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月明かりの元、鬼気迫る形相で商店街をひた走る一人の男の姿があった。 腕も足も鉛が入っているかのように重く、腹の傷は焼ける様な痛みを発していたが 廣瀬純(背番号26)はそれでも息を切らせながら必死に走っていた。 「げほっ、ごほっ……っ……」 まだ少ししか走っていない筈なのに、酷く、息が苦しい。 喉はからからに干上がっていて咳き込む度にひゅーひゅーと鳴った。 それは致命傷では無いにしろ、廣瀬が思っているほど 腹の傷が浅いものでは無いという事を明確に示していたのだが 今はそんな事にかまけてる余裕も無かった。 背負ったザックの重みも傷の痛みに拍車をかけていたが 震えるほどに冷えていた空気の存在もまた 熱を持った傷と全力疾走で火照った体の前に、その影を潜めていた。 それとは逆に、運動後普通なら赤く火照るはずの顔色も 大量の血が体から抜けつつある現在は蝋燭のロウのように青白くなっていたのだが。 走るたび、足に体重をかける度にどろりとした血が体を抜ける 元々赤いユニフォームを更に赤く赤く染め上げていく。 夜の帳が下りてしまったこの時間帯でさえなければ 白地に赤いラインの入ったユニフォームの一部分が赤黒く染まっていく様が 誰の目にも明らかになっただろう。 「……やっぱ、気休めでも、あっちを優先して願っておけばよかったかな」 わらにでも何にでも、縋り付けるのなら縋り付いてりゃ良かったのか 夢中で走る彼の脳裏にはある光景が延々とフラッシュバックしていた。 流星、鬱蒼とした森の中、赤い数字が踊る、5、5、5、5、ああ、もううんざりだ 所々欠けている石畳の道を進み、寂れた商店街をおぼつかない足取りで抜けると 緑で覆われた小さな丘があった、そのそれ程高くは無い丘の上には樫の大樹がそびえている。 廣瀬は大樹を目指してその歩みを速めた。 彼は自分が『走って』いるものだとずっと思っていたが、 怪我の影響もあいまって実際の所は千鳥足でゆっくりと『歩いて』いるに過ぎなかった。 「しんど……」 結構な怪我をした上で重いザックを背負いながら坂を上るのはきついものがある。 万全の状態ならただの緩やかな丘にしかすぎないにしろ、だ。 数分間、ゆっくりと、確実にその斜めの地面を廣瀬は登っていった。 丘、それはこの時の廣瀬にとって終わりの無いもののように思われたが それでも終わりというのは何にでも均等に訪れるもので あと数歩歩けばこの小山の頂上という所までに登りつめた。 そしてまた廣瀬が一歩足を踏み出した瞬間、体が浮いた様な気がした、いや、実際に浮いた。 何もないところで躓き宙に浮いた体はすぐその重力にしたがって地面へと投げ出された。 ああ、何もかもが上手くいかない、あと一歩で上につくのに。 草の上に倒れこんだ廣瀬が横を見ると、横手のススキ群生地の中には 自分と同じように宙に投げ出されたザックが転がっていた。 危ないかと思ったが、少したっても何の異変も起こらなかった所を見るとどうやら支給品は無事のようだ。 廣瀬は一時傷の痛みも忘れ、ほっと胸をなでおろした。 「………!」 ふいに目と鼻の先にある頂上から、風が草や木々を揺らす音とは違う人為的な足音が聞こえてきた。 廣瀬は急いで起き上がろうとしたものの 怪我による貧血に加えた疲労も祟り、今すぐには起き上がれそうに無かった。 足音は、自身の目の前でその歩みを止めた。 恐る恐る顔を上げた廣瀬の目に映ったものは きょとんとした表情で自身にその手を差し伸べる新井貴浩(背番号25)の姿だった。 「大丈夫か?」 廣瀬は目を見開いた。 彼の脳裏ではまた、数字が踊り始める。 【残り49人】 ---- [[前へ>6.信じたい、信じられない]] ---- Written by 301 ◆CChv1OaOeU
