那ガ潜レバ 一本目ハ旦那ノ勝チ デス。コレヲ 天守閣マデ三回繰リ返スンデサ」

 そういうこたあ、先に言えよ。足踏みしてたオレがバカみてえじゃねえか。
 オレは鼻息荒く、出っ張りの手前に移動した。
 それに片足を乗せる。だが、まだ踏み込まない。
 格子の間から門の方を覗く。真っすぐだし、そんなに長い距離じゃない。テンシュカクってのがよく分からんが、この調子ならすぐ其処だろう。
 安い勝負だな、まったく。
 オレは呼吸を整えた後、足に力を込めた。





【A-2/遊園地/一日目/午前】

【アライグマの父@ぼのぼの】
【状態】:頭部に怪我、尻尾に切創(止血)、疲労(小)、軽度の貧血、空腹
【装備】:ディバック
【所持品】:地図、空飛ぶ靴@DQ5、魔除けの札@大神
【思考】
基本:積極的に誰かを襲うつもりはない……?
1:疾飛丸との勝負に勝つ。まあ、負けても食い物が手に入るなら……
2:食料の調達をする。
3:観覧車を自由に動かす方法を探す。
4:息子たちが心配
【備考】
※札は少し湿っています。
※アイテムの説明は読んでいません。
※イギーと情報交換をしました。
※空飛ぶ靴は遊園地の入り口前が指定されていました。
※B-1からA-2の遊園地入り口までの間にアライグマの父の支給品が落ちている可能性があります。
※空を飛んだ時、月が地上よりも大きく見える気がしました。
※ボニーの考察を知りました。が、あまり信じてはいません。
※ボニーの考察
  • 参加者は過去と未来、あらゆる時代から集められた。会場もどこかの時代の土地。
  • キュウビは時空を渡る道具を持っている。
  • キュウビの目的は歴史の改竄。


※疾飛丸はキュービー城から出られません。また、キュービー城に関すること以外は答えられません。
※疾飛丸との三本勝負で二本先取すると、“良い物”が貰えるようです。また、負けても菓子が貰えるようです。
※三本勝負の形式は繋いでくださる方のやりたいものにして下さって構いません。



【疾飛丸@大神】
妖魔王キュウビの魔力によって符に命を吹き込まれた妖魔。
鬼ヶ城の門番であり、侵入者を惑わす役割を担っている。また、鬼ヶ城の遊具・拷問迷路の管理役でもある。


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065:乱暴者タヌキは今日も行く アライグマの父 085:Raccoon Over The Castle




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