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202

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202.あの日へと続く道

夢。夢を見ていた。
道を、歩いている夢だ。
少女の周りには、幾人もの人が。
それは、クルセイダーの女で、弓手の少女で、ペコと黒い馬を従えた薬師で、鎌を持つ小さな山羊で、赤毛で逆毛の悪漢であった。
そして、coolな(悪漢直伝の形容である)魔導師であり、慧眼を持つ賢者であり、優しい目の弓手の少年でもあった。
彼等は笑っている。進む先は時計塔。少女が独断で招いたからだ。少女ほどの年齢に特有の我儘とも言う。

少女の名誉の為に述べておくなら、普段滅多にそんな事は言わないし、
今、そうしているのも、その滅多にない事、が実際に起こったからである。
(多分、困った顔をしながらも、笑って心臓が止まるほどに心配していた住人達は少女の提案を呑むだろう)

軽い足取りで、道を歩きながら、少女は思う。

あの場所に戻ったら沢山話そう。
色々な事を。一日では足りない位。
皆でいっしょに。少し、言いつけを破って夜更かしをするかもしれないけれど。
きっと、とても心配しているだろうから、後で怒られるかもしれない。
──でも、なんとなく怒られても構わない、そんな気がするから。
今は、只、色々な事を話したかった。理由は良く判らないけれど、それが一番優先しなければいけない事の様に、感じていた。

仮面の詩人は、一足先に塔に戻ると言っていた。
少し、用事があるのかも知れなかった。
それが何なのかは判らなかったが、少女は彼の詩人の事を信頼していたから疑わなかった。
(そして、彼女は疑う、という事を知らなかった。良くも悪くも周囲の状況が彼女をそう育てていたからだ)

悪く言えば、幼さ故の愚鈍。良く言えば何者にも染まっていない純粋。
とにかく少女はそういう性質(タチ)だった。だから、詩人を信じていた。
勿論、時計塔の皆も、そして今共に歩く人たちも。
何時もの様なあの日、皆の居る場所で、自分達はきっと笑いあえる。
人と魔物の垣根を越えて。

ふと、思う。これは夢だ。夢だから、自分はこうして歩いている。
ならば、現実は。本当の世界は。
一体、どうなったのか。

或いは、少女がそんな事を考えた──自身の世界を疑った。この瞬間。

さて──愛する事は、ある種信じる事だ。
逆は必ずしも真たり得ないが、一方向においてそれは是だと証明される。
そう。少女は、彼等を愛していた。幼い愛だ。求めることを知らぬ愚かな愛だ。与えることしか知らぬ純粋な愛だ。
彼女は疑いを知らない。故にこそ聖女の様に周囲の世界を愛し、盲人の如く周囲の世界を愛す。
恐怖はすれども嫌悪はしない。だからこそ少女は聖女であり、盲人でもあった。
行為が、少女の存在を規定していたのだ。
かつて、死に損ねた、残された、人だった機械達の作り上げた、願いを持つ魔物達の作り上げた、人の知らぬ聖女であり、盲人だった。
夢は。彼女が、今見ている世界は、少女を愛し、また軽蔑もしていた。

ずきり、と痛みが走る。世界が、歪んだ。瞼の黒がそれをかき消す。所詮は夢。その外よりの痛みに耐えられる筈も無く。
夢は、彼女を愛していたから幸せな風景を見せたけれども、軽蔑していたから足早に去っていった。
聖女は聖女。盲人は盲人。その矛盾は破綻を生む。破綻は破滅を生む。そして、破滅は終わりだ。
終わりが招いた死神が密やかに、確実に忍び寄っていた。鎌を手に彼は棺桶のサイズを測っている。
(曰く、お嬢さん貴女の体は小さいから、サービスも含めて、随分と安く済みますよ、云々)

かくして少女の矛盾は死に絶え。

少女は目を開く。黒が瞬時に駆逐される。彼女の世界はあっけなく死んだ。
相変わらず、皮肉屋な空が見える。彼を背に、自分を見ている者達の姿も。
感覚が戻ってくる。初めにやってきたのは、全身を砕かんばかりの痛みだった。
脇腹から、それは滾々と湧き出している。
死神は名残惜しげに見つめながらも、寸法に間違いを見つけたのか棺桶のサイズを測りなおしていた。

