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佐藤春夫「家常茶飯」


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 朝田が或日訪ねて来た。
 書斎へ通すとイキナリ「(理想的マッチ)を君は持っていないか」と言う。
「何、(理想的マッチ)て何だい」と、僕は聞いた。
「お伽話《とぎぱなし》なんだが、僕は其のテキストを無くして弱っているんだ。
 年越しの金を工面する為に受け合った例の拙速な翻訳仕事の一つなんだが、本屋が出版を馬鹿に急いでいるのでね。外国に注文して取り寄せるにしても、時日がもう間に合わないのだ。
 クリスマスの贈答用をアテコミなんだからね。
 君のところには色んな本が沢山あるから、ヒョットしたら持っていないかと思って来たんだが、珍らしい本でもないのにあまり見かけない  アッサージの初期の作なんだ」
「うん、聞いた事は有る様にもあるが、あいにく僕は持っていないよ。何《ど》うして又無くしたんだい」
「それがね、翻訳はもう出来上っているんだ。原稿は印刷所に廻してあるんだがね。
 只大人に読ませるんならあのままで好いが、子供の為には、挿絵を入れないと解りが悪るいだろうと本屋が言うのだ。全く、そのテキストには古拙な初版の木版をうつした挿絵があって、文字に書けないような点までちゃんと説明している。一度それを見たものにとっては、この挿絵なしには、この話は成り立たないと思える程なのだ。だから、そいつをそっくり挿入する考えで、本屋が僕の家へ原本を取りに来たんだ。その日、本屋は店員と二人連れでやって来たんだが、僕はたしかに本屋に渡した積りなんだよ。
 所が翌日使いをよこして、その渡した筈の本をとりに来たのだ。
 そんな筈はない。たしかに君のうちの主人が持って帰ったよと僕が言うとね。使いは帰って行ったが、二三日して今度は主人自身がやって来て、
『イエ、お宅を出てから、あなたが出して下さった本を、編み上げの紐《ひも》を結んでいる間、上《あが》りかまちへ置いたきり、つい、オーバのポケットに入れる事を忘れて来た事に気が付いて、引き返して取りに来ようと思ったんですけれど、余程歩るいて来ていたものですから面倒臭くなっちまって』
 と言うんだ。
 本屋の主人は酒を飲むのでね。其の日も僕は晩めしでも食って帰るようにすすめた時刻だった。だから、帰り途《みち》に一杯やっている問に、酔払って原本を遺失したんじゃないかと思うんだ。それでそう言うと、決して其んな事はありませんと本屋は言い張るのだ。
 実はカフェーに寄って、一杯飲んだには飲んだんですが、そこであの連れて来ていた店員が私に、『本を上りかまちへ忘れて来ましたね』と言ったので思い出したような訳なんでして、きっとあなたの家にありますから、探して下さいと言うのでね。
 僕も本屋の主人一人がそう言うのでなく、連れの男もそう言ったと言うなら、二人を否認する事は出来ないと思ったので家の者を督励して、家中探してみたんだ。
 所が無い。どうしても見付からないんだ。
 癪《しやく》に触ってね、画家に頼んで別に挿絵を描かせても好いんだけれど、それも気が利かない事だし。困ったよ」
 と朝田が言った。
 僕は朝田に少しばかり同情したけれど、どうしようもなかった。それで次のような話を僕は朝田にしたのだ。
 僕は或一人の男を知っている。それは僕の友人なんだが君は知るまい。  少し変人で世間の狭い男だから。書生を一人置いて、今でも独身で暮らしているんだが、妙な奴だ。
 茶本《ちやもと》というのだが、あの男に探偵をさせて見たいと僕は時々思うのだ。探しものなどもきっとうまいよ。
