もしも3馬鹿常夏トリオが種死に出てたら 格納庫

終戦 Phase-57

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「いよいよ明日ですか…」
先ほどまでいじっていたノートパソコンを閉じ、アズラエルはイスの背もたれに体重を預ける。
地球、ザフトの連合によるオーブ侵攻は明日に迫っている。ここ1週間、この愚かな戦闘を回避しようと彼なりに精一杯動いたのだが、結局事態は回避できなかった。
どうやら地球軍本部の根回しはかなりの域にまで及んでおり、今では一端の議員でしかない彼にはどうすることもできなかった。前々ブルーコスモス代表の肩書きなど、ないに等しいものだ。
「キラくんの話を聞く限りでは、そう簡単に落ちることはないと思うんですけどね」
先日、オーブのキラからの報告によれば、今のところ問題はないらしい。
例のカラミティとオルガの件も問題なく進んでいるようだし、他の5人達も鈍っていた強化人間としての勘も取り戻してきているそうだ。せっかく彼らを戦闘から開放するために艦から降ろしたというのに、これだ。所詮、強化人間は戦闘からは逃れられない運命だということか。
「気づくのが遅かったですね…」

「理事、いらっしゃいますか?」
自分が今までやってきたこと後悔し始めたとき、部屋の扉がノックされ、同時にこの艦の艦長らしき人物の声が聞こえてきた。
「いますよ。どうぞ、入ってください」
「はっ、失礼します」
礼儀正しい返事と共に扉が開く。
扉の向こうには予想通り、艦長のナタル・バジルールが敬礼をしていた。
「別に敬礼なんかいりませんよ」
「いえ、規則ですから…」
「相変わらずですねえ。……おや?」
敬礼をとく彼女の向こうにもうひとつ影が見える。
「理事にお話がある、ということでしたので」
長いピンクの髪に着物のような衣装を身にまとった人物がナタルの後ろから姿を現す。
「これはこれは、クライン嬢。どんなご用件ですか?」
「もちろん明日のことですわ、アズラエルさん」
「…。まあ、とりあえず入って適当なとこに掛けてください」

「明日はどうするか、もうお決まりですか?」
ソファーに腰をかけて一息つくと、ラクスはアズラエルに問いかけた。
ナタルも黙ってアズラエルの方を見ている。
「いきなりですねえ…」
「あまり時間は、ございませんから…」
いつも優しい笑顔を絶やさないラクスの顔も今は曇っている。
彼女も先の二度の大戦以後、ナチュラルとコーディネーターの共存に力を入れてきた人間だ。明日の戦闘がどんなに愚かなものかは重々承知している。
だから、こうしてドミニオンに同乗してアズラエル同様、戦闘を避けようとしていたのだ。
結局、彼女の力を持ってしても避けることはできなかったのだが。
「正直言わせてもらうとですね、迷ってるんですよ、まだ。」
「迷ってる、ですか?」
アズラエルの回答にナタルが反応する。
彼は背もたれから体を起こし、一つ大きなため息をついてから話出した。
「僕の地球軍の議員という立場からすると、一応上から戦闘に参加するよう命令は出ています。まあ、まだ宇宙にいるんですけどね」
「理事、私はそんな指示は…」
「そりゃそうですよ。僕のとこで止めてましたから」
「…」
ナタルはその回答に何か言いたそうな顔をしていたが、あきらめて言葉にの代わりにため息をつくことで、アズラエルの話の続きを待った。
「でも、僕個人としては彼らの味方についてあげたいんですよ」
「クロトさんやアウルさん達ですね?」
「ええ。残念ながら明日の戦闘はオーブ側が圧倒的に不利なものです。いくらAAやフリーダムがいるとはいえ、あの数で攻められればいずれ落とされます。戦争は「質より量」ですから。
だから、僕達が彼らに協力して少しでも彼らの負担が減るなら、僕は彼らオーブ側につきたいんです」

「理事…」
アズラエルから出た意外な本音にナタルは正直驚いた。出会った当初の彼からはこんな言葉は絶対に聞けなかった。
彼らと出会った事で、彼の中の何かが変わったのだろう。
(おそらく一番の原因はルーシェだな…)
今はオーブにいる金の髪の少女を思い出して、ナタルの顔から自然と笑みがこぼれた。
「ならば、それでいいではありませんか」
向かいに座っているラクス・クラインの声に、緩んだ顔を引き締める。
「アズラエルさんがそう思うのなら、そうなさるべきですわ」
「そうは言いますけど、そんな簡単な話じゃないんですよ」
理事の言うとおりだ。
敵側につくというのは、そう簡単にできることではない。
そんな簡単にできるのであれば、理事だってこんなに悩むこともないだろう。
「確かに簡単な話ではありませんわ。ですが、私はアズラエルさんには後悔しない方を選んでほしいのです」
ラクスの言葉がナタルの胸に響く。
後悔しない道。
思えば自分は、後悔ばかりする道を選んできた気がする。AAのラミアス艦長と戦場で再会した時がいい例だ。あの時、もし別の選択肢を選んでいれば。今の状況も少しは変わっていたのかもしれない。
後悔しない道。
今がまた道の分かれ目だというのなら、今回は道を誤るわけにはいかない。
「理事、私もクライン嬢の意見に賛成です。もし彼らと敵対関係になってしまえば、理事も私も必ず後悔してしまいます」

アズラエルもまた驚いていた。
まさか彼女がこんなことを言い出すとは。
これも彼らとの出会いの賜物というやつだろう。
(人間、出会いによって変わるもんなんですねえ…)
真剣な眼差しでこちらを見つめる彼女を見て思う。
「理事!!」
「あ~、ハイハイ」
いつまでも黙っていたことに業を煮やしたのか、彼女が声を上げる。
後悔しない道。
さっき自分の今までの事を後悔しようとするところだったのだ。
(今からでも遅くはない……と、いいんですけど)
自分の意思を固めて答えを伝える。
「そこまで言われてもまだ連合につきましょうと言うほど、僕も愚かではありません。」
「では、理事」
「ええ、今からオーブに向かいましょう。今からでは着くのが明日になってしまいますし、戦闘開始時刻に間に合うかどうかもわかりませんが、後悔はしたくありませんからね。艦長さん、クルーの皆さんに伝えてください。
……もし反対するものがいれば、そうですね、牢屋にぶち込んでおいてください」
「この艦にそんなクルーはいません。では、私は今のことを艦全体に連絡してきます」
「お願いします」
そう告げると、彼女は珍しく走って部屋を出て行った。

「では、私もオーブの方に連絡してきますわ」
「ああ、ちょっといいですか」
「何ですか?」
「あの子達にはこの事は黙っておいてもらってください。そっちのほうが面白そうですからね」
「うふふ、わかりましたわ。そのように…」
「どうもありがとうございます」
入ってきた時の曇り顔も元の笑顔に戻ったラクスも、ナタルに続いて部屋を後にした。

「まさか僕がコーディネーターの歌姫とこんな会話をするとは…。僕も少しは変わったんですねえ」
一人残ったアズラエルは天井に向かって呟いた。

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