53.「Restart」

    

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倉が目を明けた時、森笠はまだ俯いていた。
長い長い祈り。
どれだけ祈っても足りるということはなかった。
彼らの目の前には佐々岡と永川の身体が横たわっている。
死んでいた。
「どうして、こんな……」
森笠の声が震えている。
どうしてだろうなと、倉が呟く。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。

深夜の銃声の動揺からようやく落ち着いた矢先に放送があった。
そこからもう一度冷静さを取り戻すためには、更に少しの時間を要した。
行ってみよう。あの銃声で、もしかしたら、誰か。
その倉の予想は、最悪の形で的中していた。
夜中に聞いた音の方角へ、記憶を頼りに山を登った二人は、すぐに無残な死体を見つけた。

「…倉さんは、これでもまだ信じられますか」
「信じる?」
地面に座り込んだ森笠が、膝の上で拳を硬く握り締めている。
「これだけ死んで、殺されて、まだ信じられますか?みんなのことを」
誰かが死んだということは、誰かが殺したということだ。
そしてその誰かは、自分たちのチームメートと呼ばれる人間。
「俺は信じるよ」
「どうしてですか?」
「確かに佐々岡さんも永川も死んでるんだよな…銃声も聞いたし。
でも、信じるしかないだろ?俺たち、仲間を信じて野球をしてきたじゃないか。
それが信じられなくなったら、終わりだろう?」
「じゃあ、俺は終わりですね」
森笠がゆっくりと立ち上がる。
ずっと膝をついていたので、ユニフォームが土に汚れている。
拳は握り締めたまま、そして顔は涙でボロボロだ。
「だって俺、自分が信じられませんから」
「森笠?」
ゴメンな新井。横山、俺、やっぱ駄目だわ。
「倉さんに黙っていたことがあるんです…俺、福地さんを見捨ててきました」

何度か、外野のレギュラーの椅子が見えかけたことがある。
ああ手が届く。
そう思った時に、いつも調子を落とした。怪我をした。
あとほんの少し。指先が触れかけた瞬間にするりと逃げた。
いったい何が足りないんだと自問した。
緒方・前田・金本…先輩たちに届かなかったもの。
嶋にはあって、自分にはなかったもの。
「長谷川と合流できなかったというのは嘘です。
話しかけると、あいつは銃を向けてきました。俺を撃とうとした。
それを、福地さんが身体をはって止めてくれました。
福地さんは俺に逃げろって…そう言われて、俺は本当に逃げました。
すぐに後ろから銃声と福地さんの悲鳴が聞こた。
でも、俺は戻りませんでした。福地さんを、見捨ててきました。
チームメートを、お世話になった先輩を見殺しにしたんです。俺は……」
一晩中ずっと胸を塞いでいたものを、言葉にして嗚咽と共に吐き出した。
倉に言葉を挟む間もあたえずに、一気にまくしたてる。
二人の死体を見つけたとき、散々泣いた。
それでもまだ涙が止まらない。
「俺は、自分なんか信じられません………!!」

(嶋だったら、きっと逃げなかった。緒方さんや前田さんも…)
いや、その前にきっと、銃なんかに怯まないで、怒鳴り飛ばして、殴り倒して。
こんな状況になって改めて突きつけられた、自分に足りないものたった一つ。
どんな時にも逃げ出さないで、ただ向き合って乗り越えていくための力。
膝のあたりから、もう一度地面に崩れ落ちそうになるのを必死で耐えた。
それだけで精一杯だった。

「…放送」
森笠の言葉が途切れるのを待って、倉がポツリと口を開いた。
「44番福地って。お前、聞こえたか?」
「いえ」
「6人死んだって聞いたとき嘘だと思いたかった。
でも、本当に佐々岡さんも永川も死んでた…だからあの内容は本当だったんだ」
森笠と倉のすぐ脇で、佐々岡と永川の身体が静かに現実を突きつけていた。
「だから死んでなんかいないんだ。生きてるんだよ、あいつは」
「福地さん…」
「だから、誰を信じられなくてもいいから、福地のことだけは信じてやれよ」
ああ、そうだ。
こんな糞ゲームの中で、自分の命を救ってくれた人がいる。
無条件に信頼できる人が、まだどこかで生きている。

自分たち同級生が馬鹿をやった時、あるいは度を越したいたずらや何か。
いつも一緒に笑ってくれた一つ上の穏やかな先輩が、二人。
一人には命を救われて、一人にはどん底から救われた。
(面倒かけてばっかりだ……)
腫れ上がった目を閉じて、森笠は深く息を吸い込んだ。

「スミマセン。もう、大丈夫です」
頭を下げた。
ゆっくりと姿勢を戻しながら、森笠は一つ頷いてみせる。
「行きましょう。ここにいても何もならない」
「よし、じゃあ、基本的には人を探すってことでいいか?」
「はい、出来れば新井たち…どうしてですかね、普段はあんなに頼りないのに、
こういうときだとやっぱりアイツは何かしてくれそうな気がする。
それから、福地さんを見つけます。そして、助けてくれたお礼を言いいます」
去り際にもう一度佐々岡と永川の死体に手を合わせた。
絶対にみんなで生きて帰りますと、森笠は声に出して誓う。

「よし、行きましょう」
バッグを背負いなおして、地図を手に持った。
注意しながら、話が出来る人間を見つけて、状況を打開する手立てを考える。
それは一番最初に決めたことだった。
ただスタートに戻っただけ。

誰かに会う確立がどれだけあるのかはわからなかった。危険もあるだろう。
じっと森の中に隠れて時間をやりすごすという方法も、ないではない。
だが、森笠はその選択を迷いはしなかった。
信じて、逃げないで、踏ん張って、生きて帰って。
もう一度野球をやる。
今度こそ、レギュラーをとる。

出発から八時間。
ようやく森笠は自分自身でこの生き残りゲームをスタートさせた。

【生存者 残り34名】



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