41.それぞれの想い

    

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─ なぁスエ、今のカープを…どう思う? ─
─ えー、いいんじゃないですか? みんな、仲良くやってるし ─
─ 仲良く、か… ─
─ どうかしたんですか?前田さん ─
─ いや…、………なんでもないわ ─

─ …ワシはもう一度強いチームに戻ってほしいんじゃ。もう一度、強い赤ヘル軍団にの ─
前田さんも山本監督も、今のチームじゃ駄目だってのか??
駄目だから、殺しあわなきゃいけないのか?

─ その為には少々の犠牲を払っても、一度壊さんと ─
壊す。カープを、壊す。
嫌だ。そんなの嫌だ。
俺は、みんなと一緒に野球がしたい。みんなで優勝したい!

─ 死んだ奴の名前を言ってくけぇのぉ ─
死んだ奴。この6時間で、誰かが死んだ。誰かが殺した。
誰かが、カープを壊そうとしている。嫌だ。嫌だ。
畜生!!

「…あそこだ」
末永は、栗原の荷物と自分の荷物を全て持って集落まで歩いたため、息を切らしながら言った。
栗原は失血量が多いのかやや顔色が悪く、そうか、と小声で呟いただけだった。

(田中さん…何かの間違いですよね?死んだなんて…)
「田中さん!末永です!戻ってきました!!」
しかし、返事はない。
軽く舌打ちをした末永は、玄関に座りこんだ栗原を励ますように言った。
「栗、絶対助かるぞ。今救急箱を探して来てやる」
「あぁ…」

屋敷に入った末永は、ふと廊下の突き当たりのドアが開きっ放しになっている事に気づいた。
何か引き寄せられるような感じがして、気がつくとゆっくりと歩を進めていた。
しかし、そこで待っていたのは───
「うわあああ!!」
カープのユニフォームを着ている誰かが、床に倒れ伏していた。
見たくはなかったが、耐えた。ユニフォームに刺繍された数字は…19番。
間違いなく、先程の放送で死んだと言われた田中敬人の番号だった。

「田中さん!?なんでですか!一緒に帰るって…一緒に帰るって言ったじゃないですか!!」
必死に叫ぶが、返事はない。ついさっき、この家で会話をかわした相手が、もう息絶えていた。

──その時末永は背後に何者かの気配を感じた。背筋がゾクッとするほどに冷たい威圧感。
恐る恐る振り向くと、緒方孝市(9)が、冷たい表情で田中と末永を見下ろしていた。

「緒方…さん…!まさか、まさか緒方さんが…!?」
緒方の右手にしっかりと握られているのは、紛れもなく拳銃だった。
自分の持っているマシンガンに比べればいくらかチープに見えるものの、人一人を殺すには充分だ。

 この人は”やる気”だ──!やれ!撃て!殺される!
 いや、でも殺しちゃ駄目なんだ!このゲームを止めるんだ!
 けどそんな事考えてる場合じゃない!やらなきゃ殺されちまうんだよ!

緒方の威圧感に気圧され、またも狂いかけてしまう末永。
そんな末永に対して、緒方はゆっくりと右腕に握った拳銃の照準を合わせる。
_ぱん!
そして、一発の銃声。

突如聞こえた銃声の音が、朦朧としていた意識をはっきりとさせた。
浅井にこの包丁を刺された時から、ずっと激痛に見舞われていた。
体中の血液が出尽くしたのではないかというほどの脱力感。
(ああ…、情けない。この程度だったのか、俺は)
来年こそは飛躍の年になるはずだったのに。
自分は、おそらくここで死ぬ。こんな中途半端なところで。まだ何も達成できてないのに。
(末、…もういい。包帯とかでどうにかなる傷じゃない… 俺はいいから、逃げろ。逃げて、生き延びろ)

──思えば変な奴と仲良くなったものだった。
同期で入団した時から童顔のくせに"こだわりの"丸刈り。
天才と呼ばれていた割に、自分では外見も性格も『普通だよ』とだけ言う。
そのくせ『理想の打撃は10割打つこと』なんて恥ずかしがりもせずさらっと言うし、
いくつになってもお菓子が大好きで、なんかいつの間にかだらしなく太ってるし、
いつもガキみたいにはしゃぐくせに…キレたらあんな風に豹変するし。
が、それでもカープの中では親しい人物である事に間違いはない。
そんな、いいライバルでありいい友人だった男だ──

