「想い人」(2008/08/07 (木) 17:19:26) の最新版変更点
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**想い人
闇夜を二人の男が歩いている。
一人は青年。一人は少年。ぴりっとした微かな緊張感を漂わせ、二人の距離が埋まることはない。
どちらかが歩み寄らない限り、溝はそのままだ。
鵺野は得体の知れないハオを警戒しているのもあるが、一番心を占めているのは広のことだ。
生徒を守ると公言して憚らない鵺野だ。広のことが心配で仕方がない。
広は勇気もあるし、行動力だって桁違いの鵺野自慢の生徒だ。しかし、ここは殺し合いの舞台なのだ。
どんなに勇敢でも広は子供。鵺野のような能力を持たないただの小学生。
早く見つけてやらなければ。自分でなくても良い。誰か良い人間に保護されていればいいが……。
(無事でいてくれ……)
そんな鵺野を見て、ハオは歩く速度を落とした。言葉にしなくたってハオには鵺野の心が手に取るように分かるので何も言わない。
生徒の身を案じている鵺野をよそに、ハオは辺りを見回した。
周りは特になにもない平地。舗装されてはいるが道路は新品のように美しい。
――おかしい。違和感は最初からあったのだ。
霊や精霊がまったく見当たらない。
地球は様々な魂が溢れている。花に宿る妖精、物に宿る意思、強い人間の思い。
どこにだって彼らは居る。シャーマンはそれらと時に争い、時に協力しあって生きてきた。
いないことなど普通はありえないのだ。少なくとも地球上にそれらがまったく存在しない場所などハオは知らない。
「ねぇ、先生。ここは何処かな?」
「は?」
緊迫した空気の中、ハオの第一声は問いかけだった。
漠然とした質問に鵺野はどう答えようか悩む。それは鵺野だって知りたいぐらいだ。
先ほど島を囲むような海を見て、どこかの無人島かと推測していたのだがハオの推理を聞いて鵺野はしばし考え込んだ。
霊能力者だから気がつく異変。それは鵺野も感じたばかりの違和感だ。
――ここはおかしい。
「どうなってるのかは分からないけど、簡単には脱出できそうにないね」
「ここが普通じゃないっていうのは確かか……うむ」
考えなければならないことがまた一つ出来てしまった。
船や飛行機があれば脱出できるのではないか、と考えていたが何かしらの仕掛けが施されている可能性もある。
試してみなければ断言はできないが……。
異界か結界かそれかまた別の何かか。自然界に逆らっている異物な場所ということしか分からない。
ひとしきりの考察をしながら歩いていると、突然空から声が聞こえた。
「我が主人のため、お命頂戴致す!」
「――なっ!?」
癖なのか無意識なのか、子供の姿をしているハオを背に庇いながら鵺野は声の出所を探す。
鵺野は奇襲に備えると、長い長髪が目の端に映った。時代錯誤な服装をした女性が傘を構えている。
一触即発と思われたがある少年の叫びによってそれは未遂に終わる。
「ちょっと待てってば! ストップ! 」
+++
「なるほど、梨斗とその護衛のせっちゃんか」
「ええと……鵺野さんと……」
「僕は未来王ハオ、よろしく」
「はあ……」
せっちゃん(仮)こと本名猿飛あやめの暴走によって起こった騒動は、梨斗の努力によって大事には至らなかった。
こういうトラブルには悲しいことに慣れている。騒がしい女の子の扱い方は痛いほど知っていた。
結局、梨斗はあやめに本当のことを言い出すことができなかった。相手は完全に梨斗を信用している。
その真っ直ぐな視線に、一度発した言葉を撤回することなどできなかったのだ。
というか言おうとした途端にこの有様だ。新たな人間が増えてそれどころではない。
実際に戦ってみれば何か思い出すかも、と近くの民家で怪我の処置中あやめが武器を持って走っていってしまった時には驚いた。
体に叩き込まれた動きは記憶を失くした位ではなんてことないらしい。
動きはやはり普通の人間のものではない。本当に忍者なのかも、と梨斗は思う。
あやめが襲撃(未遂)した二人組みは殺し合いに乗っている人間ではないらしかった。
鵺野だからぬ~べ~なのか不思議なあだ名を持つ教師と、未来王と偉そうに名乗る年下の少年。
どっちも少々不思議な人物である。
どうしてこんな所に連れてこられたのか、と心当たりを話し合ったが目ぼしい情報は得られなかった。
