もしも3馬鹿常夏トリオが種死に出てたら 格納庫

シリアス8

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匿名ユーザー

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不意に鼓膜を何かが揺らし、スティング・オークレーは顔を上げた。

(――何だ?)

ゆっくりと左右を見回し、耳を澄ませてみるが、それらしきものは聞こえない。
怪訝に感じながら、彼は首をひねった。

「どうかした?」

ふとそんな声がかけられる。見ると、そこには同じく怪訝そうな顔をしたアウルが
あぐらをかいて座っていた。いや、とスティングは頭を振った。

「何でもない。気のせいだと思う」

言いながら立てていた片膝を寝かす。

彼らが居るのは、営地に設置された野営テントの中の一つである。粗悪な電灯に照ら
された内部は薄暗く、いくらか物を持ち込むとそれだけで手狭に感じられた。

「ふうん?」

興味もなさそうに相槌をうちつつ、アウルが手にしたものを近付けてくる。
「お前の番だぜ」と言いながら彼が差し出したのは、数枚のカード――ウノである。
どうやってか、私物の中に紛れ込ませていたらしい――である。

心持ち眉を寄せながら、スティングは己の手札を確認した。
その数はアウルのそれより明らかに多い。旗色はあまりよろしくなかった。

「早いとこ引いたら? 迷ってても札は減らないよ」

アウルが茶化す。その言葉にますます眉を寄せて、スティングは彼の手札を凝視した。

とはいえ、言われた通り迷っていたところで札が減る訳ではない。しばし無言で考えて
から、彼はゆっくりとアウルの手からカードを引いた。

手首を返して札の裏を確認した瞬間、彼は思わずぱっと破顔した。

「――よし!」

控えめに快哉を呟き、一気に4枚ほど手札からつまみ出して捨てる。
これで大体、札の数は五分にまで減った。どうだ、というふうに彼がアウルを見やると、
しかし彼は相変わらず愉快そうな笑顔を崩しもしなかった。

その笑みが、更に唇がつり上がって深くなる。

「残念でした。ウノ」

死刑宣告のようにアウルは言い放ち、すかさず手札から5枚ほど引き抜いて放り出す。

スティングは目を見開いて凍り付いた。慌ててアウルが出したカードを確かめる。
ドロツー2枚にドロフォー3枚。合計16枚の致命傷である。

「ああー! お、お前、そんなのありか!」
「ありあり。さあ、どうするスティング?」

もはや悦に入ってにやついているアウルに、スティングは言葉に詰まった。
恐る恐る手札を確認するが、無情にもそこには数字しか描いていない。

流石にがっくりとうなだれて、彼はしぶしぶ山札から16枚を引き出した。
その間、アウルは含み笑いなど漏らしていた。

「なんだ、反撃しねえの? つまんねえ。――はい、上がり」

そのまま軽い動作で最後の一枚を捨てる彼に、スティングは盛大に肩を落とした。
馬鹿馬鹿しくなって、片手に溢れているカードを放り出す。アウルが少し顔をしかめて
「投げるなよ」と言ってくるが、スティングは彼を睨み返した。

「うるせえ、ちくしょう、イカサマしてんじゃねえのか」
「する訳ねえし、そんなつまんないこと。運だよ、運」

軽く受け流して肩などすくめつつ、アウルが笑う。
スティングは苦虫を噛み潰したような心地で顔を歪めたが、やがて脱力して嘆息した。
半眼になってアウルを眺め、そうして低い声を出す。

