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シリアス9


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つまらない。

周囲八方にずらりと、裏返して並べたカードをめくったり戻したりしながら、アウル・
ニーダは思った。つまらない。少しも楽しくない。

トランプならまだしも、ウノで神経衰弱というのにいささか無理があるのだが、そもそも
元来彼は一人遊びなど苦手な性質である。落ち着かない心地がした。

ふと顔を上げて、先程スティングが出て行った方を見やる。

ひどく白けた気分だった。

「あーあ」

ぼそりと呟いて、そのまま上体を仰向けに倒す。首の後ろで手を組み、ぼんやりと灯りが
ともる天井を見上げる。紛れ込んだ羽虫が一匹、音もなく光を巡って飛んでいた。

ピピピ、ピピピと無心にクロトがゲームに興じる音を聞きながら、アウルは思った。

(意味ないのにさ。気にしたって。特にお前は)

どうでもいいけど、と口には出さずに付け足す。

アウルの胸に渦巻いていたのは諦念ではなかったが、割り切ってはいた。今はこうして
待っている以外に他はない。他をすることを許されていない。
仮に許されたとしても、このごく個人的な力で出来ることはほぼ無い。それくらいは少し
考えれば見当のつくことであるし、スティングとて馬鹿ではない。解っている筈だ。

(――ああ、もう、ほんとに)

今あの男の頭を支配しているのは、そんな自明のことではなく――

「意味ないのにさあ」

自分にだけ聞こえるくらいの音量で、そんな独り言を呟いてアウルは目を閉じた。
溜め息をつくことはしなかった。気が滅入るような気がしたからだ。

このまま寝てしまおうかと、ウノを散乱させたままアウルが思っていると、暗闇の中で
「どーん」とやる気のない電子音が聞こえた。

続いてゲームオーバーを告げる、やたら悲劇ぶった調子の音楽が流れて、ぱちんと電源を
落とす音がそれを締めくくる。アウルは薄らと片目を開けた。

「何が意味ないって?」

クロトだった。彼はいつの間にか起き上がって、背中をテントにもたれさせたまま、
平坦な表情でこちらを見ていた。アウルは今度はしっかりと両目を開けて、
黄色っぽい天井を見ながら答えた。

「あいつ。今ここで僕らが悶々としてたって、意味ないってこと」

答えてから一瞬後、何とも言えない不快感が喉につっかえた。ああ、言いたくなかった
のか僕は、と遅まきながら自覚して彼はクロトが聞き返してこないことを願ったが、
そう都合よくいく訳などなかった。案の定、クロトは話を続行した。

「そりゃそうだろ。今じたばたしたって、進攻許可出てねえし」

お前もそんなこと気にするなよ、とアウルはほぞを噛んだが、あれを聞きとめた相手の
耳の良さを恨むしかない。後はついでに、わざわざ口に出してしまった自分の迂闊さに
悪態をつきつつ、彼は言い直し始めた。

「そうじゃなくて。――僕らの強化法って知ってる?」

仰向けになって喋るのが窮屈だったので、体を起こしてクロトの顔を見ると、彼は不思議
そうな顔で目を瞬いていた。無表情としかめっ面以外で、初めて見せる表情だった。

「精神操作だっけ。リミッター外すってやつ」
「そ。あとは戦意の調整とかもかな」

ふうんと呟いて顎に手など当てるクロトは、意外にも興味をもって聞いているようだった。
自分とは異なる強化人間の話が面白いのだろうか。大して愉快だとも思えないが、と
アウルは鼻で笑いつつ、つらつらと口を滑らせた。