お互いの探し人についても聞いてみたが成果はない。ハオの貼り付けたような笑顔が気になったが気のせいかもしれない。
あやめの記憶喪失は伏せておくことにした。
あやめは梨斗の護衛の忍者さんなのだ。
初めにそう鵺野達にあやめが名乗ってしまって、完全に梨斗は言い出す隙を見失った。
今更嘘でした、なんてこの空気では言えない。
(うう……情けないな、俺)
ララと合流できたら記憶喪失を治す方法を聞いてみよう。ララは不思議なアイテムを大量に持っている。
おかしな病気や特性を持つ宇宙人なのだ。記憶喪失ぐらい簡単に治してしまうかもしれない。
そのときにちゃんと謝ろう。
ララがこの場所に呼ばれているかは梨斗には分からなかったが、妙な確信があった。
殺し合いという異常な舞台。梨斗のような一般人がわざわざ呼ばれるとはとても思えない。
考えられるのはララのおまけとして梨斗が呼ばれた可能性。
ララは一星のお姫様だ。殺し合いという悪趣味な出来事は今までなかったが、大なり小なりララ絡みでハプニングに巻き込まれている梨斗には納得できる話である。
もちろんララを責めるつもりはない。
ララがこんなことを意図したはずがない。きっと同じように心細い思いをしているに違いないのだ。
(みんな……無事でいてくれ)
こんな場所につれてこられてないのが一番だが、梨斗はそれを願うことしか出来ない。
記憶喪失について黙っているのは、梨斗なりの優しさでもあった。
梨斗は平凡だがとても心優しい少年である。混乱でとっさに嘘をついてしまったが、よくよく考えれば記憶喪失はすごく不安なのではないか。
他人も、自分でさえ分からない。それはとても恐ろしいことに思えた。
少なくとも梨斗だったら怖くて仕方がないと思う。自分は何者なのか、それを忘れて結城梨斗を失ってしまうのは怖い。
嘘でも不安を紛らわせられるのではないか。
現に、あやめの瞳も記憶喪失直後より輝きを増しているように思えた。自分の立ち位置が定まったからかもしれない。
嘘をついた責任はとる。あってまだ数時間だが梨斗を信頼しているようなあやめのためにも。
――記憶喪失の治し方も探そう。
知り合い探しともうひとつ、梨斗に目標が出来た。
+++
「特徴を教えてくれ」
梨斗と鵺野がお互いの探し人について詳しい情報交換をしている。
それから少し離れたところに傘で素振りをしている女性とそれを眺めて座っている少年がいた。
ハオとあやめには特に探している人はいない。ハオは誰がここに連れてこられているのか知らなかったし興味もなかった。
名簿も何を考えているのか真っ白で情報は一切ない。
あやめは記憶喪失だが、梨斗の護衛なのでその探し人の対象は同じだ。
梨斗は片っ端から知り合いの特徴を挙げている。誰が呼ばれているか分からないため、その情報共有には時間がかかりそうだ。
「はやく戦いの勘を取り戻さなきゃ――主人のために?」
「ええ、よく分かったわね」
ハオがあやめの気持ちを代弁するように話すと、あやめはやや驚いた様子で素振りしていた手を止めた。
視線の先には話している二人の姿が見える。
殺し合いという訳の分からないものに巻き込まれたが、主人である梨斗に出会えてよかったとあやめは思う。
記憶を失って空っぽだった頭に、梨斗は春菜やララ達の情報を加えてくれた。
「……坂田銀時」
「え?」
ハオが抑揚のない声色で呟く。
その単語に妙な胸騒ぎがした。
「知っているか」
「いいえ、知ら、ない」
空っぽの記憶にそんな名前は入っていない。だけど凄く懐かしいような不思議な気分になる響きだ。
歯切れ悪く答えると、ハオは悪戯っこのような笑顔を浮かべながら呟く。
「君が好いてる男の名だよ」
「あなた、私のこと知ってるの?」
あやめの問いにハオは数瞬悩むそぶりをしながら頷く。
「彼よりはよっぽどね。君の名前は猿飛あやめ――さっちゃんと呼ばれていた」
「さっちゃん……?」
猿飛あやめ。
不思議と嫌な思い出が蘇りそうにある。名前関係で昔何かあったのだろうか。
「さっちゃん、……さっちゃん。そうね、なんだか凄くしっくりくるわ」
「言霊っていってね、言葉には魂が宿るものなんだ。忘れようとも惹かれ合う」
「……ちょっと待って。梨斗は私を『瀬田宗次郎』って言ったわ。あなた嘘を、」
「それは男の名前じゃないか」
確かに。宗次郎なんてダサくて地味な名前、自分には似つかわしくないと思っていた。
即答したハオに反論を封じられて、あやめはある仮定を口にした。
「梨斗が嘘を……?」
信じられない。何のために?
