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ホーム・ドミニオン-プロローグ-


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「大体、戦場を駆る戦艦というのは滅多なことでは壊れない様に作られているんです。
そりゃあ戦闘中に母艦が先に壊れてしまっては?戦ってる者達も戦意消失・路頭に迷うホームレス同然。
誰だって一度は荒ぶる大海に出て、立派に成長を遂げ、豊かで穏やかな川に帰るのです。
え?それは鮭だって?結構じゃない、鮭。僕はこういう庶民的な食物だって有難く頂きますよ。
そこのつまらなそうな顔してる大佐に少しは見習ってほしいですねぇ……僕を。」

鮭じゃなくてアンタかよ!と小さく会話の矛先を向けられた男が吠える。
男はネオと名乗っていた。今この艦の中ではそれ以外の名前はない。
隣で平然と長い演説(と、ネオが以前陰口を叩いていた)を聞いていた女がつい、と前に出る。
女はナタルと言った。潔癖そうな雰囲気が凛として美しい大人の女だった。

「理事、話が反れてます。」
「そう?まぁともかく、僕が言いたいのはこうです。」
「ドミニオンはもう駄目だ、と?」

なんで先にアンタが言うんだ!と食ってかかる男、国防産業理事・ムルタ。
(蛇足だが、彼と彼女はいつもこんな小競り合いをしている。決まって勝つのはナタルだ。)
欠伸をかみ殺そうとしていたネオがナタルの言葉に驚き、勢いよく彼女の肩を抱いた。

「駄目って!おいおい、何言ってるんだよ、艦長!」
「幸い、めぼしい戦いは既に幾多もくぐり抜けてきました。この艦も役目を全うした、ということです。」
「言い方変えただけじゃない、ちょっとちょっと。もっと分かりやすく言えよ!」

「まぁ、じゃその続きは再び僕が説明しますよ。」

ムルタは軽くこほんと咳払いをしてからチラリとナタルを見た。
邪魔はするな、という視線を送れば彼女はつんとすました顔をした。
それが彼には憎たらしくもそこが彼女の美しさでもあるのでこれには触れないでおいた。

「いいですか?今まで僕達ドミニオンのクルー一同は沢山の戦場に赴きました。
二年前のヤキン・ドゥーエ戦以降、貴方を初めとする新たなメンバーも加えてこの艦は世界を駆けた。
時には宇宙にも出ましたネ。僕達は生れ変わったかの様に、その使命を、任を、全うしてきた。
慈善活動だってしたし、辛い戦いもありました。その結果、このドミニオンは乗員誰もが誇れる艦になった!
……と、ここまではいい。だが僕達の成功の後ろにも無論、犠牲はある。わかりますね?」

「それが…この艦ってことかよ」

「…そこは敵だった者達の命、と先ずは言うべきでしょうがね。まぁ話の趣旨としてはそういうことです。」

アークエンジェル級二番艦・ドミニオンはムルタの話にあるように、遡ることニ年、新たな産声をあげていた。
その決起と相成ったヤキン・ドゥーエ戦で拾った命を、彼等は今一度世界のために役立てようと立ちあがったのだ。
(言わば「街一番の不良が教師に熱い拳をくらって目が覚める」、の図式である。)
若干遅過ぎる目覚めに、彼等はそれから苦労を散々強いられる様になるが、それでも折れはしなかった。
時に不器用に世界を駆けずり回り、新たな仲間を得て、ようやく社会に居場所を見つけたのだ。

そこへ、今回の演説の三日前。ドミニオン整備班の会話より。

【どういうことだ、これはっ?!コントロールパネルが作動しない!そっちはどうだ!!】
【ニ曹!駄目です、先ほどからどうやっても艦が立ち上がらないのですっ!】
【そんなはずはない、第一、我々は二日前から補給や修理作業に取り掛かっているのだぞ?!】
【昨日の1600の時点では正常に作動していました…整備記録にもあります。】
【もう一度だ、艦長達に知れる前に、この艦を元に!元に戻すんだ!!】

知らされる事のなかった予兆。その後出来る限りのあらゆる技術を投入したが結果は変わらなかった。
艦を買い替えればいい、そう新たな仲間のジブリールはムルタに提案したが、それは土台無理な話だった。
人は力がなければ何もできない、とはよくいうが、同時に金もなければそれなりにはなれないのだ。
私財もプライドも捨てて生れ変わったドミニオン、彼達にはとても戦艦一つ買う様な金は残っていなかった。

