無名草子さん :2007/09/24(月) 08:02:54
流れ切ってすまんが、
倫理で、前田英樹『倫理という力』(講談社現代新書)はどうだろう。
まだ出てなかったよね?
読んでみてかなり正確に論が詰められていて良書だと感じたのだけれど…
誰か評価してくれんかな

長文ちょっと失礼 :2007/10/01(月) 03:37:14
>>611-619
前田英樹『倫理という力』読んでみました。
文章はかなり意識的に日常的な言葉で書かれており、非常に読みやすい。
普通の哲学本なら「他者」などという言葉を頻発するところを、
「人様」というもう少し下世話な言葉を使っているのもよい工夫だと思う。
しかし読む前からある程度予想していたのだが、
案の定、論の立て方や運びが自分にとってかなり気に食わない部分が目に付く。
まず、いきなり「理屈は人を救わない」などと書いてしまうのは反則ではないか。
実直な職人気質のトンカツ屋のオッサンを引き合いに出してきて「怖れよ」と言うのも卑怯。
そりゃそういう偉いオヤジが出てきたら誰も文句言えないけどさ。
功利主義的な議論をすっとばして(むろん倫理は功利主義に還元できないのは自明だが)
最初から「倫理の原液」という超越的なものを出してきてしまうのもどうなのか。
また「なぜ人を殺してはいけないの」をめぐるメディアの俗論や
「インテリの俗論」に対して上から目線で冷笑しつつ、
著者自身も「現代人からモラルが消え不気味な殺人が増えている」かのような
メディアの通俗的なイメージに無批判に依拠していたりする。
そういう部分も含めておおまかな雰囲気は内田樹にも近い。

 

長文続き :2007/10/01(月) 03:39:40
前田氏はスピノザやベルクソンに依拠し、内田氏はラカンやレヴィナスに依拠しているが、
言っていることはよく似ている。
内田氏のように小賢しいレトリックを弄ばないところは好感が持てるが。
倫理学者以外では養老孟司や橋本治にも近いだろう。
倫理は技術とともに継承されるという論旨はよくわかるし、
宮大工を例にとって道具連関と倫理のあり方を精緻にたどっている記述はすばらしいとは思う。
しかし宮大工のような特権的な人ばかりを持ち上げて、
機械をくさすのはやっぱり視野が狭いんだなぁと思ってしまう。
町工場の職人のおっさんも機械を使っているが、
基本的にはその倫理のあり方は宮大工と同じではないか(小関智弘の本などを参照)
いわゆる「功利主義」とは違う「ものの役に立つ」ことを指標とした倫理学は、
確かに説得力はあるが、これは基本的に「強者」の倫理学だ。
これだとホームレスとか、パックの刺身にタンポポ載せて日銭をもらっている人には倫理が発生する余地がない。
最後のストラーテンや小津安二郎によせて「在るものを愛する」倫理を語った文章はすごくいいと思うし、
これに感動する人がいるのはわかる。しかしもっと功利的な態度で社会問題を解決すべき時に、
こういう風に静かに倫理を説かれても、ちょっと腹立たしいと俺は思う。
自分は全く哲学や倫理学を体系的に学んだ事はないので、
これは批判というより単なる個人的なチラシ裏だと受け取ってください。
ベストに入れるのも、クォリティ的には特に反対ではない。

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