もしも3馬鹿常夏トリオが種死に出てたら 格納庫

シリアス2

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「大丈夫ですかねえ、こんなことして」

ムルタ・アズラエルは、赤道連合某都市にあるホテルの一室で、一通り眺め終えた

報告書を指で弾いた。ぱん、と上質の紙が小気味のいい音をたてる。
それに、む、と彼は眉を寄せた。経費の無駄遣いをしている気配を感じたのだ。

「問題は無い、とは現場の言い分ですが。保証はしかねます」

別に保証されたかった訳ではないが、真面目くさって答えてくる白衣の男に、アズラエルは目を細めた。手にした報告書を目の前の机に放る。

「他人事みたいに言うけどねえ。君、一応、監督役でしょう。部下の手綱くらいちゃんと握っててもらわないと、任せた僕の立場がないんですけど?」

声に若干の棘を混ぜてみるが、白衣の男はただ「面目ありません」と無表情に頭を下げただけだった。数多いロドニアのスタッフの中で、アズラエルの機嫌を損ねることを恐れない胆力の持ち主は彼くらいである。でなければ監督役など務まらないが。

「サポート体制は整えております。配置も、本隊の最後方ですから、そうそう負傷するようなことにはならないとは思いますが」
「はあ……サポートねえ」

どこか釈然としないものを感じつつ、アズラエルは曖昧に呟いた。

事の起こりは、ごく些細といえば些細な対立である。

ラボと呼ばれるロドニアの研究施設が手を出している分野は多岐に渡ったが、その派閥でいうと二通りに分けることができた。即ち一方の主流たるエクステンデッドの研究班と、アナザータイプ、ブーステッドマンと呼ばれる強化兵士の研究班とにである。

アズラエルは一部始終を見ていたのだが、その日、研究員たちの間で「申し開き」と呼ばれている上層部――自分だ――への経過報告会にて、ちょっとした口論が起こった。

内容はと言えばくだらない、どちらの強化兵士が優れているとかいないとか、その程度のものだった。対抗意識を燃やすのは結構だし、現場が勝手に切磋琢磨してくれるなら、アズラエルとしては願ったり叶ったりなのだが、今回はいささか過熱のしすぎだ。

というのも、ヒートアップした双方が出した結論は、自慢の強化兵士を戦場に出し、
その戦果によって優劣を競おうというものだったのである。

当然、アズラエルは却下しようとした。競うのは勝手だが、金を出すのはこちらである。

巨額を投資して練り上げさせた研究成果を、学者のつまらないプライドで駄目にされてはたまらない。だが、そこへ例の監督役が口を挟んだのである。

いわく、考えがあるから今回はこちらに任せて欲しい、と。

それを信じて了承したアズラエルとしては、今その真意を聞かせて欲しいものだった。

「しかし、いくら訓練を受けていないテロリストとはいえ、一国の軍が出てるんですよ。機動兵器に乗せる訳でもないのに、本当に大丈夫なんですか?」
「それについては、万全を期している、と言う他ありません」

さらりとかわす白衣の男。
思ったより厄介な人選をしたかも知れない、とアズラエルは渋い顔をしたが、彼は気に留めた様子もない。そ知らぬ顔で、それに、と付け加える。

「そろそろ、実戦のデータが必要だったのも確かです」

模擬戦ではできないこともありますから、そんなふうに本音を漏らす彼に、アズラエルは顎に手をあてて黙考した。

必要というか単に欲しかっただけだろう、とは思ったが、
わざわざ口に出すこともないかとも思って胸にしまいこむ。
この類の学者は、基本的に好奇心のみで動いているのだと、彼は知っていた。

やれやれと肩をすくめて、アズラエルは言った。

「……まあ、送り出してしまったものは仕方ありません。せいぜい上手くデータを採ってきなさい。ただし、責任はちゃんと取ってもらいますよ」

すると、それまで鉛のように鈍い動きしか見せなかった白衣の口元が、にやりと笑みの形に吊り上がった。それは晴れやかといえば晴れやかな笑みだったが、同時に、

「勿論です」

邪悪といえば邪悪な笑みでもあった。

因果なものだ、とアズラエルは信じてもいない仏教概念を思い出す。

自分も大概綺麗とは言えない商売に手を染めているが、この男も似たようなものだ。ひょっとすると、自分の笑みも端から見ればこんなふうに見えているのかも知れない。

無論、それに罪悪感を覚えるかといえば、それはそれで別の話であったのだが。

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