 今の死にかけの俺に…何ができる?
 それはただ一つ。末永をこの場から無事逃げさすことだ。

栗原は気力を振り絞って立ちあがり、よろけながらも歩き出した。

──信じられない事だった。自分でも。
末永の額をポイントしていた拳銃から放たれた銃弾は末永の脳を貫くことなく、部屋の壁に突き刺さった。
末永は無意識のうちに頭を下げ、その低い体勢から、一気に緒方の横を駆け抜けた。
頭で考えてやった行動ではない。動物的本能が危険を察知し、無意識に末永を屈ませた。
『前田二世』とも言われた天才肌の野球選手の細胞が、命の瀬戸際で小さな奇跡を起こした。
抜群の脚力で一気に加速し、緒方との距離を一気に離した。

──へいへい、刺せるもんなら刺してみろってんだ!最高のスチールだぜ!──

緒方は一瞬呆気にとられたらしく、振り返って銃を向けたときには
末永は既に廊下の中ほどまで到達していた。
_ぱん!ぱん!
すぐに銃声が一発。二発。
末永はその銃声の直前に右足を踏み込み、そのまま全力で左に飛んだ。
銃弾はその直前まで末永の腹部があった所を通って、前の壁に突き刺さった。
まるでアクション映画のような激しい戦闘だ。

そしてそのまま玄関から外に出た。
この立派な家の敷地を表すブロック塀の影に隠れ、玄関の様子をうかがう。
すぐに玄関の戸から緒方が顔と右手を出した。
_ぱん!

慌てて顔をひっこめた末永の体は、小刻みに震えていた。
無意識のうちにここまできたはいいが、頭も体も完全にパニック状態だった。
イングラムの安全装置を解除しようにも、手が震えて力が入らない。
(な、な、なんなんだよ!!なんだこれ、ドラマの撮影!?銃?本物??緒方さん??鬼?殺し合い??俺、殺される??)
_カッ、カツッ… 
パニックになった末永の視界に、突如上から降ってきた楕円形の物体。
そして…
「手榴弾だ!逃げろーーっ!!」
(!!)
耳をつんざくような轟音。紅炎。そして激痛。鮮血。右腕の感覚が、ない。
「うおおおお!!」
玄関から誰かが叫んでいる。耳がおかしくなったのか、その声はひどく聞きとりづらかった。
ますますパニックになっている末永が、ようやくあることに気付いた。
栗原をおいてきてしまった!──するとさっきの声は栗原か?
_ぱん!ぱん!
「ぐああああああああ!!!」
そして銃声。絶叫。またしても混乱。
「スエ、逃げろ!俺はいいから!……うああああああ!!!」
塀の向こうで何かが起こっている。そして、ここでも何かが起こっている。
夢?いや、現実なのか?信じたくないほどに残酷で、地獄のような光景に違いない。
もう、呻き声さえも出てこなかった。

──緒方は、このゲームが始まって初めて、自分の命の危機を感じた。
自分が井生に与えたような、言いようのない恐怖感。
自分に与えられた使命は、『闘争心のない者を殺す』というもののはずだ。
栗原は間違いなくカープの主力になれる選手。そして、闘争心をむき出しにして自分に向かってきた。
(撃ってしまった──!)
銃を構える。狙う。引き金を引く。全ては無意識のうちに行われた行動だった。
「まだだ…まだ終わらねぇぞ。日本一のバッターになるって目標はもういい。今の俺は…」
一方、自分の右腕に刺さっていた包丁を無理矢理引っこ抜き、猛獣のような目で緒方を睨みつける栗原。
体の数箇所から血を流しながらも、痛そうなそぶりなど見せない。
(この刃で、緒方さんの足にでも傷を負わせられればそれでいい)
「アイツを無事に逃がす!それだけだ!!」
ホームランを打つわけじゃない。自分の役割は、そう──
(人生最後の大勝負が、まさか送りバントとはな…)
自分を犠牲にして、仲間を先に進める。随分と自分のイメージとはかけ離れた役割なものだ。
強敵・緒方に勝つつもりはない。今の状態では勝てるとも思わない。だが──
(送りバントくらいは、決めてみせる!)
血走っている栗原の眼には、一片の迷いもない。
「うおおおおおおおおおお!!」
(スエ、──走れっ!)
咆哮し、緒方に飛び掛った。

スローモーションのように栗原の動きが遅く見えた。
(俺は…、どうすればいい…?)
そして聞こえた。空耳にしてはやけにリアルな声が。
『パパぁっ!!』
_ぱん!ぱん!ぱん!
(あ…)
引き金にかけていた指は、もう止まらなかった。
最後に放たれた銃弾が栗原の額を貫通した。栗原はそのまま重力に従って倒れ、ピクリとも動かなくなった。
苦悩する緒方を駆り立てたのは、帰りを待つ家族への愛だったのか。そう言えば少しは格好がつくのかもしれない。
しかし緒方は分かっていた。それは単なる恐怖心にすぎなかった。
ほんの少しのきっかけで、爆発するほどに膨れ上がった恐怖心。何とも情けない話だ。
これほどまでに自分に腹が立ったのは初めてだった。身勝手な自分に。