 それでね。書生を置き初めて、間もない頃の話なんだが、偶然彼のところへ遊びに行くと、彼は、
「うちの書生はどうも男色漢のようだ」
 と言うのでね。「どうしてそんな事が君にわかるのだ」と尋ねると、
「此の間、タ方、書生と一緒に省線の目黒駅から電車に乗った。切符を二枚買って書生に渡して、恰度《ちようど》込む時刻だったので一列にならんで立っているんだ。僕は浴衣《ゆかた》一枚で羽織を着ていなかった、僕の肩にそおっと触るものがあるのでね。ふり返って見るとそれがうちの書生なんだ。
 改札口の前で押し合ってる折だし、僕の背後にいた書生が、僕の肩に手をのせたところで、それは何かの拍子に好《よ》くある事で、不思議でも何でもないが、其の触感がだ。我々ならば若い女にでもさわるときのような仕方なんだ。決して同性同士にはああは触れない。前にのめりそうになったとしても、それなら尚の事、どんともすこし元気好く突き当りそうなものなんだ。蓋《けだ》し異様な、正《まさ》しく性慾的なものだったので、僕も少々薄気味悪るくなって、擽《くすぐ》ったく思って辟易《へきえき》したんだよ。
 それから家に帰ってから、二一二日注意して好く観察すると、怪しい点がどうもあるんだ。だからね、僕は一見して男色家だとは見抜いたものの、一度直接書生の口から白状させて見ようと思うんだ」
 斯《こ》う言って彼は書生を呼びつけたものなのだ。書生を僕の前に坐らせて、僕を指しながら彼は言うのだ。
「此の先生は名高い人相見で、その方の隠れた学者なんだ。君の人相骨格を一見して、君は衆道《しゆどう》を嗜《たしな》んでいると言われるんだが、どうだい  」
 すると書生が真赤な顔をして、うつむいて了ったんだよ。
 如何《いか》にもそれまでは、豪快なタイプの青年だったんだが、流石《さすが》に耻《はずか》しくなったんだろう。気の毒だったよ。
 それからずっと此の書生が、僕に親しみを持つようになってね。段々近しくなり、ちょいちょい僕の家へも遊びに来るようになったんだ。来ては主人の噂をコボシて行くんだよ。
 それで僕も、あとになって書生に打ち開けてやった。
「実は君の衆道一件を見破ったのも、僕ではない。茶本だよ、君のうちの主人なんだよ」
 そう言うと、「道理で。全くうちの先生にはかなわない。恐ろしく直感的で、緻密で、推理力が強いんですからね」と書生が崇拝するような口調で言うのだ。
 これも書生の話なのだが、茶本は、百五十位に小さく裂いた葉書でも読む。そんな手つだいまでさされるのじゃ書生が困るとコボスのも無理はない
 何でも近所に親切なおかみさんがいて、洗濯物や炊事の手伝いなども時々してくれる。そのおかみさんが来て、或時茶本に頼んだのだ。
「やどは此の頃変なんですよ。夜遅く出歩いてばかりいて、其の癖朝など郵便屋が来ると、あわてて二階から降りて来て、郵便物をヒッタくるようにして、又二階へ上って了うんです。
 おとといの晩も此んな事があったんですよ。それは葉書だったんですが。葉書なものですから妾《わたし》もそんなに気を付けて読まないで、只郵便屋が渡してくれたのを手に持っていたんです。差出人はたしかに同じ社の人なのです。近頃の遊び仲間なのですよ。所が主人が二階から降りて来て、葉書を私の手から奪いとるようにして二階へ駈け上ったかと思うと、じきに主人は外出しました。あとでわたしが二階へ行って見ると、其の葉書を粉々に引き裂いて、反古籠《ほごかご》に放ったらしいんです。私も口惜しくてたまらないものですから、主人が居ない留守にと思って、其の裂かれたはがきを拾い集めて見たんですよ。でも百にも二百にも小さく千断《ちぎ》られてあるので、どうしてもよめないんです。どうかして読みたいんですが」