いや、ハオという男が嘘をついている?
だが、ハオのもたらした懐かしい響きは不思議な説得力があった。
坂田銀時。名前を聞くだけで胸がざわめく。
猿飛あやめ。不鮮明ながらタカビーな女が何か悪口的なものを言っている映像が一瞬浮かぶ。
「僕はこれ以上、君に関してのことはしらない。彼が何を思い君に嘘をつくのかも分からない。でも、」
「……」
「――油断するな」
ハオの忠告があやめの脳裏に響き渡った。
+++
「じゃあ、また後で」
学校の前でひとまず梨斗達と鵺野達は別れる事になった。
鵺野達は学校での捜索。梨斗達は一足先に中央へと向かう。
12時頃に中央の病院で落ち合う約束も取り付けた。
お互いに探し人がいるのだ。二手に別れて手数を増やしたほうが効率がいい。
戦力分散もちょうど良いだろう。あやめの実力は戦闘未遂で知れている。
鵺野がハオと行動するのは目を離さないようにするためだ。相変わらず穏やかな様子を崩さないが、あの強大な霊力は油断できない。
鵺野には多少なりともそれに対抗する手段がある。
それに梨斗とあやめは元の世界の知り合いらしい。組み分けは結局そのままとなった。
ハオは梨斗達を笑みを浮かべながら見送った。
梨斗を春菜の元へとうまく誘導することもできた。ここから桜の木は近い。きっと気がつくだろう。
その確信がハオにはある。縁というものは侮れないのだ。
梨斗と一緒に行動していた猿飛あやめも興味深かった。
記憶喪失。梨斗とあやめの二人の心を読んでいると事態は少々複雑なようだった。
――油断するな。
ハオはあやめに疑心暗鬼の種を植え付けただけだ。どう育つのかはあやめ次第だ。
だがハオは知っている。人間がいかに脆いか。簡単に疑心に囚われてしまうか。ハオが落とす必要はない。人は勝手に落ちていく。
昼に落ち合う約束もした。それまでにあの二人はどうなっているだろうか?
あやめの疑心、梨斗と春菜。これらが絡み合い、どのような結果を生み出すのかまではハオには分からない。
「行くぞ」
鵺野に言われてハオはその後をゆっくりと付いていく。
鵺野は再び彼らと出会ったとき、片方もしくは両方欠けていたらどう思うだろう。
守れなかったと悔やむだろうか。悲しむだろうか。自分を責めるだろうか。
そのときが覇鬼と鵺野の魂をS.O.Fに捕食させるチャンスになるかもしれない。
【D-5 学校 一日目 黎明】
【鵺野鳴介@地獄先生ぬ~べ~】
【装備】:白衣観音経@地獄先生ぬ~べ~
【所持品】:支給品一式、不明支給品0~2個(本人確認済み)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:学校を探索 。広、梨斗の知り合いを保護する
2:ハオに警戒。
3:市街地を探索
【備考】
ガンツの部屋で確認した参加者は広のみです。
ゆきめ、玉藻が参加していることには気付いていません。
12時頃に梨斗達と病院で落ち合う約束をしています。
【麻倉ハオ@シャーマンキング】
【装備】:S&W M36 (残り弾数4/5) 、1080@シャーマンキング
【所持品】:支給品一式×2、不明支給品0~2個、春菜の不明支給品0~2個。
(怪しまれないよう、バッグ一つに統合済み)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:鵺野の心を壊して弱らせた上で隙を突いて殺害し、覇鬼と鵺野の魂をS.O.Fに捕食させる
2:鵺野に殺させた人間の魂をS.O.F に喰わせて成長させる。
3:対主催チームに潜り込むか、マーダーを利用したい。
4:とりあえず鵺野の行動に付き合う
【スピリット・オブ・ファイアについて】
ハオの持ち霊。素霊状態では弱い炎しか出せないようです。
力や格のある魂を喰うと、成長します。
成長すると乗って空を飛べたり、指で串刺しにしたり、人間を溶かすことができます。
(どの程度の魂を食べれば、力を取り戻せるのかは次の書き手任せです)
12時頃に梨斗達と病院で落ち合う約束をしています。
ハオの言葉が頭から離れない。