「戦闘で味方とか敵とか死ぬと、どっちにしろストレスになるじゃん? だから影響が
でかそうな時は、そいつの記憶ごと全部デリートして済ませんの」

彼はエクステンデッド計画の最重要機密に相当する辺りをばらしているのだが、しかし
クロトの反応はといえば、珍しい虫でも見つけた時のように些細なものだった。

彼はへえ、とどこか感心したような声を漏らして、

「随分あっさりいくのな。カウンセリングとかしないの?」

と、そんなことを訊いてきた。そのあまりにあっさりとした切り返しに、逆にアウルは
軽い驚きを覚える。覚えてから、ああこいつも強化人間か、と彼は納得した。

「たまにするよ。まあ、あんまり覚えてないけどね」
「え? でもその割には自覚あるみたいじゃん」

何故だ、と言わんばかりの表情でこちらを指差してくるクロトに、
アウルはひらひらと手を振って否定してみせた。もう随分舌先が軽くなっていた。

「僕はたまに思い出すんだよ。スティングは無理みたいだけど。だからほら、嫌なんじゃ
ねえの? 無意識の拒否とか何とか、白衣の連中は色々言ってるけどさ」

一息で一気に言ってしまうと、へえ、と呟いてクロトが目を丸くした。彼は感心しきり、
といった様子で、何か珍しいものを見るような視線を向けてきた。

「色々と難しい訳ね、そっちも」

彼の同情の匂いのしない理解の示し方に、何となく気を良くしてアウルは口の端を上げた。
そうして、おどけるように肩をすくめて見せる。

「まあね。でもこんなことバレたら適性不足だっつって廃棄処分にされかねないんで、
頼むからラボの奴らには言わないでくれよ?」

すると、その言い方がお気に召したのか、クロトがぷっと吹き出して破顔した。

アウルに自虐的になっているつもりはなかった。
むしろ彼は、ひそかに達成感のようなものを覚えていた。

それは苦笑だったかも知れないが、目の前の相手が確かに笑ったのだと。

「了解。ああ、でも僕らも自白剤きめられたらちょっとどうなるか分からね――」

笑いを含んだ調子で、悪のりのようにクロトが続けようとした瞬間、
ばさりと音をたてて勢いよくテントの入り口が開いた。

肝を潰して身体を跳ねさせながら、アウルは一瞬でテントの端まで後退した。
隣では、クロトが似たような様子で両手を挙げ硬直していた。

固まって入り口を凝視する二対の視線の中、のっそりとした動きで金髪の男が中へ
入ってくる。彼は顔を上げると、珍獣でも目にしたかのように怪訝な顔をした。

「……何やってんだ? お前ら」

正気か、とでも言いたげな双眸をこちらに向けるオルガに、アウルはクロトと揃って
お互い顔を見合わせた。3秒ほどそうしてから、ほぼ同時にオルガに向き直る。

「いや、別に?」
「強いて言うなら正義と和解についての話し合い?」

するとますます珍奇なものを見る顔つきになっていくオルガを前にして、アウルは胸中で
こっそり舌を出した。人を驚かせた罰に、もっと理解に苦しめばいいと思った。

オルガはしばらくそうして首を捻っていたが、やがて溜め息のようなものを吐くと、
親指でテントの外を指し示した。

「……まあ、どうでもいいけどよ。外に出な、お呼びがかかったぜ」

アウルは再度、クロトと顔を見合わせた。





テントを出た瞬間、照明の強い光がアウルの目を射った。

咄嗟に手をかざしつつ目が慣れるのを待つと、暗闇の中に立つ複数の人影がおぼろげに
見えてくる。正体を見極めるようにアウルが双眸を細めると、直立不動の姿勢でいる
数名の軍人と、一人場違いに清潔な白衣をまとった男が立っていた。

白衣の方には見覚えがあった。何のことはない、自分たちを戦場へ送り出した主である。

「……何か用ですか?」

ちょうどアウルを代弁するようにして、傍らのクロトが平坦な声を出した。
少し離れたところには、先程出て行ったスティングとオルガが立っている。

白衣は顔色一つ変えずに、ああ、とだけ呟いて首肯する。彼が従えている軍人たちは、
全くの無反応だ。恐らく大した故あってこの場に居る訳ではないのだろう。

白衣の男がぼそぼそと続ける。

「お前たちに新しい任務だ。コンディションは万全か?」

特に誰も反応したりはしなかった。この男が現れた時点で、おおよその予測はついていた
からだ。さっと各々で目配せし合った後に、スティングが代表して口を開く。

「2名が未帰還だ。作戦効率は通常の45%ほどに低下して――」
「居ない者のことはいい。お前たちの状態はどうか、と訊いている」

淡々と切り捨てる白衣の言に、瞬間スティングの眉根が寄った、ように見えた。

「……武器弾薬その他の整備、補給は完了。撤退中に各自多少の負傷はあったが、
それぞれ許容範囲にとどまってる。問題はねえよ」

と、これはオルガ。白衣のフラットな視線と、スティングの複雑そうな表情が同時に彼に
向けられるが、オルガは無表情で身じろぎしなかった。

「そうか。維持薬の投与は受けたか?」

白衣が重ねてオルガに問う。

「舌下投与で2時間前に。血中濃度がやや高めだが、状態は安定してる」
「グリフェプタンのストックは? いくらか持たせていただろう」
「支給された分だけ残ってるよ。昼の作戦では使用してない」