 それで茶本が答えた。
「奥さん。そんな事位、わけはありませんよ。工夫も何にも要らない。持って来て御覧なさい」
 するとおかみさんが、其の千断られたはがきを持って来た。書生こそ好い災難さ。半日それに掛かってしまったと言うのだ。
 茶本が何《ど》うしたかと言うと、先ず本の包装に使ったあの薄い蝋紙を一枚書生に拡げて敷かせたんだ。そこで別にはがきを一枚持ってこさせて、蝋紙の上へ、はがき大の輪廓を描かせたのだ。
 而《しか》してその蝋紙の上へ、百|片《きれ》にも二百片にも細く千断られたはがきを、一個々々並べろと言うんだ。
 それには順序があるんだ。
 その順序が茶本の即案の工夫なのだが。まず原則として、はがきの表ばかりを見るんだ。うらは決して見ない。そうして第一に、一銭五厘の切手の青いところを拾う。それから、郵──便──は──が──き、の印刷文字の付いているのを探す、それから消印のスタンプのついている破片をさがす。
 それらの破片を蝋紙の上の輪廓線に沿うて、新らしいはがきを参考しながら、一つずつの順々にならべて貼りつけるんだ。
 それから所書の部分を、次には宛名の部分を、次には日づけの部分を、探し出しては貼る。あとに残ったのは白い部分ばかりになる。そのなかから又、はがきの四辺をなす直線をふくんでいる部分を択《よ》ってはつなぐ。もっとも、この部分はそう大切な事ではなかった。何故かというのに端に近いぐるりにはあまり文字は書いてないらしい。そこで始めて、蝋紙を一々裏返しにして見ては、残った紙片を字のつながりやら、破片の形やらに従って貼ってゆく。蝋紙の面の輪廓線はいつの間にか次第にはがきの破片で埋《うずま》っていた。決してむつかしい事ではなかったが、中々手間がかかるのに書生も参ったそうだ。それはそうだろう。
 そこで、茶本がおかみさんを呼んで言った。
「奥さん読んで御覧なさい。何でもありませんよ」
 はがきの文面が蝋紙をとおしてホヾ完全に読めたのだ。
 茶本はおかみさんの亭主とも知り合いなのだ。はがきには別に異な文句も書いてはなかったそうだが、どうも女がよこしたのらしい。暗号めいた文面だと、茶本は、あとでこっそり書生に言ったそうだ。
 でもおかみさんのヒステリーを嵩《こう》じさせては不可《いけ》ないと思ったので、安心させる様に、そこまでは茶本も教えてはやらなかったのだろう。  こういう点にかけちゃ、君、やはり男は男同士のなさけがあるからね。ハ、ハ、ハ。
 これもやっぱり書生の話なのだが、ついこの間の或朝のこと、井戸端で顔を洗っていると、いきなり彼は寝室にいる茶本に呶鳴《どな》りつけられたのだ。
「なぜ玄関を開けっ放して置くんだ!」
「いいえ、閉めてあります」
「閉ってない。ドンが這入《はい》っているよ」
   ドンというのは西班牙《スペイン》種の小犬なのだ。
「そんなことはありませんよ。先生!」
「何でもいい。早くドンを追い出したまえ。僕の靴がめちゃめちゃになるじゃないか!」
 問答しているよりも、行ってみた方が早いと思ったので書生は玄関にまわってみると、果して玄関の格子戸は五寸ほど開いていて、その間からドンがくぐり込み、茶本が前夜穿いて出た新調の靴にじゃれていた。啣《くわ》えて持出そうと企てながらそれが出来ないので、土間の三和土《たたき》の上へ啣えては落し、啣えては落ししていた。
「シイ、シイ」
 彼がドンを追っていると、
「それ見ろ!」と茶本がもう一ぺん寝室から呶鳴った。何もかも、まるで見ているようなのだ。
 書生は全く、「いやになってしまいましたよ」というのだ。