月明かりの元、鬼気迫る形相で商店街をひた走る一人の男の姿があった。 腕も足も鉛が入っているかのように重く、腹の傷は焼ける様な痛みを発していたが 廣瀬純(背番号26)はそれでも息を切らせながら必死に走っていた。 「げほっ、ごほっ……っ……」 まだ少ししか走っていない筈なのに、酷く、息が苦しい。 喉はからからに干上がっていて咳き込む度にひゅーひゅーと鳴った。 それは致命傷では無いにしろ、廣瀬が思っているほど 腹の傷が浅いものでは無いという事を明確に示していたのだが 今はそんな事にかまけてる余裕も無かった。 背負ったザックの重みも傷の痛みに拍車をかけていたが 震えるほどに冷えていた空気の存在もまた 熱を持った傷と全力疾走で火照った体の前に、その影を潜めていた。 それとは逆に、運動後普通なら赤く火照るはずの顔色も 大量の血が体から抜けつつある現在は蝋燭のロウのように青白くなっていたのだが。 走るたび、足に体重をかける度にどろりとした血が体を抜ける 元々赤いユニフォームを更に赤く赤く染め上げていく。 夜の帳が下りてしまったこの時間帯でさえなければ 白地に赤いラインの入ったユニフォームの一部分が赤黒く染まっていく様が 誰の目にも明らかになっただろう。 「……やっぱ、気休めでも、あっちを優先して願っておけばよかったかな」 わらにでも何にでも、縋り付けるのなら縋り付いてりゃ良かったのか 夢中で走る彼の脳裏にはある光景が延々とフラッシュバックしていた。 流星、鬱蒼とした森の中、赤い数字が踊る、5、5、5、5、ああ、もううんざりだ 所々欠けている石畳の道を進み、寂れた商店街をおぼつかない足取りで抜けると 緑で覆われた小さな丘があった、そのそれ程高くは無い丘の上には樫の大樹がそびえている。 廣瀬は大樹を目指してその歩みを速めた。 彼は自分が『走って』いるものだとずっと思っていたが、 怪我の影響もあいまって実際の所は千鳥足でゆっくりと『歩いて』いるに過ぎなかった。 「しんど……」 結構な怪我をした上で重いザックを背負いながら坂を上るのはきついものがある。 万全の状態ならただの緩やかな丘にしかすぎないにしろ、だ。 数分間、ゆっくりと、確実にその斜めの地面を廣瀬は登っていった。 丘、それはこの時の廣瀬にとって終わりの無いもののように思われたが それでも終わりというのは何にでも均等に訪れるもので あと数歩歩けばこの小山の頂上という所までに登りつめた。 そしてまた廣瀬が一歩足を踏み出した瞬間、体が浮いた様な気がした、いや、実際に浮いた。 何もないところで躓き宙に浮いた体はすぐその重力にしたがって地面へと投げ出された。 ああ、何もかもが上手くいかない、あと一歩で上につくのに。 草の上に倒れこんだ廣瀬が横を見ると、横手のススキ群生地の中には 自分と同じように宙に投げ出されたザックが転がっていた。 危ないかと思ったが、少したっても何の異変も起こらなかった所を見るとどうやら支給品は無事のようだ。 廣瀬は一時傷の痛みも忘れ、ほっと胸をなでおろした。 「………!」 ふいに目と鼻の先にある頂上から、風が草や木々を揺らす音とは違う人為的な足音が聞こえてきた。 廣瀬は急いで起き上がろうとしたものの 怪我による貧血に加えた疲労も祟り、今すぐには起き上がれそうに無かった。 足音は、自身の目の前でその歩みを止めた。 恐る恐る顔を上げた廣瀬の目に映ったものは きょとんとした表情で自身にその手を差し伸べる新井貴浩(背番号25)の姿だった。 「大丈夫か?」 廣瀬は目を見開いた。 彼の脳裏ではまた、数字が踊り始める。 【残り49人】 ---- prev [[6.信じたい、信じられない]] next [[8.それでも××××××]] ---- Written by 301 ◆CChv1OaOeU

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