「くそ……いいよもう、お前の相手はしねえ」

そのまま彼が立ち上がろうとすると、アウルが不満そうな声を上げた。

「なんだよ、ちょっと負けたくらいで、いきなり」

言いながらスティングを見上げつつ、ちらばったカードを回収し始める。
彼はまだ続けたそうだったが、スティングは頭を振ってみせた。

「別に、そうじゃねえよ。そもそも、ウノなんかしてる状況じゃねえって話」
「はあ? おい、7回も続けといてそれかよ」

アウルはいささか呆れたふうだった。とん、とその手の中でカードが揃えられる。
スティングは少し決まり悪さを感じる。だが続ける気にはなれなかった。

確かに長々と付き合ったのはこちらであるし、連敗に嫌気が差した部分も大いにあるが、
それとは別のところで彼は気分が優れなかったのである。

「……いいだろ、そう、飽きたんだよ。俺はもう止めとく」

と、両手を挙げて「降参」をしてみせると、アウルはますます訳が分からないといった
様子で首をひねった。怪訝そうな顔で、くしゃりと青い髪をかき上げる。

「分かんねえ。どうしたのさ? ウノがそんなに嫌だった?」

苛立ちではなく、ただ困惑している、という感じの彼に、スティングはばつの悪さと共に
ある種の申し訳なさを感じたが、あえてそれを無視した。

「だから、そういうのじゃねえって。止めとこうぜ、こういうのは」
「いや、あのさ――」

埒が明かない、とばかりにアウルが腰を浮かしかけた瞬間、それを制するかのように、
スティングの背後で爆音を模したと思わしき電子音が鳴った。

虚をつかれてスティングは目を見張った。彼越しに向こうを見ているアウルに倣って、
振り返ってみるとそこには寝そべって電子ゲームに興じているクロトの姿があった。

背嚢を枕代わりにした彼は、視線に気付く様子もなく無反応だったが、しばらくして、

「……なに、もう終わり?」

と独り言のような調子で、こちらに目もくれずに呟いた。

スティングは、咄嗟に何と返して良いか分からずに押し黙った。アウルも同じだった。

沈黙の中、クロトは能面のような顔で黙々とゲームを続けていたが、やがてひときわ
大きな電子音が響くとようやく眉を寄せ、表情らしきものを見せた。
彼はそのままゲームの電源を切ると、上半身を起こしてこちらに顔を向けた。

「待機中くらい好きにしてて良いと思うけど。……スティングだっけ?」

名指しにされ、スティングは目を瞬かせながら自分を指差した。
クロトが頷く。彼は身体ごとこちらに向き直ってから、こう続けた。

「お前が何に苛々してんだか、知らねえ。何がそんなに気になる?」

絶句して、スティングは口を手で覆った。

後ろでアウルが、訝しむような声を漏らす。

「……スティング?」

どことなく、探るような響きを帯びた口調の彼を、スティングは渋面を作ったまま見下ろ
した。アウルは床にあぐらをかいたまま、じっとこちらを見上げていた。

「いや……その」

スティングは言い淀んだ。別に返答に窮していた訳ではない。
ただ、今更むし返すには、いささか空気を悪くする内容だろうと思って、
口にすることを避けていたのだ。

この際、仕方がないかと思い直して、スティングは控えめに呟いた。

「あいつら、結局、本当に帰って来なかっただろ。どうなったかと思ってさ」

すると、アウルの口の端が少し固くなった。
神妙な顔つきになって彼は俯くと、小さく嘆息して額を押さえる。
一方では、クロトががりがりと後頭部を掻いていた。

予想のついていた反応に、スティングはますます居心地の悪さを感じた。
茶化せる話題ではなかったし、彼を含めて恐らく誰も話したがらない話題だっただろう。

言わなければ良かった、とスティングが後悔を始めていると、不意にアウルが手にした
カードを床に置いた。次いで、両手を挙げた「降参」のポーズを取る。

「分かったよ。無理に付き合わせて悪かったね」

ごく淡々とした彼の口調からは、特にこれといった感情は読み取れなかったが――

スティングは彼から目をそらすと、溜め息と共に口を開いた。

「……悪い。頭冷やしてくる」

そのまま二人の反応は見ずに、踵を返してテントの外へ向かう。
背後から視線が追ってくる気配がしたが、スティングはそれらを黙殺した。



外は思いのほか暗かった。

空気の澄んだ夜空は快晴で、満点の星が散っていたが、月が良くなかった。
ごっそりと欠けた三日月は貧弱な白光を放つばかりで頼りない。
やや遠く、いまだ負傷者の治療で慌しい救護テントの喧騒が、
暗い夜のしじまを濁している。

(やれやれ……)

そんな中で伸びをして背中を鳴らし、スティングはふうと嘆息した。

どうにも調子が出ていないようだった。行方の知れない二人が気にかかることについて
ではない、それを思わず口と態度に出してしまった「らしくなさ」についてだ。

(失敗した。くそ、何やってんだ俺は)