ふむ、と呟いて腕組みし、白衣が考え込むような仕草をするが、アウルには何の話を
しているのかさっぱり分からない。そこの軍人たちはもっと分からないだろう。

ちんぷんかんぷんなのを隠して無表情を保っている様子を想像すると、滑稽だった。

「なら追加分は要らんか。アウル、お前はどうだ」
「へ?」

ぼんやり軍人を眺めていたところへ急に話をふられ、アウルは妙に裏返った声を上げた。
見れば、白衣の陰気な顔がいつの間にかこちらを向いている。

「あー……前回の最適化は約26時間前だけど、これといって問題は出てないよ」

多分向こう54時間くらいは大丈夫、とおざなりに答えると、白衣は「そうか」と
一度頷いて、それまでずっと脇に抱えていたボードに視線を落とした。

「補給のレーションを食べなかった者があったそうだが、これはお前か?」
「ああ、うん。缶詰あけた瞬間にジンマシン出たんで、アレルギーだと思う」
「後で確認しておこう。体質変化かも知れん。クロトもスティングも問題ないな?」

最終確認のように訊ねる白衣に、問われた二人が無言で頷いた。どうでもいいことだが、
この男と相対する際、ラボの人間は皆表情のパターンが圧倒的に少なくなる。

あらかた確認を取ったのか、白衣は手にしたボードに何事か書き込む――このご時世に、
いまだに紙媒体を使うのは贅沢の一種なのかも知れない――と、

「では作戦を説明する。リー大尉、お願いできますかな」

と言って、背後に立つ軍人の一人を振り返った。

その視線を追ってリーと呼ばれた人物を見たアウルは、おや、と目を瞬いた。

リーはそろそろ40に足を踏み入れようかという、初老の男である。特に印象の強い顔
ではないが、彼が目深にかぶった軍帽がアウルの目を引いたのだ。

(月と星と太陽の華……地球連合のエンブレム?)

よく見れば、その軍服も赤道連合のものではない。間違いなく地球軍の士官である。
怪訝に思うアウルの前で、リーは居ずまいを正して敬礼した。

「大西洋連邦のイアン・リー大尉だ。君たちを指揮することになった。よろしく頼む」

咄嗟に敬礼を返せたのは、訓練の成果というより、単にリーの所作にあまりに非の打ち所
がなかったためだろう。アウルは戸惑いがちに名乗りを返した。

「……アウル・ニーダです。その、よろしくお願いします」

アウルに続いて、残りの3人がおいおい簡潔に自己紹介を済ませると、
リーは敬礼をといて傍らの軍人に何事が耳打ちした。軍人は頷くと、全員がリーを残して
どこかへ駆けて行ってしまった。

その場に6人だけが残されると、リーは鷹揚に口を開いた。

「さて、恐らく察しはついていると思うが、今回のことは色々なところに無茶を通して
ある。無用な心配だとは思うが、他の部隊の人間に他言はせんようにな」
「はあ……分かりました。それで、僕らは一体何をすればいいので?」

釈然としない様子で訊ねたのは、クロトである。リーは手を腰の後ろで組むと、

「大したことではない。敵情視察だ。……ああ、それと、そんなにしゃちほこばって
喋らなくて良いぞ。私は正しく君たちの上官という訳ではないからな」

と、妙な物言いをした。アウルは事態がいまいち呑み込めないまま、
隣で同じように眉を寄せているクロトと視線を交わした。

(こいつ……何だ?)

結局、この男は一体何者なのだ。

「とりあえず階級を決めておくが、サブナックが軍曹、残りが一等兵の扱いになる。まあ
これも形式的なものだから、君たちの間では気にしなくていい」
「待ってくれ、正規軍がそんなことでいいのか?」

リーの台詞を遮るようにして、スティングが口を挟んだ。
だが、リーは至極あっさりと首肯してみせた。

「構わんさ。さっき無茶を通していると言ったが、ほとんど非公式に近い任務だ。
無論、命令無視をして良いという意味ではないがね」

反応に窮して、アウルは沈黙した。リーはその実直そうな外見に反して、
言っていることはやけに放漫というか型破りである。
そのまま一様に黙りこくっていると、やがてどこからともなく、ガラガラと何か車を
引きずるような音が近付いてきた。リーが肩越しにそちらを向く。

「それと、あれが今回特別に支給される装備だ」

見れば、やって来たのは先程の軍人たちが、数人がかりで押す荷車だった。
アウルは背伸びをして、そこに乗せられている物を確認しようとし――

「――はあ?」

いきなり絶句させられた。

「……何だこりゃ」

信じられない、といった様子のオルガの言葉は、
アウルたち4人の所感をよく表現していたと思われた。

強いて言うなら『大砲』である。だが、初見ではただの鉄塊にしか見えない。
無論それも、迷彩柄に塗装された砲身に、トリガーらしきものが付いていたから砲だと
認識できたに過ぎない。一抱えはある、どころではない。全長は2mに程近い

(ていうか、普通に僕よりでかい。何だこれ、撃てるのか? それ以前に持てるのか?)

