23.『B級青春ドラマ』

    

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「なんでいねぇんだよ、アイツは…」
末永真史(51)は、栗原健太(50)と合流することなく海岸まで出てきてしまっていた。
途方に暮れるように、とぼとぼと海岸沿いを歩いていた。
学校を出たらひたすら真っ直ぐ。
いくら馬鹿でもその指令を間違えるわけがない。
(誰かに襲われたのか…?)
まさか、やる気になっている誰かに襲われたのだろうか?
(まさか…死んで…ないよな?)
力はあるし、足も遅くはない、身体能力に秀でた栗原がそんなに簡単に殺される事などあるはずがない。
末永は絶対にその最悪の状況を考えまいと、強く強く意識した。
(とにかく…早いうちに合流しないと…)
このゲームは危険すぎる。
たとえ学校を出た時は冷静でも、時間が経つにつれて正気を失う奴が出てくるはず。
早いうちに栗原と合流しなければ、生きて再会するのは無理になってしまう。
(こんなもんを…使わざるをえなくなる時が来るのかな?)
手にしっかりと握っているのは連射性能に優れたサブマシンガン、イングラムM10。
『大当たり』と赤字で書かれた簡単な説明書はとりあえず読んでおいたが…
(嫌だぞ、皆と殺し合いなんて…。)
玩具ではない事が明らかなその重量感。
このゲームの元になったであろう映画では、殺人鬼となった人物が愛用していたという嫌なイメージ。
(俺は…絶対あんな風にはならないぞ…。)
42人の中で1番か2番目にいい武器をもらったであろうその幸運も、この状況では不運とも呼べるものだった。
武器がもし誰も殺せないような変なものならば、仲間を殺すという嫌なイメージが浮かぶ事がなくて良かったかもしれない。
そんな事を考えながら末永は、それの安全装置がかかっている事を何度も確かめながら歩いていた。
と、そんな末永に、小高い丘にそびえる一軒の家が見えた。塀に囲まれた、立派な家だ。

(とにかく、栗を見た人がいるかもしれないし…)
その一念で、危険は承知だったが情報を集める事にした。
もしかしたら、栗原を見かけたかもしれない。
いや、もしかしたら栗原がそこにいるかもしれない。
とにかく、一人では心細い。学校にいた時から常に付きまとう嫌な影をなんとかしたい。
喪服に身を包んだ男が、何やら棺桶を用意している。
──少年、この先待つのは地獄だけですよ。さっさと死んだ方が楽でいいんじゃないかい?──
(なんだ。いくら俺が子供扱いされてるからって、あの本の主人公みたいじゃないか。俺は中学生かっつーの。
 そりゃぁ、あの本や映画を見た夜は眠れなかったけどさぁ…。)
とにかく一番頼れるのは普段から仲の良い栗原だ。
まず栗原と合流したら、あとはこんな状況でもなんとかしてくれるであろう川…いや、前田と合流すれば安心できる。
他にも新井・横山組が何か計画しているかもしれない。それでもいい。──ああ、なんて他力本願なんだい、少年…──
周囲を気にしながら近寄り、末永はその家の玄関にたどり着いた。
「誰かいませんか?末永です!俺はこんなゲームに乗る気はありません!
 栗原を探してるんです!栗原を見たかどうか、今はそれだけが聞きたいんです!」
しかし、返答はない。
唾を飲んで、末永は言う。
「入りますよ…?」
もし、”やる気”の奴が中にいたら──?今、俺を殺そうとその牙を研いでいたら──?
途端に恐怖に襲われ、足がすくむ。
──『前田二世』とか言われていい気になった選手が、ゲーム開始直後に即死。ああ、なんて無様な最後なんでしょう──
(いざとなったら…撃っていいのかな?)
もう一度イングラムに目をやると、それの安全装置を恐る恐る解除した。
(…何やってんだよ!誰も殺さないって決めただろ!)
──綺麗事ばっかりじゃ生きていけませんよ?生き残りたいんでしょ?だったら殺さなきゃ…──
(うるさい!黙れ!黙れ!!)
泣きそうになりながら葛藤し、再び安全装置を乱暴にかけた。もしかしたら自分は狂いかけているのかもしれない──。
深呼吸をして必死に恐怖心を抑え、足を踏み出し、玄関からすぐの部屋に足を踏み入れた。