二人っきりに戻ってしまって、おかしな寂しさを感じつつ梨斗とあやめは歩いていた。
「……せっちゃん?」
様子のおかしいあやめに梨斗は心配そうに声をかけた。
「やっぱりせっちゃんなんて名前は嫌よ。さっちゃんにして」
「元気ないと思ったらまだ名前で悩んでたのかよ!」
「私は護衛だけどレズでもデコでもないわ」
「……段々俺慣れてきたかも」
調子が戻ってきたあやめに梨斗はほっとする。この軽口にも段々慣れてきた。
学校からしばらく東に進むと、巨大な桜がより鮮明に見えてくる。
「すげー……」
ぽつり、と梨斗が声を漏らすとあやめが梨斗の腕を引いた。
あれ、と指を指した先。桜の近くに立っているのは、見知った人物。
あやめも梨斗から外見的特徴をよく聞いていた。
「――西連寺!」
黒髪の美少女が、そこに立っていた。
【E-6 桜付近 / 一日目 黎明】
【結城梨斗@to loveる】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 ワゴム×19@ONE PIECE 他支給品0~2(未確認)
【状態】:精神的疲労(極小/回復中)、顎から目元までに掛けての切り傷
【思考・行動】
1:知り合い、広を探す。
2:記憶喪失については話さないままとりあえず現状維持。記憶喪失を直す方法を探したい。
3:もしも知り合いが居るとしたら皆を守りたい。
4:ゲームからの脱出。
【猿飛あやめ@銀魂】
【装備】:仕込み傘@銀魂
【所持品】:支給品一式 他支給品0~2(未確認)
【状態】:健康、記憶喪失 、微かな疑心暗鬼
【思考・行動】
1:梨斗やその仲間を守る?
2:ゲームからの脱出。
※梨斗の言うことを完璧に信用していたはずですが、ハオの言葉に動揺中。
銀時の名前に強い何かを感じています。
【XI@魔人探偵脳噛ネウロ】
【装備】:童実野高校の女子制服@遊戯王 春菜の髪留め
【所持品】:支給品一式 不明支給品(0~2)
【状態】:西蓮寺春菜の姿 肋骨損傷(数時間で回復可能)
【思考・行動】
1:この会場の奴らの『中身』を見て、自分の『中身』を見つける。
2:変身能力で混乱を起こす。できれば集団。自力での襲撃も行動範囲内。
※ 参戦時期は、HALⅡからHALの目を得た直後です
故に、電子ドラッグを使う事ができます。本来はサイの指令を刻み込む、つまり支配下に置くこともできますが、
制限によりその力は使えず、また効果もそれほど大きくなく、
「犯罪への禁忌感を減らす」、要は相手を犯罪に走らせやすくする程度です。
サイはまだその制限を自覚していません。
※ ワポルが定期放送で死亡者の発表について触れなかった為、死亡者発表については知りません。
※ 春菜の名前を知りません
※ 江田島平八を『凄い奴』と認識。
|028:[[神への道]]|CENTER:[[投下順>本編(投下順)]]|030:[[ヒソカの性欲×1stステージ×桃の決意]]|
|028:[[神への道]]|CENTER:[[時間順>本編(時間順)]]|030:[[ヒソカの性欲×1stステージ×桃の決意]]|
|018:[[鬼]]|鵺野鳴介||
|018:[[鬼]]|麻倉ハオ||
|002:[[どうでもいいことに限ってなかなか忘れない]]|結城梨斗|041:[[LIAR GAME]]|
|002:[[どうでもいいことに限ってなかなか忘れない]]|猿飛あやめ|041:[[LIAR GAME]]|
|025:[[見よ!塾長は紅く燃えている]]|XI|041:[[LIAR GAME]]|
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**想い人
闇夜を二人の男が歩いている。
一人は青年。一人は少年。ぴりっとした微かな緊張感を漂わせ、二人の距離が埋まることはない。
どちらかが歩み寄らない限り、溝はそのままだ。
鵺野は得体の知れないハオを警戒しているのもあるが、一番心を占めているのは広のことだ。
生徒を守ると公言して憚らない鵺野だ。広のことが心配で仕方がない。
広は勇気もあるし、行動力だって桁違いの鵺野自慢の生徒だ。しかし、ここは殺し合いの舞台なのだ。