およそ歩兵の装備とも思えない巨体を前に、アウルが言葉を失っていると、
先程から無言で佇んでいた白衣の男が言った。

「150mm対モビルスーツ無反動砲だ。といっても対艦徹甲弾の応用に過ぎんが」
「150!? これが無反動砲だって!?」

ぎょっとしてアウルは叫び声を上げた。白衣はしれっとして頷く。

「ザフトのカーペンタリア降下作戦の折、突貫作業で造られたやつを拝借してきた。
まあ、元々はジープの装備だが、これでも小型化はしてあるぞ」
「いや、それもあるけど、そういう問題じゃねえだろ?」

呆れ果てた様子で言い返すクロトは、今にも頭を抱え出しそうだった。
彼は大仰な動作で腕を振って、件の『無反動砲』を示すと、

「これを持ってどこに行くと思ってんのさ? 森の中だぜ? あんた、草が膝の上を
越えてるような森を歩いたことあるの?」
「というか、それ以前にこれ、何式だ。ガスか? カウンターマスか?」

いつの間にか砲に近寄って砲身に触っていたオルガが、そんなことを言って首をひねる。
すると、白衣がボードに挟んだ紙をぺらぺらとめくった。

「ガス式のようだな」
「ちょっと待て! あんた、俺たちに自殺してこいってのか?」

スティングが顔色を変えて白衣に詰め寄る。

――無反動砲とは、作用反作用の法則を応用し、発射時の反動を殺す兵器である。

発射と同時に砲弾と同質量のバラストか、ガスを後方から噴射して相殺する。
それゆえ、撃つ時は背後にスペースを確保しておく必要があるが、
いかんせんあそこはあの通りの樹海である。加えてモビルスーツの装甲を貫くだけの
反動を殺す物とくれば、その実用性はもはや絶望的だ。

そんなものを持ち歩くことをさせられる。

早い話が――自分達は、かなり直裁に「死ね」と言われたに等しいのである。

「そんなことは言っていない。スティング、お前は私を誤解していないか?」

言いながら、にやり、と悪辣に口の端を吊り上げた白衣の顔に、
この男が全て分かっていることを確信して、アウルはぎっと歯を食いしばった。

「てめえ――ふざけんのもいい加減にしろよ!」

思わず掴みかかろうとする彼に、白衣が一転して警戒するような視線を向ける。

クロトが舌打ちして制止に入ろうとしたのが見えたが、
その前に一本の腕が伸びてきて、アウルの肩を静かに押し留めた。

「その辺にしておけ。失礼ですが、貴方は少し黙っていていただけますかな?」

虚をつかれて、アウルが振り返って見上げた先に居たのは、リーである。
彼はその少し目じりの垂れた双眸で、じっと白衣の男を見ていた。

「リー大尉、私は何かまずいことをしましたかね?」

おどけるように白衣が肩をすくめるが、対するリーはあくまで淡々としている。

「そうですな。貴方の物言いは、兵の士気を下げるもののように見受けられます」

にべもなくそんなことを言い放つ彼に、アウルは軽い驚きを覚えた。

「兵に、士気ですか。私には分かりかねるものですな」
「ならば私にお任せ下さい。彼らのコンディションチェックが終わったのなら、
もう結構ですので、貴方は先に戻ってお休みになられた方がよろしいかと」

つまり、ここから失せろということだ。

アウルは、白衣がどんな反応をするのか、半ば好奇心で見守ったが、
期待に反して彼は嘆息と共に頭を振っただけだった。
彼は「では、そうするとしましょう」などと言うなり、至極あっさりと踵を返すと、
そのままテントの向こうへと消えていった。

(……追っ払っちゃったよ)

