45.紙一重の危うさ

    
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「健太さん!ありましたよ!」
木々の間から市街地らしき場所を発見した。仁部智(34)は、岩に腰を下ろしている佐竹健太(36)に駆け寄りながら嬉しそうに報告した。
「そっか。良かった……」
ほっと軽く息を吐き佐竹は顔を上げる。
「はい!そこの斜面から降りましょう。高さはあるけど緩やかですから、簡単に降りられると思いますよ」
「ああ」
辛そうに眉を下げていた佐竹は、懸命に気遣ってくれている仁部に対し、少しだけ笑顔を見せた。しかしその笑顔もまだ強張っている。
昨夜二人はこの山に迷い込み、一睡もしていない。歩きながらも休憩を度々入れていたのだが、遠いようで近くで聞こえる銃声らしきものに、落ち着いている暇は無かった。
自分が起きているからと何度か仁部は佐竹に仮眠を勧めたが、遠慮してか、結局二人とも眠れぬ朝を迎えた。
この島が広島より暖かいとはいえ外で一晩過ごせば秋の夜は確実に体力を奪っていく。
それに加えて朝の放送。二人に衝撃を与えたのは言うまでもないが、佐竹の動揺は明らかだった。
一気に力が抜けたのか、しばらくその場から立ち上がろうとはしなかった。
気休めにしか過ぎなかったが、仁部はあれこれと励ましどうにか佐竹を引っ張って来た。
とにかく休む事が先決だと考えた仁部は、市街地に記載されているどこかの民家でしばらく休む事を提案した。
そしてようやくそれらしき場所を見つけたのである。
ちらっと腕時計に目をやる。まもなく午前7時に差掛かろうとしていた。
「さ、行きましょう」
さっき確認した地図とコンパスの針の方向を思い出す。
よくは分かっていなかったが、方角からすると自分たちが居る場所はあと1時間弱で禁止区域になる確率が高い。
早く市街地に行って休むという事も目的だが、一刻もこの場所一帯から離れなければ。
焦りが無いと言ったら嘘になる。根本的なものが揺らぎ始めている今、誰かに喝を入れて欲しかった。
横山か新井、もしくは同じ意思を持つ人間と早く合流したい。そしてあの時言っていた「全員で生きて帰る」という言葉に現実性を持たせたい。
こんなに揺らぎながらも二人にとって、少なくとも仁部にとっては、今でもあの言葉は心の糧となっていた。

(ああ、でももう「全員」は無理なんだよな。……せめて今生きてる人間で、か)
思わず深い溜息を吐きそうになり、慌てて唇を噛み締める。
聞かせてはいけない。隣にいる佐竹には。
「大丈夫か?」
今度は佐竹が気を遣って声を掛けてきた。少しでも表情に出ていたのか。気を入れ直して仁部は頷いた。
「はい。でも朝露で湿ってるんで、気を付けてくださいね」
「うん。……本当に迷惑ばっか掛けて、ごめんな」
佐竹が申し訳無さそうに謝る。
「さっきにでも仮眠しとけば良かったな。なんか足手まといみたいになって……。俺、情けないよな」
「健太さん……」
よほど気にしているのか。佐竹は仁部の顔を見ることが出来ないのか、下を俯いてぽつりぽつりと喋る。
「気にしないで下さい」
仁部の言葉を否定する様に佐竹は首を横に振る。仁部はそれでも穏やかな声で続けた。
「本当に気にしないで下さい。人間こんな時だからこそ休養も必要です。
それに元気になって貰わないと、この島をいざ脱出する時大変ですよ」
不安にさせてはいけない。少しでもネガティヴな要素を見せるとすぐにでも崩れそうなギリギリな部分を歩いているのだ。
仁部は改めて自分の心に言い聞かせた。
「智……」
あくまで強気でいなくてはならない。そして前向きに。そうすることで根拠は無かったが仁部自身大丈夫な気がした。
「さぁ、行きましょう。十分に休んで横山さん達と生きて広島に帰りましょう!」
左手を差し伸べようとして慌てて右手を差し伸べる。その様子が可笑しかったのか、佐竹から久々に本物の笑顔が零れた。
「ありがとう」
佐竹もつられて右手を差し出す。少ししっかりとした顔つきになった佐竹を見て仁部は安心する。
確信した。そして大丈夫だと思った。お互いを思いやれる気持ちはまだまだ残っていると。