どんなに勇敢でも広は子供。鵺野のような能力を持たないただの小学生。
早く見つけてやらなければ。自分でなくても良い。誰か良い人間に保護されていればいいが……。
(無事でいてくれ……)
そんな鵺野を見て、ハオは歩く速度を落とした。言葉にしなくたってハオには鵺野の心が手に取るように分かるので何も言わない。
生徒の身を案じている鵺野をよそに、ハオは辺りを見回した。
周りは特になにもない平地。舗装されてはいるが道路は新品のように美しい。
――おかしい。違和感は最初からあったのだ。
霊や精霊がまったく見当たらない。
地球は様々な魂が溢れている。花に宿る妖精、物に宿る意思、強い人間の思い。
どこにだって彼らは居る。シャーマンはそれらと時に争い、時に協力しあって生きてきた。
いないことなど普通はありえないのだ。少なくとも地球上にそれらがまったく存在しない場所などハオは知らない。
「ねぇ、先生。ここは何処かな?」
「は?」
緊迫した空気の中、ハオの第一声は問いかけだった。
漠然とした質問に鵺野はどう答えようか悩む。それは鵺野だって知りたいぐらいだ。
先ほど島を囲むような海を見て、どこかの無人島かと推測していたのだがハオの推理を聞いて鵺野はしばし考え込んだ。
霊能力者だから気がつく異変。それは鵺野も感じたばかりの違和感だ。
――ここはおかしい。
「どうなってるのかは分からないけど、簡単には脱出できそうにないね」
「ここが普通じゃないっていうのは確かか……うむ」
考えなければならないことがまた一つ出来てしまった。
船や飛行機があれば脱出できるのではないか、と考えていたが何かしらの仕掛けが施されている可能性もある。
試してみなければ断言はできないが……。
異界か結界かそれかまた別の何かか。自然界に逆らっている異物な場所ということしか分からない。
ひとしきりの考察をしながら歩いていると、突然空から声が聞こえた。
「我が主人のため、お命頂戴致す!」
「――なっ!?」
癖なのか無意識なのか、子供の姿をしているハオを背に庇いながら鵺野は声の出所を探す。
鵺野は奇襲に備えると、長い長髪が目の端に映った。時代錯誤な服装をした女性が傘を構えている。
一触即発と思われたがある少年の叫びによってそれは未遂に終わる。
「ちょっと待てってば! ストップ! 」
+++
「なるほど、梨斗とその護衛のせっちゃんか」
「ええと……鵺野さんと……」
「僕は未来王ハオ、よろしく」
「はあ……」
せっちゃん(仮)こと本名猿飛あやめの暴走によって起こった騒動は、梨斗の努力によって大事には至らなかった。
こういうトラブルには悲しいことに慣れている。騒がしい女の子の扱い方は痛いほど知っていた。
結局、梨斗はあやめに本当のことを言い出すことができなかった。相手は完全に梨斗を信用している。
その真っ直ぐな視線に、一度発した言葉を撤回することなどできなかったのだ。
というか言おうとした途端にこの有様だ。新たな人間が増えてそれどころではない。
実際に戦ってみれば何か思い出すかも、と近くの民家で怪我の処置中あやめが武器を持って走っていってしまった時には驚いた。
体に叩き込まれた動きは記憶を失くした位ではなんてことないらしい。
動きはやはり普通の人間のものではない。本当に忍者なのかも、と梨斗は思う。
あやめが襲撃(未遂)した二人組みは殺し合いに乗っている人間ではないらしかった。
鵺野だからぬ~べ~なのか不思議なあだ名を持つ教師と、未来王と偉そうに名乗る年下の少年。
どっちも少々不思議な人物である。
どうしてこんな所に連れてこられたのか、と心当たりを話し合ったが目ぼしい情報は得られなかった。
お互いの探し人についても聞いてみたが成果はない。ハオの貼り付けたような笑顔が気になったが気のせいかもしれない。
あやめの記憶喪失は伏せておくことにした。
あやめは梨斗の護衛の忍者さんなのだ。
初めにそう鵺野達にあやめが名乗ってしまって、完全に梨斗は言い出す隙を見失った。
今更嘘でした、なんてこの空気では言えない。
(うう……情けないな、俺)