心持ちこっそりと、アウルはリーの顔色をうかがった。
リーは、どこか冷ややかな目つきで、白衣が消えた方を見ていた。

やがて、不意に溜め息をつくと、リーは無反動砲の傍らに立つ軍人たちを振り返った。

「……お前たちはもう準備にかかれ。後は私がやる」
「了解です、リー大尉」

言われるなり機械的な動作で敬礼し、軍人たちは足早にどこかへと走り去った。
そうして、その場には5人と無反動砲が残される。

リーはくるりと振り返ってアウルたち4人と向き合うと、それぞれの顔を順に見回した。

「さて、そろそろ説明に入ろうと思うが、良いかね?」
「え、ああ……はい」

スティングが、そういうことをする機械のようにかくんと頷く。
するとリーは、砲の荷台から地図の貼ってあるボードを取り出した。

「始めにも言ったように、今作戦の目標は敵保有戦力の確認だ。具体的には、向こうに
何機の、どういう機種のモビルスーツがあるかを把握できれば良い」
「敵の人数や装備はいいのか?」

オルガが訊ねる。リーは腕組みして少し目をふせた。

「それも確認できるに越したことはないが、あくまで二の次だな。いかんせんモビル
スーツの危険性が高すぎる。対抗手段がそこのあれでは」

言いながら、ちらりと彼が目をやったのは、例の無反動砲である。
よく見ると、砲は一番手前の物の向こうに3つ、合計4門が転がっていた。

「……ていうか、あれ、一人一本抱えて撃てっての?」

いささかうんざりして、アウルはリーに言ってみた。
すると、リーはそこで初めて、困ったように顔を歪めた。そうして、

「いや、そこまでの無茶を聞かせるつもりはない。あの御仁はそうさせたがっている
ようだが、私が許さん。通常通り、二人一組に一門の支給になるだろう」

と、アウルの意表をついた。

買いかぶりではない――買いかぶっているつもりはない――が、あの白衣の男はラボの
実質的な最高権力者であり、その背後にある権力の存在は侮れない。

少なくともアウルは、彼の意向が通らなかった場面を、ラボの内外で見たことはない。

「……大丈夫なのか? あんた、そんなことして」

神妙に押し黙ったアウルの心境を、スティングが控えめに代弁した。
するとリーはかすかに笑って、

「たかが学者ごときに、言いくるめられた腹いせに制裁などさせていては、軍隊の顔が
立たんよ。それに向こうもそれほど短絡的ではあるまい」

ふむ、とオルガが声を漏らして、再び砲身に触れた。

「ならいいが……しかし二人一組っつっても、そもそもこいつは持ち上がるのか?
見たところまともな重量じゃなさそうだが」

リーは腕組みを解くと、先程白衣が去っていった方へ顔を向けた。

「普通なら大きすぎて持ち運びも困難だが、君達ならば使えるそうだ。……話を聞いて
いて思ったが、やはりこのような物を扱うのは初めてなんだな?」
「そりゃあ、まあね。使う意味が無いし、あんたなら分かるだろ?」

クロトがどこか苦笑するように言う。
それを聞いたリーは気重そうに溜め息をつくと、心持ち肩を落としてうめいた。

「……そうだろうな。全く、道楽で戦争をしているのではないというのに」

彼の呟きは、どことなく疲労感のようなものが漂っていて、アウルの胸のうちを複雑に
させた。何と答えたら良いのか、何とも言えない気分だった。

リーはしばらく黙っていたが、そのうち気を取り直したように顔を上げた。

「しかし、まあ、これが一番小型で扱いやすい、というか扱える可能性が高い対モビル
スーツ装備であるのも確かだ。ガスのバックブラストについては――頭を使ってくれと
言わざるを得んのが心苦しいが、そこは理解してくれると助かる」
「了解。まあ、あいつが使えるって言ったんなら、たぶん使えるんだろう。
あんたが気にすることじゃねえさ」

軽い調子でそう言って、オルガが砲身をぱしんと叩いた。そのどこか小気味の良い音に
引き寄せられるようにして、アウルは砲に近寄ってみた。

砲身の脇に腕を差し入れる。

「いや、何度も言うが、使わなければそれに越したことはない。無理はするな。
君たちは優秀な兵士なのだろうが、命は大事にする義務がある」

背後からのリーの声を聞きながら、アウルはぐっと全身に力を込めた。

腕の筋肉が隆起し、無反動砲の砲身が揺れる。

下半身と背筋の力をフルに使うと、存外簡単に砲の巨体が持ち上がった。
アウルは、口の端が自然とつり上がるのを感じた。

砲を肩に担ぎ上げて、身体ごとリーの方を顧みる。

「大丈夫、うまくやるさ。期待してくれていいぜ、大尉」

そうして不敵に笑って見せる。
リーは、一瞬ぽかんとしたような顔をしたが、すぐににっと唇を引いて笑った。
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