「……ぅぅ!!」
自然に口からは呻きが。

「大丈夫、大丈夫だから。絶対に助ける…だからっ!!」
薬師が、その声を聞いて答える。見上げれば、彼の頭からは血がだらだらと流れ、顔の半ばまでを汚していた。
自分を先に治療すればいいのに。一瞬少女はそう考えたが、走る痛みは圧倒的権威をもってそれを否定していた。

痛い。傷?どうして?わたしはわたしは。バドスケさんは?くろいよろいのひとのせい?
でも、そのひともばどすけさんもわたしをいまみていて。そういえば、ろーぐのおにいちゃんは?
くるくるとあたまがまわる。なにもかもよくわからない。わからないけれど──

盲人は歓喜の声を上げ、聖女は断末魔の悲鳴を上げた。

いたいのは、いやだ。もっともっとやさしいひとといっしょにいたい。
みんな。みんなでいっしょにかえりたい。わらいあってくれるひとがほしい。いっしょにいたい。
──わたしは、しにたくない。

つぅ、と知らず頬を涙が伝った。
少女は。根本的な部分で与える事しか知らなかった少女は。
知ってしまったのだ。心のそこから、何かを求めるという事を。
即ち、それは欲望だ。

されど、誰がその聖女の堕落を責める事が出来ようか。それは、盲人にとっての救いでもある。
そう。純然の聖女たる事は盲人たる事でもあるのだ。求めることを知らぬ彼女の、なんと眼の曇っている事か!!
(その逆も又然り。欲深い盲人に一体何を見ることが許されようか!!)

「泣かないで。泣かないで。僕は絶対に君を助ける。死なせはしない。絶対に…死なせてなんかやるもんか!!」
涙で濡れた目で、少女は自らも泣き顔の薬師を見上げた。
仮面の詩人が、黒い鎧の女性が。彼と同じ心を宿した顔で、見ている。
彼は、彼等は少女を助けたいと欲している。少女は彼女に助けて欲しいと欲している。
互いを求め合っている。

かくて、聖女は人に堕ち、盲人は瞳を開け人と成った。
だが、足らない。求めるものは、まだ足らないのだ。

「おにぃ…ちゃんは?」
震える唇は、鉄で出来ているように重かった。
弾かれたかの様に、騎士と詩人が顔を上げる。
蒼白の顔と、ずれたのを正すことすら忘れられた仮面。

──涙が、又一つ零れた。

「……」
何故悲しいのかは、判らなかったけれども。
少女は思った。動揺している二人が、憎いと。
そして、その事を咎めもしない薬師が憎いと。
じっと、見上げる。責める様に。
痛みが、愚かだった彼女を今も苛む。
それは、堕ちた彼女を今責め立てていた。

「……ここは、僕に任せて。もう、貴方達に出来る事も無いし」
言葉を発したのは、薬師だった。

「相判った。…頼む」
「…ああ」
弾かれた様に、そうとだけ答えて二人は走り出す。
薬師に痛む身を任せ、小さくなっていく二つの背中を見送りながら、少女は思う。

わたしは、今は歩けないから。
だから、何もできない。だから、あの二人に代りに叶えて欲しい。
歩いていこう。皆で。あの日に続く道を。
だから、わたしはそうして欲しい。
そうしてほしい。

少女は、只々それを欲した。
もう、聖女ではない。盲人でもない。
その選択は間違っているかも知れないし、第一知らないことも実に多くあるだろう。
全てが疑わしく、同時に全てが輝かしい。
その存在は酷く生き難く、酷く愉しくもある。

詰まり、少女はその行いによって人になった。
だからもう、それを求める事を止めはしなかった。

曰く、歩こう。あの日に続く道を、と。

<アラーム状態装備、場所は変わらず。但し治療は多少進行した模様>
<深淵&バドスケ状態装備変わらずローグの元に救援に>
<♂ケミ状態装備場所変わらずアラームの治療中>


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