広島東洋カープバトルロワイアル2005

32.再会

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「この野郎ぉおおお!!」
「ちっ!」
(やべぇ、あんなもんと正面から撃ちあえるかよ!)
末永の持っている武器を見るや否や浅井はすぐに栗原から離れ、落ちていた栗原の拳銃を拾い上げた。
正面から撃ちあうのは分が悪すぎる。
特にここは遮蔽物もなく、タイマンで銃撃戦をするには不向きな場所だった。
浅井は続けて自分のディバックだけを拾い、すぐに逃げ出した。体は大きいが、意外に浅井は足が早い。
「逃がすかあっ!!」
足では負けない。末永は自慢の俊足で浅井を追いかけようとした。
乾いた大地を左足で踏みしめ、グッと力を入れて地面を蹴り、一気にトップスピードに乗った。
(殺してやる!殺してやる!!殺してやる!!!)
「ぶっ殺してやる!!逃げんじゃねぇ浅井ーーっ!!」
_ぱらららららららららら
怒号と銃声が辺りに響き渡る。

末永のこんな叫び声を聞く事は、普段はほとんどなかった。
末永といえばルックスが良く、女性人気はカープ内ではかなり高い部類に入る。
性格はやや子供っぽく、皆──特に先輩達か──から可愛がられていた。
前田に『スエちゃん♪』と呼ばれて、照れ笑いしながら『やめてくださいよ』、と言っていた。
”怒る”というとあまりイメージがわかない。たいていの選手はそう言うだろう。
子供のようなはにかんだ笑顔。
人生初のサヨナラヒットを打ってお立ち台に上がった時のような笑顔のイメージが強かった。
しかし、栗原は末永が激怒した場面をよく知っていた。

ある日の甲子園。森跳二(16)が阪神タイガースの正捕手・矢野の頭部に危険球を投じた事で、
甲子園の雰囲気はどこか異様なものになっていた。
そして、事件は起きた。
カープの守備。本塁クロスプレー。キャッチャー倉がホームに陣取る。
3塁ランナーのシェーン・スペンサーが走ってくる。そして──
(!!)
故意か事故か。確かめる術はない。だが事実、倉は吹き飛ばされ、後頭部から地面に落下した。
そのまま担架で運ばれ、カープベンチが一瞬のうちに静まり返った。
そして、甲子園はわれんばかりの”シェーン”コール。
──なんだなんだ、これはプロレスの試合だったのかい?──
そんな雰囲気にも呑まれ、カープの選手達はただ黙って倉を心配するだけだった。
何より、チームの総大将の山本浩二自身が腕を組んで座っていただけだったから。
すっかり”負け犬体質”が染み込んでしまっているカープの選手達には、ベンチを飛び出す気力もなかった。
だが──
『なんだよ、今のは!!』
血相を変えてベンチを飛び出した一人の選手がいた。それこそが、末永だった。
顔を真っ赤にして、自分とは比べ物にならないほどにガタイのいいスペンサーに向かって突進していった。
『末永!落ち着け!!気持ちは分かるけど、止めろ!!』
グラウンドで審判に激しく抗議していた新井貴浩(25)に制止されて立ち止まった末永を、栗原は急いで取り押さえた。
『離せよ栗!あいつ、ぶん殴ってやる!!』
『馬鹿!落ち着け!そんなことしてどうする!』
『どう見てもわざとじゃねぇか!あいつ、絶対許さねぇぞ!!』
その細身な体からは信じられないほどの力を出し、大柄な栗原の手を振り解こうと暴れる末永。
そんな力があるのなら何でバッティングにも使えないのか、と栗原は後々不思議に思ったりもした。

『はいはいスエちゃん、落ち着いて~』
福井敬治(38)他何人かの選手にも抑えられ、なんとか末永をベンチまで戻したはいいが──
(こいつ、キレたら凄いんだな…)
それが、栗原が末永の意外な一面を知った場面だった。
『畜生!』
『おい、利き手はやめろ!』
その後も利き手でベンチを殴ろうとしたりしたので、しばらくは見張りに気を使った。
(『どこかのピッチャーみたいになるぞ』、なんて冗談も言える雰囲気ではなかった)

そんなわけで、キレた末永を野放しにはしておけない。
このまま放っておけば、その武器に装填された全ての弾丸──いや、ひょっとしたら『持っている全ての弾丸』、かも…──
を浅井にブチこむくらいのことはやるだろう。そうなってはいけない───!

「スエ!!」
末永がマシンガンの弾をばら撒きながら物凄い速さで栗原の脇を駆け抜けていこうとしたその時、
栗原は腹の底から叫び、呼び止めた。
末永はその叫び声を聞いた瞬間に、前に流れる体を無理矢理止め、我に返ったように振り向いた。
「スエ…行くな。俺の事はいいんだ。…だから、そんなもんをチームメイトに向けないでくれ…」
「何言ってんだよ!!今すぐお前の仇をとってきてやるから!!」
「お前が浅井さんを殺したら、ますますこのイカれたゲームが止められなくなるかもしれないんだぞ…」
栗原の視線の先には、末永の左手にしっかりと握られたマシンガンがあった。
マガジンに装填された30発の弾丸のうち、1発でも当たれば人を殺せる凶器。
末永は今、その凶器をチームメイトに向けている──!
「あんな奴ほっといたら、止められるもんも止められねーよ!」
「それよりも…この傷、やばい。血、止めねぇと…」
浅井の突き刺した刺身包丁は、今も栗原の右腕に刺さったままだった。

血は止まっているのか分からなかった。右腕が真っ赤になって何がどうなっているのか分からなかった。
ただ、放っておいていい傷ではない事は明らかだった。
「…くそっ!」
_ぱららららららら!
とうに姿の見えなくなった浅井が逃げた方向へ、全ての弾を吐き出した。
そのまま三振した後バットを投げる時のように、イングラムを地面に叩き付けた。
そしてちっ、と舌打ちをし、ディバッグの中をゴソゴソを探り、下のほうにあった地図を手に取った。
「包帯とかないか?」
「今はないけど…、ここに来る前に田中さんと会った。大きな家だ。
 あそこは大きい家だから、救急箱くらいは絶対ある。あそこを目指そう。そう遠い所でもないしな」
「あぁ、分かった…」
「立てるか?」
「大丈夫だ…」
栗原はゆっくりと立ち上がった。荷物を落とし、銃も浅井に持ち去られたため、持ち物は何もなくなっていた。
「お前さ、なんで俺の言う事聞かなかった?…てか、なんで手ぶらなんだよ!」
「いや…歩いてたら悲鳴が聞こえてさ。気がついたらそっちに走ってた。荷物もその時落とすし、ロクなことがなかったよ」
「ったく…。今度お前の実家行くから、焼肉10人前おごれよ」
「あぁ、どんだけでも食わせてやるよ」
いつもの調子で談笑しながら、二人は歩き出した。
一人より二人。やはり二人で歩くというのは安心感が違う。もう、狂う事はない。
自分の中の安全装置が外れてしまうこともないだろう。それほどに安心した。

しかしその道中──
『みんな起きとるか~。そんじゃ、死んだ奴の名前を言ってくけぇのぉ…』

末永はこのゲームの恐ろしさを改めて知る。

【生存者残り36名】


リレー版 Written by ◇富山
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