 俺は──こんなに弱い人間だったんだ…
 己の判断のみを拠り所として人を殺す。それすらも出来ない程に。
 ただ自分が死にたくないから。それだけの理由で、人を殺した。
 俺は──無慈悲な神でも冷酷な鬼でも何でもない、ただの臆病者だ。
 こんな人間が、カープを生まれ変わらせられるわけがない!

こんなゲームの中でも平常心を失わない自信ならあった。何度怪我をしてもそのたびに這い上がり、
レギュラーポジションを奪回してきた自分だ。精神力という点ではチーム内でもずば抜けている。
だが、それは甘かった。
自分は、自分が殺した井生と何ら変わらない、恐怖に負けた弱虫だ。
猛獣のような目をして襲い掛かってきた栗原の方が、よっぽど強い人間だっただろう。
栗原に殺されなかったのはただ単に、自分が栗原よりいい武器を持っていたからだ。
殺し合いには勝った。だが、勝負には負けた──!

頭の中がグチャグチャになり、めまいや吐き気のような嫌な感覚にも襲われた。
少しずつ、──瓦礫の山から瓦礫を取り除いていき、中に埋もれてしまった”理性”を掘り返すように、
少しずつ、頭の中を整理していった。

 俺は、変わらなければならない──
 せめて冷酷な鬼にはなれるような…強い心を持たなければならない。
 ボロボロに崩れたプライドを取り戻さなければならない。
 俺が本当にカープを生まれ変わらせたいと願うなら───
 この戦場から生きて帰りたいと願うなら───
 もっと強く、強くなるんだ──!

そして末永もまた、少しずつ頭の中を整理していた。
田中が死んだ。仲間が死んだ。
緒方に襲われた。逃げた。必死で逃げてここまできた。
何かが降ってきた。手榴弾。爆発。運良く体に致命傷を負いはしなかったが、右腕に激痛。
銃声。野太い叫び声。
栗原が、死んだ──?
何故──?
俺が栗原を置いてきてしまったから──?
俺が、どうしようもない臆病者だったから──?
少しずつ、この状況が理解できてきた。溢れてくる絶望感。そして──
(なんで俺は…逃げちまったんだ!!栗は…俺のせいで死んだんじゃねーか!!)
後悔で胸が締め付けられる。

「末永」
そんな時、塀の向こうから自分を呼ぶ声がかすかに聞こえた。
「俺は今栗原を殺した。…憎いだろう?」
緒方の声は、ひどく落ちついていた。感情というものを、あまり感じなかった。
「お前の武器は何だ?銃か?…たとえ全く使えないようなものだったとしても、…いいか。
 俺が憎いなら、かかってこい。俺達の一番の武器は、──自分の、プライドだ。魂だ。」
その言葉を聞いた時、不思議な感覚が体中を駆け巡った。
(俺の、魂…)
「俺はこの体でずっとカープのレギュラーの座を守ってきた」
──そう、何度も死の淵から這い上がってきた。
「だから」
──この肉体がどれほど傷つき衰えたとしても、
「簡単にお前に負けるわけにはいかない」

── 今の俺は…アイツを無事に逃がす!それだけだ!! ──
先程かすかに耳に入ってきた言葉が再度末永の頭と、心に響く。

栗原は──こんな自分を逃がすために、死ぬ覚悟で緒方に襲いかかったのかもしれない。
「末永、未来がほしいなら…ここで俺を殺して行け。自分の力で、掴み取れ。さぁ──行くぞ!」
もしここでも逃げてしまったら──
(アイツに顔向けできねえっ!)
意を決してイングラムの安全装置を外し、塀から飛び出して玄関に向けて撃った。

怒りで我を忘れて"狂った"のではない。
迷いのない自分が、"目覚めた"のだ。

全身を支配していた恐怖を打ち破り、末永は第一歩を踏み出した。
そして緒方もまた、このゲームの中での第一歩を踏み出したのかもしれない。
末永は、友の想いに応えるために──
緒方は、自らのプライドのために──

── 俺は、負けない! ──

二人の意地と意地が今ぶつかり合う。

【栗原健太(50)死亡 生存者残り35名】



リレー版 Written by ◇富山

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