 茶本が夢でも見たのだろうぐらいに思っていた書生は、実際びっくりしたそうだ。しかし、書生はいつもやかましく言われる事ではあり、自分で玄関を開けて置いた覚えはないのだから、朝めしの時になって茶本に言った。
「先生、私は玄関を開けて置いた覚えはないのです。ドンは自分で這入り込んだらしいのです。五寸ほど戸が開いていました」
 茶本はその朝はひどく不機嫌だった。朝早く起きると彼はいつもそうなのだが。それで書生の言葉に対して茶本は言った。
「ドンが自分で開けた! 馬鹿を言いたまえ、靴を啣え上げることも出来ないほどの小犬に、自分で格子戸を開けるほどの智慧も力もあるものか。いいかげんな事を言ってはいけないよ」
「でも私はいつも先生がそう仰言《おつしや》るから、ぴしゃっと閉めて置いたのです」
「君はあそこから井戸端へ出たのか」
「へ? そうです」
「それなら君は、なるほどピシャリと閉めたらしい。あまりピシャリとやり過ぎたのだ。ゆるい格子戸はその拍子にはね返って四五寸も開くし、僕はまた、その物音で目が覚めたのだ」
   書生は私に白状して、「そう言われて見ると、全くそうらしいのだ」と言った。そこで書生は、茶本に、
「先生は、寝呆けていながら、よくもそんな音まで聞えますね。驚いた耳ですねえ」
「何をいうのだ。驚くことはない。耳を畳へつけているのだ。起きていて聞くよりはっきりわかるさ。寝呆けてなんて、誰だって眼が覚めた時ほど頭のはっきりしている時はない。俺は昔から寝呆けたなんて事はないよ」
 書生は私に向っていうのだ。「全く、あの日にはさんざんやられましたよ。先生に女房の居つかないのは無理がないや」
「全く、人間はもっと間が抜けた方がいいね」私はそう答えた。
「朝田君。私が君に行って相談してみたまえというのは、こういう男なのだが、茶本は多分(理想的マッチ)を探し出してくれるだろう  君の家にありさえするならね」
 私は紹介に茶本の所番地を書いて、簡単な地図もつけて朝田にやった。
 それから四五日経った。茶本がヒョックリ僕を訪ねて来たのだ。
「やあ珍らしい。この間、朝田という男は行かない」
「あ、実は今朝田氏からのかえり路だ。久しぶりだったからちょっと寄ってみたよ」
「で(理想的マッチ)は見付かったのかね」
「有ったよ」
「どうして発見されたんだ」
「わけもなかった。家中|隈《くま》なく探したと言う。あとは探さないところだけ探せばいい。だからまだ探してないところを探したんだよ。だから訳は無いんだ」
「やっぱり家の中にあったんだね」
「どんな本だときくと、青白いようなクロスの薄い大型の本だと言うんだろう。大型の薄いものなら平面的に置かれていれば直ぐ目につく。立体的に置かれると場所を取らないで目につきにくい。ーそう思いながら朝田氏の家へ行って見ると、壁がみんな青白いんだよ」
 この壁と何か関係があるな、と僕は思ったんだ。
 だからね、壁に沿うた光線の当らないような薄暗いところを、二三ヶ所探したんだ」
「で、どんなところを」
「先ず便所だね。ところが其処《そこ》にはないんだ。
 それから二階があって、段梯子があるね。君、朝田氏の家を知ってるだろう。あの段梯子を三段ばかり上ってから、ふりかえると手のとどくところに鴨居があるね。段梯子の上り口の真上さ。あそこの段梯子はまあ、何とうす暗い事だ。本は壁にぴたりとくっついて鴨居の上に乗っていたよ。うす暗いところへ持って来て、壁の色と本の色とが殆んど同じなのだ。ちょっと目にはつかない。でも手をのばしてさぐるとすぐ落ちて来た。  バサッと音を立ててね。  地震でも一度あってくれたらわざく僕などが出張する必要はなかったのだ」
