64.「竜の咆哮」

    

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「……なんでこんな所に来てるだ」
呟きながら、短く刈り込まれた頭を掻いた。視線のすぐ先には四角いコンクリートの建物。横山竜士は出発地点である学校のすぐ近くにいた。

新井と約束をして別れてから2時間。無意識のうちにこの場所に戻ってきていた。おそらく、横山が最後に皆の姿を見た記憶がここだったからだろう。
だがよくよく考えてみれば、留まっている人間がいるはずはない。あの異常な状況下ならば、普通はなるべく遠くへ遠くへと逃げたいと思うだろう。実際、自分たちもそうだった。
(しかし探すなんて簡単に言ったけど、どこをどうやって探すって言うんだよあの単純馬鹿が!いつもいつも、深く考えないで気持ちだけで全て上手くいくと思ってるんじゃねえか?世の中そんなに甘くねえっ!)
自分が二手に分かれて仲間を探すことを提案したのを棚に上げて、すべて新井のせいにして心の中で悪態をついたら少し気持ちがすっきりした。
(さて…と)
気を取り直してもう一度、学校を眺めて見る。敷地まではざっと100m。ここならばまだ例の“立ち入り禁止”エリアには含まれていないようだ。

首に巻かれた爆弾には、盗聴器も仕込まれていると幹英はいった。
(こんなモノ作るんだったら、もっと年俸上げろっつーの)
小型爆弾、それを管理するシステム、何十という銃器。
莫大な金が動いている。
また、釈然としない思いが横山の心の奥で蠢いた。

気味の悪いほどの静寂の朝の中に、古い学校もまた口を閉ざすようにして佇んでいた。
あの中に監督はいるのだろうか。幹英はどこまで知っていて、いったい何をしようとしているのか。奉文は、田村は。
ふと思い立って、一歩、足を踏み出してみる。何も起こらない。
また、一歩。

あの建物は何かを知っている。
横山はそこに、どこまで近づくことが出来るのかを試してみたい衝動に駆られた。
だいたい、禁止エリアが本当に存在するのかどうかも疑わしい。そんなシステムまで作ったら、よくわからないがそれこそ金がかかりそうだ。
自分たちの行動を制限するためのブラフという可能性だってゼロじゃない。
本当に、この首輪が爆発するのか、どうか。

勝負。

一歩前へと足を踏み出す。まだ大丈夫。深呼吸をして、また一歩。
少しずつ近づいていく。ギリギリの緊張感。そんなのは昔から慣れている。

どくり。
突然、心臓が跳ね上がるような感覚があって、慌てて首元に手を当てた。
手の平の下に、この殺し合いが始まってから幾度となく触れた金属の感触がある。
大丈夫、まだ爆発してはいない。
それなのに、この猛烈な不安感はなんだ?血管が激しく脈動しているのがわかる。
もう一度深く息を吸い込もうとしても、まるで気管に栓でもされているかのように、肺の奥まで空気が届いていかない。

必死で浅い呼吸を繰り返す。どくどくという音が体中で響いていた。
(ビビッてんじゃねえよ!何もない。大丈夫だ!)

一歩。
ゆっくりと右足を動かした。

「…………っ!」
足の裏が地面に着く寸前のところで無理やり身体を捻り、重心を後ろ側にして倒れこんだ。転がりながら、慌てて首輪を掴む。首筋がべっとりと濡れていた。汗が吹き出ている。
ゆっくりと顔を上げると、相変わらず静まり返った学校が目に飛び込んでくる。
随分と近づいたはずなのに、その建物はさっきよりもずっと遠く感じられた。
(クソッ!)

本当はまだいけるかも知れない。
禁止エリアなんて、ブラフかもしれない。
それでも、もう進めない。
指先に力をこめる。金属の輪が首の皮膚に食い込んだ。
こんなもので一喜が殺された。そのせいで仲間たちが殺し合いをしている。
そして今、自分は何かを隠して沈思するあの建物に近づくことも出来ない。

若い頃から、怖がって逃げるのが一番嫌いだった。何があっても向かっていくのが信条。
それでも、今、横山は死を恐れている自分を感じていた。
出発の時、みんなの前で絶対生き残るぞと啖呵をきった。あれは本当は恐怖を誤魔化したかっただけだったのではないか。

そう、出発の時。一喜の遺体が脳裏に浮かんでくる。
嘘みたいにあっけなく死んだ。そういえば、あの死体はどうなったのだろうか。
(……アイツの嫁さんには、誰が、なんて伝えるつもりなんだ)
首筋に痛みを感じるほどに忌まわしい金属を握り締め続けると、大声を張り上げる。

「馬鹿にしてんじゃねえぞ、コラァァァァァ!!」

悔しさに込み上げてくるものを、怒りで押し隠す。
幹英は盗聴されているといった。それでも構わなかった。
ただひたすらに口を噤むあの建物の中まで、この叫びが届けばいい。

【生存者残り 34名】



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