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黒い牙  ◆TPKO6O3QOM




「ふざけんなああぁぁぁ――」

 己の喉から発せられているはずの声が、耳の奥から掻き消されていく。罵声は幾つにも分裂し、風が掠れたような音へと変じて行った。そして訪れたのはまったくの無音である。
 己の息遣い、心音すらも響いてこない――完全なる静寂がアライグマの父を覆い包んだ。
 しかし、アライグマの父から消え失せたのは音ばかりではない。視界を包む彩、地を踏みしめる感触、鼻を濡らす臭い、体毛を揺らす空気のうねり――そして、自分の身体の存在すら感じ取れなくなった。
 何も見えず、何も聞こえず、何も感じられない。外と内を隔てていた壁が取り除かれ、全てが混ざり合っていくようだ。
 剥き出しの意識が虚空に放り出されたような心許なさに、自身を押し潰されそうになる。加えて、その意識をも崩しさるような揺らぎが突如加わった。為す術もなく掻き乱されて、自己が摩耗していくような感覚に震えが奔る。

 だが、それも一瞬のことだった。霧が晴れるようにして、光がアライグマの父の網膜を焼いた。同時に、己と世界を構築していた全ての要素が瞬く間に取り戻されていく。
 五感を取り戻した時――アライグマの父の身体は宙を舞っていた。

「――ふんぬぅ!」

 身を捩って体制を整え、どうにか四肢で床を掴むことに成功する。衝撃が尻尾にまで響き、しばし悶絶することになったが。
 痛みが治まって、アライグマの父は漸く周囲を確認した。

「どこだ、ここ……」

 先程と風景は一変していた。彼がいるのは、最初に集められた空間と似たような広い部屋だった。襖は開け放たれており、欄干の向こうには山々が連なっているのが見える。その反対側の襖はぴたりと閉じられていた。
 天候も急変したようで、回廊から吹き込んでくる雨が床を濡らしている。
 どこか、とてつもなく高い場所に来てしまったらしい。
 茫然とするアライグマの父の髭を、湿った風が撫でて行った。

「何処ッテ、天守閣デスヨォ。旦那ァ」

 憶えのある調子の良い声が耳元から聞こえた。跳び上がるようにして振り向けば、一枚の札がふわふわと燐光を放ちながら浮かんでいる。

「てめえ、なん――」
「イヤネ、アッシ ハ 旦那ヲ ドッカ他所 ニ 転移サセル ツモリ ダッタンデスゼ?」
「そんなら――」
「ダッタンデスガァ、転送途中 デ 横槍ガ 入ッチマッテ。早イ話ガ、アッシ ガ 怒ラレチマイヤシテネ。アヤウク 消サレッチマウ所デシタゼ。勝手ナ戯レデ 旦那ノ ヤル気ヲ殺イジマッタンダカラ、致シ方アリヤセンガネェ」

 けらけらと笑うように、疾飛丸は捲し立てる。それを手で叩き落す様にして遮り、アライグマの父は声を荒げた。

「ンなこと、どうでもいいんだよ! オレは帰るっつったよな!? もうてめえと駆けっこなんざ、やらねえぞ!?」

 口角泡を飛ばすアライグマの父に対し、疾飛丸は小首を傾げるように身体を傾けた。

「ワーッカッテマスヨォ。ダカラネ、旦那ニハ、モウ景品ヲ渡シチマオウッテ話デサァ。ソモソモ早駆ケハ、退屈シテタ アッシノ思イ付キ。コノ城ニ 辿リ着イタ時点デ、旦那ニハ 景品ヲ 手ニスル資格ガ 元々アッタンデスヨ」

 悪びれた様子もない口調に、アライグマの父のこめかみに青筋が立っていく。要するに、あの競争は無駄だったわけである。もっとごねていれば済んだという話だ。
 もっとも、食べ物には有りつけなかっただろうが。
 とはいえ、何かが貰えるという状況の変化に罵倒は腹の中でみるみると小さくなっていった。舌打ちし、アライグマの父は半眼で疾飛丸を睨む。

「……思い付きのわりにゃ、丸太とか周到に準備していたようだが」
「少シ前マデ 遊ビ場ニ ナッテヤシタカラネエ、此処」
「遊び場……?」
「サテサテ! 時ハ 金ナリ 烏兎怱怱、駟ノ隙ヲ過グルガ若シッテェ言イマスカラネ。トット ト 済マセチマイヤショウ」

 アライグマの父の疑問の声を無視し、疾飛丸は声を張り上げた。先程と打って変わって、疾飛丸の態度には愛想がなくなっているようだ。早駆けに興じない輩には用はないと言わんばかりだ。

「旦那、ツイテ来テ クダセエ」
「いや、持ってこいよ……」

 アライグマの父の言葉を無視し、疾飛丸は閉じられた襖の方へと飛んでいく。彼が近づくと、手も触れていないのに――もっとも、触れる手がないのだが――襖はすすと音を立てて開いた。
 釈然としないまま、アライグマはその後を付いていく。言いなりになるのも腹立たしいが、下に降りる手段をこれから探すのもまた面倒くさい。

 精巧な意匠の施された鴨居を潜ると、その先の部屋は畳の敷き詰められた大広間であった。天井も異常なほど高い。
 その大広間の中央に、大きさの違う二つの葛篭が置かれていた。

