255 :長文注意:2008/05/16(金) 20:12:54
堤未果『ルポ・貧困大国アメリカ』を読んだ感想。
プロローグでは導入としてサブプライム問題が取り上げられる。
正直、プロローグだけで読み進める気力がかなり萎えた。固有の経済問題として分析するのではなく、
市場原理の悪、資本による搾取という大雑把な図式に押し込めるだけ。
もう著者の脳の回路が「反市場原理主義」で固まってしまっていて、自分のイデオロギー的図式を懐疑する気一切ありません
という強い意志がひしひしと伝わってくる。「市場原理主義」批判というより、反市場「原理主義」。
(前者は十分検討に値するが、後者は「市場原理主義」と同じく「原理主義」の一種)

第一章は米では貧乏人ほどデブが多いという今では誰でも知っている話。
確かにこれを貧乏人の自己責任に帰するのは間違いだし、栄養学的「貧しさ」を押し付けられていると言っていいだろう。
それはそれで大きな問題だが、これは「市場原理が貧困をもたらす」例としてふさわしいだろうか?
社会全体が充分「豊か」でない限り、「貧乏人ほど肥満」という現象は起こらないんじゃないすか?
その「豊かさ」が倫理的な意味で「本当に」豊かかどうかはまた別の話。

256 :続き どーーん!:2008/05/16(金) 20:14:27
第二章はハリケーンカトリーナによるルイジアナの惨状について。ルポとしては悪くないのだろうが、
原因の分析となると相変わらず単純な新自由主義悪玉論で思考停止している。
FEMA(連邦緊急事態連邦庁)の実質民営化によって無責任体制が生じ被害者が見捨てられたとのこと。
その事実認識は正しいのだろうが、「民営化」自体が悪いとするのは問題のすり替えだろう。
日本の耐震偽装事件でもこの類の愚論がまかり通っていたが、
要は責任へのインセンティブが生じるような制度設計が必要だということであって、
民営は金儲け主義で効率第一主義だからモラルがないというような幼稚な話をされても困る。
民間では責任を担えるようなシステムは不可能であることをある程度論証した上で、
国民の安全に関しては国家や公共性に委ねましょう、という議論ならわかるが。
第三章は医療問題。ここはあまり異論はない。アメリカの医療制度の悲惨さは昔から知られており、
医療制度は国民皆保険を基礎とすべしでほぼ決着がついている。
単純な市場原理を医療に適用するのは間違いだというのは正しいし、
日本でも医療供給不足による医療崩壊が進んでいるので、アメリカの悲惨さを教訓にするのはいいだろう。
しかしこれも医療経済学などを参照しながら慎重に制度設計をするべきもので、

257 :続き どーーん!:2008/05/16(金) 20:16:00
医療制度を単にイギリス型やキューバ型にすればいいというものでもない。
この章でも民間保険会社を非情なモンスターのように描写する情緒的な書き方が気になる。
第四章・第五章では、貧困に追いやられた若者が否応なく戦場に送り込まれ使い捨てられる残酷なシステム、及び戦争民営化について。
この件に関してはは自分もよく知らなかったし、一般にもあまり知られていないであろうし、興味深い取材がされていると思う。
しかしやはり問題の整理の仕方が相変わらず浅薄かつ図式的。勧善懲悪。
「資本・国家権力・軍が結託して新自由主義システムによって貧困を故意に作り出し、戦争というビジネスに駆り立てている」
という陰謀論的な論述の仕方。むろん「陰謀なんてない」とも断言できないが、
自分の記事が陰謀論に基づく単なるプロパガンダに陥る危険について一切配慮のないジャーナリストというのは評価する気にならない。
エピローグでは「ショッピングをやめよ」「買い物をするたびに、海の向こうでは貧しい者たちが搾取される」
と説く牧師が肯定的に紹介され、例によって消費社会が糾弾される。
まぁフェアトレードのようなオルタナティブを頭から無意味だと言うことはできないが、
本当のところどこまで貧困撲滅に有効なのかも検証しないで自己満足的な善意だけで信仰するのはどうかと思う。
著者は「貧困ビジネス」を糾弾してるが、岩波が格差貧困ブームで貧困本を売りまくるのも貧困ビジネスじゃないのか?
「自分らは貧困者のためにやっているので、金儲けだけのためにやっている大企業とは違う」とでも言うのかな。
さらに著者は英コラムニストの言を引いて「ひとりひとりが倫理を変えることが重要だ」と言い切るわけだが、
もうここまで来ると降参、どうでもよくなってくる。
モラルハザードはひとりひとりがモラルを守ることで防げます♪とか真顔で言っちゃう系の人なのか。
しかしこれ、ネットでも絶賛が多いのには呆れる。探せば批判もあるのかもしれんが。

258 :無名草子さん:2008/05/16(金) 20:32:41
簡潔にまとめると、ルポとしての価値は否定しないが、
岩波サヨ的な浅~い反市場原理主義がアレだってことですね。
大事なことなのでクドく書きました。

260 :無名草子さん:2008/05/16(金) 20:54:06
>>257
的外れの感想もいいところ

262 :260じゃないけど:2008/05/16(金) 21:36:58
>岩波サヨ的な浅~い反市場原理主義
という偏見を前提に考えてものを言ってる気がするな。
ルポで書かれてるのは、貧困層にある人間が這い上がることが出来ずに、
ますます厳しい状況に追いやられていく、という構造を書いたもので
「資本・国家権力・軍が結託して」なんてこた書いてないでしょうに、陰謀って
まあ、自分も恣意的な部分は感じたけど
(共和党は個人で批判するが、民主党は言わない。サブプライムを作ったのはクリントンなのにとか)
全然いい本だと思う。やっぱアメリカのガキは水みたいにコーラを飲むんだな。とか(代替がオレンジジュースって!)

263 :無名草子さん:2008/05/16(金) 21:54:38
こんな感想書いてるようじゃ、俺怒っちゃうよ、マジでww

264 :無名草子さん:2008/05/16(金) 22:13:42
>>262
たとえばp177では「政府は格差を拡大する政策を次々と打ち出すだけでいいのです。(ry」
パメラ某の発言が載せられている。
これは政府主体の意図として格差拡大が故意に行われているという印象を与える。
著者自身の発言ではないが、他人の発言を引用しただけという客観性を担保しながら、
こっそり陰謀の存在をほのめかしているように読める。
p142の「誰がメディアの裏側にいるのか」
という問題のとらえ方だけを本質的なものとする構え方も陰謀論的では?
ジャーナリストは陰謀を突き止めるのも仕事だから仕方ないとは思うが。
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 [参考スレ]

『ルポ貧困大国アメリカ』を100万部まで押上げスレ
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/books/1208386161/

[参考書籍]

J・E・スティグリッツ『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』
ポール・クルーグマン『格差はつくられた』

 

 

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最終更新:2019年03月13日 01:10