済んだことにいちいち女々しい、と思いつつスティングは頭をかいた。短く切り揃えた
髪は昼間の一件で土が混ざっていて、ざらざらとしていた。

自慢ではないが、自分はそれなりに場の雰囲気を気遣うたちである。

だから当然、あの場で、あのようなことを話に出すのが好ましくないということは理解
できていた。それゆえ黙っていようと思っていたのに、結局はあの通りである。

つくづく、何をやっているんだ俺は、と思い返して、彼は盛大に溜め息をついた。

「……よお、反省タイムはまだ続くのか?」

唐突に横合いから闖入した声に、スティングの肩が思わず跳ねた。

目を見開いて、ゆっくりと発信源の方を見やると、今しがた出てきたテントの側に、
何やらハードカバーの本を片手にオルガが腰を下ろしていた。

ややあって、スティングは詰めていた息を吐き出しながら肩を落とした。

「あんたか……居たのか」

気が付かなかった、というと、オルガは「不注意だな」と言って薄く笑った。

そんな彼は先刻外を見てくると出て行ったきりかなり経っているが、まさかずっとそこに
居たのだろうか。試しに、スティングはその疑問を口にした。

「どこまで行ってたんだ? 向こう、どうだった」

言いながら、親指で作戦部のテントがある方を指差すと、オルガはどこかやる気のない
仕草で肩をすくめてみせた。節くれ立った指が、ハードカバーのページにかかる。

「愚にも付かねえな。軽いパニック状態で、ろくに話が進んでねえ」

軽蔑したことを言っている割に、彼の口調には殊更何の情感も含まれていなかった。
どうでもいいと思っているのかも知れない。ハードカバーがめくられて、スティングを
見ていた双眸がゆっくりと紙面に向けられる。

「……何だそりゃ。勝つ気あるのか、本当に」

流石に顔をしかめてスティングは呟いた。さあな、とオルガが素っ気なく応じる。

――何となく、そのまま突っ立っているのも居心地が悪かったので、スティングはその
オルガの隣に並ぶようにして腰を下ろした。

とりとめもなく質問を続ける。

「次の進攻、いつになるんだ? それも決まってないのか?」

文字を追っていたオルガの視線が、一度浮上して、また沈降した。

「らしいぜ。まあ、これだけ手酷くやられたんじゃ無理もねえが」

身じろぎもせず本を読むかたわら、そんな気のない返事をよこしてくる。ふうん、と
スティングは相槌を打って、それから例の救護テントの方へ目を向けた。

通常、軍隊では損耗率が3割を超えた時点で「全滅」とされ、その部隊は組織的な戦闘
能力を失ったとされる。そうなったらすぐ後退して再編成を行わなければならない。

ひるがえって、今の自分達はどうかというと、それに近いものがあった。
損耗率は2割。更に基幹要員たる士官の死亡が、建て直しを更に困難にしている。

(それに加えて、モビルスーツだ。あいつら、どこから出てきたんだ?)

救護テントから視線を外し、俯きがちにスティングは眉を寄せた。

現在、地球圏において唯一モビルスーツを軍用兵器として運用しうる組織は、遥か遠方の
カーペンタリアに駐留するザフト軍のみである。
連合の勢力圏を一足飛びに飛び越えて、いきなり彼らが赤道連合領内に出現するとは
考え難いから、恐らくその支援を受けている別組織だろうとスティングは考えている。

しかし、分からないのはその理由だ。内部に混乱を呼ぶのが目的だとしても、今のところ
中立に近い赤道連合をあえて刺激するメリットがあるとは思えない。

相手の目的が分からない以上、確かに迂闊に動くことは得策ではない――恐らく、
再進攻はもっと先の話になるだろうと予感して、スティングはまた深く溜め息をついた。

ぱらり、と乾いた音をたててオルガがページをめくった。

「仲間が心配か?」

え、と目を瞬いてスティングは彼を振り返った。オルガはハードカバーの端に指をかけた
まま、首だけ回してこちらを向いたところだった。
きょとんとするスティングに、オルガは聞こえなかったと思ったのか、

「仲間が心配か、と聞いたんだ」

と、念を押すように繰り返した。

「え、あ、ああ」

どもりつつ咄嗟に頷いて、頷いてから、どうしていきなりこの質問が出てくるのかと
スティングは訝った。脈絡がないように思えたのだ。それをそのまま口に出す。

「それは、まあ……でも何で?」

するとオルガは、再びぺらりとページをめくって、視線を本に戻しながら答えた。

「中の話が聞こえた。意外と薄いぜ、このテント」

そう言われて、咄嗟にスティングは身体ごと背後のテントに向き直った。
実際に厚みを確かめるようにして、合皮素材の表面に触れる。

だが予想に反して指先に伝わってきたのは、しっかりと厚ぼったいテントの感触だった。
試しに耳を当ててみると、確かに中から物音は聞こえてくるが、「話が聞こえた」と
オルガが言ったように、内容の見当がつく明瞭さではない。

(……何だ? 耳がいいのか?)