ララと合流できたら記憶喪失を治す方法を聞いてみよう。ララは不思議なアイテムを大量に持っている。
おかしな病気や特性を持つ宇宙人なのだ。記憶喪失ぐらい簡単に治してしまうかもしれない。
そのときにちゃんと謝ろう。
ララがこの場所に呼ばれているかは梨斗には分からなかったが、妙な確信があった。
殺し合いという異常な舞台。梨斗のような一般人がわざわざ呼ばれるとはとても思えない。
考えられるのはララのおまけとして梨斗が呼ばれた可能性。
ララは一星のお姫様だ。殺し合いという悪趣味な出来事は今までなかったが、大なり小なりララ絡みでハプニングに巻き込まれている梨斗には納得できる話である。
もちろんララを責めるつもりはない。
ララがこんなことを意図したはずがない。きっと同じように心細い思いをしているに違いないのだ。
(みんな……無事でいてくれ)
こんな場所につれてこられてないのが一番だが、梨斗はそれを願うことしか出来ない。
記憶喪失について黙っているのは、梨斗なりの優しさでもあった。
梨斗は平凡だがとても心優しい少年である。混乱でとっさに嘘をついてしまったが、よくよく考えれば記憶喪失はすごく不安なのではないか。
他人も、自分でさえ分からない。それはとても恐ろしいことに思えた。
少なくとも梨斗だったら怖くて仕方がないと思う。自分は何者なのか、それを忘れて結城梨斗を失ってしまうのは怖い。
嘘でも不安を紛らわせられるのではないか。
現に、あやめの瞳も記憶喪失直後より輝きを増しているように思えた。自分の立ち位置が定まったからかもしれない。
嘘をついた責任はとる。あってまだ数時間だが梨斗を信頼しているようなあやめのためにも。
――記憶喪失の治し方も探そう。
知り合い探しともうひとつ、梨斗に目標が出来た。
+++
「特徴を教えてくれ」
梨斗と鵺野がお互いの探し人について詳しい情報交換をしている。
それから少し離れたところに傘で素振りをしている女性とそれを眺めて座っている少年がいた。
ハオとあやめには特に探している人はいない。ハオは誰がここに連れてこられているのか知らなかったし興味もなかった。
名簿も何を考えているのか真っ白で情報は一切ない。
あやめは記憶喪失だが、梨斗の護衛なのでその探し人の対象は同じだ。
梨斗は片っ端から知り合いの特徴を挙げている。誰が呼ばれているか分からないため、その情報共有には時間がかかりそうだ。
「はやく戦いの勘を取り戻さなきゃ――主人のために?」
「ええ、よく分かったわね」
ハオがあやめの気持ちを代弁するように話すと、あやめはやや驚いた様子で素振りしていた手を止めた。
視線の先には話している二人の姿が見える。
殺し合いという訳の分からないものに巻き込まれたが、主人である梨斗に出会えてよかったとあやめは思う。
記憶を失って空っぽだった頭に、梨斗は春菜やララ達の情報を加えてくれた。
「……坂田銀時」
「え?」
ハオが抑揚のない声色で呟く。
その単語に妙な胸騒ぎがした。
「知っているか」
「いいえ、知ら、ない」
空っぽの記憶にそんな名前は入っていない。だけど凄く懐かしいような不思議な気分になる響きだ。
歯切れ悪く答えると、ハオは悪戯っこのような笑顔を浮かべながら呟く。
「君が好いてる男の名だよ」
「あなた、私のこと知ってるの?」
あやめの問いにハオは数瞬悩むそぶりをしながら頷く。
「彼よりはよっぽどね。君の名前は猿飛あやめ――さっちゃんと呼ばれていた」
「さっちゃん……?」
猿飛あやめ。
不思議と嫌な思い出が蘇りそうにある。名前関係で昔何かあったのだろうか。
「さっちゃん、……さっちゃん。そうね、なんだか凄くしっくりくるわ」
「言霊っていってね、言葉には魂が宿るものなんだ。忘れようとも惹かれ合う」
「……ちょっと待って。梨斗は私を『瀬田宗次郎』って言ったわ。あなた嘘を、」
「それは男の名前じゃないか」
確かに。宗次郎なんてダサくて地味な名前、自分には似つかわしくないと思っていた。
即答したハオに反論を封じられて、あやめはある仮定を口にした。
「梨斗が嘘を……?」
信じられない。何のために?
