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三遊亭円朝 怪談乳房榎 十二


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十二

「正介どん、じつは今日わざわざお前をここに招いたのは、ちと話があることさ。」
「エ、わしに話があるって、それでこんなに馳走をさっしゃるのだって、おめえ様、よしなさればええに、いま|大《だい》めえの金貰ったあげくに、刺身に|煮肴《にざかな》のと、おまえ様もってえねえわな。」
「イエ折入って頼みたいこともあるし、まアよい、遠慮せずにもっと飲みな、どれお酌をしよう。」
「おっと、おっとこぼれますごぼれます、ああもってえねえ、|一粒《いちりゆう》万倍だ、こぼれたものは再び元へは帰らねえって:::」
「だがの正介どん、今日ここへお前を招待したのもほかじゃアないよ、どうもお前は正直な人で、おりおり御主人様の先生へさえ間違ったことだとつけつけ叱言をいう、面白い|気前《きまえ》で、どうもあれはできんよ、お前のようなものがたい人とこうやって一杯も快く飲み合うというのも、こりゃ何かの縁で、それだから私はお前のような人と縁を組みたいと思ってここへ呼んで来たが、なんとここで私と|伯父甥《おじおい》の盃をして親類になってはくれんかどうだね。」
「なに、おめえ様わしがような百姓とあんたと伯父甥の杯するとね、それはまアほんとうかね。」
「なんの嘘はいわぬ、けっしてそんな空言ではない、何を隠そう、この浪江は谷出羽守の家来で少々は禄も頂いておった者じゃが、生得我儘者で、どうも窮屈な武家の勤めが嫌いでならんから、|暇《いとま》を貰い浪人いたして、お前も知っての通り撞木橋に独身で住まっておるが、それは少々は金子の貯えもあるし、何も|齷齪《あくせぎ》するにも及ばぬから遊んでおるについては、画道でも|嗜《たしな》んで世の中を気楽に送りたいつもりでおるが、さて、親戚身寄りのないのは何かにつけて心細いものでならんから、この後はお前を伯父と頼みどうか相談相手になって貰いたいのじゃが。」
「エ、わしおめえ様の親類になれって、そりゃアおめえ様|嬲《なぶ》っちゃアいけません。」
「なに、そんな、嬲るなどということは申さぬ。」
「いえ、いけねえよ、正介|爺《じじい》に今日馳走して酒え飲ませ、伯父になれって云ったら、爺はほんまに受けて、なるべいと云ったなんぞとおめえ様笑おうと思ってか。」
「いえ、それはお前の当て推量というもので、けっしてさようなわけではない。」
「それだっておめえ様、土百姓のおれなどを、浪人なすったって立派だ、やっぱり武士だ、そのお武家様が伯父にしたって何にもならねえから嘘だ。」
「なるほど、かりそめにも武士の片端の私が、百姓のお前を親類にしても、話が合わぬというところへ気がついたなどは感心だよ、ただ、藪から棒に、なっておくれと申したのは私が悪い、届かなかったよ。」
「エ、それじゃア、それにも訳があるのかね。」
「さアわけというのは、今も申した通り、少々金子の貯えもあろから、坐して|食《くら》えば山をも空しで、今年はいい来年はいいとべんべん遊んで遣いなくしてはつまらんから、今のうちその貯えの金子で田地を買って、その利得でこう気楽にいたしたいと思うのだが、弓馬槍剣の道と違って田地のことは知らんゆえ、それでお前を伯父に頼み相談相手になって貰いたいのじゃよ。」
「ふむ……それじゃア貯えの金で田舎へ田地を買って引き込みてえといわっしゃるかな。」
「そうさ、田地をお前に任しておいてもよいが、そこは親類にならんければ、互いに心に隔てがあっていけんもので、それゆえ伯父となり甥となり、ゆくゆく私に悪いことがあったら腹蔵なく意見をして貰いたいからさ、また只今お頼み申したことを叶えて下されば、お前の死水は私が取って上げるつもり、なんと私のような届かんものでもよいと思うなら、どうぞ縁を組んで貰いたいと、それて先生へ暫時のお暇を願って、ここまでお出でを願ったのだ、どうか正介どん伯父甥の義を結んで下さいな。」
 とやわらかに云いますから、正介は感心しまして、
「いやえれえ、おめえさまえれえ、たまげたな、今の若え者はえれえところへ……田舎へ田地を買うというところへ気づくというのはえれえよ、おめえ様のいうことが本当ならええ、わしい骨折ってやるべい、はばかりながら剣術だの柔術だのと云っては知んねえが、田地田畑のことならそりゃア|目利《めきき》だ、草深えところでギャッと生れて。五十一になるまで|鍬鋤《すきくわ》かついで、泥ぼっけになって功積んだおれだ、そりゃアここの田地はハア年貢は安いが、|出水《でみず》の時はこの川からこう水がきてぶん流すから、ここは|地位《じぐらい》は高えがその割にゆかねえ、またここの田地は|早稲《わせ》がいいとか、|晩稲《おくて》がいいとか|中手《なかて》がいいとか、そんな見分けなら造作ねえ、人にゃア負けねえつもりだ、やるべい、本当ならわしい引き受けてきっとやるべい、ようござえます。」
「なるほど、田地の|目利《めきき》なら人に負けまい、そこを思うから伯父になってくれと頼んだのじゃ。」
「ええよ、おれもおめえ様のような気が付く甥を持てば安心だよ、ええやるべいやるべい。」

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