どこか腑に落ちない感じを覚えつつ、スティングはオルガを横目にした。

彼は早くもそのページを読み終えたらしく、次をめくるべく端に指をかけていた。
その姿に、またしてもスティングは違和感を覚える。

(そういえば、こいつ、本ちゃんと読めてるのか?)

読み進めるスピードが異様に早い。速読というやつだろうか。
というか、それ以前に、この暗さで果たして文字が見えているのだろうか。

スティングがじっと彼の手元を見つめていると、視線に気付いたオルガが顔を上げる。

「何だ? 読みたいのか」
「いや……あんた、読むの早いな」

スティングがそう言うと、オルガは不思議そうに目を丸くした。

「そうか? 普通だろ」

そんなふうに言いながら、ページの端を折ってハードカバーを閉じる。

漫画ならともかく、20秒で小説の見開きを読破する早さが一般的かは怪しかったが、
スティングがそう口にする前に、オルガが思い出したように続けた。

「ああ、でもまあ、俺も“処理速度の向上”はされてるからなあ。普通じゃあないかもな」

あと精度もか、と付け足す彼の言うことが、一瞬理解できずにスティングは呆けたような
顔を晒してしまった。やや遅れて、発言の意味を察して得心する。

(――そうか。こいつ、エクステンデッドじゃないんだ)

それまで何となく感じていた違和感の正体を掴んだような気がして、
スティングは胸中でひとり頷いた。

自分達は確かに強化人間だが、この男はブーステッドマンだ。
強化処理の方法も違えば箇所も違う。それだけといえば、それだけのことなのだが。

神妙な顔をして黙り込んだこちらを訝ったのか、オルガが少し怪訝そうな顔をする。

「……おい? どうした、俺の顔に何か付いてんのか?」

ああ、いや、とスティングは手を振って否定した。

「そういう訳じゃないんだ、悪い。ちょっとぼーっとしてて」

そう答えると、ふむ、と呟いてオルガがかすかに首を傾げる。彼はしばらく、何か考え
込むような表情でまじまじとスティングの顔を見ていたが、やがてふっと息を吐いた。

そのままハードカバーの角を肩に乗せ、予備動作もなく立ち上がる。
ぽかんと見上げるスティングを見下ろし、彼はこんな科白を投げてきた。

「……まあ、なんだ。いきなり味方が行方不明になって気になるのは仕方ねえけどよ」

いかにも慣れていない、といった様子でさ迷う視線と言葉を選ぶ逡巡を見せ、

「大丈夫だろ。あの小さい子も強化人間だ。それにあの薄暗い男、あいつは耐久実験で
どてっ腹に二十も穴開けて生きてた怪物だ。そうそう殺されやしねえよ」

何とも言い難いフォローを口にして、ぽんぽん、と軽く頭を叩いてきた。

完全に反応に窮してスティングは言葉に詰まる。何と答えたら良いのか分からない。
とにかく返事をしなければと、「ああ」だか「うん」だか分からない声を漏らすと、
オルガは満足したように――微妙に誤解があるが――口の端を上げた。

「おし。じゃ、そろそろ中戻るか」

言うなり、つま先をテントの方へ向ける。
スティングは、はあ、とまた曖昧に呟いて、たった今オルガの触った頭に手をやった。

何と言うか――盛大に子供扱いされた気がする。

釈然としないまま、テントの入り口をめくろうとしている彼を見やって、スティングは
ぼんやりと考えた。ブーステッドマンだから、ではないのかも知れない。

この男はこの男で、少し変な奴なのではないかと。

(……まあ、どうでもいいか)

自分でも何やらよく分からなくなってきたので、そこで思考を打ち切ってスティングは
立ち上がった。そのままオルガに倣ってテントに戻ろうとし――

「そこまでだ。お前達、戻らなくて良いぞ」

背後から飛んできた声に動きを止められた。

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