「動くな」
田中敬人(19)は静かに呟いた。その右手にもった銃らしきものが、末永のこめかみに突きつけられた。
「田中…さん?」
──へいへい、やっちまったんじゃないの?少年──
血の気が引き、鳥肌が立ったのが分かった。棺桶と一緒に、喪服の男が一歩こっちに近づいてきた。
「頼む…俺を一人にしてくれ…。何も言わず、出ていってくれ」
田中敬人(19)は、しゃがれた声で呟いた。
「…田中さん?何言ってるんですか?」
「疲れたんだよ…こんなゲームには。もう…嫌だ…誰とも会いたくない……」
生気の感じられない、弱弱しい声。どうやら相当まいっているようだ。
「田中さん…諦めてどうするんですか。横山さんが出発する時に『みんなで生きて帰ろう』って言ってたんです。
 きっと新井さんと横山さんは今頃仲間を集めながらこれをぶっ潰す計画を立ててるはずです。
 それに新井さん達だけじゃなくて、みんなが何とかしようと今頑張ってるはずです。
 …だから、そんな事言わないでくださいよ」
銃をつきつけられている末永は、目だけを田中に向けて言う。鳥肌が立ったほどに感じていた不安は、少し和らいでいた。
田中からは、ギラギラとした殺意を全く感じなかったからだ。
「みんなで帰る?馬鹿な事言うな…。俺達は6人になるまで殺し合うんだ…」
「絶対他に道はあります!だから、…頑張りましょうよ」
末永のその言葉を無視するように、田中は末永の左手のマシンガンを奪い取り、銃口を自分の顔に向ける。
「お前、いい武器持ってるな…。なぁ、この引き金を引けば、楽になれるよな…?」
「田中さん!」
「もう…疲れたんだ」
虚ろな目でイングラムの銃口を見つめる田中。
──そこで末永の怒りは頂点に達した。何かスイッチが入ったのか、様子が急変した。
持っていた荷物をその場に降ろし、田中の胸倉をつかんで無理矢理顔をあげさせた。
「…ふざけんじゃねぇ!!」

腹から息を吸い込んで、田中の頬を本気で殴った。そして怒りの形相で田中を見下ろして、叫んだ。
「何がもう嫌だ!何が死にたいだ!今度そんなふざけた事言ったら、俺がぶっ殺してやる!!」
──しょ、少年、そんな顔も出来たのかい?──
田中は、頬を押さえてしゃがみこんだまま俯いている。
「みんな同じなんだよ…みんな辛いんだ。アンタだけが被害者ヅラしてんじゃねぇよ!」
その叫びには、末永自身の悲痛な想いもこもっていた。そう、辛いのは決して田中だけじゃない。
「…」
「絶対俺達は生きて帰るんだ!勝手に諦めんな!」
すると田中は起き上がり、今度は末永の胸倉を掴んで叫んだ。
「夢見させるような事を言うな!どうやって帰るって言うんだよ!逃げられるわけないだろ!?」
ずっと生気のない顔をしていた田中だったが、末永に負けじと大声を出す。
大丈夫、まだこの人は死んでない──。末永はこんな状況ながら少し安心した。
「だからって仲間を殺していいのか!仲間が死んでいくのを黙って見てろって言うのか!
 俺は、こんな腐ったゲーム絶対に認めないぞ!」
「お前は甘すぎる!純粋すぎるんだよ!誰も信じられないこんな状況じゃ、割りきるしかないんだよ!
 俺達は、6人になるまで殺し合うんだ!それが嫌ならさっさと死ぬ!それ以外の道はない!」
「道がなけりゃ作るまでだ!みんなで力を合わせてこんなゲームぶっ潰してやるって、どうしてアンタは考えられないんだよ!」
「…俺だって、出来るもんならお前みたいに希望を持っていたいよ…」
何かを思い出したように田中の様子は急変し、声のトーンが下がった。気になったが、末永は続けた。
「…田中さん、あんたはマウンドに上がった時何を考えてた?『こんな奴、俺には絶対抑えられない』なんて思ってたのか?
 『弱気は最大の敵』って、教え込まれてきたんだろ!?」
「弱気は、最大の敵…か」
しばしの沈黙。末永は荒い呼吸を抑え…
「…お願いです、田中さん。…仲間を信じてください。説得すれば、みんな絶対分かってくれます。
 横山さん達と合流して、みんなでこのゲームをぶっ壊しましょうよ!」
訴えかけるように一言一言に感情を込め、懇願する。