「なんじゃこりゃあ……」

 大きい方の葛篭を見上げ、アライグマの父は声を漏らした。高さも幅も三メートル以上あるだろう。ちょっとした岩なら包みこめそうな程だ。
 小さい方の葛篭とて一抱えほどの大きさがあるのだが、もう片方の大きさが甚だしいために酷く小さく見える。
 この葛篭が、キュウビの用意した“良いもの”なのか。訊くと、まさか。と疾飛丸は身体をゆすった。この中に入っているものだと笑う。

「――サテ、旦那。大キイ葛篭 ト 小サイ葛篭。ドチラ ニ 致シマス?」

 二つの葛篭の中間で、疾飛丸がふわふわと浮きながら尋ねて来た。ぽかんと開けていた口を閉じ、アライグマの父はひとつ咳払いをした。夜叉猿たちの話が、より現実味を以て目の前に鎮座している。
 それも二つもあるのだ。アライグマの父は鼻を鳴らした。

「そりゃ、両方に決まって――」
「ソイツァ、駄目デサァ。ドッチ カ シカ、選ベマセンゼ。葛藤ニ 打チ勝ッテ 手ニ入レタ モン ダカラコソ、 有難味 ガ アルッテ モンデス」
「………………。そんじゃ選ぶから、中身教えろよ」
「ソリャア、開ケテ ノ オ楽シミデ。ドッチモ“良イモノ”デスゼ。ソイツァ保証シマサァ」
「………………」

 顎を擦りながら、アライグマの父は荒々しく息を吐いた。中身が分からないのでは、選ぼうにも選ぶことはできない。疾飛丸の都合に付き合わされたというのに、この仕打ちかと苛立ちが募る。
 視線に怒気を込めて疾飛丸を見やるが、本人は何処吹く風といった調子で、上下に無意味に揺れているだけだ。
 睨みながら唸り、アライグマの父は大きい方の葛篭を選択した。手に入れた後で、すぐに小さい方も盗んでしまえばいい。疾飛丸には手も足もないのだから。

「コッチ デ 宜シインデ?」

 念を押す様に疾飛丸が確認する。それに頷いた途端、小さい方の葛篭が靄に包まれるように掻き消えた。思わず唸るが、相手が普通でないことを失念していた自分が迂闊だった。
 そんなアライグマの父の態度に、不思議そうに疾飛丸が身体を傾ける。アライグマの父は手を振って誤魔化した。
 疾飛丸自身どうでもよかったのか、すぐに大きい方の葛篭に向き直った。

「ソレジャ、御高覧シテ モライヤショウ。コイツガ 旦那ヘノ 贈リ物デサァ!」

 疾飛丸の声と共に蓋が動き、葛篭の四面はぱたぱたと音を立てて倒れ込んだ。
 その中から現れた漆黒の巨人が、片膝をついたまま、その虚ろな眼窩をアライグマの父に向けていた。




【A-2/キュウビー城・天守閣/一日目/正午】

【アライグマの父@ぼのぼの】
【状態】:頭部に怪我、尻尾に切創(止血)、疲労(中)、軽度の貧血
【装備】:ディバック
【所持品】:地図、空飛ぶ靴@DQ5、魔除けの札@大神
【思考】
基本:積極的に誰かを襲うつもりはない……?
0:なんじゃ、こりゃあ!?
1:観覧車を自由に動かす方法を探す。
2:息子たちが心配。
【備考】
※札は少し湿っています。
※アイテムの説明は読んでいません。
※イギーと情報交換をしました。
※空飛ぶ靴は遊園地の入り口前が指定されていました。
※B-1からA-2の遊園地入り口までの間にアライグマの父の支給品が落ちている可能性があります。
※空を飛んだ時、月が地上よりも大きく見える気がしました。
※ボニーの考察は獣の卍参照。

※アライグマの父が選んだ大きい葛篭には【アヴ・カムゥ@うたわれるもの】が入っていました。しかし、別の参加者が大きい葛篭を選んだ場合、同一のものが入っているとは限りません。
※アヴ・カムゥの外見はクンネカムンの一般兵と同様のものです。機体の他に、一般兵装の長刀が一振り付いています。



【アヴ・カムゥ@うたわれるもの】
旧文明の技術がつぎ込まれた、全長5mほどの有人生体兵器。ほぼ全身を分厚い装甲に覆われており、正攻法で倒されることはまずない。
首の後ろの露出部から搭乗する。内部はゲル状の物質に包まれており、搭乗者はゲル状の物質を介して自身と機体を神経レベルで接続し、同化することで操縦できる。
故に機体のダメージは感覚的にではあるが、搭乗者にフィードバックしてしまう欠点がある。
早い話が、どこぞの汎用人型決戦兵器と似たようなもの。
アヴ・カムゥの存在が、最弱種族であるシャクコポル族の独立を成功させ、単一民族国家クンネカムンが三大国家の一つになるまでに勢力を広げさせた。
クンネカムンでは、先代皇の願いを聞き入れたオンヴィタイカヤンによって授けられたと伝えられている。
原作に登場する機体は、ウィツアルネミテアの「分身」との契約によって齎されたものであるためか、契約関係にあるシャクコポル族にしか動かせない。


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085:Raccoon Over The Castle アライグマの父 100:俺の背丈追い越して、いつかはお前もいっちょ前




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