「(理想的マッチ)がそこから落っこちたのかね。どうして又そんなところから落っこちたんだ」
「其処は薄暗いんだよ。今もいうとおり。だから何がのっかっていてもわからないんだよ」
「だって、何故、本がそんなところに在ったのだ」
「本がひとりで二階へ上ったのならロマンチックなのだが。僕の解釈によるとだね。言うまでもなくやっぱし朝田氏自身がやった事なんだよ。
 朝田氏が最初僕を訪ねて来た時に一時間ばかりの対談中、二三回も便所に立ったので、僕は彼が何かその方の病気ではないかと思った程だよ。少くとも小便の近い人だと言う事だけはわかったんだ」
「初対面で君が、其の頻繁なのに気付いたのは感服の外ない。実は先生以前から糖尿病だよ」
「そこで肝腎な事は、僕が思うのにね。朝田氏が本屋を送り出す時に、小便がつまっていたんだろうと言う事なんだ。
 本屋は二人連れで帰って行ったんだ。
 玄関口を見るとね。(理想的マッチ)の原本が置き忘れてあるんだよ。
 それで朝田氏は、忘れて行ったな、仕方がない、二階の書斎へ持って行って置こうと思ってね。階段を二三段上りかけたんだ。
 ところが、今まで我慢していた小便なのだ。性急《せつかち》に放尿を要求して来るので、階段の中途で我慢しきれなくなって、其の(理想的マッチ)を何げなく手のとゴくところの先刻《さつき》言った鴨居の空間《あきま》へのっけたんだね。
 そして便所へ駈け込んだんだ。
 よくある事だよ。とにかく小便のつまった時は物事を胴忘《どわす》れするものさ。
 それで朝田氏は、(理想的マッチ)をそんなところへのっけた事も、本屋が置き忘れて行った事すらも思い出せない程、一切を放尿と共に忘却の壺のなかへ流し込んでしまったんだよ。いやいや、便所の扉《ドア》から出た時には或は、まだ念頭にその影ぐらいはとゴめていたかも知れない。しかしタ餉《ゆうげ》の時間だったというから、きっと二階へ上る前に細君に呼ばれて茶の間で食事をしたね。乃《すなわ》ち鴨居の大切な(理想的マッチ)はここに到って完全に、朝田式の頭からは消失したのだ。
iそうだと思う。一たん忘却したとなると、置いた場所が場所なところへ、本も壁も同じような色だし、わけても、あそこは昼間でも電燈か瓦斯《がす》か、それこそ(理想的マッチ)でも灯さなきゃ目がとゴがないと来てるんだ。階段の上り降りにも決して気が付かない。梯子を下りる時には、いつも目の前に現われる場所なのだから、つい却って誰も特別の注意をおこたる。  ちっとも見ていないくせに、いつも見ているような気持がする場所なのだ。そこがうす暗い事さえ家人は忘れてしまっていて、気が付くのも来客だけぐらいなものだろう……」
「ふむ。君の想像通りかも知れないね。恐らくそうだろう。なる程。
 ところでだ。それはまあそれでよかったが。僕も一つ序《ついで》に君にお願いしたい事があるんだ。
 僕も困っているんだ。外ではないが、どうも訪問客が多いんだ。
 面会日を火曜に決めていても、面会日はまあ二十人位が平均なんだがね。平日でも今日など、君で三人目だが、この分ではタ刻までに六人は確かだ。こう毎日沢山では全くやりきれないんだよ。頭も体も疲れて了う。自分の仕事が何にも手に付かないんだ。
 何か好い策は無いものだろうか。
 君の智慧が借りたいんだがね」
「そんな工夫なら造作もないよ。先ず御本人の口をミシンか何かで縫うんだ。
 すべて君の饒舌《じようぜつ》が然らしむるところなんだからね。何事も根本を極めなきゃ。ハ、ハ、ハ、ハ」
「ハ、ハ」
 茶本の名案には、僕も苦笑せざるを得なかったのである。
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