「仁部……?仁部か?」
お互いの手が触れそうになった瞬間、よく知っている声が聞こえた。
案の定その人物は仁部の後方に立っていた。

「……林か?」
「ああ。うん。俺だよ」
名前を呼ばれ返事だけした林昌樹(53)もまた安堵からか、顔を綻ばせ2人に近付いてきた。
足取りが軽いことや特にユニフォームの汚れも無い事から林の無事を確認する。
「無事だったんだな!元気そうで何よりだ」
「ああ。何とかな。ずっと民家に隠れてたんだ」
あっちの方向、と今まさしく仁部達が目指していた市街地を親指を立てて指した。
「……健太さんも一緒なんですね」
仁部の後ろにいた佐竹の存在にも気付いたらしく、いつも通り一礼する。
「ああ。お前はずっと1人で?」
「はい。でも良かった~。このまま誰とも逢えないんじゃないかって、不安になってて」
「そっか。俺達も逢えて嬉しいよ。なぁ、智」
佐竹も笑顔で仁部に同意を促す。仁部も頷いて、
「俺達横山さんと新井さんを捜してるんだ。多分、2人で行動してるはずだから。お前もあの場に居たから知ってるよな?」
「うん。かっこよかったよな、あの2人。何か正義のヒーローみたいで」
「だからどうにかして二人と合流できないかな、って。それでこの島から脱出できる方法でも、と思ってるんだけど」
「ふーん」
「一緒に行くよな? ずっと1人だったらロクに休んでないだろ。3人で交互に仮眠でもとってさ」
3人で行動ができるのはやはり心強く思っているのか。若干先ほどよりも元気を取り戻した佐竹が続けて聞く。
それに対して林はうんうんと頷いた。
「じゃあ行こう。とりあえず休んでから今後の事考えて……」
「……そうだな。この3人なら悪くない、かもな」
今一度木に手を掛けたところで、林の意味深な発言に仁部が振り返る。
「え?」
「健太さんと仁部と俺ならちょうどいいかな、って」

「どういう意味だよ」
真意を話さず、自分の中で満足気に納得している林に仁部は不審気に聞いた。
「聞きたい?」
「ああ」
人のことをからかっているのか、と言わんばかりの態度にさすがに仁部はムッとした。
仁部をムッとさせたのはそれ以外にもニヤニヤしている林の表情も原因だった。
林もそれを分かってやっているのか。挑発とでもとれそうなその態度で話始めた。
「確か6人生き残れるんだよな?
 だったら組まないか?とりあえずこの3人で。そんでその後残りの3人を捜す。
 6人集まったらこのゲームが終了するまで行動を共にする。
 今生きてる全員で、じゃなくて確実に生き残れる6人で」
衝動的な話に仁部と佐竹、2人の身体が強張る。そんな2人の動揺も気にせず林は続けた。
「終了するまで6人で逃げ切るも良し、殺すも良し。とにかく6人で組んでからは、何が何でもその6人で生き残る。
 最強の6人だ。……悪くないだろ?」
林の口元だけを見ていた仁部は最後の言葉でようやく我に返った。
何度も「6人」という言葉を聞いたせいか、少しの間「6」というイメージに囚われる。
話終えた林の表情は変わらず、ニヤニヤしながら2人の返事を待っている。
「……」
動揺はほんの一瞬だけで仁部は落ち着いていた。
「……俺は、お前とは行かない」
林と真っ向から視線をぶつけ、きっぱりと仁部が答えた。
「俺は戦わないって決めた。誰も殺さない、生きてこれを潰すって。だからお前とは行かない」
チームメイトとは戦わないと決めた仁部にとって、林の誘いは通じない。
見たところ林は武器らしきものは手にしていない。佐竹と2人で飛びかかったら軽く気絶させることは出来るだろう。
だけど争う事が目的としていない仁部にとってそれは不毛でしかなかった。
それよりも仁部の中には哀しい感情が芽生えていた。少し裏切られた様な気持ちになり心の中でだけ林を罵る。
皆が皆自分と同じ思いを抱いているとは思ってはいない。ほんの少しの思考のすれ違いなんて日常茶飯事だ。

しかしつい昨日、それまで汗を流し厳しい練習にも耐えて頑張っていたはずの仲間がいとも簡単にこんなゲームに乗ってしまうとは。
信じられないと思う反面、これが現実なのかもな、と冷静に受け入れている部分もあった。
だけどこんな時ぐらいは、こんな時だからこそ他のチームメイトにも期待していた。
期待、というよりも信頼だったのだが。

少し自分の思考が甘かったと反省し、一度深呼吸する。
それよりも今大事なのはここを離れる事。
目的を思い出し、体の向きを変えた。背中を向ける寸前林に軽蔑の視線を投げて。
「行きましょう、健太さん」
未だ固まったままの佐竹に呼びかける。
「健太さん?」
「……あっ、ああ……」
二度名前を呼ばれて、ようやく佐竹は返事が出来たようだった。
一瞬の間。それは仁部が一番不安に感じているものだった。
佐竹の気持ちは揺れている。すぐに悟った。
これ以上はここに居ては駄目だ。仁部はそう判断し、引率するように先に斜面を下り始めた。
その時だった。
「健太さん!」
タイミングを見計らったかのように、佐竹を呼び止める林の声が聞こえたのは。

【生存者残り34人】



リレー版 Written by ◆9LMK673B2E
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