31.罪過

    

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ミィィン…ミィィン…ミィィン…
耳の奥の方で蝉の鳴き声が延々と聞こえる。
苦手な夏を連想させるその鳴き声は、それでもどこか心地良かった。

「うわあぁぁぁぁっ!!」
蝉の鳴き声は、突如誰かの叫び声によって掻き消された。
高橋はただただ呆然と立ち尽くしていた。目の前の光景が、すぐには理解出来なかったからだ。
気付けば永川に加え、佐々岡までもが血まみれで倒れている。
二人はぴくりとも微動だにしない。
仰向けに死んでいる永川。そして佐々岡は高橋の方に手を伸ばし掛けた格好のまま……死んでいた。
二人分の血の量は半端でなく、共通した箇所には血溜りが出来ていた。
その血溜りから流れている血は高橋の足元にまで届いていて、スパイクの先が少し変色していた。
嗅いだ事も無い血生臭さが辺りを充満している。
静寂が戻ったはずのそこは、3人も人間がいるのに息遣いさえ聞こえてこない。
「あ……?」
ようやく発した言葉はやけに掠れていた。
(―――なんだ……?なにかの、間違いだろ……?)
(―――永川だけじゃなくて、何で佐々岡さんまで……?)
そこで初めて高橋は、自分の左手に握られている拳銃に気付く。
存在を初めて知り、急に震えだした。
そして、そこから導き出される答えは一つ。

(―――俺が……佐々岡さんを撃ったのか……?)
震える拳銃と、今は遺体と化した佐々岡を交互に、徐々に引き出される断片的な記憶。
鼓膜を揺さぶる轟音。刹那的に穴が開いていく体。そこから飛び散る鮮血。
そして―――――

『建……、おまえっ……』

最後に、手を伸ばしながら自分を見つめる佐々岡の恨めしげな眼―――――
撃った。間違いなく、自分は佐々岡を撃った。
しかし、佐々岡の手にあったはずの拳銃が、何故今自分の手に握られているのかはまったく憶えていない。
そこだけ都合よく記憶が抜け落ちている。
無我夢中でやったのか。
「あ、あ、……」
理由はどうであれ、自分は人を殺した。
「―――――!!」
もはや声ではない悲鳴を上げて頭を抱え込んだ。
膝からがくがくと力が抜け、その場に座り込む。
耐えられなかった。とてもその事実を受け入れる精神力は持ち合わせていなかった。
「あ、くっ、……ぅ」
すぐにでもその場を離れたかったが、立ち上がる力さえ湧いてこない。
「ごめんなさ、い……っ……ごめ、んなさい……」
無意味な謝罪だとしても、口に出さずにはいられなかった。
助けてやれなかった永川と佐々岡へ。そして帰りを待っているだろうその家族。
もちろん自分にも守っていかなければならない大切な人達がいる。
だからこそ懺悔の隙も与えない程に、瞬間的に罪の重さが増してくる。
重くて、重過ぎて、それこそ狂えてしまえればどれ程楽だろうとさえ思う。
でもそれを許さないかのように、最後の佐々岡の眼が脳裏に焼き付いて自分を責め立てる。
推す様に懺悔と後悔の涙が止まる事を知らないかの様に、後から後から零れ落ちる。
「どうしたら、いいんですか……?」
逆恨みする立場ではないと理解していても、心の片隅に影を落とした少しの憎悪を含む質問をぶつける。
しかし誰も答えるはずがなく。
「どうしたら……答えてくださいよぉ……」

視線の先は永川と佐々岡を通り越して、空虚を彷徨っていた。

――――― 

長い間その場にいた。
夜明けが近いのか、暗く闇を落としていた辺りは薄っすらと変わり始めていた。
すっかり涙は枯れ、今は嗚咽も消えている。
幾分落ち着きを取り戻したものの、膝を抱えたままの姿勢を崩そうとはしない。
容赦なく初冬の寒さが体温を奪っていく中、今後自分はどうするべきなのかずっと考えていた。
「肩……」
乾燥しきった唇を少し動かした。両肩を抱きかかえる様に更に身体を丸める。
こんなに冷え切ってしまっては、当分投げ込みも出来ないだろう。
……いや。もう一生投げる事はないのだ。
(そうだ……それしかないんだ)
考えて、考えた結果。
それは生きて罪を償う事。
山本元監督は6人生き残れると言っていた。
だけど生き残ったとしても野球を続けるのが目的ではない。
自分の犯した過ちを、一生かけて償っていく事。
(……ムシが良すぎるだろうか)
自信が中々持てなくて、また自問自答を繰り返したところで辿りつくのは同じだった。
それでも。自分がこの先出来る事はそれしか思いつかなくて。
だから。
「生き残らないと……」
そして謝らないと。罪を償っていかないと。

高橋は二人の遺体はそのままに、突如自分に科せられた宿命を背負いふらっと立ち上がる。
霧が蔽い始めた森は自分の心の中にまで入り込んでくるようで、誘われるまま、深い先の見えない中を一人歩き始めた。

【佐々岡真司(18)死亡 生存者残り36人】


リレー版 Written by ◆9LMK673B2E
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