「…駄目なんだ。俺、小島を…脅して追い返してしまったんだ。俺には、お前と一緒に行く資格がない…」
「小島を…?」
「俺は最低の先輩だ…。あいつは俺を頼って声をかけてくれたのかもしれない、それなのに俺は…」
再びうつむき、拳を握り締める。強気な投球が身上の田中の、こんな表情を見るのは初めてだった。
「…それなら、俺が小島を探し出して説得します。田中さんの気持ちも伝えます」
「…」
「俺達には、悩んでる時間なんてないんです」
「末永…」
「一緒に、これをぶっ壊してやりましょう」
末永の目を見ていると、心の奥から、失われた光が戻ってくる気がした。末永の目は、純粋無垢な少年のような目だった。
顔に活力が戻り、少しずつ普段の表情に戻っていく。
そして末永もまた、狂いかけていた自分を取り戻した気がした。とにかく、現実から逃げてはいけないのだ──。
「…なら、もし小島に会えたら、土下座して謝るよ。そして、あいつと一緒に由宇に帰るよ」
「何言ってんですか。市民球場でしょ」
「はは、そうだな…」
この島にきてから、二人は初めて笑った。先程からのやりとりはまるで青春ドラマの1シーンだ。

大の大人が二人して、希望に満ち溢れた会話。安っぽい青春ドラマだ。視聴率は1ケタか?巨人戦中継にも劣るな、こりゃ。
まぁいいか。このクソゲームに、少しだけ希望が見えてきたんだ。
『弱気は最大の敵』。まさに、このゲームのスローガンはそれなんだ。

それから末永は事情を話したが、田中は栗原を見てはいなかった。
仕方なく末永は栗原を探しに出ることにした。
「俺は栗を探しに行きます。田中さん、一緒に行きませんか?」
「いや、俺はこの辺を探索してみる。誰か来たら説得して、仲間を増やすよ。だから、小島に会ったら…頼む」
「…分かりました」
「あ、そうだ。今玄関の近くで見つけたんだが…この弾、お前のマシンガンで使えないか?」
田中が取り出したのは拳銃の弾だった。22マグナムという弾で──まぁ、二人には知る由もないのだが──、
末永のイングラムM10には使えないものだった。
「えーと…確か俺のは…あ、多分違いますね。田中さんが一応持ってて下さいよ」
予備マガジンに装填されている弾と比べると、明らかにそれとは違っていた。
「そうか」
(しかし一体誰のだろうな?俺より先にここに来た人がいるんだろうか…?)
「じゃぁ、絶対また会おうな」
「はい。…弱気は最大の敵、ですよ」
「あぁ、分かってるよ」
そして清々しい顔で、二人は別れた。二人は、なんとかこのゲームのフィールド上に真っ直ぐに立てた気がした。

──しかし、二人とは全く違う、殺意を持った表情をしている男の影は、すぐそこまで迫っていた。

【生存者残り40名】



リレー版 Written by ◇富山
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