この緊急事態を、ムルタとジブリールは一部のクルー達にしか知らせなかった。
こんなことを告げればきっと皆路頭に迷ってでも、身銭を切るだろう。それが彼等には心苦しかった。
疲れきった戦艦はひっそりと息を引取った、彼等ははそんな言い回しで一部のクルー達を慰めてまわった。
それ以外のクルーには一言「ドミニオンは引退する」と告げ、新たな道を出来る限り斡旋した。

「そっか……今まで、随分お世話になった…し、なぁ?こいつには…」

瞼が熱くなるのをネオは耐えながら、誰に発した訳でもない言葉を噛み締めた。
隣でナタルは静かに涙を零していた。表情を一つも変えなかったが、その涙は熱いだろう。
ムルタは前髪を少し弄り、床をじっと見つめていた。静か過ぎる艦は悲しみを膨らますばかりだった。

「それで…」

彼等の重たい沈黙を破ったのは、今まで席を外していたジブリールだった。
暗い空気を吹き飛ばそうと、彼は敢えて床にコツコツと音を立てながら彼等に近付いた。
それを汲み取ってかムルタが哀しそうに微笑んだ。

「嘆き、悲しむ、それだけで…よいのですか?大佐。」
「……俺だって!できることなら、とっくにどうにかしている!!」
「フ、そんな怒らないで下さい。悲しいのは…私も一緒ですよ。だが、それだけで果してよいのでしょうか。」

回りくどいいい方にネオは憤慨を隠せずにいるが、ナタルが間に入ってそれを自然に嗜めた。
一度敬礼をしてから、ジブリールに向き直る。

「どういう意味か、解る様に仰っていただけますか。」
「それは、彼が教えてくれるでしょう。いや、賢い貴女達はもう気付いているはずだ。」
「…………これは私の推測、ですが。貴方方が杞憂しているのは…子供、達…のことでは?」

憂いを帯びた笑みで、ジブリールは深く頷いた。後ろでネオが苦痛に顔を顰める。
ムルタは目の前の大型艦を見つめて、そっと眼を閉じた。そして深呼吸を一回。

「言ってません、彼等には……何も。」

絶望した様な表情をネオはした。ナタルは徐に顔を顰めて、やはり筆舌にしがたい表情をしていた。
ムルタは言葉を続ける。

彼等にこの事を告げるのは酷すぎるということ
彼等(エクステンデット・ブーステッドマン)の万全ではない身体を考えて、のこと
今後の自分達を含め、彼等の生活の手配は済んでいること
今後もこのことは彼等に教えるつもりはないこと…

言葉の一つ一つ、ゆっくりと抑揚をつけてムルタは発した。教えを説く父のように。
その場にいた三人の男女はそれを真摯に受け止めた。
泣けもしない子供達のために、大人が泣く訳にはいかなかった。

「彼等は多くを失いました、その中には僕達大人の都合で奪った物も沢山あります。
その罪から逃げることは、もうしたくはない!……そのためにつく嘘もあるでしょう。
彼等は、僕を恨んで当然です。ここまでついてきてくれたこと…いや、ついてこざるを得なかったのか…。
……………僕は父と呼ばれるつもりはない、でも、彼等には父が、母が、必要なんです。
その役を僕は無理矢理彼等から得ました、それを全うしなければ僕は…僕は…」

「……理事、恨まれ役は私もですよ。」
「私もです、この艦の長として立った私こそ、彼等の忌むべき存在でしょう。」

脚を震わせ、よろけるムルタをジブリールとナタルがしかと支えた。
二人とも眼には水滴が溜まり、少しの揺らぎでもそれは弾けてしまいそうだ。
真っ直ぐ、天に向かってしゃんと背筋を伸ばしたネオはそれぞれの肩を抱いて、得意の笑顔をみせた。
皆酷い顔だ、そう彼は心でそれを誇りに思いながら。

「やれやれ、一気に子供が七人もできちまったな!」
「フ、大佐。それはセクハラですね。」
「えっ、そりゃないっしょ、美人なママさん!」

「フフ…ハハハハ、貴方達は新婚さながらですな。我々は祖父、ということになりますかな?」
「ジブリール、僕はまだ老人扱いはごめんですよ。」

動かなくなった戦艦の傍で、四人の男女がささやかに微笑み合っていた。
やがて壊れた艦を前にムルタが敬礼をし、三人もそれに従って厳かに礼をした。
その後、艦がおいてある格納庫は彼の手によって厳重に鍵をしめられた。
この世で恐らく一番大きな墓を後に、子供達の元へ向かう四人が振り返ることはもうなかった。

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