いや、ハオという男が嘘をついている?
だが、ハオのもたらした懐かしい響きは不思議な説得力があった。
坂田銀時。名前を聞くだけで胸がざわめく。
猿飛あやめ。不鮮明ながらタカビーな女が何か悪口的なものを言っている映像が一瞬浮かぶ。
「僕はこれ以上、君に関してのことはしらない。彼が何を思い君に嘘をつくのかも分からない。でも、」
「……」
「――油断するな」
ハオの忠告があやめの脳裏に響き渡った。
+++
「じゃあ、また後で」
学校の前でひとまず梨斗達と鵺野達は別れる事になった。
鵺野達は学校での捜索。梨斗達は一足先に中央へと向かう。
12時頃に中央の病院で落ち合う約束も取り付けた。
お互いに探し人がいるのだ。二手に別れて手数を増やしたほうが効率がいい。
戦力分散もちょうど良いだろう。あやめの実力は戦闘未遂で知れている。
鵺野がハオと行動するのは目を離さないようにするためだ。相変わらず穏やかな様子を崩さないが、あの強大な霊力は油断できない。
鵺野には多少なりともそれに対抗する手段がある。
それに梨斗とあやめは元の世界の知り合いらしい。組み分けは結局そのままとなった。
ハオは梨斗達を笑みを浮かべながら見送った。
梨斗を春菜の元へとうまく誘導することもできた。ここから桜の木は近い。きっと気がつくだろう。
その確信がハオにはある。縁というものは侮れないのだ。
梨斗と一緒に行動していた猿飛あやめも興味深かった。
記憶喪失。梨斗とあやめの二人の心を読んでいると事態は少々複雑なようだった。
――油断するな。
ハオはあやめに疑心暗鬼の種を植え付けただけだ。どう育つのかはあやめ次第だ。
だがハオは知っている。人間がいかに脆いか。簡単に疑心に囚われてしまうか。ハオが落とす必要はない。人は勝手に落ちていく。
昼に落ち合う約束もした。それまでにあの二人はどうなっているだろうか?
あやめの疑心、梨斗と春菜。これらが絡み合い、どのような結果を生み出すのかまではハオには分からない。
「行くぞ」
鵺野に言われてハオはその後をゆっくりと付いていく。
鵺野は再び彼らと出会ったとき、片方もしくは両方欠けていたらどう思うだろう。
守れなかったと悔やむだろうか。悲しむだろうか。自分を責めるだろうか。
そのときが覇鬼と鵺野の魂をS.O.Fに捕食させるチャンスになるかもしれない。
【D-5 学校 一日目 黎明】
【鵺野鳴介@地獄先生ぬ~べ~】
【装備】:白衣観音経@地獄先生ぬ~べ~
【所持品】:支給品一式、不明支給品0~2個(本人確認済み)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:学校を探索 。広、梨斗の知り合いを保護する
2:ハオに警戒。
3:市街地を探索
【備考】
ガンツの部屋で確認した参加者は広のみです。
ゆきめ、玉藻が参加していることには気付いていません。
12時頃に梨斗達と病院で落ち合う約束をしています。
【麻倉ハオ@シャーマンキング】
【装備】:S&W M36 (残り弾数4/5) 、1080@シャーマンキング
【所持品】:支給品一式×2、不明支給品0~2個、春菜の不明支給品0~2個。
(怪しまれないよう、バッグ一つに統合済み)
【状態】:健康
【思考・行動】
1:鵺野の心を壊して弱らせた上で隙を突いて殺害し、覇鬼と鵺野の魂をS.O.Fに捕食させる
2:鵺野に殺させた人間の魂をS.O.F に喰わせて成長させる。
3:対主催チームに潜り込むか、マーダーを利用したい。
4:とりあえず鵺野の行動に付き合う
【スピリット・オブ・ファイアについて】
ハオの持ち霊。素霊状態では弱い炎しか出せないようです。
力や格のある魂を喰うと、成長します。
成長すると乗って空を飛べたり、指で串刺しにしたり、人間を溶かすことができます。
(どの程度の魂を食べれば、力を取り戻せるのかは次の書き手任せです)
