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枕元の時計に目をやった。 まだ、灯りを消してからそう時間は経っていない。 そのため眠りが浅かったのだろう。彼女はその異変に気がついた。 ― …ン…ワンッ… ― 声は窓の外から。 (どうして、こんな時間に?) 広島県が温暖といっても、それは瀬戸内の印象でしかない。 中国山地を背にした北広島町では、この季節は夜はもうだいぶ冷え込みが厳しい。 上着を羽織って外へ出れば、 「どうしたの、ミッキー?」 彼女の家族が、じっと空を見詰めたまま鳴き声をあげていた。 もともとミッキー(111)の性格は大人しい。 喜ぶ・甘えるという感情の表現は豊かだが、怒ったり吠えたりということは珍しかった。 ましてやこんな夜更けに。 「お腹…はすいてないよね。どこか痛いの?」 「クゥ…ン…」 横に座って声をかけると、ようやくミッキーが振り返った。 切ないげな声。そして 「え…」 背を撫でようと伸ばした手を、止めた。 (……泣いてる?) どうしたのと、もう一度問いかければミッキーは少し俯いて。 そしてまた、すぐに空を見上げる。 その瞳が泣いている。涙を流しているわけではない。 それでも彼女にはわかるのだ。ミッキーが泣いている。 「哀しいことがあったの、ミッキー?」 しかしミッキーはその問いには答えない。 視線の先で星が瞬いていた。 星座はゆっくりと天を巡り、南の空には冬の気配を纏った明るい星々が姿を見せ始めている。 その方角をじっと見詰めたまま、ミッキーは動かない。 「何があるの?あの空の向こうで、何があったの?」 両腕を伸ばした。 その暖かな首に顔を埋れば、微かに震えている。やはり泣いている。 この夜、空の向こうで、一つの悲劇がその幕を開けている。 ミッキーの大切な者たちの激情と慟哭は、空を震わせて彼の耳に届いた。 だが、それを知ったところで、ミッキーに何ができるというのだろう? その者たちの心の痛みを和らげることも、悲しみを癒すこともできず、 今はただ無力に、こうして空を見て泣くことしか出来ない。 彼女は、この夜更けに急に泣き出したミッキーの悲しみの理由を知らない。 彼を愛した…そして彼が愛した者たちに訪れた悲しみを知らない。 だからただ、空を見詰めて泣く彼のことを強く抱きしめ続けた。 空には、月が出ていた。 【生存者残り41人】 ---- prev [[9.逆説にいたるまで ]] next [[Comming Soon]] ---- リレー版 Written by ◆yUPNqG..6A
枕元の時計に目をやった。 まだ、灯りを消してからそう時間は経っていない。 そのため眠りが浅かったのだろう。彼女はその異変に気がついた。 ― …ン…ワンッ… ― 声は窓の外から。 (どうして、こんな時間に?) 広島県が温暖といっても、それは瀬戸内の印象でしかない。 中国山地を背にした北広島町では、この季節は夜はもうだいぶ冷え込みが厳しい。 上着を羽織って外へ出れば、 「どうしたの、ミッキー?」 彼女の家族が、じっと空を見詰めたまま鳴き声をあげていた。 もともとミッキー(111)の性格は大人しい。 喜ぶ・甘えるという感情の表現は豊かだが、怒ったり吠えたりということは珍しかった。 ましてやこんな夜更けに。 「お腹…はすいてないよね。どこか痛いの?」 「クゥ…ン…」 横に座って声をかけると、ようやくミッキーが振り返った。 切ないげな声。そして 「え…」 背を撫でようと伸ばした手を、止めた。 (……泣いてる?) どうしたのと、もう一度問いかければミッキーは少し俯いて。 そしてまた、すぐに空を見上げる。 その瞳が泣いている。涙を流しているわけではない。 それでも彼女にはわかるのだ。ミッキーが泣いている。 「哀しいことがあったの、ミッキー?」 しかしミッキーはその問いには答えない。 視線の先で星が瞬いていた。 星座はゆっくりと天を巡り、南の空には冬の気配を纏った明るい星々が姿を見せ始めている。 その方角をじっと見詰めたまま、ミッキーは動かない。 「何があるの?あの空の向こうで、何があったの?」 両腕を伸ばした。 その暖かな首に顔を埋れば、微かに震えている。やはり泣いている。 この夜、空の向こうで、一つの悲劇がその幕を開けている。 ミッキーの大切な者たちの激情と慟哭は、空を震わせて彼の耳に届いた。 だが、それを知ったところで、ミッキーに何ができるというのだろう? その者たちの心の痛みを和らげることも、悲しみを癒すこともできず、 今はただ無力に、こうして空を見て泣くことしか出来ない。 彼女は、この夜更けに急に泣き出したミッキーの悲しみの理由を知らない。 彼を愛した…そして彼が愛した者たちに訪れた悲しみを知らない。 だからただ、空を見詰めて泣く彼のことを強く抱きしめ続けた。 空には、月が出ていた。 【生存者残り41人】 ---- prev [[10.舞台裏の男]] next [[12.渇望]] ---- リレー版 Written by ◆yUPNqG..6A

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