12時頃に梨斗達と病院で落ち合う約束をしています。
ハオの言葉が頭から離れない。
二人っきりに戻ってしまって、おかしな寂しさを感じつつ梨斗とあやめは歩いていた。
「……せっちゃん?」
様子のおかしいあやめに梨斗は心配そうに声をかけた。
「やっぱりせっちゃんなんて名前は嫌よ。さっちゃんにして」
「元気ないと思ったらまだ名前で悩んでたのかよ!」
「私は護衛だけどレズでもデコでもないわ」
「……段々俺慣れてきたかも」
調子が戻ってきたあやめに梨斗はほっとする。この軽口にも段々慣れてきた。
学校からしばらく東に進むと、巨大な桜がより鮮明に見えてくる。
「すげー……」
ぽつり、と梨斗が声を漏らすとあやめが梨斗の腕を引いた。
あれ、と指を指した先。桜の近くに立っているのは、見知った人物。
あやめも梨斗から外見的特徴をよく聞いていた。
「――西連寺!」
黒髪の美少女が、そこに立っていた。
【E-6 桜付近 / 一日目 黎明】
【結城梨斗@to loveる】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 ワゴム×19@ONE PIECE 他支給品0~2(未確認)
【状態】:精神的疲労(極小/回復中)、顎から目元までに掛けての切り傷
【思考・行動】
1:知り合い、広を探す。
2:記憶喪失については話さないままとりあえず現状維持。記憶喪失を直す方法を探したい。
3:もしも知り合いが居るとしたら皆を守りたい。
4:ゲームからの脱出。
【猿飛あやめ@銀魂】
【装備】:仕込み傘@銀魂
【所持品】:支給品一式 他支給品0~2(未確認)
【状態】:健康、記憶喪失 、微かな疑心暗鬼
【思考・行動】
1:梨斗やその仲間を守る?
2:ゲームからの脱出。
※梨斗の言うことを完璧に信用していたはずですが、ハオの言葉に動揺中。
銀時の名前に強い何かを感じています。
【XI@魔人探偵脳噛ネウロ】
【装備】:童実野高校の女子制服@遊戯王 春菜の髪留め
【所持品】:支給品一式 不明支給品(0~2)
【状態】:西蓮寺春菜の姿 肋骨損傷(数時間で回復可能)
【思考・行動】
1:この会場の奴らの『中身』を見て、自分の『中身』を見つける。
2:変身能力で混乱を起こす。できれば集団。自力での襲撃も行動範囲内。
※ 参戦時期は、HALⅡからHALの目を得た直後です
故に、電子ドラッグを使う事ができます。本来はサイの指令を刻み込む、つまり支配下に置くこともできますが、
制限によりその力は使えず、また効果もそれほど大きくなく、
「犯罪への禁忌感を減らす」、要は相手を犯罪に走らせやすくする程度です。
サイはまだその制限を自覚していません。
※ ワポルが定期放送で死亡者の発表について触れなかった為、死亡者発表については知りません。
※ 春菜の名前を知りません
※ 江田島平八を『凄い奴』と認識。
|028:[[神への道]]|CENTER:[[投下順>本編(投下順)]]|030:[[ヒソカの性欲×1stステージ×桃の決意]]|
|028:[[神への道]]|CENTER:[[時間順>本編(時間順)]]|030:[[ヒソカの性欲×1stステージ×桃の決意]]|
|018:[[鬼]]|鵺野鳴介|042:[[えっちぃのは嫌いです ~マリオン・ファウナの場合~]]|
|018:[[鬼]]|麻倉ハオ|042:[[えっちぃのは嫌いです ~マリオン・ファウナの場合~]]|
|002:[[どうでもいいことに限ってなかなか忘れない]]|結城梨斗|041:[[LIAR GAME]]|
|002:[[どうでもいいことに限ってなかなか忘れない]]|猿飛あやめ|041:[[LIAR GAME]]|
|025:[[見よ!塾長は紅く燃えている]]|XI|041:[[LIAR GAME]]|
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